ワーキングメモリとは?弱いとどうなる?発達障害との関係や対策も解説します

ライター:発達障害のキホン
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子どもが家庭や学校などで「一度に複数のことを覚えるのが苦手」「忘れ物・なくしものが多い」「読み書きや計算がうまくできない」といった困りごとを抱えている、という方もいるのではないでしょうか?それは「ワーキングメモリ」の働きが弱いためかもしれません。ワーキングメモリとは、「作業に必要な情報を、一時的に保存し処理する能力」のことです。この記事では、ワーキングメモリの説明や、弱い場合にどんな困りごとが起こるのか、発達障害との関係、困りごとへのサポートについて紹介していきます。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

ワーキングメモリとは

ワーキングメモリとは「作業に必要な情報を、一時的に保存し処理する能力」のことで、作業記憶などとも呼ばれることがあります。

ここでいう作業とは会話や計算などのことで、大人も子どもも日常生活のさまざまな場面でこのワーキングメモリを使って判断や行動をしています。

例えば、「3+4+5」という計算があったときに、頭の中ではまず「3と4」を足して「7」という数字を出します。そのあと「3と4」は忘れ、「7と5」を足して「12」と答えを出します。

このように単純な計算の過程でも、数字を足すという処理や、必要なくなった数字を忘れるという処理をしているのがワーキングメモリの働きです。

ほかにも料理をしていて、「炊飯器のスイッチを入れてから、野菜を切り、ご飯が炊けたら野菜炒めをつくる」というように頭で考え実行していく行動にも、ワーキングメモリは使われています。

情報を覚えておくというと「短期記憶」と似ていますが、短期記憶は単に情報を覚えておくことを指しているのに対し、ワーキングメモリはその情報を操作変換するといった処理まで行うことを指しています。

ワーキングメモリの機能には個人差がある

ワーキングメモリの機能の働きの度合いは、個人個人によって異なっています。これは机の大きさや整理の仕方として例えられることがよくあります。

ワーキングメモリの機能を「机の大きさ」、情報を「本」として考えると、机が大きいほど本をたくさん置くことができ、本の量と比例して一度に大量の情報をその机には記憶しておくことができます。

それと共に机の上を整理するのもワーキングメモリの機能の一つで、関連する本を近くの場所に置き、必要な本は残して使わなくなった本は取り除くことで、作業を効率的に行うことができるようになります。

机の大きさも、整理する能力も人それぞれ異なっているため、それぞれのワーキングメモリの機能によって生じる困難さも、それに対するサポートも別々のものになってきます。

ワーキングメモリが弱いとどうなるの?

ワーキングメモリは私たちが何か作業するときの判断や行動に影響しているため、ワーキングメモリが弱いとさまざまな困りごとが生じることがあります。

先ほどの「3+4+5」の計算でいうと、「3と4」を足した後の「7」という数字が覚えていることができず最後まで計算ができなかったり、「3と4」を足したのを忘れて、どこまで計算したのかが分からなくなり、もう一度足し算してしまうなどが起こりえます。

料理でいうと、「炊飯器のスイッチ」を入れたあとに「野菜を切る」のを忘れ、「ご飯が炊けた」あとに野菜を切り始めて、料理が完成するまでに時間がかかってしまうということもあります。

ほかにも一度に複数の行動を並行して行うことが難しい場合もあり、「人の話を聞きながらメモを取ることが苦手」「ノートを書きながら、質問事項を考えることが苦手」という困りごともあります。

ワーキングメモリが弱い子どもの困りごとは?

ではワーキングメモリが弱い子どもの場合は、どういった困りごとが起こりうるでしょうか。

ここでは家庭や園・学校などで起こる困りごとを紹介します。
■複数の指示を覚えられない
■授業に集中できない
■読み書きや計算が苦手
■忘れ物・なくしものが多い  など


複数の指示を覚えられない
ワーキングメモリが弱いと、一度に複数のことを伝えられても覚えていられないことがあります。
家庭で子どもが帰ってきたときに、「手を洗ってきて、そのあとご飯の準備を手伝ってね」と伝えても、手を洗ってくることは覚えていても、「準備を手伝う」という項目を忘れてしまいテレビを見始めるなどほかのことをしてしまうといったことがあります。

授業に集中できない
ワーキングメモリは情報を選択する機能もあるため、その機能が弱いと授業中に先生が話していることのどこに注目したらいいか分からず、説明が長い場合、その中から必要な行動をとることが難しく授業に集中できないということがあります。

読み書きや計算が苦手
ワーキングメモリが弱いと、文章を読んでいる途中で前半に書いてあったことを忘れてしまい、意味をつかむことが難しくなったり、計算も暗算したことを忘れてしまい、答えが合わないなど、読み書きや計算に困難が出ることがあります。

忘れ物・なくしものが多い
ワーキングメモリが弱いと、手に持っていたものを机などに置いたあとにそのことを忘れてしまい、そのまま移動することなどから忘れ物やなくしものが多くなることがあります。

このように、ワーキングメモリが弱いことによって子どもが日常生活で困難を抱えてしまうことが考えられます。

そして子どもが失敗体験を繰り返していくうちに、自信を無くしてしまうこともあるので、困りごとに対してサポートしていくことが大事です。

ワーキングメモリと発達障害の関係は?

発達障害のあるお子さんの中に、ワーキングメモリの困難さをもつお子さんはいます。だからといって、ワーキングメモリが弱いすべてのお子さんが、発達障害であるということはありません。

発達障害の中のADHD(注意欠如・多動症)では、不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)といった特性が見られます。この中の不注意や衝動性はワーキングメモリの弱さとも一部関連します。

発達障害の中のLD(学習障害)は、全般的な知的発達に遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力に困難が生じることがあります。計算や推論の困難などのLDの特性は、ワーキングメモリの弱さとも関連することがありますが、こちらも、どういった特性が現れるかはその人によって異なります。

このように、発達障害のある子どもにはワーキングメモリの弱さがある場合もありますが、ワーキングメモリが弱い子どもに、必ず発達障害があるわけではありません。

まずは子どもが困りごとを解消するようなサポートをしていくことが大事になります。
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子どものワーキングメモリが弱い場合の対策・サポートのコツ

ここでは子どものワーキングメモリが弱く、困りごとが生じているときにできるサポートを紹介していきます。

ワーキングメモリの機能自体を向上させる方法として、現時点で実証されているものはありません。しかし、子どもが直面している困りごとに対して、適切な対策やサポートをしていくことで、子どもの困りごとを軽減していくことは可能です。

ワーキングメモリが弱い子どもへのサポートとしては、情報の伝え方を工夫したり、いろいろなツールを使って接することで、ワーキングメモリの弱さをカバーしていきます。

先ほど挙げた困りごとへのサポートを見ていきましょう。
■複数の指示を覚えることが苦手
■授業に集中することは苦手
■読み書きや計算が苦手
■忘れ物・なくしものが多い  など


複数の指示を覚えることが苦手
2つ以上など一度に複数の指示を出されたときに、忘れてしまうことが多い場合は、一度に一つのことのみ伝えるという方法があります。
「手を洗ってから、料理を手伝ってもらいたい」というときは、まず「手を洗ってきて」と伝え、それができたら「冷蔵庫から野菜を出して」と伝えるようにすると、忘れることが減ってくるかもしれません。

授業に集中することが苦手
授業中何に注意していいのか分からない場合は、先生から「この時間は〇〇をします」と授業の目的を明確にしてもらうことや、それが難しい場合は入ってくる情報を減らすことも方法の一つです。情報が多くて取捨選択ができないときは、色を付けたり枠で囲って重要な情報を目立たせる、プリントを折るなどしてそのときに不要な情報は隠すといった方法で集中しやすい環境をつくることができます。

読み書きや計算が苦手
一度に多くの文章や計算をしようとすると、情報が多く覚えきれないことがあります。
そういったときは文章や計算を細かく区切って行うように促していくといいでしょう。

文章を一度に全部見せずに、紙などで隠しながら一行ずつ目に入るようにしたり、計算も暗算をさせるのではなく、途中の計算をメモできるように補助していくことで、一度に処理する情報が少なくなり読み書きや計算がしやすくなっていきます。

忘れ物・なくしものが多い
忘れ物やなくしものが多いときには、先生や保護者が一緒に確認する時間を設けることや、持ち物チェックリストをつくる、スマートタグ(忘れ物防止タグ)を活用するなどツールを使って記憶しなくてもカバーできる状態をつくっていくといいでしょう。

ほかにも、必ず通る玄関前に持ち物を置いておくなど、子どもの動線上に物を配置するという方法もあります。

情報の伝え方や、ツールを使用していくことは共通ではありますが、子どもによってワーキングメモリの傾向や、どういった情報だと覚えやすいといったことは異なってきます。

一日の流れが先に分かっていたほうが楽だと感じる子どももいれば、「今やること」だけ分かっていたほうが集中できるという子どももいます。

一律なサポートにならないよう、子どもがどんなことに困りごとを感じているか、どうしたら勉強などがやりやすそうかを見ながらサポート内容を考えていくといいでしょう。
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