
ビジョントレーニングとは「見ることに関連するさまざまな力や機能を向上させるトレーニング方法のこと」です。
ビジョントレーニングは「黒板に書かれた字をノートに写すのに時間がかかる」「ボールで遊ぶことが苦手」など、生活や学習上の困難の軽減に活用できるのではないかと注目されています。
しかし、日本での知名度はそこまで高くはないため「そもそもビジョントレーニングってどういうもの?」「ビジョントレーニングにはどのような効果はあるの?」などの、疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回はビジョントレーニングとはどういったものか、期待できる効果、ビジョントレーニングのやり方を学べる場所について、順番に解説していきます。
ビジョントレーニングとは?
ビジョントレーニングとは「見ることに関連するさまざまな力や機能を向上させるトレーニング方法のこと」です。
主に、生活や学習上の困りごとを改善したり、スポーツのスキルアップを目指したりする目的で活用されています。
もともと、ビジョントレーニングは50年以上前のアメリカが発祥で、近年日本でも広がりを見せています。
ビジョントレーニングの「ビジョン」とは?
ビジョントレーニングと聞くと、その名前のイメージから「視力をトレーニングするのだろうか?」と思われるかもしれませんが、ビジョントレーニングの「ビジョン」は、視力だけではなく「ものを見る仕組み」全体のことを指すこともあります。
まず、「見る力」は大きく「眼球運動(入力)」「視空間認知(情報処理)」「目と手の協応(出力)」の3つから成り立ちます。
例として、人とボールを投げ合うときの動きを見てみましょう。
- 飛んでくるボールを目で追いかける(入力)
- ボールが手元にやってくるタイミングを理解する(情報処理)
- ボールを目で追いつつ、手を伸ばしてキャッチする(出力)
ビジョントレーニングでは、これらの機能を鍛えていきます。
では、次にそれぞれの見る力について説明します。
眼球運動(入力)
眼球運動とは、視線を素早く動かしたり、対象を目で追ったり、目をよせたり離したりする働きのことです。眼球運動は、「見る力」のうちの最初のステップでもある「入力」の部分にあたり、情報を効率良く目から取り入れるためには欠かせない働きです。
視空間認知(情報処理)
第1ステップの「入力」で目から取り入れた情報が脳へと伝わった後、第2ステップの「情報処理」がおこなわれます。
この情報処理のことを「視空間認知」と呼び、具体的な働きは下記のような働きをします。
- 色や形を見分ける
- 見たいものと背景を区別する
- 空間的な位置を認識する
- 物の色や大きさに惑わされることなく、同じ形を認識する
- 図形の形や並び方を覚える
目と手の協応(出力)
視覚の働きと体の動きを連動させることを「目と手の協応」と呼びます。第1ステップの「入力」、第2ステップの「情報処理」の次のステップである「出力」にあたる部分です。
人間は意識しなくても、視覚と体の動きを連動させて、さまざまな活動をおこなっています。この「見る」と「動く」を連動させる能力は、心身の発達や活動を通して向上していきます。
ビジョントレーニングと発達障害について

ビジョントレーニングは、発達障害のある子どもの、生活や学習上の困りごとの克服や改善に役立つのではないかと言われています。
例えば、発達障害のうちのひとつ「学習障害(LD)」のある子どもが、ビジョントレーニングを活用するパターンも見られます。
学習障害(LD)とは?
学習障害(LD)とは、限局性学習症(SLD)とも呼ばれ、知的発達の水準に比べて、「書く」「読む」「計算する」のいずれか、もしくは複数において顕著な困難が生じている障害のことです。
どの部分に困難があるのかによって、種類が大きく3つにわかれています。
- 読字障害(ディスレクシア):「読み」が困難
- 書字表出障害(ディスグラフィア):「書くこと」が困難
- 算数障害(ディスカリキュリア):「算数や推論」が困難
学習障害(LD)は、その症状から「理解する機能」や「暗記する機能」に困難があると思われがちですが、実は学習に困難が生じる背景に、「見ることに関連する困難」が関わっている場合もあることが指摘されています。
こうした見ることに関連する困難がある子どもには、その子どもにあった学習方法を提供することが大事です。
LITALICOジュニアでは、「文章を読むことが苦手」「板書が苦手」「枠内に文字を書くことが難しい」などの困りごとがある学習障害の子どもに向けてのプログラムもおこなっています。
「子どもが学習障害(LD)かもしれない」「学校の勉強についていけず困っている」というようなお悩みのある方は無料相談も受け付けておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

学習障害とビジョントレーニング
学習障害がある子どもが感じる困りごとには以下のようなものがあります。
- 音読がつっかえてしまう
- 文章を読むとき文字や行を読み飛ばしてしまう
- ひらがな、カタカナ、漢字がなかなか覚えられない
- 字を書くのに時間がかかる
- 文字が枠からはみ出す
- 計算の筆算を間違えることが多い
こうした学習に関する困りごとは、「見る力」が弱いことから生じている場合があります。
見る力の弱さが学習の困難に影響している場合には、ひたすら音読や書き取りの練習だけを積み重ねても効果が出にくいことがあります。
ビジョントレーニングで見る力を鍛えることで、学習に取り組む際に必要な情報処理や眼球運動の調整などができるようになり、困りごとが解決しやすくなるのではないかと期待されています。
ただし、ビジョントレーニングのみを取り入れるのではなく、子どもが文章を読みやすい環境作り(文字を大きくする・余白をつくる・字体を変更するなど)も合わせておこなうことが大切です。
ビジョントレーニングの効果は?

ビジョントレーニングに期待できる効果は、「見る力」のうち、どの部分を重点的にトレーニングするのかによっても異なります。
この項目では「眼球運動」「視空間認知」「目と手の協応」の3パターンに分けて、ビジョントレーニングをおこなったときに得られる可能性のある効果について解説していきます。
眼球運動
眼球運動を鍛えるトレーニングは、以下の3つの機能に対しておこなわれます。
見ているものの位置から、他の場所へ視線を移動させる機能
見ているものの位置から、他の場所へ視線を移動させる機能が弱いと、黒板から一時的に目を離してノートに文字を書いた後、再び黒板に視線を戻したとしても、先程まで見ていたところをすぐに見つけ出せないことがあります。
跳躍性眼球運動を鍛えることで、上記のような困りごとの他「本を読んでいるときに、行を読み飛ばしてしまう」といった困りごとの改善に繋がる可能性が考えられます。
実際のビジョントレーニングの例としては、「ランダムに置かれている数字を順番に目で追っていく」などの内容があります。
見たいものの動きに合わせて視線をなめらかに動かす機能
トレーニングをおこなうことにより「文字を読み飛ばしてしまう」などの状態の改善に期待できます。
両目のチームワークの機能
両目のチームワークとは、近くにあるものを見るときに両目をよせたり、遠くにあるものを見るときに両目を離したりする機能のことです。この機能を鍛えることにより、「物との距離感を掴みにくい」「ものが二重に見える」などの状況を改善することに期待できます。
視空間認知
視空間認知は、見たものの色や形、距離感を正確に認識するための機能です。
この機能をトレーニングしたときに、期待できる効果を紹介します。
- 色や形を把握しやすくなり、塗り絵や図形問題に取り組みやすくなる
- 対象物(見ようとしているもの)と背景を区別しやすくなる
- 文字の形を覚えやすくなる
- 距離感を掴めずに人や物にぶつかる状況を改善できる
- 球技に取り組みやすくなる など
上記は一例で、視空間認知の機能を鍛えることで得られる効果は、他にも多数あると言われています。
目と手の協応
目と手の協応とは、目で見た情報にあわせて、体を動かす機能のことです。
この機能が苦手な場合、「黒板の文字を見てノートに書き写すことが難しい」などの状況が考えられます。
しかし、このような「見る」と「動く」の能力のつながりは、経験やビジョントレーニングの効果により向上すると言われています。
ビジョントレーニングのやり方はどこで学べる?

ビジョントレーニングに興味のある方へ向けて、ビジョントレーニングのやり方を学べる施設について解説していきます。また、ビジョントレーニングに関わる「オプトメトリスト」と呼ばれる仕事についてもご紹介します。
ビジョントレーニングのやり方を学べる施設
ビジョントレーニングのやり方を学べる施設としては、下記が挙げられます。
- 療育施設
- スポーツジム
- 民間のトレーニングセンター など
ビジョントレーニングに関する資格を持った先生が、通級指導教室や特別支援学級でビジョントレーニングの指導を担当していることもあります。
ただし、これらの施設がすべてビジョントレーニングを実施しているわけではないため、あらかじめ「ビジョントレーニングをおこなっているか」を問い合わせる必要があります。
また、「学習上の困りごとを改善するためにビジョントレーニングを受けたい」「スポーツで役立つビジョントレーニングを受けたい」など、目的に合ったビジョントレーニングに対応しているかどうかも合わせてチェックしておきましょう。
ビジョントレーニングにも関わる「オプトメトリスト」とは?
ビジョントレーニングの指導をおこなっている専門家として、目の使い方に詳しい「オプトメトリスト」が挙げられます。「オプトメトリスト」の仕事内容は、薬や手術に頼らずに目の機能を向上させるサポートをすることです。
アメリカなどでは国家資格のある専門職として扱われていますが、日本国内では現状、民間資格という位置付けです。
「オプトメトリスト」は医師とは異なるため、病気の治療はおこないませんが、メガネ(コンタクト)のメーカー企業や販売会社などに勤務し、メガネ(コンタクト)がその人に合っているのか調べたり、目の使い方のアドバイスをしたりします。
また、さまざまな施設でビジョントレーニングの指導をしていることもあります。
ビジョントレーニングのまとめ

ビジョントレーニングは、「見る力」の向上をサポートするトレーニングです。
まだエビデンス(根拠)がはっきりとしていない部分はあるものの、すでに「学習をスムーズにする」など、さまざまな目的で活用されています。
ビジョントレーニングに興味のある方は、療育施設や民間のトレーニングセンターなどで受けることが可能です。
ただし、すべての施設がビジョントレーニングを実施しているわけではないため、興味のある方は事前に問い合わせてみましょう。
子どもの学習に関する困りごとがある場合には、子どもに合わせたサポートを検討してみるといいでしょう。LITALICOジュニアでは無料で相談も受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。
