サヴァン症候群とは?ギフテッドとの違いや有名人も紹介します

知的障害や精神障害、自閉スペクトラム症のある人の中には、芸術や音楽などある分野に突出して並外れた能力を持つ人がいます。このような人や症状のことを、サヴァン症候群と呼ぶことがあります。

 

サヴァン症候群の人が示す特徴や症状はさまざまであり、人によって異なります。

得意な分野と、そうでない分野との凸凹に、サヴァン症候群の子どもに対してどう接したらいいのか家族が困ってしまうこともあるようです。

 

今回は「サヴァン症候群」について、診断基準の有無やサヴァン症候群のある子どもの困りごと、相談先についてご紹介します。

サヴァン症候群とは?

サヴァン症候群とは?

サヴァン症候群とは、知的障害や自閉スペクトラム症(ASD)など、全般的に知的発達に障害がある人のうち、ある特定の領域において並外れた能力を示す状態、もしくはそのような人を指して用いられる用語です。

 

サヴァン症候群はもともと、1887年にJ・ラングドン・ダウン博士によって「イディオサヴァン(天才的白痴)症候群」と名づけられましたが、「イディオ」は差別的な意味があると考えられるようになったため、現在はサヴァン症候群と呼ばれるようになっています。

サヴァン症候群のある人に見られる能力とは?

サヴァン症候群のある人に見られる、具体的な能力の例をいくつかご紹介します。

 

計算能力

サヴァン症候群の人の中で、比較的多くみられるとされるのが「歴計算」です。「1872年5月13日は何曜日?」など、指定した日付の曜日を「月曜日」といったように即座に回答することができるといった能力です。

 

音楽的才能

絶対音感を持っている事例も見られます。また、複雑な楽曲も一度聞いただけで正確に最後まで再現することができる人もいます。

 

知覚・芸術

写真と見間違えるほど正確な絵を描写することがあります。また、過去に見た情景や風景から創造した絵画を描き、世界的に有名な画家として活躍している事例も報告されています。更に、サヴァン症候群の人には、一度見た街を、自身の記憶だけを頼りに、正確で広大なパノラマ図や地図などで書くことができる人もいます。

 

時間・空間的認知に関する才能

時計を見なくても、正確な時刻がわかる人もいます。また、広大な土地の地理を正確に覚え、まるでカーナビのように街を案内できるサヴァン症候群の人もいます。

サヴァン症候群とギフテッドの違いとは?

サヴァン症候群とギフテッドの違いとは?

ギフテッドとは、アメリカ合衆国において1972年に米国議会に提出された「マーランド報告」によって「知性、創造性、芸術性、リーダーシップまたは特定の学問分野で高い達成能力を持ち、その能力を発揮させるために通常の学校教育以上の活動や支援を必要としている子ども」と定義づけられ、その後州によって定義に変更が加えられています。

 

日本でも、文部科学省が「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 」としてギフテッドの学習支援についての検討を令和3年より開始しています。

 

サヴァン症候群とギフテッドは、似ているようで言葉がさしている状態像が異なります。

まず、サヴァン症候群もギフテッドも、現在の日本では正式な定義はありません。

 

サヴァン症候群とギフテッドとの大きな違いは、サヴァン症候群は精神障害や自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害・全般的な知的発達に障害が全面的な特性としてありながらも、ある特定の分野において特異的な能力を有している人を示している点です。

 

また、サヴァン症候群における「特異的な能力」とは必ずしも世間一般から見た並外れた能力を指すわけではなく、本人の全体的なIQと比較したときにある能力のみ突出しているといった状態を指すこともあります。

サヴァン症候群のある芸能人や有名人

サヴァン症候群のある芸能人や有名人

サヴァン症候群があるとされている著名人を紹介します。

キム・ピーク(1951~2009)

アメリカ地図の暗記や見たものを写真のように覚えたり、9,000冊もの本の内容を完璧に覚えていたりする驚異的な記憶力があったとされています。

 

サヴァン症候群がある一方で、彼には重度の知的障害があったとも言われており、日常では洋服のボタンを掛けることにも支援を必要としたとされています。

ダニエル・ポール・タメット(1979年~)

イギリス出身で、世界40ヶ国以上で放送されたテレビドキュメンタリー「ブレインマン」の主人公となった人物で、彼もサヴァン症候群だとされています。

 

彼は発達障害の一つであるアスペルガー症候群を日常生活には支障のない軽度で抱えていることのほかに、数字に色や手触りが感じられるという「共感覚」の持ち主であるともされています。

 

著書である『僕には数字が風景に見える』は、全米でベストセラーとなり、日本でも出版されています。

サヴァン症候群に診断基準はある?

サヴァン症候群に診断基準はある?

現在、サヴァン症候群は精神科分野における国際的な診断基準となっているアメリカの精神医学会が発行している『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)や、世界保健機関(WHO)が発行している『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)などにおいて、明確な分類として示されていません。

 

そのため、サヴァン症候群は医学的な正式名称ではなく、診断基準はありません。

 

しかし、サヴァン症候群の多くは自閉スペクトラム症(ASD)の方に見られることから、医学的には「自閉スペクトラム症」と診断されることが多いといいます。

 

自閉スペクトラム症自体が女性に比べて男性の診断が多いことから、母数の関係でサヴァン症候群とされる人は男性が多くなる傾向があるようです。

 

また、サヴァン症候群は、自閉スペクトラム症のほかにも知的障害、自閉スペクトラム症以外の発達障害の診断をされるケースもあります。

サヴァン症候群のある子どもの困りごととは?

サヴァン症候群のある子どもの困りごととは?

ここではサヴァン症候群のある子どもの困りごとを紹介します。

 

過去のサヴァン症候群の症例では、突出した能力を示す分野がある一方で、3+2の計算ができない、靴ひもを自分で結べないといった内容も報告されています。このことからも、サヴァン症候群のある子どもたちの中には、日常生活で必要とされる活動自体に難しさを感じている場合があります。

 

これはサヴァン症候群であること以前に、自閉スペクトラム症を含む発達障害や知的障害があることから、それらの障害に起因した困りごとが生じていることが考えられます。

 

また、サヴァン症候群は自閉スペクトラム症の人に多く見られることから、自閉スペクトラム症の障害特性である、人との関わりにおいて困難さが見られたり、感覚鈍麻(かんかくどんま)や反対に過敏さが見られたりすることがあります。

サヴァン症候群のある子どもへの関わり方は?

サヴァン症候群があるとされている一部の著名人の中には、天才的な能力を示す人がいますが、想像を絶するような能力を持つサヴァン症候群のある人の人数は、世界的に見ても100人にも満たないだろうと推定されています。

 

しかし、サヴァン症候群のある子どもは周囲から「サヴァン症候群なのだから人並外れた突出した天才的な才能があるのだろう」と過度な期待を寄せられたり、偏った印象を世間から持たれ、サヴァン症候群のある子ども自身が心理的に追い込まれたりしてしまうことが考えられます。

 

サヴァン症候群だけに限ったことではありませんが、子どもを一人ひとり理解していく上では、サヴァン症候群か否かといった障害や診断名だけにとらわれることなく、周囲の大人が理解を示し、子ども自身の得意や才能に目を向けた関わりを意識し、子どもが社会に参加していく上で必要な支援を検討していくことが重要であると考えられます。

 

また、「子どもがサヴァン症候群かもしれない」「どのように関わったらいいかわからない」などと悩んだり不安になったりした際には、必要に応じて専門家に相談することも視野に入れていただくといいかと思います。

サヴァン症候群に関する相談先は?

サヴァン症候群に関する相談先は?

ここではサヴァン症候群について相談できる機関などを紹介します。

 

サヴァン症候群に関する相談先は、子どもと成人で異なりますので、本記事では、子どものサヴァン症候群についての相談先をご紹介します。

 

保健センター

市町村、もしくは例外的に区ごとにも設置されている、地域のための健康の推進を目的とした施設です。健康診断や保健指導、健康診断などをおこなっている施設ですので「サヴァン症候群かもしれない」と感じた時には相談に行くといいでしょう。

 

児童相談所

主に18歳未満の児童についての相談をすることができる、児童福祉法に基づき設置されている機関です。サヴァン症候群の疑いがある子どもが18歳未満の場合には、児童相談所に相談してみるのもいいかもしれません。

 

子育て支援センター

主に市区町村ごとの公共施設や児童館といった場所に設置され、乳幼児の子どもとその親を対象に情報提供をおこなっています。

 

また、親同士の交流の場でもあるため、サヴァン症候群の疑いがあるだけでなく、ほかの保護者とも情報交換がしたいと感じた時には利用してみるのも選択肢の一つです。

 

児童発達支援事業所

児童福祉法に定められた施設で、小学校就学前の6歳までの子どもを療育的な視点で支援をおこなう施設の一つです。

 

身近な地域の事業所に通いながら機能訓練や日常生活における自律訓練をおこなっています。発達について全般的な不安がある際などには相談してみるとよいかもしれません。

 

発達障害者支援センター

発達障害のある子どもに限らず大人やその関係者などの支援にあたっている専門機関です。発達障害者支援法により定められた施設で、都道府県、地方自治体などにより運営されています。

 

サヴァン症候群の方の中には、自閉スペクトラム症といった発達障害の診断をされる場合もあります。サヴァン症候群に限らず、発達障害かもしれないと感じた際には相談に行くことも視野に入れてみてください。

子どもの発達障害に関する相談先

サヴァン症候群かもしれないと感じた子ども自身の困りごとや家族の困りごとの必要によっては、医療機関を受診してみるのもいいかと思います。

 

LITALICOジュニアでは、サヴァン症候群に限らず発達についての相談を無料で受け付けております。どこに相談していいかわからない、どう接したらいいのかわからないなど、お困りの場合にはぜひLITALICOジュニアのお問い合わせ窓口までご相談ください。

 

専門の知識を持ったスタッフがお話を伺い、子ども自身やご家族に必要な相談先などについてご案内させていただきます。

サヴァン症候群についてのまとめ

サヴァン症候群についてのまとめ

サヴァン症候群のある方の中には、特定の分野において驚異的な能力を発揮する人もいます。テレビや映画などから、サヴァン症候群の人は奇人や天才といったイメージが先行してしまっていることも少なくありません。

 

しかし、それらのイメージはあくまでもサヴァン症候群とされている方の中でも一部の人たちです。

 

サヴァン症候群の傾向があるからといって、過度な期待を押し付けることはサヴァン症候群の人を追い込んでしまうことにもなりかねません。「子どもがサヴァン症候群かもしれない」と思った場合にも、多様な一人の個人であることを前提に、得意や不得意を正しく理解して得意な分野について認め、伸ばしていく関わりが大切だといえます。