
カサンドラ症候群とは、パートナーや家族など身近な人に自閉スペクトラム症(ASD)があり、コミュニケーションがうまくいかず、またその困難さが周囲に理解されないことによって、身体や精神面に不調が現れている状態のことです。
カサンドラ症候群はパートナーとの関係に対して使われることが多かった言葉ですが、現在では自閉スペクトラム症のある子どもがいる保護者など広い人間関係にも使われることが増えてきました。
この記事ではカサンドラ症候群の原因や現れる症状、カサンドラ症候群になりやすい人の傾向や対処法などについて紹介します。
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カサンドラ症候群とは?

カサンドラ症候群は自閉スペクトラム症(ASD)のあるパートナーや家族と、コミュニケーションがうまくいかず、その困難さが周囲に理解されないことがきっかけとなり、心身に不調が出ている状態のことです。
カサンドラ症候群は精神面では「抑うつ」や「自己評価の低下」、身体面では「不眠」や「体重の増減」などの不調が現れることがあるといわれています。
カサンドラ症候群はそのような状態を指す言葉で、医学的な診断名ではありません。もともとはパートナーとの関係についての概念で、1980年代に心理療法家シャピラによって命名されました。カサンドラ症候群はほかにも「カサンドラ情動剥奪障害」や「カサンドラ状態」と呼ばれることもあります。
時代が進むにつれて、カサンドラ症候群はパートナーとの関係についてだけでなく、自閉スペクトラム症のある子どもがいる保護者についても使われるようになってきました。
ほかにも自閉スペクトラム症のある方と同僚や上司といった、職場の人間関係についても使われる場合があるなど、カサンドラ症候群は現在では広く自閉スペクトラム症やその特徴がある方と日常的に接する方との関係において使われる場合が増えています。
また、当初はアスペルガー症候群の方とそのパートナーについての概念でしたが、アスペルガー症候群は現在では自閉スペクトラム症(ASD)という診断名になっています。
この記事内ではそういった自閉スペクトラム症(ASD)の診断や傾向のあるパートナーや家族について「ASDの特徴のある方」という表記を使用します。
カサンドラ症候群の名称の由来
カサンドラ症候群という呼び名は、ギリシア神話に登場するトロイの王女「カサンドラ」が由来となっています。
カサンドラは予言の能力がありましたが、神により「予言をだれからも信じてもらえない」という呪いにかけられてしまいます。
その境遇を「身近な人との関係性を、周りに理解してもらえない」という状況と重ねて、「カサンドラ症候群」と命名されました。
カサンドラ症候群の原因

カサンドラ症候群の原因について解説します。
カサンドラ症候群はASDの特徴のある方との関係性から不調が生じている状態で、その原因やきっかけは一つだけではありません。
主なものとして、
- 自閉スペクトラム症のある方とのコミュニケーションがうまくいかない
- そのことを相手や周囲に伝えてもなかなか理解が得られない
- カサンドラ症候群の当事者が苦しさを感じたまま孤立している
という原因が考えられています。
単にASDの特徴のある方との関係性だけでなく、苦しい思いをしていることがなかなか理解されないことも関係してくるといわれています。
自閉スペクトラム症(ASD)とは?
ここでは、そもそも自閉スペクトラム症(ASD)のある方とコミュニケーションがうまくいかない原因として考えられることを紹介します。
まず自閉スペクトラム症とは、生まれつきの脳機能の偏りによりさまざまな特性がある発達障害のことです。
以前は「アスペルガー症候群」「自閉症」「広汎性発達障害」という名称で呼ばれていたものが、2013年に発行された『DSM-5』(アメリカ精神医学会『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版)によって「自閉スペクトラム症(ASD)」という診断名に統一されました。
自閉スペクトラム症のある方は、特性として
- 社会的コミュニケーションや対人関係の困難さ
- 限定された興味・関心、反復行動
があります。それぞれを簡単に見ていきます。
社会的コミュニケーションや対人関係の困難さ
あいまいな表現や言葉の裏を読むことが苦手で会話がかみ合わなかったり、相手の立場に立つことが苦手で、悪意なく不適切な発言をするといった傾向があります。
家庭におけるコミュニケーションでずれが生じやすい例として、自閉スペクトラム症のある方は「ちゃんと片付けておいて」と言われても「ちゃんと」がどういう状態かわからないため、何をしていいかわからなくなってしまうということがあります。
ほかにも「お鍋を見ていて」とお願いされた時に、例え鍋が焦げ付いていてもじっと鍋を見つめ続け、「火を止める」といった指示されていない行動をしないといったことがあります。
自閉スペクトラム症のある方と日常的に接している当事者は、それまで「当たり前」と思っていたやりとりが通じないことで悩んでしまう方もいます。
限定された興味・関心、反復行動
特定の物事や自分で決めたルールにこだわりが強く見られることがあります。
日常で見られる例でいうと、外出した際に道路工事などにより普段と違う道順を通ろうとすると、落ち着かなくなったりパニックになってしまうなどがあります。
ほかにも、自閉スペクトラム症のある方の中で「夕飯は19時ぴったりに食べはじめる」というルールがあった場合、時間がずれることに強い抵抗を示すといったことがあります。
このようなパートナーや子どものルールなどに合わせようとすることで、ストレスや疲労を感じてしまう方もいます。
周囲に理解されづらい
ASDの特徴のある方とのコミュニケーションで悩みを感じていても、周囲になかなか理解されづらいということもカサンドラ症候群の原因として挙げられています。
ASDの特徴のある方が学校や会社など社会的な場では適応していて、プライベートな場所ではこだわりなどが強く出ていたり、パートナーや親子の関係の中でだけ、コミュニケーションの難しさが生じている場合は、外からだと困難さが理解されづらいことがあります。
そのためASDの特徴のある方と接する当事者のつらさが共感されなかったり、当事者に原因があるように見られることが孤立感を深めていくことにつながります。
こういったASDの特徴のある方と当事者との関係や、つらさが周囲に伝わらないことなどが重なってカサンドラ症候群の原因になると考えられています。
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カサンドラ症候群とはどんな症状?

カサンドラ症候群は心身に不調が現れている状態です。
カサンドラ症候群は医学的な診断名ではないため、明確に症状が定められているわけではありませんが次のような症状が出てくるといわれています。
精神面にあらわれるカサンドラ症候群の症状
カサンドラ症候群で精神面で現れる症状として、「抑うつ」や「パニック」などがあります。
そのほかにも以下のような症状が表れるといわれています。
- 抑うつ
- パニック(突然の動悸やめまい・手足の震えといった発作)
- 自己評価の低下
- 情緒不安定
- 自己喪失感
- 罪悪感
- 無気力 など
身体面にあらわれるカサンドラ症候群の症状
カサンドラ症候群の症状は身体面では「不眠」や「頭痛」が不調として現れてきます。
ほかにも身体面で現れる症状として以下があります。
- 不眠
- 頭痛・偏頭痛
- 体重の増減
- 自律神経失調症(体のだるさ、肩こりなど全身の不調) など
この章で紹介した症状は一例であり、カサンドラ症候群の症状は人それぞれ異なります。
ASDの特徴のある方との関係に悩んでいて、何かしら心身に不調がある場合はこの後紹介する場所に相談してみるといいでしょう。
カサンドラ症候群になりやすい人の傾向とは?

カサンドラ症候群は真面目、忍耐強い、面倒見がよいといった性格の方がなりやすい傾向があると言われています。
こういった性格にはいい面もたくさんあります。しかし、ASDの特徴のある方とのコミュニケーションにズレがあったり、こだわりに戸惑うことがあっても、我慢して受け入れようとすることで、ストレスがたまりカサンドラ症候群へとつながることがあります。
ただし、性格につきましてはあくまで傾向であり、カサンドラ症候群になる原因は複数ありますので、どなたでもカサンドラ症候群になる可能性はあります。
カサンドラ症候群の治療・対処法

カサンドラ症候群の治療
カサンドラ症候群の治療として、まずは心身に現れている症状についての治療をおこっていきます。
抑うつやパニックに対して薬物療法や心理療法などの治療法で、症状の改善を図っていきます。身体面の不調に関しても必要に応じて薬物療法などをおこなっていきます。
ただ、これらは表に現れている症状に対しての治療であり、カサンドラ症候群で悩んでいる方はASDの特徴のある方との関係性を改善していくことが大事になります。
カサンドラ症候群の対処法
カサンドラ症候群で悩んでいる方へ、ASDの特徴のある方との関係性を改善するための対処法を紹介します。
自閉スペクトラム症の診断を強要しない
ASDの特徴のある方の中には学校や会社などでは適応していて、本人は特に困っていないという場合もあります。
関係性を改善したいからといって無理に受診を促すと、本人が抵抗し関係がこじれることもあります。
自閉スペクトラム症の特徴や対処方法について知る
自閉スペクトラム症の特徴について知ることで、コミュニケーションでずれが生じる理由や、その対処法がわかることもあります。
現在では本やインターネットで調べることができるほか、発達障害についての支援機関に相談するなどの方法で特徴や対処法を知ることができます。
生活していく上でのルールを決める
自閉スペクトラム症について知識を得たうえで、生活上のルールを決めていきます。
自閉スペクトラム症といっても、一人ひとり特徴の現れ方も性格も異なります。どういうルールや方法であればお互いがストレスなく続けていけるか、一緒に決めていくことが大事です。
例えばあいまいな表現が苦手で「ちゃんと片づけて」と言われても行動できない子どもの場合は、片づけるものの名前を書いた箱を用意しておきます。
そして「遊び終わったら、●●の箱の中に入れてね」と伝えるようにするなどの方法があります。
距離をおく時間や、相談できる第三者とのつながりをつくる
親子の場合は長い間距離をおくのは難しいと思いますが、預けることができる施設などを活用し、数時間でもリフレッシュする時間を設けるといったことも大事になります。
また、日常1対1の時間が長いことでストレスを感じる場合は、友人や支援機関の方など第3者も含めて過ごす時間を作っていく方法もあります。
カサンドラ症候群のある人が利用できる相談先は?

ここではカサンドラ症候群のある方が利用できる相談窓口を紹介します。
ASDの特徴のある方の年齢によっても相談先が異なりますので、分けてお伝えします。
年齢に関わらず相談できる場所
ASDの特徴のある方について、年齢にかかわらず相談できる場所として「発達障害者支援センター」や「発達外来のある病院」があります。
発達障害者支援センター
年齢にかかわらず発達障害のある方の日常生活や仕事など、幅広い相談を受け付けている支援機関です。本人だけでなく、家族からの相談も受け付けており、専門的なスタッフによるアドバイスや支援機関、病院の紹介などもおこなっています。
発達外来のある病院
発達外来のある病院では、本人以外からの相談を受け付けている場合もあります。カサンドラ症候群の相談ができる病院もありますので、事前に確認しておくといいでしょう。
子どもについて相談できる場所
ASDの特徴のある子どもについて相談する場合は、「子ども家庭支援センター」「児童相談所」「自治体の子育て相談窓口」「児童発達支援センター」などがあります。
子ども家庭支援センター
子ども家庭支援センターは18歳未満の子どもについての相談ができるほか、ショートステイや一時預かりなどのサービスも提供しています。
児童相談所
児童相談所は18歳未満の子どもについての相談ができる場所です。児童福祉司・児童心理司・医師・保健師などの専門スタッフがいて、相談へのアドバイスやほかの支援機関の紹介などをおこなっています。
自治体の子育て相談窓口
ほかにも自治体のWebサイトでは、子育てや発達の気になる子どもについての相談ができる場所が一覧化されていることがあります。
東京都三鷹市のWebサイトには、子どもの発達に関する相談先のほか、「お母さん・お父さんのこころの相談」としてパートナーや家族との関係についての相談先も載っています。
お住まいの自治体のWebサイトなども参考にしてみてください。
児童発達支援センター
障害のある子どもにたいして、日常生活や社会生活に必要なスキルなどを身につけるためのプログラムの提供をおこなう施設です。
利用するには自治体に申請する必要がありますが、相談だけならすぐにできる場合があります。
LITALICOジュニアでは発達の気になる子どもへの、児童発達支援など日常生活や社会生活へのサポートをおこなっています。
保護者向けに、子どもへの接し方などを学んでいく「ペアレントトレーニング」も実施しています。自閉症スペクトラム症の特徴や対応方法を知るためのお役に立つかもしれません。
自閉症スペクトラム症などの発達障害や、その傾向のある子どもに関する相談や、ペアレントトレーニングについて気になる方もぜひ一度お問い合わせください。

カサンドラ症候群のまとめ

カサンドラ症候群は、自閉症スペクトラム障害(ASD)やその傾向のあるパートナーや子どもとの関係性によって、心身に不調が現れる状態を指す言葉です。
抑うつなどがある場合は薬物療法などで治療するとともに、パートナーや子どもとの関係性を改善していくことも大事です。
ご自身だけで抱え込まずに、発達障害について相談できる支援機関なども活用していくといいでしょう。
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