インクルーシブ教育マガジン vol.29
(この内容は2017年8月31日配信「インクルーシブ教育マガジン」のバックナンバーになります。)
朝夕の風にかすかに秋の気配が感じられる季節になりました。
あっという間に夏休みも終わり、2学期が始まりますね!
今学期もよろしくお願いいたします。
【連載】今日からできるインクルーシブ教育実践
LITALICOジュニア 木村彰宏
このコーナーでは多様な子どもたち8,000名が通うLITALICOジュニアにおける実践についてご紹介します。
前回まで、多様な子どもたちにとって、その多様性に応える教育を実施していくために「最適なプラン(計画)をつくる」についてお伝えしてきました。
今回からは、そんなプラン(計画)に基づいた教育を実践していく上で、子どもたちの「やりたい!」を引き出し、主体的な学びに繋げていくために、「子どもの心に火をつける」についてお伝えします。(インクルーシブ教育マガジン vol.23にも出てきたテーマです。)
今回は、子どもの心に火をつける為の、「興味・関心を活かした学び」についてです。
その子に応じた最適なプランを作成しても、いざ授業を行うと本人は苦手意識を持っていて学習を嫌がり、プランも前に進まない・・・なんてことになっては元も子もありません。
そんな子にとって、「好き」や「興味・関心」を授業や学習の中に取り組んでいくことは、その子の新しい挑戦や、苦手なことに取り組む際のカギにもなります。
私たち大人も、好きな人と一緒だったり、夢中になれることであれば、苦手なことにも頑張ることができますよね。それは大人だけではなく、子どもも同じです。
そんな子どもたちの「興味・関心」を、LITALICOジュニアではいろいろな方法で探ります。
本人や保護者へのヒアリングはもちろん、一つの学習内容についても多様なキャラクターや生き物・乗り物が登場する学び方を提示したり、学習にゲーム性を持たせたり、学習に取り組めた・問題が解けた際にただ丸をつけるだけではなく、本人の好きなキャラクターのシールやスタンプがもらえたりするなどです。
子どもたちの興味・関心には、例えば以下のようなものがあります。
① キャラクター、生き物、乗り物、TVゲームなど
② 教師からの称賛やハイタッチなど、人とのやりとり
③ スタンプやシールなど、達成感が目に見えるもの
これらの要素を学びに取り入れることで、子どもたちの目が輝く瞬間があったり、いつもより「グッ」と集中して頑張れる瞬間があったりします。
このように、心に火がついた瞬間を見逃さないことが、主体的な学びへの第一歩となります。
みなさんは、教室等で自分が見ているお子さん全員の「興味・関心」について答えられますか?
分からないという方は是非、改めてヒアリングをしたり、多様な学習方法を試したり、問題が解けた後の称賛の方法など工夫したりして、個々の子どもたちの「心に火がつくポイント」について、探してみてください。
次回は、心に火をつけることができる子どもたちの「興味・関心」を広げ、「夢中になれる選択肢を増やす」についてお話します。
【連載】インクルーシブ教育を考える
株式会社LITALICO 執行役員 野口晃菜
先日、知り合いの子どもたちと過ごしていて感じたことがある。
保護者から「新しい場所が苦手なので落ち着いて過ごせるか不安」と事前に話を聞いていた。自閉症スペクトラムの診断のある子どもたち。
だが、蓋を開けてみると初めての環境にもかかわらず、それぞれの子どもたちはリラックスして過ごしていた。
なぜそれが起こったのだろうか?
子どもたちはよく周りの人を見ているし、ある意味とても「空気」を読んでいる。(自閉症スペクトラムの人は空気を読めないとよく言われるが、本当なのだろうか?と思うぐらい)
新しい場所、新しい人達にはじめは警戒するが、「この人達はどんな自分であっても大丈夫なんだ。自分に危害を加えないし自分に関心持っている」って察した瞬間にくつろぎだす。
そのためには、子どもが想定外のことを言ったり、したりすることが当たり前の感覚を周りの全ての人間が持っていることが重要なんだろう。
頭でわかってるだけじゃなくて、腹落ちしてること。これまでいくつもの想定外(自分の持ってる当たり前とちがう人)と出会っていること。
実際先日集まったメンバーは全員「想定外が想定内」なメンバーだった。
誰も突然な行動や言動に驚くこともない。
「インクルーシブな社会」とは、「誰もが自分とちがう『当たり前』との接し方がわかること」なんだろう。
想定外も想定内であることが共通了解である社会。
そんな社会のためには、「異質」「ちがい」と出会う機会がたくさんあり、そのちがいによる不確実性を楽しちゃうくらいの機会がもてること。そんな教育こそがインクルーシブ教育なのかもしれない。