インクルーシブ教育マガジン vol.31
(この内容は2017年10月30日配信「インクルーシブ教育マガジン」のバックナンバーになります。)
日増しに寒さがつのってきますが、お元気でお過ごしでしょうか。
今月もインクルーシブ教育に関するコラムをお届けします。
【連載】今日からできるインクルーシブ教育実践
LITALICOジュニア 木村彰宏
このコーナーでは多様な子どもたち8,000名が通うLITALICOジュニアにおける実践についてご紹介します。
前回までは、子どもたちの「やりたい!」を引き出し主体的な学びに繋げていくために、LITALICOが大切にしている考え方「子どもの心に火をつける」について、具体的なアプローチの方法をお伝えしていました。
今回からは、心に火がつき学習に意欲的に向き合えるようになった子どもたちの、「学びを自信につなげる」ために、どのように目標設定や学習方法、評価方法を工夫するかについてお伝えしていきます。
今回は、「学びを自信につなげる」ための、「個別最適な目標設定」についてお話します。
さて、どのような場面で、人は自信を持つことができるでしょうか。そのひとつは、「できた!」という成功体験を得られた時です。
授業や活動の中で、子どもたちの「できた!」という達成感を引き出し、自信につなげるためには、教え手の「今日はこれができるようになってほしい」という思いだけではなく、学び手の子どもたちの、「今のスキル」に合わせた難易度を設定することが重要です。
しかし、例えば集団授業などで全ての子どもに共通して設定される「今日のねらい」では、子どものスキル感によってはレベルが高すぎて、「できなかった」「分からなかった」という失敗体験に繋がってしまうことがあります。
そこで、LITALICOジュニアでは、個別の授業ではもちろんですが、集団の授業の中でも「この授業の中でのA君のねらいは、○○ができるようになること」といったように、個々に合わせた最適な目標を設定しています。
例えば、「式を見て、具体物を使って10までの足し算ができる」というスキルをもっている子どもの場合であれば、次に設定する目標としては、「式を見て、自分で○を書いて10までの足し算ができる」にしよう、と考えます。
このように、「今できるスキルの少し上のスキル」を設定します。
さらに、その日設定する目標から「一つレベルを上げた目標」や「一つレベルを下げた目標」までを設定できていると、学び手である子どもたちの「その日の達成度」に合わせて学習内容を調整することができます。
いかがでしょうか。みなさんの「授業」や「指導」は、日々子どもたちが「できた!」という達成感を得られるものになっているでしょうか。
もし日々の学びの中で「できた!」という成功体験を得られていないという子どもたちがいるようであれば、是非、授業や指導における、子どもたちの「個別最適な目標」について考えてみてください。
次回は、「学びを自信につなげる」ための、「個々の特性に合った学習環境や、学習への多様な取り組み方」についてお伝えします。
【連載】インクルーシブ教育を考える
株式会社LITALICO 執行役員 野口晃菜
登校しぶりや不登校の子どもと会うことが多い。
「不登校」とは状態につけられた名称であり、「不登校児」がいるわけではない。
平成25年度の報告「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」では不登校になったと思われるきっかけを、以下の通りに分類している。
・学校に関わること
・家庭に関わること
・本人に関わること
・その他・不明
その中でも、「本人に関わること」の分類に入る原因が約80%も占めており、その中身としては「無気力」25%、「不安など情緒的混乱」28%といった結果になっている。
これらは本当に「本人に関わること」が原因なのだろうか。
「無気力」や「不安など情緒的混乱」といった状況は、本人と環境との関係性の中でおこる。
もともとの特性としての感覚過敏や感受性の強さ、などはあるかもしれないが、それらのみが原因であるわけではなく、あくまでも本人の凸凹と環境の凸凹が調和しない結果が「不登校」や「不適応」なのであろう。
例えば、生まれつき「無気力」な子どもはいない。
その子を「無気力」にさせたのは、周りの環境である。
不登校になった原因を「本人」にあるとするうちは、根本的な解決にはならない。
つまり、本質的にその子の困難さを解消していくためには、不登校の問題を「本人の問題」という風に捉えずに、環境や関わり方を変えていくこと欠かせない。
登校しぶりの状態の子どもは、コップの中の水が表面張力でどうにか耐えている状態。
そして子どもがそういう状態の時はたいてい保護者もいっしょにそのような状態になっている。
「ここで学校へ行かないことを許したら、このままずっと行かなくなるのではないか…」といった不安。
だいたいの場合が、「行く」か「行かない」かの二択になっているため、まずはその間を作っていき、「行きたくない」時の選択肢として①門までいく②給食だけ食べる③特定の科目だけ行く などを提示することも良いだろう。
最近は周りに「積極的不登校」を選択する子どもと保護者も増えてきた。
選択はあくまでもその子のものであるが、学校と家だけがすべてではないことを知っておくだけでも、不安は和らぐのかもしれない。
※本投稿はConobieに寄稿した文章を一部改編して記載しています。
https://conobie.jp/article/3574