発達障害の診断基準は?検査方法や相談できる機関を紹介
発達障害かも?と思ったら
発達障害とは、主として先天的な脳機能の障害によるもので、乳幼児期から青年期にかけての発達の過程において明らかになるものをさす言葉として用いられています。ただし、医学的な用語ではなく、米国学会が作成する『精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5-TR』では「神経発達症」という名称が用いられています。
神経発達症には、知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動障害(常同運動症)が含まれます。
一方で日本の法律の『発達障害者支援法』では、発達障害は「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害」で、「その症状が通常低年齢において発現するもの」となっています(法律における発達障害の定義の中に知的障害(知的発達症)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります)。
これら発達障害は外見からは分かりにくく、その症状や困りごとは十人十色です。そのため、発達障害の特性を「自分勝手」「わがまま」「困った子」などと捉えられ、誤解を受けやすい面があります。
子どもが困っている様子に気づいたらすぐに相談をし、支援を得られる状況を作ることが大切です。困っている状況が長く続かないようにサポートを得ましょう。
最近は、発達が気になるお子さまへの早期療育(発達支援)をおこなう例が増えてきています。早期から介入し療育(発達支援)をおこなうことで、特性自体を治療することは難しいものの、いじめ、不登校、抑うつなど二次的な問題を予防することができると言われています。
発達障害の診断が受けられる場所は?
医療機関の探し方
医学的な診断をおこなえるのは医師(医療機関)のみです。発達障害についても、診断を受ける場合には医療機関を受診する必要があります。小児科・児童精神科・小児神経科や発達外来などで受けることができます。また大学病院や総合病院などで診断できます。ただ、注意すべき点は、診断がなくても利用可能な支援や福祉サービスがある点です。そのため、現在のお子さまの年齢や困りの内容、現在の支援などから、受診するかどうかについて考えてみる必要があります。医療機関を受診するかどうか悩まれる場合、医療機関以外の専門機関でまずは相談をしてみるという方法もあります。
その上で、実際に医療機関を探す場合、一部の市区町村や都道府県では地域の医療機関リストを作成している場合もあるので、それらを利用しましょう。その場合、対応が可能な発達障害や、アセスメントや個別心理面談、言語療法・作業療法をおこなっているかといった情報も併せてまとめられていたりするので、それらを参考に実際に受診する医療機関を選ばれるとよいかと思います。また、日本小児神経学会のホームページに、小児神経専門医の登録名簿などがあり、それらのリストも利用可能です。
お住まいの地域にそのようなリストが作成されていない場合にも、ネット上で検索することで地域の医療機関は検索が可能です。
ただ、近年診断を受けられる医療機関は増えてきてはいますが、地域によってそのような医療機関の数や規模は大きく異なるため、受診しようと思っても、実際の受診までに長い期間待たなければいけない予約待ちが発生してしまうといった場合もあります。
発達障害の診断基準
発達障害の診断方法
発達障害は、いろいろな原因が検討されているものの、現在もその原因が明らかになっているわけではありません。例えば血液検査や脳画像診断といった手法を用いて診断をする方法が確立されているわけではありません。
では、どのように診断に結び付けているのでしょうか。発達障害の診断では、アメリカ精神医学会の診断基準である『DSM-5‐TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)やWHOの診断基準である『ICD-11』(『国際疾病分類』第11版)といった国際的な診断基準を用いている場合が多くあります。
具体的には、現れる症状について医師が問診や行動観察をおこない、必要に応じて心理検査や発達検査などをおこないます。それらの結果が『DSM-5‐TR』や『ICD-11』などの診断基準を満たしているかどうか、また日常生活・社会生活に著しい不適応を起こしているかどうかなどを総合的にみて診断されます。その際に、一部の発達障害では、その症状が半年以上継続しているなど、一定期間以上症状が持続していることが条件となっている場合もあるため、一度の受診だけではなく、何度か検査や経過を見て診断に至るケースもあります。
診断のポイント
診断の際には、現在のお子さまの様子や困りなどについても聞かれますが、あわせて生育歴について聞かれることもあります。成育歴には、出産時の状況やその後の病歴、歩き始めた時期や言葉の発達の様子などが含まれます。また1歳半健診や3歳児健診時の様子やそこで言われたことなどが確認されるケースもありますので、母子健康手帳なども準備しておくとよいでしょう。保育園や小学校などでの様子なども聞かれる場合がありますので、受診前に、いつぐらいにどんな出来事があったかを簡単にメモしておくと受け答えもスムーズでしょう。
限られた時間の中でのやり取りになる場合も多いので、事前に話したい内容のメモや困りごとなどが確認できる資料などを準備していくと、主治医の先生とのやり取りがしやすいでしょう。
発達障害と検査
前述のとおり、発達障害については、具体的な原因が分かっていないために、保護者さまやお子さま本人、関係者からの聞き取り(ヒアリング)や、お子さまへの行動観察などがおこなわれます。それらに加え、スクリーニング検査と呼ばれる検査があります。例えばASD(自閉スペクトラム症)であれば、親面接式自閉スペクトラム症評定尺度テキスト改訂版(PARS-TR)や新装版 CARS(小児自閉症評定尺度)といった面接形式での検査や、ADOS-2と呼ばれるお子さまに課題を実施してもらう個別式の検査などがそれにあたります。これらの検査は、医療機関以外においても実施されることがありますが、これらの検査の結果のみで診断できるわけではありません。これらの検査の結果などの情報を総合的に検討し、最終的な診断は、医師(医療機関)においておこなわれます。
WISCについて
スクリーニング検査以外に、お子さまの知的な発達、全般的な発達の傾向を明らかにするために、知能検査や発達検査が用いられることもあります。特に、知的発達の偏りや、知的発達の全般的な遅れなどが見られないかなどを検討します。知能検査として用いられることが多いのがWISC-Ⅴと呼ばれる検査になります。こちらは、ウェクスラー式知能検査と呼ばれる検査の主に学齢期を対象にしたもので、対象は5歳から16歳までになります。言語理解指標、視空間指標、流動性推理指標、ワーキングメモリ指標、処理速度指標といったといった代表的な知的機能を測定するものになっています。知的な発達や能力をはかる検査ですが、いわゆる学力とは異なります。例えば発達障害の中のLD・SLD(限局性学習症)では、全般的な知的発達には遅れが見られないために、これら知能検査では平均の範囲内であるにもかかわらず、読む、書く、計算することに特定的に困難を示すために、学習の遅れが見られるということが起きます。WISC‐Ⅴ以外にも、田中ビネー知能検査Ⅴなども用いられます。
知能検査以外にも、社会性や適応行動の発達を評価するVineland-Ⅱ適応行動尺度や、全般的な発達を評価する新版K式発達検査2020などがおこなわれる場合もあります。これらは、お子さまの現在の様子や困りの原因などを推定するために用いられる検査になります。
MRI検査について
発達障害のあるお子さまでは、てんかん発作や脳の器質的な障害などを併発しているケースも見られます。そのために、脳波の測定や、MRIによる検査などをおこなう場合もあります。ASD(自閉スペクトラム症)のお子さまなどでは、新規の場所が苦手だったり、大きな音などが苦手だったりするケースもあり、検査の実施が難しい場合や、事前の慣らしなどが必要な場合もあります。
発達障害と二次障害
二次障害とは、支援やサポート、環境などの影響によって、精神障害の合併や社会適応を困難にする行動の問題に至ってしまうことを指し、医療的な診断名ではなく、状態像を示すものです。発達障害があるからといって必ずしも二次障害が起きるわけではありません。二次障害は周囲の関わり方次第で防ぐことのできるものとも言えます。
よく混同されるものに、併存症があり、こちらは単に複数の病気が生存している状態を指します。例えば、ASD(自閉スペクトラム症)と知的障害(知的発達症)の両方があるお子さまもいらっしゃいます。ただし、この2つについては、どちらかがどちらかの原因ではなく併存しているといえます。
二次障害には、ASD(自閉スペクトラム症)のお子さまが、友だちとのコミュニケーションがうまくいかずに落ち込み、気分障害(うつ)を発症するといった元々の障害から別の障害が生じる場合や、同じくASD(自閉スペクトラム症)でこだわりが強く、強迫的に確認する行動などが増えて暮らしにくさが増してしまった状態などの元々の障害の特性がより強く生じる場合などがあります。
LITALICOジュニアでは、お子さまの感覚や行動の特徴、獲得スキルなどを専門のスタッフが分析するアセスメントを実施しています。感覚の特徴を知ることで、お子さまへの接し方や環境調整の仕方が分かるため、スムーズに生活するためのサポートがしやすくなります。
まずは無料で相談できる専門機関へ
お子さまの発達が気がかりな場合や、育児のお悩みを抱えている場合には、まず無料で相談できる地域の専門機関を利用することをおすすめします。相談の上、必要に応じて発達検査や児童発達支援などの支援や、専門の医療機関につなげてくれます。
・市町村保健センター
地域保健法に基づき、市区町村に設置される施設。高校生や成人に対する発達障害の相談も受け付けています。必要に応じて医療機関への紹介などもおこないます。
・児童相談所
児童福祉法に基づき、都道府県および政令指定都市・中核市に設置されている施設。
業務には「児童に関するさまざまな問題について、家庭や学校などからの相談に応じる。」という項目もあり、育成相談や心身障害相談もおこなっています。
・子育て支援センター
厚生労働省の通達「特別保育事業の実施について」に基づく施設で、地域自治体が実施しています。(民間委託含む)
育児不安などについての相談指導もおこなっており、電話相談も可能です。必要に応じて適切な機関の紹介をおこないます。
・発達障害者支援センター
発達障害者支援法に基づく施設で、都道府県・指定都市が実施しています。(民間委託含む)
発達障害児(者)とその家族、関係機関などからの相談を受付、家庭での療育方法についてのアドバイスや、必要に応じて福祉制度や医療機関の紹介などをおこないます。
児童相談所や医療と連携を図り、発達障害に特化した支援をおこなっています。
- 発達障害者支援センターってどんな場所?利用方法とサービス内容、専門機関との連携は?(LITALICO発達ナビ)
https://h-navi.jp/column/article/35025609
専門機関に相談する前にやっておくこと
医療機関の受診時と同様に、専門機関に相談する際も、子どもの過去から現在までの様子を説明する必要が生じる場合もあります。
相談する前に、生まれてからのこと、言葉を話し始めたときのことや、母子手帳に書かれている検診の内容、保育園・幼稚園・学校などからの報告をまとめておきましょう。
お困りの際はお気軽にご相談ください
どこに相談すればいいか迷う、どう相談すべきかわからない、という場合には、ぜひLITALICOジュニアのお問い合わせ窓口までご連絡ください。特に費用はかかりません。
担当のスタッフがお話しを伺い、LITALICOジュニアのサービスとサポートできることをご提案いたします。
記事まとめ
発達障害という言葉はずいぶん一般に広がってきましたが、使われる領域によって意味や定義の異なる用語でもあります。ただし理解するとともに、お子さまが発達障害に起因すると思われる困りや困難を示されたり、訴えられたりした場合には、適切な専門機関や医療機関に相談し、早めの支援に繋げていきましょう。
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