境界知能にある子どもの特徴とは?支援や大人の特徴も紹介

知的障害(知的発達症)と診断されていなくても、知的発達が平均範囲と知的障害(知的発達症)の境界線にある(境界知能)ことで、学校生活や日常生活で困りごとを抱えている子どもたちがいます。

 

このような子どもは診断がつかないことなどから困っていることに気づかれにくく、本人にも理由がわからない困りごとが多くなり、精神疾患などの二次障害につながることもあり得ます。

 

今回は、境界知能にある人の特徴、対策や活用できる支援などを紹介します。

この記事を書いている会社:株式会社LITALICO

境界知能とは?

境界知能とは?

境界知能とは、一般的にIQが71以上85未満で知的障害(知的発達症)の診断が出ていない方に対して使われることのある言葉です。

 

境界知能という診断名があるわけではなく、あくまで通称として使用されています。

 

また、IQもひとつの目安に過ぎず、実際には周りの環境などさまざまな影響により困りごとが生じている状態に対して使われています。

 

境界知能にある子どもは、比較的困っていることに気づかれることが少なく、支援につながらないことも多いといわれています。

 

そのため、本人は「何かうまくいかない」ということが積み重なり、非行や精神疾患につながる可能性も指摘されています。これは二次障害と呼ばれています。

IQ(知能指数)とは?

IQとは、知能指数の略称で、知能検査と呼ばれる検査などで示される同年齢集団の中での知能の相対位置を示す指標です。知的障害(知的発達症)の指標のひとつとして用いられることがあります。

 

知的障害(知的発達症)の診断はIQのみでおこなわれるのではなく、実際には日常生活能力と呼ばれる身の回りのことやコミュニケーションなどの能力も踏まえて判断されます。

 

境界知能もIQが71以上85未満とされることがありますが、文献によってはIQ70~となっている場合もあり、明確な基準があるわけではありません。

 

とはいえ、IQは知的障害(知的発達症)の診断とは別に、得意や苦手を把握し対策を取ることにもつながります。

境界知能の特徴とは?

境界知能の特徴とは?

ここでは境界知能にある子どもと大人の特徴を紹介していきます。境界知能といっても、その人によって性格や得意、苦手、周りの環境も異なります。

 

境界知能にある方すべてに同じ特徴があるわけではありませんが、傾向を把握し対応方法を考えるうえでの参考としてご覧ください。

 

まずは境界知能にある子どもの特徴から紹介します。

学習の困難

境界知能にある子どもは、国語や算数などの教科学習で理解が難しいなどの困難が生じやすく、結果として本人も困ることが多いという特徴があります。

漢字の読みが苦手で教科書に書いてあることの意味がつかみづらかったり、数字の桁数が多くなると計算が難しくなり、テストで点数が取れずに悩んでしまうこともあります。

 

また、学習方法が合わずに授業で集中ができない、授業のスピードについていけない、じっと座っていることができない子どももいます。

対人関係やコミュニケーションの困難

境界知能にある子どもの特徴として、対人関係やコミュニケーションにおいて会話についていけないなどの大変さが生じるということもあります。

 

境界知能にある子どもは集団生活でのルールの理解が難しいことや、相手の言葉の意味をつかむことができない、自分が伝えたいことをうまく表現できないことなどにより、対人関係に影響が出ることも考えられます。

身の回りや社会生活の困難

境界知能にある子どもの特徴の中で、身の回りのことや社会生活での困難も見られます。

身だしなみを整えることや整理整頓などが難しく不便を感じたり、お釣りの計算や電車の乗り換えなどが難しいといった困りごとを抱えることも考えられます。

 

境界知能にある子どもはこういった特徴により、生活の中でうまくいかないことが重なり、二次障害につながることもあるといわれています。

境界知能にある大人の特徴

ここまで境界知能にある子どもの特徴を紹介してきましたが、ここでは境界知能にある大人の特徴を紹介します。

 

境界知能にある大人も、日常生活や仕事において困難を感じる傾向があります。

日常生活では金銭管理や、役所の手続き、携帯電話などの契約の場面などで難しさを感じたり、コミュニケーションや対人関係での困りごとがある方もいます。

 

仕事においては、口頭指示では理解が難しい、多くの人から指示を受けると混乱してしまう、漢字が多いマニュアルでは意味が理解しづらい、業務を覚えるのに時間がかかるといった傾向があります。

 

境界知能にある大人も、こういった日常生活や仕事での困りごとが続くことで、うつ病などの二次障害につながることもあり得るため、自分の得意や苦手を把握して対策を立てることや、支援機関を活用することが大事です。

境界知能にある子どもの苦手への対策とは?

境界知能にある子どもの苦手への対策とは?

ここからは、境界知能にある子どもが感じやすい苦手への対策の例を紹介します。

 

境界知能にある子どもが勉強や身だしなみなどで出来ないことがあっても、それは本人のやる気や努力の問題ではなく、学習方法や環境が合っていないことが多くあります。

 

そのため、さまざまな例を参考に境界知能にある子ども一人ひとりに合った対策を考えていくことが大事です。

学習の困難

境界知能にある子どもの学習への対策として考えられることを紹介します。

 

対策の例としては、

  • 一度に教えずに一つを理解してから次を教える
  • 教えた後に理解できているか確認する
  • 時間をかけて教える
  • 漢字にはフリガナを振る
  • 絵や図を使って教える
  • 身体を使うなど実際に体験できる教え方をする
  • 学校では集中しやすい席に変えてもらう

などがあります。

 

境界知能にある子どもは学習の理解に時間がかかることがあるため、一度に複数のことを教えられても混乱してしまう場合があります。そこで、教えるときは一度に教えるのではなく、一つずつ丁寧に伝え、理解しているか確認しながら進めていくといいでしょう。

 

また、前に教えたことを忘れることもあるため、ゆっくりと時間をかけて何度も教えることも大切です。

 

漢字など文字が苦手で教科書や問題文の理解が難しいときは、漢字にフリガナを振ることや、絵や図などを使い視覚的にわかりやすくする対応方法もあります。

 

視覚的な情報の理解が難しいときは、身体を使った勉強方法が合う子どももいますので、周囲がその子が理解しやすい方法を探していくといいでしょう。

 

ほかにも、テスト用紙にフリガナを振ってもらう、文字を拡大してもらう、一番前の席にしてもらうなど、学校と学びやすくなる配慮や支援を担任の先生などと相談することも対策の一つです。

対人関係やコミュニケーションの困難

境界知能にある子どもで対人関係やコミュニケーションに難しさを感じている場合の対策も紹介します。

 

対策の例として、

  • 伝える内容を絞る
  • ゆっくりひとつずつ伝える
  • 絵などわかりやすく伝える
  • 理解したか確認する
  • 何度も伝える
  • 実演して見せる
  • SST(ソーシャルスキルトレーニング)などで練習する

などがあります。

 

境界知能にある子どもの中には、集団生活の中でのルールの理解が難しく、結果として対人関係に困難を感じることがあります。

 

そういったときは学習と同様に、一つずつ子どもが理解しやすい形で教えることや、理解度を確認すること、繰り返し伝えることが大事です。

 

ただ、境界知能にある子どもによっては言葉や絵よりも、大人が実演することで理解が深まることもありますので、子どもが理解しやすい方法を探っていくといいでしょう。

 

ほかにもSST(ソーシャルスキルトレーニング)などの対人関係のプログラムを受けることも方法としてあります。

身の回りのことや社会生活の困難への対策

境界知能にある子どもで、日常生活や社会生活で困難がある場合の対策の例もいくつかあります。

 

例として、

  • 手順を一つひとつ分解して伝える
  • 伝える際は絵などを使い視覚的にわかりやすくする
  • 時間をかけて繰り返し教える
  • 身体を使って練習する
  • 物を片付ける位置や手順を明確にする
  • 金銭管理はツールを使う

といった対策があります。

 

境界知能にある子どもが身の回りのことが苦手な場合、手順が複雑で理解が難しい場合があります。

そのため、ほかの対策と同様、一つずつ伝えることや、絵などわかりやすい形で教える方法があります。

 

また、一度に覚えることが苦手な子どもには、時間をかけて繰り返し教えていくことも大事です。その際は着替えや片付けなどを、身体を使って練習していく方が理解が進む子どももいます。

 

本人の努力だけではなく、境界知能にある子どもが理解しやすいように、教科書やおもちゃなどを片付けるための箱などを用意し「どこに」「何を」片付けるのかを文字や色で明確にすることでわかりやすくする方法があります。

 

計算が苦手な子どもは暗算ではなくスマホの計算機機能を使う練習をする、電車の乗り換えもアプリを使って事前に調べる練習をするなど、ツールの使用方法を学んでいくことで困難を解消することも可能です。

境界知能にある子どもの支援とは?

境界知能にある子どもの支援とは?

境界知能にある子どもは、周囲が困難さに気づくのが遅くなることや診断がつかないために支援に結び付きづらいといわれています。

ここでは、診断がなくても活用できる可能性のある支援を紹介します。

合理的配慮

境界知能にある方は診断がつかず、支援がうけられなくて悩まれる方もいらっしゃるかと思います。

 

合理的配慮は、障害のある方もない方も学習や仕事などへ平等に参加できるように、学校などで必要な配慮をする制度のことで、地域によっては診断がなくても受けられる場合がありますが、医療機関の意見書などがあった方が受けやすくなることがあります。

 

合理的配慮を受けるためには、境界知能にあるということだけではなく、実際の困難さをうまく説明する必要があるので、希望する方は担任や学年主任の先生、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどに相談してみるといいでしょう。

特別支援教育

特別支援教育とは障害のある子どもに対して、一人ひとりの特性などを踏まえて適切な教育を提供することです。特別支援教室、特別支援学校、通級指導教室などいくつか種類があります。

 

障害の診断がなくても、IQの数値や日常生活、学校生活での困りごとなどを踏まえたうえで、境界知能にある子どもも利用ができる場合があります。

 

検討される方は自治体の教育委員会・教育センター、学校の担任や学年主任、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどに相談してみるといいでしょう。

児童発達支援

児童発達支援とは、障害のある子どもが日常生活や学校生活などで適応するための支援を提供する制度のことです。

 

支援としては子どもに合った学習の提供や、SSTなどの対人関係のプログラムなどさまざまなことをおこなっています。

 

児童発達支援の利用条件は自治体によって異なりますが、基本的に診断書ではなく、自治体への指定された医療機関で交付される通所受給者証によって申請することができます。希望する方は、自治体の障害福祉窓口や児童発達支援センターへ相談してみましょう。

境界知能にある子どもの相談先

境界知能にある子どもの相談先

ここでは境界知能にある子どもについて相談ができる場所を紹介します。ただ、場所によっては対応が難しいこともありますので、事前に確認してから相談に行くようにしましょう。

かかりつけの小児科

かかりつけの小児科で境界知能など子どもの発達で気になることを相談することが可能です。

 

ほかの医療機関などを紹介してくれることがありますので、知能検査などを希望する場合も一度相談してみるといいでしょう。

保健センター

保健センターは、地域における身体面や精神面の健康について相談ができる場所です。

 

境界知能についてなど子どもの発達の相談をおこなうことができ、アドバイスやほかの支援機関の紹介などを受けることができます。

児童相談所

児童相談所は、本人や家族などから18歳未満の子どもに関する相談を受け付けている場所です。

 

医師や児童福祉司、児童心理司といった専門的なスタッフに境界知能など子どもの発達に関しての相談をおこなうことができ、状況に合わせてほかの支援機関などの紹介を受けることができます。

発達障害者支援センター

発達障害支援センターは、発達障害のある子どもや大人の日常生活や社会生活の相談を受け付けている支援機関です。

 

発達障害のある方への機関ですが、境界知能についての相談ができる場合もあり、アドバイスやほかの機関の紹介などをおこなっています。

自治体ごとの窓口

今紹介した支援機関のほかにも、自治体に境界知能を含めて子どもの発達や教育について相談できる窓口があります。

 

ホームページなどに掲載されているため、お住まいの自治体で相談できる窓口がないか確認してみるといいでしょう。

児童発達支援センター

児童発達支援センターとは、障害のある子どもを対象に日常生活や集団活動への支援を提供しているほか、発達についての相談対応もしている支援機関です。

 

境界知能についても相談することができ、アドバイスやほかの支援機関の紹介を受けることができます。

 

LITALICOジュニアでは、発達の気になる子どもを対象に、勉強や学校生活などの支援を提供しています。

 

子どもの困りごとや性格、興味関心などを踏まえて、一人ひとりに合った方法でプログラムをおこなっています。

 

診断や障害者手帳がなくても利用できることがありますので、「子どもが境界知能かもしれない」「勉強に遅れが出ている」「学校生活になじめない」という方は、一度ご相談ください。

境界知能にある子どもの特徴まとめ

境界知能にある子どもの特徴まとめ

境界知能とは一般的に知的障害(知的発達症)と診断されないが、日常生活や社会生活でさまざまな困りごとが生じていることを指して使われる言葉です。

 

境界知能にある子どもでは、学校での勉強に遅れが出ることや、対人関係がうまくいかないことが多いという特徴があり、そのことから非行や精神疾患などの二次障害につながることもあります。

 

境界知能にある子どもといっても一人ひとり異なる困りごとがあり、対応方法もまた異なります。診断がなくても相談ができる場所はありますので、ご家庭で抱え込まずにまずは一度相談してみるといいでしょう。

  • 監修者

    鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員

    井上 雅彦

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。