お役立ちコラム
やめてと言ってもやめない子どもにどう向き合う?
2025.09.02公開

「こら、やめてって言ってるでしょ!」「何回言わせるの!」何度言っても行動をやめてくれない、そんな悩みを抱える保護者の方は少なくありません。
たとえば、
・お友だちにちょっかいを出し続ける
・きょうだいにからかいをやめない
・危ないことをやめてと言っても聞かない
・「お片付けしてから遊んで」と毎日言っているのに、片付けずに次の遊びを始める
・「テレビは○時まで」と約束しているのに、時間になってもやめようとしない
「わざとやっているの?」「聞こえていないの?」と思ってしまうかもしれません。
ですが、実は多くの場合、子ども自身もどうしたらいいのかわからずに困っていることがあります。
特に発達障害のあるお子さんの場合は、見通しの立てづらさ、気持ちのコントロールのしにくさ、言葉での表現の難しさ、衝動性の高さ(考えるより先に体が動いてしまう)など、特性に起因する「やめづらさ」が行動に現れることもあります。
ただし、こうした「やめられない」行動は、発達障害の有無にかかわらず、どの子にも起こりうるものです。
まずは、子どもが「なぜやめられないのか?」という背景を一緒に見ていきましょう。


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「やめてと言ってもやめない」行動に隠れているさまざまな背景

子どもが「やめて」と言われてもやめられないとき、単なる反抗やわがままとは限りません。
実はその背景には、次のような発達段階や特性に基づく“困りごと”がいくつも重なっていることがあります。
気持ちの伝え方がわからない
「こうしたい」「嫌だ」と思っていても、それを適切な言葉にできないと、“やめない”という行動で訴えるしかなくなってしまいます。
対応のヒント:
「○○するから、〜〜して」など簡単な交渉の型を教える
「あと1回だけでもいい?」など見通しを伝える言い方を練習する
「やめて」の指示が理解できない
「走らないで!」と言われても、「何を」やめて「代わりに何をすればいいのか」がわからないことがあります。否定形の指示は子どもには伝わりにくいものです。
対応のヒント:
「走らないで」ではなく「歩こう」「ここで止まろう」と具体的に伝える
「○○しないで」ではなく「○○しよう」と肯定的な表現に変える
感情が高ぶって自分を止められない
怒りや不安、興奮が強すぎて、自分でも止まらなくなってしまうケースです。これは発達段階として自然なことでもあります。
対応のヒント:
「いま怒ってるね」と感情を代弁する
落ち着くためのクールダウンの方法(深呼吸、一人の空間など)を一緒に探す
行動の「形」を知らない/環境がうまくいかない
行動そのものが悪いわけではなく、「そのやり方(トポグラフィ)」がうまくないこともあります。
また、正しい方法をとってもうまくいかない経験があると、違う手段をとってしまうことも。
たとえば、「貸して」と言っても相手の子が「ダメ!」と拒否したり、未就学の年齢では相手も貸してくれないことが多く、結果的に「取ってしまう」方が早いと学習してしまうケースがあります。
対応のヒント:
物を奪うのではなく「貸してと言ってみようね」と行動を言い換える
適切な行動がうまくいかない場合もあると認め、成功体験を積む機会を作る
大人が仲介して「貸して」が成功する場面を作る
大人の「やめて」が本当に必要な制止か再考が必要な場合も
子どもがしている行動が「本当にやめるべきことなのか」、大人側が一度立ち止まって考えることも大切です。
たとえば、好奇心から泥を触っている子に「汚れるからダメ!」と言ったり、頑張って自分で食べようとしている子が食べこぼした時に「もっときれいに食べなさい!」と叱ったりするケースがあります。しかし、子ども本人は探究心や自立心を発揮しているだけかもしれません。このような場合、過剰に「やめなさい」と言い続けることがかえって反発を生むこともあります。
対応のヒント:
子どもの行動を「やめさせる」ではなく「切り替える」視点で見る
「してもいい場所や時間」を設けるなど折り合いのつけ方を共有する
「汚れてもいい服で泥遊びタイム」「自分で食べる練習の時間」など環境を整える
「やめない」ことで反応をもらえる
静かに待っていたときは反応されないのに、問題行動をしたときにだけ注目された。そんな経験の繰り返しから、「やめないことで注目される」と学んでしまうこともあります。
たとえば、親にかまってほしくて普通に話しかけても「忙しいから後で」と言われてあまりかまってもらえないのに、汚い言葉を連呼したり騒いだりすると、慌てて反応してくれるという経験を重ねると、子どもは「問題行動をすれば注目してもらえる」と学習してしまいます。
対応のヒント:
適切な行動をとったときにこそすかさず注目・共感する
不適切な行動に対しては必要以上に反応しないことも大切
対応の考え方:「やめさせる」ではなく「伝える方法を育てる」

具体的な言い換えで行動を置き換える
「やめなさい」ではなく、「こうしようね」と行動の見通しや代替行動をセットで提示すると、子どもは次にどうすればいいかが分かります。
例:
「たたくのはやめて」→「痛いから手はおひざに置こうね」
「やめてって言われたでしょ」→「次は“いれて”って声をかけてみよう」
交渉の枠組みを教える
「ダメ」と言うだけでなく、「あと1回だけね」「お片付けしたらもう一回だけね」など、ルールの中で希望を少し取り入れる関わりが、子どもに安心感と納得感を与えます。
例:
「今すぐはできないけど、ご飯のあとならいいよ」
「あと○回やったら終わりにしよう。自分で数えてみてね」
自分の気持ちを言葉にする力を育てる
行動の背景にある感情に子どもが気づき、言葉で伝えられるようにすることで、“やめない”行動が減っていきます。
例:
「イヤだったんだね」「もっと遊びたかったのかな?」と大人が言語化する
気持ちカードや表情イラストを使って、言葉にしやすい環境をつくる
落ち着ける手段を一緒に探しておく
感情が高ぶっているときは、まずクールダウンが必要です。
日頃から「落ち着くための習慣」を作っておくと、いざというとき役立ちます。
例:
「怒ったときはここで深呼吸しよう」「クッションを抱っこしよう」
「気持ちがぐるぐるしてきたら、ひとりでお絵描きしてもいいよ」
適切な行動をとれたときにこそ注目する
不適切な行動にばかり反応すると、それが強化されてしまうことがあります。
「言えたね」「我慢できたね」と適切な行動を認めることが大切です。
例:
「いれてって言えてかっこよかったよ」
「順番待てたね!お友だちも嬉しいと思うよ」
子どもの“やりたい”を尊重した選択肢を用意する
「ダメ!」ではなく、「じゃあこういうのはどう?」と選択肢を提示することで、子ども自身が選んで切り替える経験ができます。
例:
「今はジャンプはダメだけど、ダンスの動きならいいよ」
「大声はお外でしようね。お家ではささやき声チャレンジしよう!」
必ずしも“すぐやめる”ことだけが目標ではない
すぐにピタッとやめられなくても、気持ちを整理する時間が必要な子もいます。
「いったん気持ちを落ち着けてからやめる」ができれば、それも立派な成長です。
例:
「すぐにやめられないみたいだね。あと1分だけ数えてからおしまいにしようか」
「もうすぐ終わりってわかってるから大丈夫だよ。一緒にカウントしよう」
「やめない」=すべてダメ、ではない視点をもつ
「やめない」行動の中には、子どもの工夫や意思表示が含まれている場合もあります。
何でも制止するのではなく、“この行動はなぜしているのか?”を観察する姿勢が大切です。
例:
相手のおもちゃにそっと手を伸ばしたり触ろうとする:「遊びたくて近づいてるだけかも?」→関わり方を教えてみる
机をトントン叩き続ける:「リズム感覚や感覚刺激を求めているのかも?」→「リズム遊びしたいんだね。ドラムにしてみようか」など、許可された楽器やスティックに切り替える
これらの対応は、すべての子に一律に当てはまるわけではありません。
でも、「どうしてこの子はやめないんだろう?」と一歩立ち止まり、気持ち・環境・伝え方の選択肢を広げてあげることが、子ども自身の「行動を変える力」を育てることにつながります。
指導事例:「やめない」で気持ちを伝えていた小学1年生Aくんのケース

小学1年生の男の子Aくんは「やめて」と言われてもやめないことが多く、家庭でも学校でも困り感がありました。
Aくんは「思い通りにいかない」「イヤだ」「もっとやりたい」といった気持ちを適切な言葉で表現する方法を知らず、結果として「やめない」という行動でしか自分の気持ちを伝えることができない状況でした。
支援の取り組み
Aくんへの支援では、まず気持ちを言葉で表現する力を育てることから始めました。
交渉スキルの習得
「○○するから〜〜して」「あと少しだけやってもいい?」など、相手と話し合う言い方を絵カードや紙芝居を使って楽しく練習しました。
見通しを持てる言葉かけ
「あと1回だけやったら交代しようね」「時計の針がここまできたらおしまい」など、終わりの見通しを具体的に示す表現を一緒に考えました。
選択の経験を積む
いきなり自分で判断するのは難しいため、まずは大人が「AとBどちらがいい?」と代替案を提示し、その中から選ぶ経験を重ねました。
相手の気持ちへの理解
紙芝居や動画を活用して、「お友達がこんな顔をしているときはどんな気持ちかな?」と視覚的に学習し、相手の立場を考える力を育てました。
成長の様子
初めは「やめない」ことでしか気持ちを出せなかったAくんですが、だんだんと「こうしたい」「もう少しやりたい」「○○が嫌だった」と、自分の気持ちを言葉で伝えられるようになりました。
家庭では、お母さんが「やめて!」「何度言ったらわかるの!」と繰り返し注意する場面が減り、代わりに「Aくんはこうしたかったのね」「じゃあどうしようか?」といった対話が増えました。学校でも、お友達とのトラブルが減り、「貸して」「あと1回やらせて」など、適切な方法で自分の気持ちを伝えられるようになりました。
まとめ

「やめて」と言ってもやめない子どもの行動に直面したとき、私たち大人はつい感情的になってしまいがちです。しかし、その行動の背景には、子どもなりの理由や困りごとが隠れていることがほとんどです。
大切なのは「なぜやめられないのか?」を理解することです。気持ちをうまく伝えられない、感情をコントロールできない、適切な方法を知らないなど、子どもが抱える困りごとに寄り添い、一緒に解決策を見つけていきましょう。
家庭だけで対応するのが難しいと感じたときは、ぜひ LITALICOジュニア にご相談ください。 専門スタッフが一人ひとりの特性と状況に合わせたサポート方法をご提案し、ご家庭や学校での取り組みを一緒にサポートいたします。
【参考】
- Elizabeth J Houck , Joseph D Dracobly , Sara A Baak「A Practitioner’s Guide for Selecting Functional Communication Responses」
- 寺坂明子,稲田尚子,下田芳幸「小学生を対象としたアンガーマネジメント・プログラムの有効性: 学級での実践に向けた小集団での予備的検討」
- 野口美幸,飯島啓太,野呂文行「攻撃的行動を示す特定不能の 広汎性発達障害の児童に対する機能的アセスメントを用いた介入」
- 飯島有哉,山田達人,桂川泰典「教師の主観的賞賛行動が生徒の学校生活享受感情および教師自身の ワーク・エンゲイジメントに与える効果プロセス」
- 前田久美子,佐々木銀河,野呂文行「知的障害を伴う自閉スペクトラム症児に対する選択肢のある要求行動の形成とQOLの評価」