子どもが「手をひらひらと動かす」「同じ場所をうろうろする」「くるくる回る」「奇声をあげ続ける」といった行動を繰り返していて気になる、という方もいるのではないしょうか?
こういった、外から見ると意図がわからない、繰り返しおこなわれる行動のことを「常同行動」といいます。
常同行動自体は小さい子どもに珍しいものではありませんが、日常に影響が出るようですと治療や対策が必要になってきます。
この記事では常同行動の説明や、具体例、原因や対処法について紹介します。
常同行動とは?
常同行動とは、「外から見ると意図がわからない、繰り返しおこなわれる行動」のことです。
常同行動は3歳までに現れるとされていて、「体をリズミカルに前後にゆする」「自分の体を手で叩いたりつねったりする」「同じ場所をうろうろする」などさまざまなパターンがあります。
研究によると
「時と場所を選ばずに反復してあらわれ、目的や意味を明確にすることが困難な行動」
と定義づけられています。実際に家庭や外出先、学校など場面を選ばずに子どもが常同行動をしているという方もいるのではないでしょうか。
常同行動には先に上げたもの以外にも、以下のような行動があります
- 同一地点をぐるぐる回る
- 目的なしに飛び跳ねる
- 頭を壁などにぶつける
- 手を打ち鳴らす
- 手をひらひらさせる
- 自分の髪を引っ張る
- 物を振り回す
- 回転物に見入る
- 歯をカチカチ鳴らす
- 不自然な姿勢を維持する
- 自分(または他者)の匂いをかぐ
- 意味のない言葉を繰り返す など
こういった行動は全部が現れるわけではなく、子どもによって現れ方は異なっています。また、年齢によっても現れる常同行動が変わることもあるようです。
常同運動症/常同運動障害
常同行動が日常や学校などに大きく影響が出ている場合は、常同運動症/常同運動障害と診断される場合があります。
世界的な診断基準である『DSM-5』(アメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル)によると、以下のような診断基準が記されています。
- 体を揺らす、頭を打ち付ける、自分にかみつくなど、反復し、駆り立てられるように見える、外見上無目的な行動がある。
- その行動が発達早期(生後三年以内)に現れている
- その行動によって、社会的、学業的、その他の活動に支障が出ていて、自傷になっていることもある
- その行動が、薬や他の疾患などによってうまく説明されない
このように常同運動症/常同運動障害は、体を揺らすなどの常同行動があるだけでなく、現れた年齢や影響などを含めて判断されます。
常同行動はいつから見られる?
子どもの常同行動は3歳までに現れはじめると言われています。軽く体をゆするだけといった単純な常同行動は乳幼児期から現れることがあります。
その後成長に伴って複雑な常同行動が現れるようになり、年齢とともに減少していく傾向があります。
常同行動が現れる傾向
常同行動は誰にでも現れる可能性がありますが、子どもでは発達障害の中でも特にASD(自閉スペクトラム症)、知的障害(知的発達症)、視覚障害などがある場合に見られることが多いと言われています。
発達障害や知的障害のある子どもの場合は、学齢期以降も常同行動が現れることや、自傷を伴う常同行動が現れるといった傾向があります。
とはいえ、常同行動がある子どもに障害があると判断できるわけではありません。
常同行動のほかにも気になることがある場合は、かかりつけ医や後ほど紹介する支援機関などに相談をするようにしましょう。
常同行動をする理由や原因
ここでは子どもが常同行動をする理由や考えられる原因について紹介します。
常同行動は他者からすると意図が見えづらいですが、本人にとっては意味のある行動です。
その理由として以下のようなことが考えられます。
- 何か要求を伝えたい
- 不快な刺激を避けたい
- 刺激を求めている
何か要求を伝えたい
常同行動は子どもが何かしらの要求を伝えたいときに現れる場合があります。
例えば部屋の暖房が効きすぎていて暑い、お腹が空いている、眠いのに眠れないといった不満や要求を常同行動によって表現しているといった具合です。また、奇声をあげつづけて注目を得ているという場合もあります。
不快な刺激を避けたい
不快な刺激があったときに、常同行動によってそれを遠ざけて安心感を得ようとしている事も考えられます。
他の人が気にならないような光や音などの刺激も、子どもによっては大きなストレスとなる場合があります。そういったときに、常同行動によって刺激を遠ざけたり遮断することで安心感を得ようとしている場合があります。
刺激を求めている
逆に刺激を感じづらい子どもが、刺激を求めて常同行動を起こしている場合もあります。
話し声や物音など、ある程度の刺激がある空間でも、子どもによっては刺激を感じない場合もあります。そういったときに自分の体をつねって痛みを感じたり、物を叩いて音を出したりといった常同行動によって刺激を得ようとすることがあります。
このような理由が背景にあることを知っておくことで、対処法を考える際の参考にすることもできます。
子どもの常同行動が気になる場合の対処法は?
常同行動があるからといってすべてを対処する必要はありませんが、学習の妨げや自傷につながっているなど困りごとが生じている場合に、家庭でおこなうことができる対処法を紹介します。
常同行動が気になる場合の対処法として、以下の3つがあります。
- 行動の置き換え
- 行動の指示
- ルールを決める・環境を整える
それぞれを詳しく見ていきましょう。
行動の置き換え
行動の置き換えとは、困りごとにつながる常同行動を別の行動に変更する方法です。
例えば、自分の体をつねってしまう常同行動がある場合には、「プチプチ」を渡してそれを潰すという行動に置き換える、といった方法があります。
常同行動がコミュニケーションになっている場合は、かわりになるコミュニケーション行動を教えたり、刺激を求めている場合は適切な余暇活動を教えることが大切です。
行動の指示
行動の指示は、何をしたらいいのかわからなくて常同行動が現れている場合に、適切な指示を出してすべきことを明確にする方法です。
例えば、学習机の前の椅子に座っても体を前後に揺らし続ける常同行動が現れている場合は、「ほら、鉛筆持って教科書を開こうか」といった指示することで、やることを明確にしていきます。
ルールを決める・環境を整える
行動の条件付けとは、常同行動をしていい場所を指定することで、常同行動を制御できるようにする方法です。
例えば教室で大声を出してしまう子どもには、「大きな声を出すのは家の中だけ」といったルールを決めておくといった方法があります。環境設定としては、とびはねる場合にトランポリンを用意するなどがあります。
子どもの発達に関する相談先
常同行動について紹介してきましたが、家庭での対応が難しかったり、他にも発達で気になる事がある場合に相談できる支援機関を紹介します。
市町村保健センター
市町村保健センターは地域の保健や衛生を担っている行政機関で、市町村を中心に設置されています。
常同行動などの子どもに関する悩みに対する相談受付をおこなっているほか、必要があれば医療機関・支援機関の紹介もしてくれます。窓口のほか、電話や家庭訪問での相談も受けつけている場合もあります。
市区町村のホームページなどに保健センターの一覧が掲載されていることがあるので、ご活用ください。
子ども家庭支援センター
子ども家庭支援センターとは、18歳未満の子どもに関する相談を受けつけている場所のことです。
常同行動による困りごとなどの子育てに関する相談に対して、ほかの関係機関とも連携しながら対応にあたってくれます。
子ども家庭支援センターは、自治体によって名称が異なる場合があります。ここでは東京都のページを載せておきますので、参考にしてください。
児童相談所
児童相談所は18歳未満の子どもに関する相談を、本人、家族、学校などさまざまな人から受けつけている相談機関です。
児童福祉司・児童心理司・医師・保健師などのスタッフがいて、常同行動など子どもに関することの相談の受けつけや助言などの支援をおこなっています。
児童発達支援センター
児童発達支援センターは障害のある子どもに対して、日常生活・集団生活への適応のためのプログラムの提供などをおこなっている支援機関です。
就学前の子どもは「児童発達支援」が、小学校入学から18歳までの子どもは「放課後等デイサービス」が対象となります。
どちらも利用するには自治体に申請をして「通所受給者証」の交付を受ける必要があります。
LITALICOジュニアについて
LITALICOジュニアでは発達の気になる子どもに対して、児童発達支援事業所と放課後等デイサービスを各地で展開しています。
LITALICOジュニアでは子ども一人ひとりの特性や性格、興味関心にあわせたプログラムを提供しており、常同行動のある子どもの指導実績もあります。
通所受給者証がなくても通える学習塾形式の教室もありますので、「子どもの常同行動による困り事がある」といったお悩みがある方は是非一度ご相談ください。
常同行動についてまとめ
常同行動とは、「体をリズミカルに前後にゆする」「自分の体を手で叩いたりつねったりする」「同じ場所をうろうろする」などの行動を繰り返すことです。
常同行動があること自体は珍しいことではなく、成長に従ってなくなっていくことが多いとされています。
しかし、何歳になっても常同行動が現れていたり、学業の妨げや自傷につながっているなどといった場合は、対処法を考えていくことが大事になります。また、常同行動は子どもにとっても意味のある行動なので、叱ってやめさせるのではなく、対処法を考えることが大切です。
子どもの常同行動に悩んでいて家庭だけで対応するのが難しい場合は、支援機関に相談することも検討してみるといいでしょう。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。