
保育園の先生などから「一斉指示が通らない」「集団行動での指示理解が苦手」といった共有を受けたことがある保護者もいると思います。一斉指示が通らないと、今後学校生活を送る中でも困ったことが出てくるのではと不安を感じているかもしれません。
一斉指示が通らない背景にはさまざまなことが考えられ、要因によって対応方法も変わってきます。
今回は一斉指示が通らないときに考えられる要因や対応方法、実際の指導事例を紹介します。
一斉指示が通らない要因

一斉指示とは保育園などの集団活動の場で、子どもたちへ一度に同じ指示を伝えることです。一斉指示に対して、ほかの子どもと同じように行動できないと「一斉指示が通らない」と言われることがあります。
一斉指示が通らないといっても、その要因は子どもによってまちまちです。また、要因によって適した対策も変わってきます。まずは考えられる要因について紹介します。
自分に指示されたと気づかない
一斉指示が通らない要因として、自分に指示されたと気づかないことが挙げられます。
保育園の教室など集団活動の場では、ほかの子どもの動作や声、教室にあるおもちゃや掲示物、窓の外の景色やカーテンの動きなど、さまざまな刺激があります。
集中することが難しかったり、気が逸れやすい子どもの場合は、その刺激が気になってしまい、先生が指示を出していても「自分に対して言っている」と気づいていない可能性があります。
指示が長いと分からなくなる
指示が長いと理解が難しくなることも要因の一つとしてあります。子どもによっては単語の意味は理解していても、複数の単語が入っている長い指示となると理解が難しい場合があります。
例えば、「プリントを先生に渡した人から、本を読んでいいよ」と指示があった際に、どの順番で行動したらいいか分からずに何もできなくなることがあります。また、指示の一部だけを捉える場合もあり、最後の「本を読んでいい」だけを捉えてプリントを渡さずに本を読み始めたりと、結果として一斉指示が通っていないように見えることがあります。
指示語やあいまいな言葉の理解が苦手
指示語やあいまいな表現の理解が苦手なことも要因として考えられます。子どもによっては「あれ」「それ」などの指示語や、「もう少ししたら」「必要なものを持って」などのあいまいな表現の理解が苦手な場合があります。
そのため、「プリントはあそこに置いて」「もう少し隣の人と離れましょう」などの指示があったさいに、聞こえていても具体的にどう行動すればいいか分からなくなっている可能性があります。
一斉指示が通らない場合の対応方法

子どもが「一斉指示が通らない」と悩んでいるときにできる対応方法をいくつか紹介します。保育園の先生などと話し合いながら、今いる環境で実現できることや子どもに合った方法を探っていくようにしましょう。
指示する前に注目を促す
指示が自分に向けられたものだと気づいていない場合には、指示する前に注目を促す合図をする方法があります。合図には、その子どもにアイコンタクトを送る、「これから大事な話をするよ」などの声掛けをする、などの種類があります。
視覚的に分かりやすくする
口頭でたくさんの指示があると理解が難しくても、イラストなど視覚的な指示だと理解がしやすい子どももいます。
先生の口頭での一斉指示とは別に、これからおこなうことの手順をホワイトボードや黒板などに描いたり、プリントを配ったりすることで指示通りに行動できるようになる場合があります。
指示を具体的に一つずつ伝える
一つの指示に複数の行動が含まれていて何をしたらいいのか分からない場合は、指示を一つずつ区切って伝える方法があります。例えば、「プリントを先生に渡したら、本を読んでいいよ」という指示を、まず「プリントを先生に渡して」と伝え、実行できたら次に「本を読んでいい」と伝えていきます。
その際にはあいまいな表現は避けて具体的に伝えることが大切です。また、合図やイラストなどほかの対応方法と組み合わせながら、子どもに合った方法を探っていくといいでしょう。
環境を整える
子どもが一斉指示を理解しやすいように、周りの環境を整えていくことも対応方法の一つです。周囲の刺激が気になる子どもの場合は、カーテンを閉めたり衝立などでおもちゃなど気が散る要因となるものが見えないように区切ったりする方法があります。また、ホワイトボードなどに手順を記載しておくことも環境を整えることといえるでしょう。
通っている保育園などによってもできること、できないことはあると思います。先生と情報を共有しながら可能な範囲で実施してもらうといいでしょう。
一斉指示が通らない子どもへの指導例

ここでは、児童発達支援を提供しているLITALICOジュニアでおこなわれた、一斉指示に関する実際の指導例を紹介します。
T君の事例
年中のT君は家庭では保護者の指示を聞いてその通りに行動できていましたが、通っている保育園でクラス全体への指示に対してはうまく行動することができませんでした。そのことに悩んで保護者がLITALICOジュニアに相談し、利用することに。
LITALICOジュニアでは、まずはT君が一斉指示が苦手な要因の把握から始めて、注意が逸れやすいことや長い指示の理解が苦手なことが分かりました。そこで、最初は「指導員の声を聞いてから動作をまねる」対策をおこなうことに。
T君は時計が好きなので、楽しく取り組めるように「時計の工作」を教材として指導を進めていくことにしました。指導員が「時計のまねっこをするよ」と合図を送って、自分に指示が向けられていることを認識する練習からおこない、次第に「のりを塗るよ」「ハサミを持つよ」などの指導員の声を聞きながら動作をまねる練習を進めていきました。
指導を重ねていくにしたがって指導員の動作を減らしていき、次第に指示を聞いただけで行動できるようになっていきました。そこまでは指導員と一対一でしたが、集団活動にも参加するようになり、一斉指示への対応もどんどん向上していきました。その後は、保護者を通じて保育園とも取り組み内容を共有するなど連携した対応をおこなっていきました。
LITALICOジュニアではさまざまな教材を使って指導をおこなっています。T君の場合は本人が好きな時計をモチーフにした工作を用いたことで、本人の「もっとやりたい」という気持ちを引き出していきました。また、一つの課題をクリアしたら「時計トークン」を渡すなど、本人が意欲的に取り組めるように工夫しながら指導をおこなっていきました。
「トークンエコノミーシステム」とは
適切な行動に対して、シールや丸印のチェックなど(これを「トークン」という)をあげて、決まった数がたまったらお子さまにとってうれしいごほうびと交換する仕組みのことです。
いつでもどこでも、望ましい行動があったときに、提示できたり、目標と目標までの見通しを持たせることができるというメリットがあります。
Tくんのように、お子さまの好きなものでトークンをつくるとより意欲的に取り組むことも期待できます。
LITALICOジュニアの指導
LITALICOジュニアでは、保護者からのヒアリング、本人の様子や好きなことを踏まえて、オーダーメイドの指導をおこなっています。子どもに合わせて指導員がオリジナルの教材を作成する場合もあり、子どもの意欲を引き出しながら指導を実施しています。
LITALICOジュニアでは、通所受給者証をお持ちの方が利用できる「児童発達支援」「放課後等デイサービス」と、どなたでも利用できる「幼児教室」「学習塾」があります。気になった方はぜひご相談ください。
まとめ

保育園の先生などから「一斉指示が通らない」と言われて、今後の学校生活にも不安を感じている保護者もいると思います。
一斉指示が通らない要因としてはさまざまなことが考えられ、要因によって適切な対応方法も異なります。
LITALICOジュニアでは家庭や園での様子、子どもの特性、興味関心などを考慮して指導をおこなっています。「一斉指示が通らない」「集団活動が苦手」と悩んでいる方はぜひ一度お問い合わせください。