発達支援のある子どもの塾とは?料金や学習形式の違い、塾選びのポイントを紹介【専門家監修】

発達障害のある子どもに「授業中にじっとしていられない」「特定の勉強に遅れがある」などの困りごとがあり、学習塾の利用を検討している保護者の方もいると思います。

 

発達障害のある子どもは、その特性と環境のミスマッチにより学習面で難しさを感じている場合も少なくありません。

 

学習塾も授業の形式などがさまざまで、発達障害のある子どもとのミスマッチを防ぎ、よりよく学習を進めていくためにも子どもに合っている塾を選ぶことが大切です。

 

この記事では、発達障害のある子どもの学習面の困りごとや、学習塾の授業形式、通うのにかかる料金など、発達障害のある子どもの塾選びのポイントを紹介します。

発達障害のある子どもの塾とは?

発達障害は生まれつき脳の機能に偏りがあり、その影響で日常生活や学校生活などで困りごとが生じている障害のことです。

 

学校生活では、対人関係などのほかに学習面でも「授業に集中できない」「漢字の読み書きが苦手」といった困りごとが生じることがあります。

 

そのため、学習塾を利用して勉強を進めようと考えている保護者も多いのではないでしょうか。

 

しかし、学習塾にもそれぞれ特色があるため、ポイントを押さえて発達障害のある子どもに合った学習塾を探していくことが大事です。

発達障害のある子どもの学習での困りごと

発達障害はASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、SLD(限局性学習症)など種別ごとにわかれていて、それぞれ特性が異なります。その結果学習面で表れる困りごとにも違いが出てきます。

 

学習塾を選ぶ際には、発達障害のある子どもがどのようなことで困っているのかを把握して、それを解消できそうな場所を選んでいくことが大事です。

 

まずは、発達障害の種別ごとに学習面での困りごと例を紹介します。ただ、診断名が同じで、子ども一人ひとりで性格や周りの環境も異なりますので、参考としてとらえていただければと思います。

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの学習での困りごと例

ASD(自閉スペクトラム症)は、それまで自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群と呼ばれていたものが統合された診断名です。

 

主な特性として、コミュニケーションや対人関係の困難さや興味関心の偏りがあります。また、視覚過敏、聴覚過敏などの感覚過敏(または感覚鈍麻)がある子どももいます。

 

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは学習面で、

  • あいまいな表現の理解が苦手なため、問題文や先生の説明の意味がつかみづらい
  • 登場人物の気持ちを想像するような問題が苦手
  • 感覚過敏で授業に集中しづらい

などの困りごとがあります。

ADHD(注意欠如多動症)のある子どもの学習での困りごと例

ADHD(注意欠如多動症)は、不注意、多動性、衝動性という3つの特性がある発達障害のひとつです。

不注意では「注意を持続することが難しい」、多動性では「じっとしているのが苦手」、衝動性では「思いついたことをすぐ言動に移す」などの特徴があります。

 

ADHD(注意欠如多動症)のある子どもは学習面で、

  • 授業に集中しづらい
  • 宿題などをよく忘れてしまう
  • 段取りをつけて学習を進めるのが苦手

などの困りごとがあります。

SLD(限局性学習症)のある子どもの学習での困りごと例

SLD(限局性学習症)は、ほかの学習に比べて読み、書き、計算など特定の学習に困難が生じることがあります。

 

具体的には、

  • ディスレクシア(読字障害):文字を読むのが極端に遅い、読み間違いが多い
  • ディスグラフィア(書字障害):似た文字を書き間違える、漢字を書くことが苦手
  • ディスカリキュリア(算数障害):複雑な計算や、推論することが難しい

などの困りごとがあります。

 

また診断されるほどの症状ではないけれども、上記のような特徴と困りのある子どももいて、そういった子どもたちを発達障害のグレーゾーンと呼ぶこともあります。

発達障害のある子どもが塾に通う目的

学習塾に通う目的を決めておくことも、発達障害のある子どもの塾を選ぶ際に重要となります。受験対策なのか、子どもに合った学習方法を探したいのかでは、学習塾を選ぶ基準も異なってきます。

 

発達障害のある子どもが塾を利用する主な目的として、

  • 授業の遅れを取り戻したい
  • 子どもに合った学習方法を探したい
  • 子どもに学習習慣を身につけてほしい
  • 中学・高校受験の対策がしたい

などがあります。

 

まずは、どういった目的で学習塾を利用したいのかを考えておくと、塾を選ぶ際にも助けとなります。

発達障害のある子どもが通う塾の学習形式の違い

発達障害のある子どもが通う塾の学習形式の違い

学習塾にはさまざまな授業形式があり、塾ごとに異なっています。発達障害のある子どもに適した環境を選ぶためにも、どのような違いがあるか把握しておくといいでしょう。

 

ここでは以下の学習形式を紹介します。

  • 集団授業
  • 個別授業
  • 家庭教師
  • 発達支援(療育)
  • オンライン

集団授業

集団授業は、先生ひとりに対して生徒が数人~数十人いる、学校の授業と近い形式です。

 

集団授業では先生が前に立ち、ホワイトボードなどに説明を書き、生徒は手元のテキストやノートに書き込んでいく進め方が多いです。

 

学校の授業と同じような形式で周囲に一緒に授業を受ける生徒がいるという特徴があります。学校の授業形式に合っている子どもにおすすめといえるでしょう。

個別授業

個別授業とは、先生と生徒が一対一で授業をおこなう形式です。先生と生徒の距離が近く、生徒の様子を見ながら授業を進めていくことが多いです。

 

個別授業の中にも、個室でおこなう形式や大きな部屋をパーテーションで区切って指導する形式に分かれています。

 

集団授業と比べると外部からの刺激が少ないことや、生徒一人ひとりに合わせた教え方ができるメリットがあります。集団での授業だと集中できない、理解が難しいといった子どもに合っているといえるでしょう。

家庭教師

家庭教師は、先生が生徒の自宅に訪問して教える形式です。こちらも先生と生徒の距離が近く、様子を見ながら授業を進めていきます。

 

慣れている自室で授業を受けられることや、一人ひとりのペースに合わせた教え方ができるメリットがあります。

 

外出が苦手な子どもや、環境に慣れるのに時間がかかる子どもにおすすめといえる形式です。

発達支援(療育)

授業の形式とはまた違いますが、発達障害など障害のある子どもへの支援として、発達支援があります。療育という言葉が使われることもあります。

 

発達支援では、子どもの特性や困りごとに合わせてコミュニケーションや社会性のプログラムの提供をおこなっており、その中で学習面の支援も提供しています。

 

子どもの困りごとに合わせた学習方法を提供しているので、発達障害の特性の影響で学習に遅れが出ている子どもにおすすめといえるでしょう。

オンライン

これまで紹介した授業形式はいずれも先生と生徒が対面でおこなう形式でしたが、それぞれオンラインで授業を提供している場合もあります。

 

オンラインの授業ではビデオ通話システムなどを使って、リアルタイムで授業をおこなうほか、録画してある授業を視聴して課題を提出するといった形もあります。

 

塾まで出かける必要がないことや、慣れている自室で授業を受けることができること、録画の場合はビデオを止めて確認できるなど自分のペースで進めることができるメリットがあります。

 

外出が苦手な子どもや、慣れている環境で授業を受けたい子どもにおすすめといえるでしょう。

発達障害のある子どもの塾の料金は?

塾に通うには、授業料以外にも入塾金や季節講習費などの料金がかかる場合があります。

長く続けるためには料金も大事になってくるので、ここでは料金がかかる項目を紹介します。

塾に通う際に料金がかかる項目

塾に通う際に料金がかかる可能性がある項目を紹介します。名称などは塾により多少異なります。

 

塾を利用する際には、主に以下の料金がかかります。

  • 入塾金:入塾するときに一度だけかかる料金
  • 授業料:毎月定期的にかかる料金
  • 教材費:テキストなどの教材を購入する場合の料金季節講習費:長期休みの特別講習などを受ける際の料金
  • 模試代:受験対策で模試を受ける際の料金
  • その他:塾によっては運営費などの料金が別途かかることがあります

ただし、必ずすべての料金を支払うわけではなく、教材費は授業料に含まれている塾もあります。

 

そのほかにも、塾の利用に付随してかかる料金があります。

  • 交通費:塾へ通うための交通費です
  • 飲食費:長時間塾で過ごす場合は飲み物代などがかかることがあります

授業料以外にも料金がかかる可能性のある項目を押さえておき、長く通い続けることができそうか検討するといいでしょう。

発達障害のある子どもに合った塾選びのポイント

発達障害のある子どもに合った塾選びのポイント

これまでお伝えしてきた項目を踏まえて、発達障害のある子どもの塾選びのポイントを紹介します。

子どもに合った環境か

発達障害のある子どもは自分に合った環境で学習を進めることが大事です。子どもの学習面の困りごとと、塾の授業形式や雰囲気などの環境が合っているかを確認することがポイントの一つです。

 

周りに人がいると授業に集中しづらい子どもは、個別授業や家庭教師など一対一の形式の方が向いている傾向になるなど、子どもの特徴に合わせて選んでいくといいでしょう。

通い続けることができそうか

学習塾は数か月から数年通うことになるため、通いやすい条件がそろっていることも大事なポイントです。

 

長い目で見たときに、毎月かかる授業料などの金額やその他の費用が負担にならないか確認するといいでしょう。

 

また、塾の場所も大切なポイントです。通うのに時間がかかると食事や寝る時間にも影響が出ることや、交通機関を使うことが子どもの負担になることも考えられます。

 

ほかにも、保護者が塾まで送迎する場合も、その時間を確保することができそうかも事前に考慮しておくといいでしょう。

子どもだけでなく、保護者も無理せずに通えることが長く続けるためには大切なポイントの一つです。

子どものことを相談しやすい塾か

子どものことを相談しやすい環境かということも、押さえておきたいポイントです。

塾の制度として相談窓口がある場合もありますし、先生に発達障害のある子どもの知識や指導経験があると、困りごとがあった際にも安心して通い続けることにつながります。

 

塾によっては「発達障害のある子ども向け」といった表記をしている場所もありますので、参考にするといいでしょう。

体験授業を受けてみる

体験授業を受けてみることも塾選びのポイントの一つです。体験することで、子どもに合っている環境かを確かめることができます。また、保護者も塾までの経路がわかったり、教室や先生の雰囲気などを知ることもできるほか、あらかじめ子どもの困りごとについて相談することも可能です。

 

ここまで、発達障害のある子どもの学習塾選びのポイントを紹介してきました。

 

一方で、学習面ばかりを気にし過ぎてしまうと、子どもにとって思わぬ負担となってしまい、場合によっては余計に学習に対するモチベーションが下がったり、体調を崩してしまうこともあります。学習ももちろん大事ですが、子どもにも保護者にも無理のない範囲で塾を選んでいくことも大事です。

発達障害のある子どもが通う学習塾の指導事例

発達障害のある子どもが通う学習塾の指導事例

LITALICOジュニアは発達障害のある子どもや発達の気になる子どもの学習塾を東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪など各地で運営しています。

 

LITALICOジュニアでは子ども一人ひとりの特性や性格、困りごとに合わせた計画を立て、学習面を含めて最適な学びを提供しています。

 

ここでは、LITALICOジュニアで学習面の指導例を2つ紹介します。

発達障害のある小学生の指導事例

まずは発達障害のある小学生の指導事例から紹介します。

 

【困りごと】

小学3年生になったが、漢字の読み書きが苦手で学習に遅れが出ている。

 

【指導事例】

楽しみながら学べる方法の中から、本人に合っている方法を見つけていきます。

 

漢字の読み書きだとバラバラになった漢字のパーツをパズル形式で組み合わせていく「漢字パズル」や、一部を隠した漢字をあてる「漢字ゲーム」など、本人が勉強しやすい方法で学んでいきます。

 

また、小さい字が見づらい場合は「教科書より大きいプリントを使う」、どこで文章を区切ったらいいかわからない場合は「文章の息継ぎ箇所を書き込む」など、特性に応じて読み書きしやすい工夫をすることで学習への苦手意識を減らしていきました。

 

読み書きが苦手な子どもには、子どもに合った方法を探し負担感を減らすことで、学習の効果を高めていきます。

発達障害のある中学生の指導事例

次に、発達障害のある中学生の指導事例を紹介します。

 

【困りごと】

中学3年生で、英語のつづりを音に変換するのが不得意で、英語に苦手意識を持っている。

 

【指導事例】

英語に関してネガティブな発言が多く見られたため、得意な面から英話への自信をつけることを目標に指導をしていきました。

 

文字よりも耳で聞いて覚えるのが得意だったため、英語のスペルを書く前に、発音をすることで音で英単語を記憶するという方法を取りました。

 

学校や家でも同じように発音から覚える形で学習を進めていきました。そのうちに聞いて覚える学習方法の成果が出てきたことで、英語に対するネガティブな発言が減っていき、自発的に英単語を学習するようにもなりました。

 

このように、苦手に注目するのではなく得意なことを生かした指導もおこなっています。

 

LITALICOジュニアでは、発達障害のある子どもの学習をはじめとして日常生活や学校生活での困りごとに対して、一人ひとりに合った支援を提供しています。

 

「勉強に遅れが出ている」「授業になかなか集中できない」などでお困りの方は、ぜひ一度お問い合わせください。

発達支援のある子どもの塾まとめ

発達支援のある子どもの塾まとめ

発達障害のある子どもの塾選びで悩んでいる方も多いと思います。

周りに人がいると集中できなかったり、特定の学習だけ遅れがあるなど、発達障害のある子どもの学習での困りごとはさまざまです。

 

発達障害のある子どもに合った塾を見つけるためにも、塾に通う目的や子どもの困りごとに合った、授業形式や料金、塾の場所などポイントを押さえて探していくことが大事です。

  • 監修者

    鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員

    井上 雅彦

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。