発達障害のグレーゾーンの特徴や困りごと|受けられる支援や相談先も紹介します

発達障害の傾向が見られるものの、医療機関では診断されなかった場合、医学的な名称ではありませんが、世間では「発達障害のグレーゾーン」と表現されることがあります。

 

発達障害のグレーゾーンがある子どもは、園や学校などで「人との関わりが苦手」「授業に集中できない」「勉強に遅れがある」などの困りごとが生じる可能性もあるため、早めに周囲が気付いてサポートすることが大切です。

 

今回は、発達障害のグレーゾーンの特徴や、世代別に感じやすい困りごとについて解説します。

 

また、発達障害のグレーゾーンのある子どもの支援機関もご紹介していきます。

発達障害のグレーゾーンとは?

発達障害の「グレーゾーン」とは、医学的な診断名ではなく「発達障害の傾向があるものの、医療機関の診断では基準に満たない状態」を差す通称(正式名称ではないが、世間一般で通用している言葉のこと)です。

発達障害の種類

発達障害は、主に3種類に分かれています。では発達障害とはどのような障害なのかを以下で紹介します。

  • ASD(自閉スペクトラム症)→対人関係を築くことが苦手・限定された興味や行動があり、こだわりが強い傾向がある
  • ADHD(注意欠如多動症)→不注意・多動性・衝動性の症状が見られる
  • SLD(限局性学習症)→知的発達には遅れがないが、読む・書く・計算するなどの学習に困難がある

つまり、発達障害のグレーゾーンとは、このような「ASD(自閉スペクトラム症)」や「ADHD(注意欠如多動症)」「SLD(限局性学習症)」の特性が見られるものの、診断を受けるまでには至らなかった場合に、使われる言葉と言えるでしょう。

 

診断を受けていないとはいえ、発達障害の特性が見られることには変わりないため、グレーゾーンであっても、日常生活や学校などで発達障害の特性による困りごとや困難が生じることがあります。

 

また、グレーゾーンであることに気付かず大人になった場合、仕事や生活の中で困りつつも、本人がどうしてよいかわからない状態になる可能性もゼロではありません。

 

グレーゾーンの場合、発達上の問題や困りごとが気づかれにくかったり、気づいていながら相談や支援がなされていなかったという事例もありますので、「診断基準には満たなかったけれど、子どもの特性が気になる」と感じたら、早めに相談機関を利用したり、サポートを受けたりすることが大切です。

 

利用できる機関や子どもへの接し方については、後の項目でご紹介しています。

発達障害のグレーゾーンの特徴は?

発達障害のグレーゾーンの特徴や困りごとは?

ここでは発達障害のグレーゾーンの特徴について紹介していきます。

 

まず、発達障害の「グレーゾーン」は、診断基準に満たない状態を表す言葉であるため、「グレーゾーン特有の特徴や症状」があるということではありません。

 

グレーゾーンの子どもの場合、発達障害の特性の一部が見られるため、ここでは「ASD(自閉スペクトラム症)」「ADHD(注意欠如多動症)」「SLD(限局性学習症)」の傾向がある子どもの特徴や、起こるかもしれない困りごとについて、世代別に見ていきましょう。

発達障害のグレーゾーンの2〜5歳に見られる特徴

まずは2~5歳の、保育園や幼稚園に通う子どもに見られる発達障害の特徴を種別ごとにいくつかご紹介します。

 

ADHD(注意欠如多動症)傾向がある場合

2~5歳ごろの発達障害のグレーゾーンのある子どもの中で、ADHDの傾向がある場合は以下のような特徴が現われることがあります。

  • 落ち着きがない
  • 言ったことをすぐに忘れてしまう
  • 同世代の友達と上手に遊べない(衝動的に行動してしまうなど)
  • 気になることがあると、食事を中断してでも動き回る
  • かんしゃくが強い など

 

ASD(自閉スペクトラム症)傾向がある場合

今度はASD(自閉スペクトラム症)の傾向のある2~5歳ごろの子どもの特徴を紹介します。

  • 決まった順番で活動することにこだわる
  • 物を置く位置にこだわる
  • 周りの人たちに無関心なことが多い
  • 言葉の遅れが見られる
  • 同世代の友達と上手に関われない(相手の意図や感情が読めないなど) など

 

SLD(限局性学習症)傾向がある場合

2~5歳の子どもの場合、SLD(限局性学習症)の傾向があっても就学前の段階では学習の機会が少ないため、特徴が現われにくいといわれています。

小学校に入学して学習が本格化してから特徴が現われて、周囲や本人も気づくということがあります。

発達障害のグレーゾーンの小学生に見られる特徴

小学校に入学してからは、勉強が本格的に始まったり、学校の習慣や新しい人間関係など環境が変わることもあり、これから紹介するような特徴や困りごとが現れることがあります。

 

ADHD(注意欠如多動症)の場合

発達障害のグレーゾーンのある小学生で、ADHD(注意欠如多動症)の傾向がある方に見られがちな特徴を紹介します。

  • 忘れ物が多い
  • よく物を失くす
  • 学校のルールが守れない
  • 授業中にずっと座っていることが難しい
  • その場に合わない質問をする
  • クラスメイトと喧嘩になりやすい
  • 集団行動になじめず学校が嫌になる など

 

ASD(自閉スペクトラム症)傾向がある場合

次はASDの傾向がある場合を見ていきましょう。

  • 急な予定の変更があるとパニックになる
  • 一人で一方的に話し続ける
  • 授業に集中するのが難しい
  • 特定の給食が食べれないことがある
  • クラスメイトと喧嘩になりやすい
  • 曖昧な言葉や微妙なニュアンスが伝わらない
  • 集団行動になじめず学校が嫌になる など

 

SLD(限局性学習症)傾向がある場合

小学校に入学すると学習が本格的にスタートするため、以下のSLD(限局性学習症)の特徴が現われて来ることがあります。

  • ディスレクシア(読字障害)→読むことが困難
  • ディスグラフィア(書字障害)→書くことが困難
  • ディスカリキュリア(算数障害)→計算が困難

 

例えば、「スムーズに音読できない」「「ぬ」と「め」など似た文字を間違えることが多い」「-2+5といった式の理解が難しい」などが挙げられます。

 

国語や算数などの授業や宿題でこういった特徴を見た保護者や先生が「SLD(限局性学習症))の傾向があるかもしれない」と、気付くこともあります。

発達障害のグレーゾーンの中学生・高校生に見られる特徴

中学生や高校生になると、テストに向けた計画的な勉強が求められたり、文化祭などの学校行事があったりと、小学生のときよりも活動の幅が広がり、集団行動の場も増えていきます。

 

それにより、小学生のときには見られなかった特徴に気付く場合もあります。

 

ADHD(注意欠如多動症)の場合

発達障害のグレーゾーンのある中学生や高校生で、ADHDの傾向がある方に見られる特徴として以下のようなものがあります。

  • グループで行動することが苦痛に感じる
  • 友達と会話をすることに苦手意識がある
  • 思ったことをそのまま口にしてしまう
  • 定期テストなど計画的に物事を進めるのが苦手
  • 忘れ物が多い
  • 整理整頓が苦手
  • 興味のあることだけにしか集中できない
  • 同時進行で複数の作業ができない など

 

ASD(自閉スペクトラム症)傾向がある場合

ASDの傾向がある場合は以下のような特徴が現われることがあります。

  • 興味のあることだけにしか集中できない
  • 場の空気を読むことが苦手
  • 同時進行で複数の作業ができない
  • 定期テストなど計画的に物事を進めるのが苦手
  • 感覚過敏で制服など特定の服が着れない
  • 学校行事に参加することが苦手 など

 

SLD(限局性学習症)傾向がある場合

SLD(限局性学習症)の傾向がある場合は、小学生より学習の難易度の上昇や範囲が広がることで、それまでついていけていた授業に苦手意識を持つということがあります。

 

例えば、小学生の頃より習う漢字も複雑になったり、英語の読みや表記が求められたり、数学も複雑な計算式が必要になり、その中でSLDの特徴が現われるといったことが考えられます。

 

ここまで、発達障害のグレーゾーンの子どもの特徴を紹介しました。

あくまで傾向なので、年齢や障害種別によって決まりがあるわけではなく、性格や周りの環境によっても現われる特徴は異なります。

発達障害のグレーゾーンの子どもと上手に接するには?

発達障害のグレーゾーンの子どもとの接し方や対応方法は、子どもの特性に合わせることが大切です。

 

この項目では年代別に現れる特性や困りごと、接し方の一例をご紹介します。

2~5歳の例

  • こだわりが強い

保育園や幼稚園に通う子どもの場合、こだわりの面が強く見られることがあります。

 

しかし、本人がまだ上手く言葉で説明できないため、大人から見るとわがままだと感じてしまうこともあるでしょう。

無理やり行動を止めさせようとすると、逆効果になってしまう場合もあります。

 

そのようなときの対応としては、「食事の後に続きができるよ」などと、促したい行動の後に、再度同じことができるという見通しをしっかりと伝えてあげましょう。その他、タイマーを使用して時間を区切るなど、気持ちが切り替えられるような工夫を試みる方法もあります。

  • 常に歩き回る

どこでも常に動き回るなど、落ち着きのなさが目立つ場合もあります。

このような場合、危険な行動やしてほしくない行動に関して、より伝え方を工夫しましょう。

 

例えば、「横断歩道を渡るときのルール」をイラストつきのわかりやすいルールブックにまとめて、外出時にも都度見せられるよう持ち歩くことなどが挙げられます。

小学生の場合の例

  • 人とのトラブルが多い

例え言い方が攻撃的に感じられたとしても、本人は曖昧な表現が苦手なだけかもしれません。

注意するときは、なるべく「ダメ」という否定的な言葉を使うのではなく「このように言えばいいよ」「こんな風に対応するといいよ」と、肯定的な表現で具体的に伝えることが大切です。

 

また、子どもが言葉の意味をそのまま受け取ってしまわないように、遠回しな言い方や皮肉っぽい伝え方はしないように気をつけましょう。

  • マンガやゲームなどに集中しすぎる

子どもが熱中しすぎる対象物(マンガやゲームなど)がなるべく視界に入らないようにするなど、環境を調整しましょう。

 

一度始めたら止まらなくなってしまう場合、スケジュール表を作ったり、タイマーを使ったりするなど、気持ちが切り替えられるように促します。

 

また、お互いに納得できるよう、ルール作りは子どもと一緒におこなうようにしましょう。

中学生・高校生の場合の例

  • 学校に行きたがらない

家族が話を聞いてあげることで、気持ちが落ち着くことがあります。

 

静かな部屋で一対一で話を聞いたり、言葉を紙に書き出して整理しながら聞いたりするなど、「あなたの味方だよ」という姿勢で接しましょう。

 

また、登校したくない要因が学校にある場合は、先生と情報交換をするなど、学校と連携をとりながら対応することも重要です。

  • 提出物や予定を忘れてしまう

提出物を忘れないためには「やることリスト」を作る、スケジュールを忘れないためには「リマインダー(通知機能)」を使うなどの工夫をしましょう。

 

スマートフォンを持っている場合は、上記の機能が搭載されたアプリを活用する方法もあります。

発達障害のグレーゾーンの場合は障害者手帳は取得できる?

発達障害のグレーゾーンの場合は障害者手帳は取得できる?

発達障害は、障害者手帳のうち「精神障害者保健福祉手帳」の対象となりますが、グレーゾーンで診断のない方の場合は、対象となりません。

 

そのため、福祉的な支援を受ける条件が「障害者手帳を持っていること」である場合は、対象とならないのが現状です。

 

ですが、障害者手帳を取得するよりも、生活の中での困りごとを把握して、支援につなげていくことが大切です。

 

支援機関のなかには、発達障害のグレーゾーンの方が利用できるところもあるため、まずは「生活の中でどのような状況で困っているのか」を把握して、必要なサポートを受けることのできる機関に相談してみましょう。

発達障害のグレーゾーンの子どもが受けられる支援や相談先は?

発達障害のグレーゾーンの子どもが受けられる支援や相談先は?

発達障害のグレーゾーンの子どもが受けられる支援と相談先をご紹介します。

 

また、周囲が知っておきたい関わり方や対応方法についても合わせて解説していきます。

発達障害のグレーゾーンの子どもを支援する機関・相談先

まずは、発達障害のグレーゾーンの子どもが受けられる支援や相談先を見ていきましょう。

児童発達支援センター

児童発達支援センターは、障害のある就学前の子どもが、日常生活における基本的動作や、自活に必要な知識や技能を身につけることを目指す施設です。

 

対象者は、身体や精神に障害のある児童や、発達障害、知的障害(知的発達症)のある児童ですが、障害者手帳の有無は問われません。

 

児童相談所や保健センター、医師により療育が必要と認められた場合、利用できます。

 

ただし、利用するためには「通所受給者証」が必要です。

 

「通所受給者証」は、お住まいの自治体に申請し、審査に通った場合に交付される証明書です。取得していると児童発達支援センター以外の福祉サービスも受けられます。

放課後等デイサービス

放課後等デイサービスは、障害のある就学している児童のためのサービスです。

 

学校が終わった後や夏休みなどの長期休暇を利用して、生活能力を向上するためのプログラムを継続して提供し、自立をサポートしています。

 

具体的な内容は下記の通りです。

  • 自立した日常生活を過ごすためのプログラム
  • 地域交流の機会提供
  • 余暇の提供
  • 創作的活動・作業活動 など

児童発達支援センターと同じく、「通所受給者証」を取得している方が利用できます。

児童相談所

児童相談所は、児童福祉法に基づき設置されている行政機関の一つです。児童心理士や児童福祉司などの専門のスタッフが在籍しています。

 

18歳未満の子どもに関するあらゆる相談に無料で対応し、共に問題解決を目指していく専門の相談機関です。

 

また、他機関の支援が必要と判断した場合には、専門機関を紹介してもらえるため、発達障害ではないと診断された場合であっても、「落ち着きがない」や「言葉の遅れが気になる」など、気になることがあるときは、一度相談してみましょう。

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターは、発達障害のある方を総合的にサポートするための機関です。

 

発達障害のある本人とその家族がスムーズに地域生活を送れるように、保健・医療・教育・福祉などの関係機関と連携し、相談にのったり、助言をしたりなど、さまざまな支援をおこなっています。

 

発達障害のグレーゾーンの場合も、相談することができます。

LITALICOジュニアのご利用もご検討ください

発達の気になる子どもの学びの場として、幼児教室や学習支援教室や、福祉サービスとして利用できる児童発達支援・放課後等デイサービスがあります。

 

例えば、LITALICOジュニアでは、算数や国語などの教科だけでなく、「コミュニケーションスキル」や「自分をコントロールする方法」「時間の管理方法」など、さまざまな特性を持つ子ども一人ひとりに合った学びを提供しています。

 

また、保護者の方へのサポートも充実しており、自宅での子どもとの関わり方を学んだり、スタッフに相談したりできる環境が整っています。

 

自宅の近くに教室がない場合や、自宅学習を希望する場合は、パソコンやタブレットで授業が受けられるオンラインコースも利用できます。

 

体験授業も開催しているため、興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

発達障害のグレーゾーンのまとめ

発達障害のグレーゾーンのまとめ

グレーゾーンは、発達障害の基準には満たない場合を差す言葉ではありますが、子ども本人は、何かしらの困りごとを抱えている可能性が考えられます。

 

そのため、診断の有無にかかわらず、子どもが困っている様子が見られるときは、子どもの特性を把握しつつ、適切なサポートをおこなうことを意識しましょう。

 

グレーゾーンの場合、障害者手帳の対象にはならないものの、自治体が交付している「通所受給者証」があれば、児童発達支援事業による療育や放課後等デイサービスが利用できます。

 

  • 監修者

    鳥取大学 大学院 医学系研究科

    井上 雅彦

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。