
子どもが文章問題が苦手で「本や新聞をもっと読ませるべき?」「発達障害があるのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
小学校1年生の頃は特に気にならなかったけれど、3年生、4年生と学年が上がるにつれ、文章も長くなり、問題の難易度が高くなるため、文章問題に苦手意識を持つようになる子どももいます。
今回は子どもの「特性」という観点を含めて、文章問題を苦手に感じる要因や対処法、LITALICOジュニアでの指導事例を紹介します。
文章問題が苦手な原因

一言で「文章問題が苦手」といっても、その背景は子どもにより異なります。ここでは考えられる要因を5つ紹介しますが、以下の要因がすべてではなく、複数あてはまる場合や、見極めることが難しい場合もあるため、まずは子どもの様子を観察し、必要に応じて専門機関での相談を検討してみてください。
目で文字を読んで理解することが苦手
子どもによって「目から入ってくる情報」よりも「耳から入ってくる情報」のほうが処理をしやすい(聴覚優位)など、情報の処理の仕方が異なります。こういった特性は「認知特性」と呼ばれ、誰にでもあるとされています。
そのため、子どもが聴覚優位の場合、視覚的な情報を処理し続けることが求められる文章問題を苦手に感じやすい可能性があります。
漢字が苦手、語彙が少ない
読めない漢字や、知らない言葉が多いと、そもそも文章を読むことや、理解することが難しい場合があります。
状況をイメージしたり、指示を理解することが難しい
文章問題では、「文字を読んで、その状況を理解したうえで、設問にある指示を理解して回答する」という一連のスキルを求められます。
そのため、文字自体は読めていても、その文章がどんな状況を意味するのかをイメージすることが難しい場合や、イメージはできても、問題が何を求めているのかが理解できない場合など、子どもが苦手に感じるポイントがいくつか考えられます。
前者の場合、「Aさんが〜をした後、Bさんと会い、〜に行きました」のように、複数の登場人物が出てきたり、場所や時間軸が混ざると混乱するというケースなどがあげられます。
後者の場合、例えば国語の文章問題などで、「抜き出して答える」「あてはめて答える」「正しいものを選ぶ」「間違っているものを選ぶ」などの指示の違いに対応できないケースなどがあげられます。
ワーキングメモリーが低い
ワーキングメモリとは、話をしたり聞いたり、計算したり、作業をしたりするときに、必要な情報を一時的に保存して処理するための脳の機能で、発達障害のある子どもの中には、ワーキングメモリに起因する苦手さを抱えているケースも多いとされています。
文章問題を読むにあたり、ただ目の前の文字を目で追うだけでなく、それまで読んできた内容を頭の中にストックしておきながら読み進める必要があります。
そのため、ワーキングメモリーが低い子どもの場合、例えば、文章を読んでいる途中で前半の内容を忘れてしまうことで、問題を解くことが難しい可能性があります。
LD・SLD(限局性学習症)の可能性がある
LD・SLD(限局性学習症)は発達障害の1つで、知的な発達に遅れはないにもかかわらず、読みや書き、計算などある特定の課題の習得だけが、ほかに比べてうまくいかない状態を指します。
その中で、ディスレクシアは文字の読み書きのみに難しさを感じる状態を指すLD・SLD(限局性学習症)の一つです。ディスレクシアのある子どもの困りごとは、読むことに困難がある「読字障害」、書くことに困難がある「書字障害」があり、ほとんどの場合併存しています。
例えば読字障害の場合、文字は読めるものの、文章を読むのが極端に遅かったり、読み間違えることがあります。
文章問題が苦手な子どもへの対応方法

ここでは文章問題が苦手な子どもへのサポート方法をいくつか紹介しますが、これがすべてではなく、子どもの状況や特性に合わせて柔軟に対応することが大切です。
目で文字を読んで理解することが苦手な子どもの場合
文章問題を耳で聞いて解く
目で文字を読んで理解することが苦手な子どもの場合、文章問題を保護者や先生が読む、音源があれば活用する、という方法がとれます。
下敷きや定規を使って読む場所を限定する
入試やテストなど、どうしても目で文字を読むことが求められる場面では、使う道具を工夫することで、子どもの読みづらさを軽減できる可能性があります。
例えば、定規を置いたり線を引きながら読むことで、今読んでいる文章がどこなのか見失わないようにできたり、下敷きで読むべき箇所以外を隠すことで、読むべき文章に集中できる可能性があります。
漢字が苦手、語彙が少ない子どもの場合
漢字を楽しみながら使える機会を増やす
漢字が苦手な子どもには、ただ問題集などで詰め込むというスタイルだけでなく、本人が積極的に漢字を使ったり、読みたいと思える機会を増やすことが大切です。
習った漢字を使ってお友だちに手紙を書いてみる、ゲームや漫画に出てくる漢字を調べる、など日常生活で自然に漢字に触れる機会をつくることもできます。
一方で、「苦手」の度合いもさまざまで、後述するLD・SLD(限局性学習症)を起因としている場合もあるため、見極めが難しい場合は、専門機関に相談することをおすすめします。
文字情報だけでなく、会話や体験活動を通じて、言葉に触れる機会を増やす
語彙が少ない子どもの場合、もちろん新聞や本を読んで語彙力を増やすという方法もとれます。しかし、本人がそれらを好まない場合に、無理に押し付けることで、かえって拒否感や嫌悪感が強まるリスクもあります。
そのため、文字情報に苦手意識がある子どもには、言葉自体に触れる機会を増やすという視点も大切です。
例えば、日常の会話で保護者が新しい語彙を積極的に使ったり、同じ言葉を別の言葉で言い換えて伝えるなどの方法が考えられます。
ほかにもお祭り、地域活動、イベントなどに参加することで、普段とは違う年齢層の人や、異なるコミュニティの子どもたちと接することで、さまざまな言葉に触れる機会にもなります。
状況をイメージしたり、指示を理解することが難しい子どもの場合
例えば国語の文章問題では、段落ごとに区切って出来事をイラストで表現したり、人形やぬいぐるみなどを使って一場面を再現したり、「Aが〜した」など短文でまとめながら読むなどの方法があります。算数の問題であれば、たし算では実際におはじきを使って数える、分数では実際に紙を切ってみるなど、具体物を使うなども効果的です。
指示の理解を促すには、出題されやすい指示のパターンや規則性に慣れることからスタートしてみるという方法もあります。例えば、算数の文章問題では「増えました」「減りました」などがそれぞれたし算・ひき算の式に紐づく、など簡単なパターンからあてはめて、徐々にバリエーションを増やせるとよいでしょう。
ワーキングメモリーが低い子どもの場合
ワーキングメモリーの機能自体を向上させる方法として、現時点で実証されているものはありません。そのため、文章問題での正答率を上げることだけをゴールにするのではなく、その子どもにあったゴールを設定することが大切です。
例えば、算数の文章問題は解けなくても、「日常においてお金の計算に困らない」という目的が達成されれば、本人が生きていくうえで困りごとを減らすことはできます。
国語の文章問題で筆者の気持ちを選ぶことは難しくても、日常生活で人の気持ちを理解したり推測することができるのであれば、子どもは困らずに生きていける可能性があります。
LD・SLD(限局性学習症)の可能性がある子どもの場合
LD・SLD(限局性学習症)は、特定の分野でできないことを除けば発達の遅れは見られないため、「頑張ればできる」「努力が足りない」「勉強不足」と見過ごされることも多く、その結果、子どもの自信の低下、ひいては抑うつなど二次障害が起きる可能性もあります。
そのため、専門機関で本人の困りごとを軽減する方法を学んだり、周囲に特性を周知するなどが必要です。LITALICOジュニアでは、LD・SLD(限局性学習症)のお子さまの指導も実施しています。
文章問題が苦手な子どもへの指導事例

Aさん(小6)の事例
国語の文章題が苦手で、文章が長くなるにつれ、5W1Hや指示語(それ、これ、など)が何を示しているのか理解することが難しくなる傾向があったAさん。加えて、「間違える」ということに強い拒否感があったため、LITALICOジュニアに通い始めました。
まずは本人の苦手意識や拒否感を軽減するために、間違える可能性が低い、低学年向けの短い文章から練習をスタートしました。
「これ」や「それ」が出てきたら印をつけ、その指示語が示しているものがどこにあるのかを見つけ、見つかったら印や線をひく、という練習を繰り返しおこなうことで、規則性を理解することができ、コツがつかめるようになりました。
低学年向けの文章で自信がついてからは、高学年向けの短文で練習するなど、少しずつ全体の文章を長くして練習を重ねました。本人の気持ちに余裕があるときには、ゲーム形式にして、指導員と本人のどちらが先に指示語の指すものを見つけられるか競争するなど、楽しく取り組める工夫も取り入れました。
実際に使用したのは以下の教材で、短文の問題から、キーワードを囲んで前の文章を探す練習に役立ちました。
また、授業のスタイルも、最初は集団授業だったものを個別授業に転換したことで、自分のペースで落ち着いて学習に取り組むことができるようになりました。
最終的には、文章問題への意欲も高まり、学年相応の文章問題にも取り組めるようになりました。
まとめ

文章問題が苦手な要因は、目で文字を読んで理解することが苦手、漢字が苦手・語彙が少ない、状況をイメージしたり、指示を理解することが難しい、ワーキングメモリーが低い、LD・SLD(限局性学習症)の可能性があるなどが考えられます。
苦手の原因によって対応方法は異なるため、子どもの様子を観察し、必要に応じて専門機関に相談することをおすすめします。
また、「文章問題の正答率をあげること」だけにフォーカスするのではなく、文章問題で問われることの中で、どの程度の内容まで解けることが必要なのか、本人の希望や特性と照らし合わせて、適切なゴールを設定することも大切です。
どんな「苦手」に関してもあてはまることですが、「苦手」をすべて「得意」にする必要はなく、苦手を軽減する方法を考えたり、そもそも苦手が生まれる環境自体を変えるという視点もあります。
LITALICOジュニアでは困りごとは本人だけに起因するものではなく、本人と環境の相互作用によって生まれるものだと考えています。そのため、子どもに合わせたオーダーメイドの指導だけでなく、園や学校、周囲の人にも特性について伝え、過ごしやすい環境をつくる方法も一緒に考えています。
保護者も一緒に学べるペアレントトレーニングという機会もあるため、まずはお気軽にご相談ください。