
園や学校、お友だちとの関わりの中で、子どもが一方的に話してしまい、会話のキャッチボールが成り立っていないと不安に思う方や、暮らしの中でも、親や人の話を聞かないと感じる場面がある方も多くいます。
おしゃべりが好きなこと自体は悪いことではないですが、一方的に話し続けることで、保護者やお友だちなど、周囲の人が疲れてしまったり、年齢が上がるにつれて周囲とトラブルにつながるケースもあります。
今回は子どもが一方的に話してしまう場合の要因や対処法、LITALICOジュニアでの指導事例をご紹介します。

4つのパターン別「一方的に話してしまう」背景要因

一言で「一方的に話してしまう」といっても、その要因や背景によっていくつかのパターンに分けることができます。
今回は4つのパターンについてその特徴と背景要因について説明しますが、これらの行動があること自体が問題というわけではありません。
あくまで環境との相互作用の中で、その程度や強さによって困りごとにつながることがあります。
また、コミュニケーションに関係するスキルは、年齢と共に獲得するものでもあるため、発達段階によってはそもそも難しいというケースもあります。
具体的には、3歳後半〜4歳ごろには、自分の発話をコントロールできるようになり始めるといわれており、話題が逸れることがなく一貫性をもってしゃべることができるようになっていきます。
5〜6歳ごろには、話の流れや相手の意図、相手が何を知っているのか、いないのかなどを考慮して話すことなどが可能になるとされています。
これらを前提に、以下に紹介するような様子が長い期間続いたり、本人が困る場面が増えてきたなどがある場合には、専門機関に相談することをおすすめします。
話し出すと長く、止められないパターン
会話というよりも、話したい気持ちが強く、一度話し始めるとずっと話し続けてしまうということが起きているパターンです。
この背景には、自分の好きなことを話せる相手やタイミングが限られているという状況が考えられます。そのため、親や特定の友だちだけに、溜まっていた話題を発散することになり、結果的に一方的に話しているように見えることもあります。
また、聞いてもらうことよりも、「話すことが楽しい」という気持ちがより強い場合には、聞いてくれる相手に限らず、誰にでも一方的に話し続けてしまう、といったことも起きやすくなります。
うまく話せないパターン
話したいというよりも、自分の伝えたいことがまとまらない、うまく話せない、などで結果的に自分の会話のターンを終えられないというパターンもあります。
この背景には、「まとめて話す」「いどだな(いつどこだれなに)などで整理する」などのスキルを十分に学習できていないことが考えられます。
相手の話に割って入ってしまうパターン
本来は相手のターンを待ってから発言すべき場面でも、割り込んで発言してしまったり、別の二人の会話に横から口を出してしまうといったパターンもあります。
状況に応じて自分の行動を選択することを「行動のコントロール」といい、これが難しいことで、相手が話している途中に割り込んでしまうことや、「順番に従って話す」というルールを遂行することが難しいなどの要因も考えられます。
いずれのスキルも、発達と共に獲得するものであるため、年齢によっては難しいこともあります。
この他にも、1つ目のパターンと同じく、話したいことがたくさんあるのに、それを発散する場面が限られていると、結果的に割り込んで自分の話したいことを発散してしまっているという背景も考えられます。
話の内容が転々としてしまうパターン
ある話題からスタートした話が、どんどん別の話題に変わっていき、結果的に一方的に話してしまうパターンの子どもの背景には、「一貫性をもって話す」というコミュニケーションのスキルが獲得できていない、または興味関心が飛ぶ(キーワードからの連想ゲームのような話になってしまう)ことなどが考えられます。
必ずしも一方的に話しているというわけではありませんが、話題が転々とするために会話のキャッチボールができず、相手が振り回されてしまうことで「一方的」とみられてしまうこともあります。
いずれのスキルも、発達と共に獲得するものであるため、年齢によっては難しいこともあります。
子どもが一方的に話してしまう時の対処法

ここでは、子どもが一方的に話してしまう時の対処法を5つ紹介します。あくまで、会話する楽しさや自由な発言を過度に制限しないよう、本人の様子や保護者自身の感覚も大切に取り組みましょう。
規則的に話す機会を確保する
話したいことがあふれている、ということが背景になる場合には、「毎日寝る前に10分お話を聞く時間を作る」「お風呂はお話タイム」など、規則的に子どもが話せる時間を確保することで、この時間は思う存分お話ができるという安心感につながります。
子どもの話を可能な限り傾聴し続けるとなると、保護者にとっても負担になったり、実生活では難しいこともあるため、あくまで無理のない範囲で約束することがポイントです。
「〜ということ?」と確認
話をまとめる、分かりやすく話すことが難しい場合には、本人が一呼吸おくまで十分に聞いた後に、「〜ということ?」と確認することで、子ども自身も伝えたいことが整理されたり、伝わっていない部分に気付くことができます。
また、会話の最後に「〇〇」ということを話してくれたんだね、と相手の話を要約して返すなど、話し方の見本などの方法もあります。
可視化する
相手の話に割って入ってしまったり、話の内容が転々としてしまう場合には、話しているテーマや順番を可視化することが効果的です。
そもそも会話のテーマや順番は、話ながら覚えていないといけない部分が多く、子どもによっては難易度が高いこともあります。そのため、これらを可視化することで、スムーズに会話できる場合があります。
例えば、マイクのおもちゃを使って話す人をわかりやすくすることで、「マイクを渡したら相手の番
」「マイクを持っていないときには話せない」ということが目に見えてわかるので、順番で話す練習にもなります。
他にも、今話しているテーマを紙やホワイトボードに書いておき、話題が大きく逸れそうな時には、テーマの紙を指差すことで、軌道修正することができます。
可視化することで、言葉で指摘するよりもマイルドで、子どもが自分自身で修正しやすいなどのメリットがあります。
共通の話題を話せる仲間を見つける
共通の話題を話せる仲間を見つけることで、保護者や学校の友だちにとって「一方的」な話でも、コミュニティの中では別の捉え方になる可能性も考えられます。同じ園、学校、同年齢ということに縛られず、興味関心を共有できる相手を見つけることが大切です。
地域で仲間を見つけることが難しい場合には、オンラインを活用することもできます。例えば、ゲームが好きな子どもであれば、通信バトルをする仲間を見つけたり、「推し」がいる場合には、そのファンをSNSで見つけるなどが挙げられます。もちろんSNSの利用はリスクも伴うため、事前にルールを決めたり、子どもと相談しながらスタートしましょう。
専門機関を利用する
家族や園、学校だけでは対応が難しいケースも考えられます。自分たちだけで対処しようとするのではなく、専門機関につながることで、よりよい解決策が見つかることもあります。
一方的に話してしまうお子さまへの指導事例

中学1年生Aさんの事例
相手が話していることに対して、別のテーマで話し出してしまう傾向があるなど、コミュニケーションに困りごとがあったAさん。学校でのお友だち付き合いでも難しさが目立つようになったため、LITALICOジュニアに通いはじめました。
Aさんは本記事の事例のうち、「相手の話に割って入ってしまうタイプ」にあてはありますが、教室でのアセスメントの結果、「相手の表情を読み取る」「適切な相槌を打つ」「話題に沿った質問や返答をする」などの行動も苦手なことがわかりました。
他にも、本人の特性として視覚優位ということもわかったため、「可視化する」という方法を前提に、授業を設計しました。
具体的には、下記3つの練習を実施しました。
1)動画やイラストをみながら登場人物の表情の変化を観察し、ポジティブな反応だったか、ネガティブな反応だったかを答える
2)動画を使用し、同じ言葉をいろいろな声のトーンで提示して、その人の気持ちの変化を説明する
3)実際に指導員とロールプレイングを実施し、「先生はどう思う?」「~がいいね!僕もね、」と共感やテーマに沿った返答をする
実際に使ったのは下記の教材で、動画を見ながら、登場人物の気持ちをホワイトボードに書き出したり、コミック会話を使用しながら1コマ漫画を描いて自分と相手の気持ちを整理するなども実施した。
LITALICOジュニアでは、ただ単に必要な練習をするのではなく、本人の「好き」を活かした授業設計をポリシーとしています。そのため、Aさんの「漫画を描くことが好き」「お話しすることが大好き」という気持ちを活かして、イラストを書いて整理したり、Aさんの好きなアニメの豆知識をテーマに活用することもありました。
相手の表情をうまく読み取れず、本人は良かれと思って話続けてしまい「空気が読めない」と誤解されることが多かったAさん。LITALICOジュニアに通ったことで、相手の顔をみたり、テーマに沿った返答が出来るようになり、家族やお友だちとも楽しく会話のやりとりができるようになりました。
まとめ
子どもが一方的に話してしまう背景には、そのタイプによって様々な要因があります。まずは、子どもが何に困っているのか、何が苦手なのかを見極め、その要因に沿って対処することが大切です。
一方で、コミュニケーションに必要なスキルは多岐に渡り、加えて年齢によってはそもそも難しい場合などもあります。一方的に話してしまうことで実生活での困りごとが多い場合は、園や学校、保護者だけで抱え込まず、専門機関の利用も視野に入れることをおすすめします。
LITALICOジュニアでは、保護者からのヒアリング、本人の様子や好きなことを踏まえて、オーダーメイドの指導をおこなっています。子どもに合わせて指導員がオリジナルの教材を作成する場合もあり、子どもの意欲を引き出しながら指導を実施しています。「一方的に話してしまう」「会話のキャッチボールが成り立たない」「人の話を聞かない」と悩んでいる方はぜひ一度お問い合わせください。