
「絵本の読み聞かせ中に突然大きな声で感想を言ってしまう」「おもちゃ売り場で興奮して叫ぶように話してしまう」など、電車や公共の場所で大声を出してしまう子どもの「声の調整」が難しくて悩んでいる保護者も少なくないでしょう。
「うちの子、発達障害があるのでは?」「どうして声のボリュームを調整できないのだろう」と不安に思われる方もいるかもしれません。
声の調整が難しい背景にはさまざまな要因が考えられ、その要因によって対応方法も変わってきます。
今回は声の調整が難しい原因や対応方法、実際の指導事例を紹介します。

なぜ声の大きさをコントロールできないの?4つの要因

ここでは考えられる要因を4つ紹介しますが、以下の要因がすべてではなく、複数あてはまる場合や、見極めることが難しい場合もあるため、まずは子どもの様子を観察し、必要に応じて専門機関での相談を検討してみてください。
子どもの発達段階による要因
誰でも緊張したり、興奮したりすると、体のコントロールが難しくなります。
声も同じで、緊張すると声が小さくなったり震えたりすることがありますし、逆に興奮すると大きな声が出てしまいます。
これは、大人でも子どもでも起こる自然な反応です。
特に子どもは感情のコントロールがまだ発達途上のため、感情が声に直結しやすいのです。「うれしい!」という気持ちが大きな声になったり、「緊張する」という気持ちが小さな声になったりすることは自然なことです。
身体発達の観点からも、声を出す筋肉のコントロールは、他の運動機能と同様に経験を積みながら発達していきます。
幼稚園や保育園の先生から「声が大きい」と指摘されることは珍しくなく、これは子育ての問題ではなく、発達過程で見られる自然な姿の一つです。
緊張・興奮と感情コントロールの難しさ
興奮したり、嬉しかったりすると声が大きくなるのは自然なことですが、感情のコントロールが難しい子どもは、その度合いが特に顕著になることがあります。逆に、緊張や不安を感じると声が出にくくなる子どももいます。
特に発達特性のある子どもは、この振れ幅が大きかったり、身体のコントロールがうまくできなかったりすることがあります。
普段からずっと声が大きい、小さいなどの場合には、緊張興奮が常に高い状態であったり、身体のコントロールがうまくできない(過度に力が入る、脱力する)などが考えられます。
子どもは感情と行動が直結しやすく、嬉しい気持ちを抑えながら声だけを調整することは難しいものです。
特に衝動性が高い子どもは、感情が先に出てしまい、自分でもコントロールできずに「気づいたら大声になっていた」ということがよくあります。
自分の声の大きさを認識して調整する難しさ
自分の声の大きさを調整するには、自分の声を聞きながら、その大きさを認識し、必要に応じて調整する力が必要です。
「大きい声だから小さい声で話して」というのは、大きい声を意図的に出している場合にできる調整です。自分では普通に話しているつもりの場合は、その調整は非常に難しいのです。
これは大人でも同じことで、例えば肩こりがある人に「肩の力を抜いて」と言っても、力を入れている自覚がなければ調整できないのと同じです。
自分の出している声の大きさを客観的に判断し、リアルタイムで調整することは、幼児期に身につけている途中のスキルなのです。
場面認識の難しさ
場所や状況に応じて声の大きさを調整するためには、「ここはどのような場所か」「今はどのような状況か」を理解する必要があります。
電車や図書館では静かにする、運動場では大きな声を出してもよいなど、場面に応じた声の大きさの調整が難しい子どももいます。
これは単に「ルールを覚えていない」というだけでなく、その場の雰囲気や状況から適切な行動を判断する「状況理解力」の発達とも関係しています。
幼児期は社会的なルールを学んでいる途中であり、場面ごとの暗黙のルールを理解し、それに合わせて行動することはとても高度なスキルなのです。
この他にも、1つ目のパターンと同じく、話したいことがたくさんあるのに、それを発散する場面が限られていると、結果的に割り込んで自分の話したいことを発散してしまっているという背景も考えられます。
声の調整が難しい子どもへの対応方法

ここでは、子どもは声の大きさを調整できない時の対処法をご紹介します。
要因を考慮したうえで、できることから取り組んでみるといいでしょう。
模倣(マネ)の活用
声の調整の基本となるのが模倣です。
大人が見本となる声の大きさを示し、それをマネしてもらうことで、目標とする声の大きさを体感的に理解させます。
「こんな風に話してみよう」と実際に聞かせることで、子どもは具体的なイメージを持ちやすくなります。
意図的に声の大きさを変える練習を取り入れましょう。
まずは「できるだけ大きな声を出してみよう」「できるだけ小さな声で話してみよう」という両極端な練習から始め、段階的に中間の声の大きさも練習していくと効果的です。
視覚的なツールの活用
声の大きさを視覚的に示すことで、子どもが理解しやすくなります。
気持ちの温度計のように声の大きさを5段階に分けて視覚化すると効果的です。
例えば、1が「ささやき声」、3が「普通の会話」、5が「運動場での声」というように具体的な場面と結びつけ、「今は2の声で話そうね」などと伝えます。
「声のものさし」や「声の温度計」など、子どもの興味を引くような視覚教材を作ると、楽しみながら取り組むことができます。
場所ごとに適切な声の大きさをイラストで示したカードなども有効です。
場所と声の大きさの関連づけとロールプレイ
場所によって声の大きさを調整する力を育むには、場所と声の大きさの関係性を具体的に学ぶことが大切です。
例えば以下のような関連づけが一例として考えられます。
図書室→小さな声(2の大きさ)
教室内→普通の声(3の大きさ)
校庭で遠くの人に呼びかける→大きな声(5の大きさ)など
最初は「この場所ではどのくらいの大きさの声がよいか」を答えてもらうところからスタートし、実際にその大きさの声で話してみるなど、段階的に取り組んでいきましょう。
これらの学習を定着させるには、実際の場面を想定したロールプレイが効果的です。
「図書館ごっこ」「発表会ごっこ」「電車ごっこ」など、子どもが興味を持てるような形で取り入れましょう。
例えば、「今から図書館の中にいることにしよう。図書館ではどんな声の大きさがいいかな?」と問いかけ、実際に体験してもらいます。
また、「ささやきゲーム」や「エコーゲーム」など、声の大きさを変えて遊ぶゲームも楽しみながら練習できます。
「ストップ&ゴー」のように、合図で声を出したり止めたりする遊びも調整力の向上に役立ちます。
これらのゲーム形式の活動を通じて、子どもは声のコントロールを自然に身につけていくことができます。
フィードバックの工夫
子どもの声を録音・録画して一緒に聞いたり見たりすることで、自分の声の大きさを客観的に認識する機会を作ります。
「これが3の声だね」と確認することで、自己認識も高まります。
集音マイクやタブレットのアプリなどで声の大きさを数値として示し、客観的なフィードバックを提供することも効果的です。
数値という具体的な指標があると、子どもも調整しやすくなります
声の調整が苦手な子どもへの指導事例

年長児のAくんは、行動のコントロールや状況理解、相手の気持ちを察することが苦手でした。
特に注意を引きたいときや感情が高ぶると大きな声を出してしまい、それ以外の表現方法が分からないことが要因となっていました。
指導では、「声のものさし」などの視覚的ツールを使って声の大きさを可視化し、場面に応じた適切な声の大きさを一緒に確認しました。
また、感情が高ぶったときには「〜はイヤだった」「一緒にやって」など、言葉で伝える練習や、絵本やイラストを使って「どんな気持ち?」と周りの人の気持ちを考える活動も取り入れました。
Aくんの視覚優位という特性に合わせてイラストを活用し、興奮を抑えるために不要な物は隠すなどの環境調整もおこないました。
指導前のAくんは、思い通りにいかないことがあると特に大きな声を上げたり、地団太を踏んだりすることが多く見られました。
しかし、ヘルプ発信の仕方が分かるようになると、気持ちを言葉で伝えられる場面が増え、感情任せに大声を上げることが徐々に減っていきました。
まとめ
声の調整の難しさは発達の過程で多くの子どもが経験するものです。
自分では気づきにくい声の調整を学ぶには「様々な声の大きさを試す機会」が必要であり、日々の小さな成功体験を積み重ねることで、子どもの自己調整力は徐々に育まれていきます。
完璧を求めず、長い目で見守る姿勢が、子どもの健やかな成長を支える基盤となるでしょう。
LITALICOジュニアでは困りごとは本人だけに起因するものではなく、本人と環境の相互作用によって生まれるものだと考えています。
そのため、まず詳細なアセスメントをおこない、お子さんの特性と環境要因を多角的に評価します。この評価に基づき、子どもに合わせたオーダーメイドの指導だけでなく、園や学校、周囲の人にも特性について伝え、過ごしやすい環境をつくる方法も一緒に考えています。
保護者も一緒に学べるペアレントトレーニングという機会もあるため、まずはお気軽にご相談ください。