吃音(きつおん)とは、話しはじめの言葉に詰まったり、言葉がすらすら出てこない発達障害のひとつです。
人前で話すことに困難が生じることから、日常生活や学校生活に支障をきたし、授業で発表ができない、学校行事に参加できない、就職できないなどの問題を抱えてしまう人もいます。吃音は、周囲から指摘されたり、からかわれることで、悪化してしまうことも少なくありません。
ただし、吃音があっても、環境を整えたり関わり方を工夫することで、話しやすくなったり、症状の悪化をやわらげたりすることができると言われています。
まずは吃音を正しく理解し、必要に応じた支援を受けることが重要です。
この記事では吃音の原因や症状、相談先、吃音症のある子どもとの関わり方の大切なポイントについてわかりやすく解説します。
吃音(児童期発症流暢症)とは
吃音(きつおん)とは、言葉がすらすら出てこない発話障害です。
少し前までは「どもり」と呼ばれることもありましたが、「どもり」という言葉は差別的な意味合いが強いため、現在は使われなくなりました。吃音は珍しくない疾患であり、数か月にわたって吃音らしい特徴を示す子どもの割合は10~20人に1人くらいと言われています。
男女比は、幼児期の発症時にはほぼ1:1から1.4:1程度と報告され、ほとんど男女差はないですが、青年期以降は4:1で男性が多いと言われています。
吃音(児童期発症流暢症)の分類
吃音は「発達性吃音」と「獲得性吃音」の2つに分類されます。
発達性吃音
吃音の9割は発達性吃音と言われています。
明らかな原因はなく、ほとんどの場合が、幼児期(2〜5歳)に発症し、2語文以上の発話をはじめる時期に起きやすいと言われています。
また、6〜8割が発症して3年程で自然に治ると言われています。
獲得性吃音
10代後半以降に発症する場合が多い吃音です。
獲得性吃音はさらに2つに分類されます。
- 獲得性神経原性吃音
脳血管障害、頭部外傷、中枢性神経系疾患、脳腫瘍、薬物などにより発症します。 - 獲得性心因性吃音
ストレスやトラウマ体験、精神的な不安などにより発症します。
吃音(児童期発症流暢症)の原因
吃音は、以下のような要因がお互いに影響し合って発症すると言われています。
体質的要因
体質的要因(遺伝的要因)の占める割合が8割程度という報告もありますが、まだ明確には分かっていません。
発達的要因
身体・認知・言語・情緒が一気に発達する時期の影響でみられる発達的な要因のことです。
環境要因
周囲の人との関係や生活上の何かしらの出来事による環境的な要因のことです。
昔言われていた親の育て方のせいで吃音が発症するという考え方は、現在は否定されています。
また、吃音の遺伝についてもさまざまな研究がされていますが、まだ明確には分かっていません。研究では、一卵性双生児と二卵性双生児の吃音の出現率を見たときに、一卵性のほうがはるかに多いということから、遺伝性が疑われるという報告があります。
しかし、吃音の発症に関しては、本人が生まれ持った体質(遺伝的要因)の影響は大きいが、吃音の遺伝的素因を持って生まれても、必ずしも吃音を発症するわけではないことが分かっています。
自分の育て方が原因なのではないかと、自分を責める保護者も少なくありませんが、親の育て方が問題ではありません。
家庭や学校で環境調整をしたり、適切な支援を受けることで、日常生活や友達関係などに支障がないように、吃音による不都合を緩和したり症状の悪化を軽減することができるといわれています。
吃音(児童期発症流暢症)の症状
ICD-10では、発話の流暢性に欠ける話し方を吃音と定義しています 。
流暢性に欠ける話し方と言ってもさまざまな症状がありますが、吃音に特徴的な症状は、以下の3つがあります。
音のくりかえし(連発)
話しはじめの音や言葉の一部を何回か繰り返す話し方です。
例:「ぼ、ぼ、ぼくね」
引き伸ばし(伸発)
話しはじめの音を引き伸ばす話し方で、吃音以外の子どもにはあまりみられない症状です。
例:「ぼーーーくね」
ことばを出せずに間があいてしまう(難発、ブロック)
言いたいことがあるのに、最初の言葉が出づらく、言葉に詰まってしまう状態です。
例:「・・・・ぼくね」
難発の場合、顔をしかめたり、舌に力が入ったり、体を動かしたりする随伴運動がみられることもあります。
吃音(児童期発症流暢症)の見分け方
子どもが言葉に詰まったり、言葉がつかえたりすることはよく見られますが、吃音かそうでないかをどう見分けるのかご紹介します。
たとえば、「ぼく、ぼくは」、「ぼくは、ぼくは」といった言葉や句全体を繰り返すことは吃音の特徴とは異なります。また、「えーっと」、「あのね」など、会話と直接関係ない語の挿入や、「ぼくの、ぼくは」、「きのう、きょう、ぼくは」といった言い直しは、吃音と同じく会話の非流暢性がありますが、吃音とは言いません。
ほかにも、驚いたり慌てたりする時に単発的に現れる場合や、脳や喉、舌などの発語器官の障害が由来であることが分かっている場合も、吃音とは定義されません。
しかし、気になる場合は市町村が行なっている育児相談や、医療機関などで相談しておくと良いでしょう。言語聴覚士が在籍する病院・施設を条件を指定して検索できるサイトもあるので、活用してみてください。
どういう場面で吃音(児童期発症流暢症)はでやすいの?
吃音が出やすい場面をいくつかご紹介します。
普段より難しい話し言葉を使ったり、話し方をしようとするとき
例えば、覚えたての言葉を使おうとしたり、難しい文章で表現しようとしたり、気持ちが高ぶって早く話そうとするときに吃音が出やすくなります。
幼児期は、話す機能がまだ完全に確立していないので、子どもにとって難しい言葉や難しい表現を使おうとしたり、気持ちが高ぶると、「話す」という行為に割り当てる脳の容量が足りなくなって、吃音が出やすくなると言われています。
プレッシャーを感じたり、不安な気持ちがあるとき
プレッシャーを感じているときや、吃音が出ないように意識しすぎているときに吃音が出やすくなります。
具体的には以下のような場面があります。
- 運動会前や発表会前など
- 学校の授業で音読しなければならないとき
- 多くの人の前で発表をするとき
- 苦手な発音の言葉を発しなくてはいけないとき
吃音のことを指摘されたり、からかわれたりすることで、必要以上に吃音を意識してしまうことがあります。
ただ、吃音が出ないように気をつけると、逆に症状が悪化してしまうこともあります。吃音を意識しすぎないようにするには、周囲の関わり方や協力も大切です。
吃音のある子どもとの関わり方は後ほどご紹介します。
吃音(児童期発症流暢症)は何科の病院を受診すれば良い?
吃音の相談は、一般的には、病院の耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、心療内科などで行えます。耳鼻咽喉科は、言葉の訓練に特化した言語聴覚士がいる場合もあるので、受診前に事前確認すると良いでしょう。
まずは、ご自宅の近くにある吃音に詳しい病院を探してみると良いでしょう。
お住まいの市役所や区役所の窓口で、吃音に詳しい病院を教えてもらえる場合もあるので、問い合わせてみてください。
吃音(児童期発症流暢症)の治療方法はあるの?
現在、吃音について確立された治療法というものはまだ存在しません。一般的には、言語聴覚士による言語訓練、カウンセリング、認知行動療法などがあります。また、吃音が原因となった二次性の抑うつや社交不安障害には薬物療法が行われることもあります。
ただし、吃音のあるすべての人に有効な治療方法はなく、効果に個人差もあるので、一人ひとりに合わせて、支援や治療方法を選択する必要があります。
吃音(児童期発症流暢症)などの発達障害に関する相談先は?
吃音などの発達障害に関する悩みがある方が相談できる機関や窓口についてご紹介します。
子どもの発達が気がかりな場合や、育児についてお悩みがある場合には、まず無料で相談できる地域の専門機関を利用することがおすすめです。相談の上、必要に応じて専門の医療機関につなげてくれます。
市町村保健センター
市町村保健センターは、健康相談、保健指導、健康診査など、地域保健に関する事業を地域住民に行うための施設です。発達などに関する悩みを聞いてくれる発達相談窓口を設ける部署があります。必要に応じて医療機関への紹介などもおこないます。
参考として東京都保健局のサイトを紹介します。詳細は、お住まいの都道府県のサイトをご確認ください。
発達障害者支援センター
保健・教育・労働などの関係機関と協力しながら、発達障害のある方の総合的な支援を行う施設です。
家族、関係機関などからの相談を受け付け、家庭での関わり方についてのアドバイスや、必要に応じて福祉制度や医療機関の紹介などをおこないます。
発達障害者支援センターが近くにない場合には、電話相談も受け付けてくれます。
ことばの教室
吃音の問題は、学齢期の子どもであれば、小学校に設置されている「ことばの教室」で教育相談や通級指導を受けることが出来る場合があります。
参考として東京都公立学校難聴・言語障害教育研究協議会のサイトを紹介します。ことばの教室がない学校もあるので、気になる場合は担任の先生に聞いてみましょう。
吃音(児童期発症流暢症)のある子どもとの関わり方
吃音のある子どもが幼い頃は、軽く繰り返すくらいであれば、自分の症状に気づかないことが多いです。しかし、頻繁に繰り返したり、言葉が出ないことを経験すると、うまく話せないことに不満を感じるようになります。
また、成長とともに吃音が固定化し、学童期になると、今までは気付かなかった自分の話し方の違いに気付いたり、吃音を友達に指摘されたりすることで、自覚するようになります。
そうすると、話す前に不安を感じるようになったり、吃音が出ることを恥ずかしく思ったり、話す場面に恐怖を感じるようになります。このような心理は、成長の過程で「うまく話せない」という経験が増えれば増えるほど強くなります。
そこで、吃音のある子どもとの関わり方として大切なことをいくつかご紹介します。
環境調整
吃音のある子どもにとって、家庭が安心して自由なことを話せる場所となるように心がけることが大切です。そのために、吃音のある子どもの話し言葉について要求する水準を下げたり、ゆっくり話せる時間があることを示してあげましょう。
例えば、以下のようなことに気をつけると良いでしょう。
- 難しい質問をしない
- 短い文章・簡単な言い回しを使う
- 次々と質問しない
- 目の前にない状況の説明を求めない
- 話し方に注目せず、話の内容に耳を傾ける
- ゆっくり話せるように兄弟と別々で話せる時間をとる
- ゆっくり話しかける
また、園や学校に通っている場合は、担任の先生に事前に吃音について伝えておき、友達と話し方をめぐってトラブルになったり、子どもの不安が高まることのないように協力を求めましょう。
肯定的・受容的な態度で接する
吃音のある子どもと話す場面では、「流暢に話せるように」ではなく、「楽に」話せるような状況をつくりましょう。
そのためには、聞き手が肯定的・受容的な態度で話を聞くことが大切です。
例えば、以下のようなことに気をつけると良いでしょう。
- 話の途中で遮ったり代わりに話さず、最後まで子どもの話を聞く
- 話し方にとらわれずに、子どもが伝えようとしている内容に意識を向ける
- 言い直させたり、話し方を矯正しようとしない
- 「ゆっくり話して」「落ち着いて」などプレッシャーをかけない
- 吃音が出ても心配そうな顔をしない
- 吃音が出たから失敗ととらえずに、吃音が出てもちゃんと伝わったこと、話せて楽しかったことを子どもに伝え、自信をつけさせる
周囲の大人は、吃音が出なかったことを賞賛するのではなく、言いたいことを伝えられたことを賞賛すべきであることを理解しておきましょう。
LITALICOジュニアでは保護者さま向けのサービス「ペアレントトレーニング」というプログラムを提供しています。ペアレントトレーニングとは「子供が言うことを聞いてくれない」「何度叱っても同じことを繰り返す」など子育てのイライラを軽減し、子育ての悩みを解決する子育てのコツや工夫を学び、家庭で実践できるよう保護者さまをサポートしていくプログラムです。
まずは無料で相談からできますので、お気軽にお問い合わせください。
吃音(児童期発症流暢症)のまとめ
吃音は、決して珍しい障害ではありません。周囲からのプレッシャーなどでコミュニケーション自体が苦手にならないように、環境を整え、子どもに合わせた関わり方を心がけましょう。
もしも「子どもが吃音かもしれない」と思ったら、一人で抱え込まず、支援や専門機関の利用を検討してみると良いでしょう。
LITALICOのジュニアでは、吃音など言葉の発達が気になる子どもの支援も行っております。
各地で児童発達支援事業所、放課後等デイサービス、幼児教室・学習塾を展開し、一人ひとりのニーズや特性に合わせて学習やソーシャルスキルアップをメインとした授業で子どもの成長をサポートをしています。
子どもの発達についてのお悩みがありましたら、お気軽にLITALICOジュニアにご相談ください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。