ウエスト症候群は「点頭てんかん」とも呼ばれるてんかん症候群で、難病指定もされています。頭がカクンとうなずく動作を伴うことから、「点頭てんかん」とも呼ばれています。
治療開始時期が病気の経過に影響すると言われ、最近では、発症早期に治療をおこなうことにより発作や発達の予後の改善が期待できるという報告もあります。
この記事では、ウエスト症候群はどのような症状が現れるのか、検査方法や治療法、予後についてわかりやすく解説します。
ウエスト症候群(点頭てんかん)とは?
ウエスト症候群は「点頭てんかん」とも呼ばれるてんかん症候群で、指定難病(※)のひとつです。
多くは生後3-11ヵ月時に発症しており、日本では3,000人~4,000人に1人の割合で発症しています。
てんかん性スパズム、別名「点頭発作」と呼ばれる特異な発作や、脳波検査でヒプスアリスミアと呼ばれる特徴的なてんかん性異常波があり、多くの場合、精神運動発達の遅れ(発達とともに習得した精神的・運動的技能ができなくなってしまうこと)をきたします。
ウエスト症候群(点頭てんかん)の発作は一般的なてんかん発作とはちがい、「頭がよくカクンとなる」「何度もバンザイする」「頻繁にビックリする」「シャックリばかりする」などのかたちで出るため、周りの大人は「変なクセ」だと思って発見が遅れることがあります。
早期治療が非常に大切な病気で、治療開始時期が病気の経過に影響します。
※指定難病:国が「難病の患者に対する医療等に関する法律」に基づいて、認定した難病を「指定難病」と呼びます。患者は、「指定難病」であることを各都道府県に申請すると、特定医療費として医療費助成を受けることができます。
ウエスト症候群とモロー反射の違いについて
モロー反射とは、新生児に見られる原始反射の一つです。
大きな音や明るい光、身体がグラッと傾いたときなど、外から大きな刺激が与えられたときに、手足をビクッとさせ、ゆっくりと万歳をするように腕を広げ、何かにしがみつくような姿勢のように見える様子のことをいいます。
ウエスト症候群(点頭てんかん)で見られる動き(発作)と、モロー反射の動きはよく似ています。
モロー反射との見分け方はある?
モロー反射の特徴としては、音などのきっかけによりビクッとなったり、寝ている時にビクッとなったりします。
それに対して、ウエスト症候群(点頭てんかん)の発作は、寝起きや寝入り前の目が覚めている時に起こることが多く、発作時も無表情でビクッとするだけでなく、頭をカクンと前に倒すという特徴があります。また、ウエスト症候群(点頭てんかん)の発作では、一定時間ごとに発作的な動きとして表れるほか、一日に何回も見られることもあります。
モロー反射の動きとウエスト症候群(点頭てんかん)の発作の違いを判断するのは、一般の人には難しいものです。
赤ちゃんの様子で、もし何か気がかりなことがあったら、気になる症状の様子を動画にとっておき、かかりつけの小児科に一度相談してみるとよいでしょう。
ウエスト症候群(点頭てんかん)の症状
ウエスト症候群(点頭てんかん)の発作の様子や、発作が起こりやすい状況を解説します。
発作の様子・頻度
- 頭を一瞬垂れる
- 四肢を一瞬縮める(てんかん性スパズム)
- 眼球が繰り返しギョロリと上転する
といった発作が、5-40秒毎に繰り返し続きます。この繰り返しをシリーズ発作と呼び、1日に何回も出現します。シリーズ発作は1日に10回以上起こることもあります。
発作が起こりやすい状況
生後3-11ヵ月時、覚醒直後や眠いときに起こりやすいといわれています。
その他の症状
発達とともに取得した精神的および運動的技能ができなくなる「退行」も、ウエスト症候群の特徴のひとつです。例えば、以下のような退行が見られたら、赤ちゃんの様子をしっかり観察してあげましょう。
- 首の据わりが悪くなった
- 笑わなくなった
- お座りができていたのにできなくなった
- 単語を言えていたのに言えなくなった
また、元気がなくグッタリしている、原因なく泣き叫ぶことが急に増えた、などの症状が出ることもあります。
こういった様子が見られるからといって、ウエスト症候群であるとは限りません。不安がある場合は小児科で相談してみてください。
ウエスト症候群(点頭てんかん)の原因
ウエスト症候群(点頭てんかん)のなかには、生まれる前あるいは出生直後に起こった脳障害が原因で起こっている「症候性ウエスト症候群」と、検査をおこなっても原因の特定が難しい「潜因性ウエスト症候群」があります。
ウエスト症候群(点頭てんかん)の原因と考えられる基礎疾患として、以下のようなものが挙げられます。
- 脳形成異常
- 低酸素性虚血性脳症
- 外傷後脳損傷
- 脳腫瘍
- 代謝異常
- 染色体異常
- 先天奇形症候群
- 遺伝子異常
しかし、症候性のてんかんと潜因性のてんかんに共通するはっきりとした病態は、まだ見出されていません。
症候性ウエスト症候群
ウエスト症候群(点頭てんかん)の約80%は、生まれる前あるいは出生直後に起こった脳障害の合併症として起こります。
これは「症候性ウエスト症候群」と呼ばれ、大脳の奇形や、出生時の仮死などによる脳障害が原因で起こると推測されています。
潜因性ウエスト症候群
ウエスト症候群(点頭てんかん)の約20%は発症までの発達も正常で、かつ様々な検査でも異常を認めません。
ウエスト症候群(点頭てんかん)の予後について
ウエスト症候群(点頭てんかん)の予後は、完全に発作が消失する例は少なく、緩やかに症状が続くことが多いと言われています。発作は減少しても、知的障害や運動症状、行動障害などが残り、さまざまな程度の発達の遅れを伴うこともあります。
新生児期・乳児期に発症したウエスト症候群は、レノックス・ガストー症候群という難治性てんかんに移行する例もありますが、全例移行するわけではありません。
レノックス・ガストー症候群の発症時期は1~8歳(ピークは3~5歳)であり、以下のような発作が見られます。
- 強直発作:意識を失い、手足・体幹あるいは全身が硬直した状態になる
- 非定型欠神発作:始まりと終わりが不明瞭な、ややボーッとなる発作
- 脱力発作:座ったり立ったりしている時に身体を支えている筋肉の緊張が突然失われ、倒れる
上記の症状に、精神発達遅滞を伴います。
ウエスト症候群(点頭てんかん)は、治療開始時期が病気の経過に影響します。最近では、発症早期に治療をおこなうことにより発作や発達の予後の改善が期待できるとも言われています。
ウエスト症候群(点頭てんかん)の治療
ウエスト症候群(点頭てんかん)に対する代表的な治療として、「ACTH療法」が挙げられます。これは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を筋肉注射することで副腎皮質からステロイドホルモンの分泌を促し、その結果発作や脳波所見を改善させるものです。
それ以外に薬物療法や食事療法、原因となる脳の異常部位が明らかな例では病変切除術や脳葉離断術などが実施される場合があります
ウエスト症候群(点頭てんかん)について気になる場合は?
ウエスト症候群(点頭てんかん)の発作と疑わしい動作がある場合は、その様子を動画で撮影しておき、地域の小児科・小児神経科で相談してみるといいでしょう。
また、必要に応じて紹介状を書いてもらい、小児神経専門医が在籍する病院を受診することも検討してみてください。
以下に記載する、日本小児神経学会が認定する小児神経専門医の名簿も参考にしてみてください。
ウエスト症候群(点頭てんかん)についてまとめ
ウエスト症候群の症状改善で大切なのは、早期の発見と治療です。子どもに気になる動きがあったら、まずはかかりつけ医や地域の小児科・小児神経科で診察を受けましょう。
また、ウエスト症候群(点頭てんかん)は、難病・小児慢性特定疾患に指定されているため、医療費の助成や療育相談・自立に向けた育成相談など、さまざまな支援を受けることができます。
気になる場合は、かかりつけの医師や各自治体の窓口で相談してみてください。
LITALICOジュニアでは、ウエスト症候群の予後に伴う可能性のある知的障害や発達の遅れについての支援もおこなっています。
LITALICOジュニアは各地で児童発達支援や放課後等デイサービスを運営しており、子ども一人ひとりが抱える困りごとを解消するために、必要なプログラムを通してサポートしています。
知的障害がある子どもや発達の遅れが気になる子どもの支援事例も豊富にありますので、気になる場合はぜひご相談ください。