発達障害のある子どもの療育(発達支援)について調べていて、「ABA(応用行動分析学)」という言葉を目にした人も多いかもしれません。
療育(発達支援)においては、ABA(応用行動分析学)で得られた知見が多く用いられています。困っている行動がある場合、その行動の機能(働きや意味)に着目して、子どもが暮らしやすくなるための対処をおこなう知見です。
この記事では、ABA(応用行動分析学)の基本的な考え方や具体的な実践例のほか、ABA(応用行動分析学)の知見にもとづく療育(発達支援)サービスや、保護者の方向けのトレーニングを受けられる場所について説明します。
ABA(応用行動分析学)とは?
ABAとは「Applied Behavior Analysis」の略で、日本語では「応用行動分析学」と呼ばれています。
応用行動分析学は、アメリカの心理学者バラス・スキナーが創始した「行動分析学」の一領域になっています。
行動分析学では、「人間や動物などの行動には、法則がある」と考えます。
行動を分析し、法則を明らかにすることが行動分析学の目的です。
そこで分かった知見をもとに、社会の中での問題となる行動を解決する領域が応用行動分析学です。
応用行動分析学は教育や福祉、医療、企業、スポーツなどの分野で活用されて成果をあげています。
療育とABA(応用行動分析学)
ABA(応用行動分析学)は、ASD(自閉スペクトラム症)をはじめとする発達障害のある子どもの療育など、発達支援の分野でも世界的に用いられています。
療育(発達支援)におけるABA(応用行動分析学)では、人間の行動の基本原理にもとづき、うまくいく行動を増やすことで、相対的に困っている行動を減らすための働きかけをおこないます。
働きかけにはさまざまな方法がありますが、そこに関わる原理のうち、代表的なものに以下の2つがあります。
- 強化する
- 弱化をする
強化する
人は、行動の直後に「よいこと」が起きるとその後、その行動が起きやすくなります。
例えば「丁寧に字を書いたら、先生に褒められた」という出来事があると、その後も丁寧に字を書く行動が起きやすくなったりします。
このように、行動の直後に「よいこと」が起きることで行動が起きやすくなることを、ABA(応用行動分析学)では「強化」と呼びます。
そして、この場合の「よいこと」のを「正の強化子(きょうかし)」や「好子(こうし)」と呼びます。
何が強化子になるかは人それぞれに異なり、行動の頻度を高める刺激となるものであれば、どのようなものでも強化子となります。
このため、「褒め言葉は強化子」と一概に決まっているわけではありません。それによって行動の頻度が増えなければ、その子にとって褒め言葉は強化子ではないことになります。
また、一般に嫌なことのように思われるものでも、それによって行動の頻度が増えれば、「その子にとっては強化子になっている」と考えます。
「怒られる」などは一見嫌なことに思えるかもしれませんが、「構ってもらえる」「注目が得られる」という強化子として働くこともあります。
したがって、「不適切な行動を支えている強化子は何か」を分析することや、「望ましい行動を増やしていくために、何が強化子になりそうか?」ということを知ることが支援では重要になります。
それらを見つけることで、その場面で起きてほしい行動や代わりとなる行動を増やしていくことにつなげていくことができます。
弱化をする
「強化」とは逆に、行動の直後に「嫌なこと」が起きるとその後、その行動は起きにくくなります。
例えば「スマホを見ながら歩いていたら転んで怪我をした」という出来事があると、その後少なくとも「ころんだ場所でスマホを見ながら歩く」という行動は起きにくくなります。
行動の直後に「嫌なこと」が起きることで行動が起きにくくなることを、ABA(応用行動分析学)では「弱化」と呼びます。または、「罰」と呼ばれることもあります。
ただしABA(応用行動分析学)では、支援において基本的に「弱化」は用いません。
それは、日常生活の中では「弱化」を用いても行動を減らすことが難しいことが多く、何より用いる側と用いられる側の双方に生じる弊害の方が大きいことが研究から示されているためです。
ABA(応用行動分析学)の実践例:ABC分析
改善したい行動がある場合、その行動自体に着目するのではなく、「その行動が、何によって強化されているのか」ということに着目します。つまり、「行動の強化子を見つける」という作業をおこないます。
強化子を見つけるために、行動の前後の出来事を、次の3つの要素に分析します。
これらの要素は、英語の頭文字をとって「ABC」と呼ばれています。
A(antecedent) :事前の出来事
B(behavior) :行動
C(consequences):行動の結果
ABC分析の具体例
ある小学生の男の子が、学校の休み時間に「ボールで遊ぼう」と思い、使いたかったボールを探したところ、すでにお友だちがそのボールを使って遊んでいました。
そこで男の子は、お友だちからいきなりそのボールを奪って遊び始めました。
この出来事についてABC分析をおこなうと、次のようになります。
A(事前の出来事):使いたかったボールを、お友だちが先に使っていた
B(行動) :奪う
C(行動の結果) :ボールで遊べる
この場合は「奪う」という行動によって、「ボールが使える」という強化子が得られるという結果につながっています。
対処法
以下のような方法が考えられます。
- 大人がサポートしながら、「貸して」「一緒に遊ぼう」などと言葉でアプローチするなどの行動に置き換える(適切な行動を増やして、「奪う」のような不適切な行動を相対的に減らす)。さらに、できたら褒める
- ボールを使う順番を前もって決めておいたり、ボールを使いたい人数分用意しておくなどして、「奪う」などの不適切な行動が起きにくいような環境を整える(環境調整)
目的は「子どもが暮らしやすくなる」こと
ABA(応用行動分析学)の知見を療育(発達支援)で用いるときの基本的な考え方は、「子どもが幸せになる」という視点から見るということです。
先の例であれば、 「ボールをお友だちと一緒に使って遊ぶと、よい友人関係を築くことができる」ということを子どもが学ぶと、子ども自身が暮らしやすくなっていき、子どもの幸せにつながることが予想されます。
したがって、「ボールをお友だちと一緒に使って遊ぶ」などの子どもの幸せにつながる行動をうながし、「奪う」という、子どもが暮らしにくくなる行動を減らすための目標を設定します。
一方、大人はつい「子どもがお友だちのボールを奪うとトラブルになり、大人(先生や保護者)が困るから、奪うという行動を変えたい」と考えてしまう場合もあるかもしれません。
しかし、「大人が困るから、奪うという行動を変えたい」という視点はABA(応用行動分析学)の視点とは異なります。
ABA(応用行動分析学)について受けられる場所はある?
ABA(応用行動分析学)の知見にもとづく療育(発達支援)サービスは、以下のような場所で提供されています。
子どもがABAを受けられる場所
さまざまな療育(発達支援)機関や塾などにおいて、ABA(応用行動分析学)の知見を取り入れているところも増えてきています。
ただしABA(応用行動分析学)の知見をどの程度取り入れているのか、どれくらいABAを体系的に学んだスタッフがいるのかといったことは、機関により異なります。
子どもの発達の状況は一人ひとり異なるため、子どもに合う療育(発達支援)を受けることが大切です。療育(発達支援)機関を探すときは、各機関の方針やサービス内容を確認してみてください。
LITALICOジュニアでは、ABA(応用行動分析学)の理論や知見などをベースに、一人ひとりの発達や成長にあわせて個別の指導計画をつくり、最適な学び方を提供しています。
体験授業を受けることもできます。興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。
保護者がABAに基づく子どもとの関わり方を学べる場所
家庭でみずからABA(応用行動分析学)の理論や知見にもとづく子どもとの関わり方を実践したいと考える保護者の方を対象とするセミナーやペアレント・トレーニングなども実施されています。
療育(発達支援)機関や、ABA(応用行動分析学)を推進している団体などが、保護者の方向けのセミナーやペアレント・トレーニングをおこなっている場合が多いようです。
LITALICOジュニアでも、ABA(応用行動分析学)の知見も取り入れたペアレントトレーニングを提供しています。
ABA(応用行動分析学)についてまとめ
ABA(応用行動分析学)は、人間の行動の「法則」を明らかにして、そこで分かった知見をもとに、社会の中での困った行動を解決していこうと考える学問です。
ABA(応用行動分析学)の理論や知見を取り入れている療育(発達支援)機関も増えてきているほか、保護者の方がABA(応用行動分析学)の考え方を身につけるためのペアレント・トレーニングも提供されています。
興味のある方は、ぜひお住まいの地域でABA(応用行動分析学)の知見を取り入れた療育(発達支援)サービスやペアレント・トレーニングを提供している機関を見つけてみてください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。