「服がチクチクして着ていられない」「粘土や泥など特定のものが触れない」「人に触られるのが苦手」などといった様子が子どもにみられる場合、それはもしかしたら触覚過敏かもしれません。
触覚という言葉を初めて聞く方もいらっしゃると思います。
ここでは、触覚過敏とは何なのか、その原因や対処法、相談先などについて解説します。
触覚過敏とは?
触覚過敏とは、感覚過敏のひとつです。他にも聴覚過敏や嗅覚過敏、視覚過敏などがあります。
触覚過敏の人は、ゴワゴワ、チクチクすると感じる服を着られない、特定のものにさわれない、人に触れることが苦手などの困りごとが生じる場合があります。
触覚過敏かどうかというラインは、それによって生活に支障が出るかどうかです。
例えば、素材の肌触りが気になって特定の服しか着られず、それ以外の服を着ることができない場合には、季節に合った服を着ることができず風邪を引いてしまったり、日常生活に支障が出てきてしまいます。
感覚過敏とは?
感覚過敏は、特定の感覚を過敏に受け取ってしまう状態を指します。逆に感覚鈍麻と言って、感覚を感じにくい場合もあります。
感覚過敏は、触覚だけといったひとつの感覚に対して起こるものではなく、触覚と嗅覚など複数の感覚で起こることもあります。
ここでは、触覚過敏以外についても簡単に解説します。
視覚過敏
視覚過敏は、視覚に関する過敏で光や色、物体の移動など目に映るものに対して過敏な反応を示します。
例えば、同じ光でもまぶしいと感じたり、動くものに注意が向きやすいことなどがあります。
聴覚過敏
聴覚過敏は、聴覚に関する過敏でサイレン、掃除機の音や赤ちゃんの鳴き声など特定の音に対して過敏な反応を示します。
苦手な音に対して、本人は、大変不快に感じ、耳を塞がずにはいられないこともあります。
味覚過敏/嗅覚過敏
味覚過敏/嗅覚過敏は、味覚・嗅覚に関する過敏で特定の味や臭いに過敏な反応を示します。
様々な臭いが混ざっていることを不快に感じることもあり、飲食店や食堂など様々な料理を同じ場所で食べている状況を苦手とすることもあります。
動きやバランスに関する過敏
人間の感覚には五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)以外にも揺れやスピード、バランスを感じる前庭感覚というものがあります。
車などの乗り物やブランコなどの遊具に対して過敏な反応を示します。遊具や乗り物に乗ることを嫌がったり、乗り物酔いを起こしやすい場合があります。
触覚過敏の困りごと例
触覚過敏があると、どのような困りごとが発生するのでしょうか?
日常生活における困りごと、園や学校での学習場面においての困りごとに分けてご紹介します。
日常での困りごとの例
- 服のタグや着心地が気になって着られる衣服が限られる
- 頭髪を触られることが気になって散髪ができない
- 皮膚薬や湿布など塗られる・貼られる感覚が気になって使えない
- 肌触りが気になって椅子やソファに座れない
- 口の中に歯ブラシが当たる感覚が苦手で歯磨きができない
園や学校での学習場面においての困りごとの例
- のりや粘土などの感触が気になって触れない
- リレーやペアでのストレッチなど他者に触れられることが気になって体育に参加出来ない
- 水着を着ることを嫌がり、水泳の授業に参加出来ない
今回ご紹介した困りごとは、あくまで一例です。子どもによって困りごとは変わります。
触覚過敏の原因は?
発達障害の中には、診断基準に感覚刺激への過敏や鈍感さが含まれているものもあるため、触覚過敏を含め、何かしらの感覚過敏があると、もしかして発達障害なのかな?と不安になる方もいらっしゃると思います。
しかし、触覚過敏があるからといって発達障害であるとは限りません。
触覚過敏が起こるメカニズムはまだはっきりとはわかっていませんが、感覚を伝達する際の神経の伝わり方の問題や信号を受け取った後の処理に原因があり生じている場合があります。
アレルギーや皮膚疾患などでも、触覚過敏が生じる可能性がありますので、生活に支障が出ているなど、不安がある場合には、後ほど紹介する支援機関に相談してみてください。
触覚過敏の対処法は?
触覚過敏は、それ自体をどうにかしようとするのではなく、困りごとに合わせた工夫や対策をすることで、日常生活への影響を減らすといった視点も大事になります。
ここでは、どのような工夫や対策があるのかを紹介していきます。
一人ひとり状況やそれに応じた対処法は異なるので、参考としてご覧ください。
不安を軽減する
不安が強いとより過敏に反応してしまうことがあります。そのため、まずは不安を軽減することが大事です。
触覚過敏の方は特定の素材に対して過敏な反応をしますが、触覚過敏が起こらない素材であれば、不安が軽減されることがあります。
例えば、小さい頃から使っているぬいぐるみや毛布など、その子が受け入れられるもので包み込んであげることで安心につながることもあります。
また、人に触れられることに対する触覚過敏でなければ、保護者が抱きしめてあげることで、子どもは安心するでしょう。
ただし、触覚過敏のある子どもは、自分から触ることは問題ないですが、いきなり抱きしめるとパニックになってしまうことがあるので、「ぎゅっとするね」など、先に伝えてから抱きしめてあげるといいでしょう。また、人に触れられることに対する触覚過敏の場合は逆効果になりますのでご注意ください
また、見通しを立てておくことも大切です。いつ終わるのかがわからないと、不安感が増してしまいます。「何分で終わるよ」など伝えてあげると、不安感を抑えることができます。
衣服の着方や選び方を工夫する
まずは、子どもに合った素材が何かを把握しておくことが大事です。好んで着ている服と同じ素材の衣類であれば着ることができる場合もあります。
一般的には、天然繊維である綿やシルク、カシミヤなどは、ツルツルしていたり、繊維が細いので着心地がいいとされています。
最近では、タグなし、縫い目が外で作られた衣類を販売しているメーカーや、シームレス(縫い目がない)の衣類も出てきています。
タグや縫い目がある衣類の場合は、タグを外したり縫い目が外になるように逆に着ることで、抵抗なく着られる場合もあるので、試してみるといいでしょう。
子どもが安心できる物を持たせておく
普段から子どもが安心できるものを持たせておくことも大事です。例えば、昔から使っているぬいぐるみや手触りが好きなハンカチなどです。
子どもが安心して過ごせるように、子どもがどういった手触りのものを好むのかを知っておくことも大切です。
触られて感覚が気になる作業は子ども自身にやってもらう
人に触られるのが苦手という子どもも、触れられることの全てにおいて苦手ではないこともあります。
例えば、シャンプーをしてもらう時や爪切りをしてもらう時など、特定の場面でその感覚が気になって苦手意識を持つことがあります。
そういった場合は、無理に保護者がせず、少しずつ子ども自身にしてもらうようにしましょう。
他人にくすぐられるとくすぐったいと感じるけど、自分でしてもくすぐったくないのと同じように自分でする分には問題ないこともあります。
合理的配慮を検討する
子どもが保育園や幼稚園、学校などに通っている場合は、合理的配慮をお願いすることも検討してみてください。
合理的配慮とは、障害のある方がほかの人と同様に教育機会が保障されるよう、園や学校が過度な負担にならない程度に個別的な配慮をすることを指し、法律で定められています。
例えば、粘土、泥遊びなどが気持ち悪くて出来ない場合、そういった遊びをする際は、別の遊びも用意してもらうように、お願いするなどです。
子どもの触覚過敏や発達に関する相談先
子どもの触覚過敏や発達に関する相談先をご紹介します。子どもの触覚過敏や発達に関して不安を感じることがあれば、まずは相談してみてください。
皮膚科
子どもの反応が触覚過敏によるものなのかどうか判断がつかないこともあるかと思います。
皮膚など身体的な疾患が原因の場合もありますので、皮膚科で診察してもらうことも検討してみるといいでしょう。
相談窓口
触覚過敏を含め、それ以外にも子どもの発達に関して相談したいという場合については、以下のような機関に相談することもできます。気になる場合は、相談することを検討してみてください。
- 保健センター
- 児童家庭支援センター(子ども家庭支援センター)
- 児童発達支援センター
発達が気になる場合のサポートについて
LITALICOジュニアでは児童発達支援、放課後等デイサービスを運営しています。
触覚過敏をはじめとした感覚過敏があって、学習や日常生活に困りごとがある子どもへの指導実績も豊富にあります。
LITALICOジュニアでは、子どもの特性や性格にあわせた指導方法を提供しています。また、触覚過敏などの特性を踏まえて学校への配慮事項を一緒に考えるサポートなどもおこなっています。
通所受給者証がなくても利用できる学習塾形式の教室もありますので、子どもが触覚過敏など感覚過敏があるという方はぜひ一度お問い合わせください。
触覚過敏についてまとめ
触覚過敏があると、人に触れられるのが苦手であったり、着られる服が限られているなど日常生活で困難が生じることがあります。
子どもが学校や園に通っている場合は、粘土や泥遊びなど苦手な触感なものを使った遊びや授業で困りごとを感じている可能性もあります。
同じ触覚過敏でも、感じ方は人それぞれですので、まずは、子どもがどのような触感が苦手なのかを把握していくことが大切です。
何が苦手かを把握出来れば、対策もしやすく、学校や園にも協力をお願いしやすくなります。学校や支援機関に相談しながら、子どもが生活していきやすい環境を整えていきましょう。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。