通級指導教室とは、小学校などで一部の授業を通常の学級とは別の通級指導教室で受ける制度のことで、通級とも呼ばれています。
通級指導教室では、学習や生活の困難を解消するため、子ども一人ひとりの特性に合わせた授業が行われています。
ただ、通級指導教室という言葉は知っていても、具体的な内容や特別支援教室との違いなど分からないという方も多いと思います。
今回は通級指導教室(通級)の制度や指導内容について、対象となる子ども、メリットデメリットを紹介します。通級指導教室の利用を検討している方は参考にしてみてください。
通級指導教室(通級)とは?
通常学級に在籍し、その授業の中で困難を感じている子どもに対して、通常の授業のほかに特性などに配慮した指導を受けることができる制度として「通級指導教室」があります。
通級指導教室という言葉は知っていても、詳しいことはよく分からないという方もいると思いますので、制度の内容から紹介していきます。
通級指導教室とは?
通級指導教室とは、通常の授業のほかに一部の授業を別の教室で受ける制度のことで、通級という名称でも呼ばれています。
通級では障害による学習や生活で困難がある子どもたちが対象で、困りごとに合わせた指導が行われています。
通級に通うと、子どもたちは通常の授業の代わり、または通常の授業にプラスして別途編成されたクラスで授業を受けることになります。
通級はすべての学校に設置されているわけではなく、授業を受ける方法は大きく分けて3種類あります。その3つとは、通っている学校に設置されている通級に通う「自校通級」、ほかの学校の通級に通う「他校通級」、教師が学校を訪問する「巡回通級」です。
東京都の場合は、巡回通級方式をとっており、「特別支援教室」と呼ばれています。
通級指導教室と特別支援学級の違い
通級指導教室と間違われやすい制度に特別支援学級があります。どちらも、障害のある子どもへの教育制度である特別支援教育の一つで、違いが分からないという方もいるのではないでしょうか。
まず、大きな目的は共通しており、どちらも障害のある子どもが学習や生活で感じている困難を克服するための授業を提供することを目指しています。
通級指導教室と特別支援学級の大きな違いとしては、通級の場合は、通常学級に在籍している必要があります。特別支援学級の場合は、特別支援学級に在籍している必要があります。
特別支援学級の場合は、基本的に特別支援学級で受ける授業の割合が多くなりますが、通級では通常の学級で受ける授業の割合が多くなります。
また、通級指導教室は小学校、中学校、高等学校に設置されているのに対して、特別支援学級は小学校と中学校のみに設置されています。
そのほかにも対象となる子どもも一部異なります。特別支援学級では知的障害(知的発達症)のある子どもも対象になっているのに対して、通級指導教室では対象外となっています。
ただ、現在では通級指導教室で知的障害(知的発達症)のある子どもを受け入れる研究が文部科学省で行われているので、ゆくゆくは対象が変わるかもしれません。
通級指導教室の指導内容
ここでは、通級指導教室の実際の指導内容を紹介していきます。
通級指導教室の指導とは?
通級指導教室の授業は障害による困難がある子どもが、その困難を解消できるようになることを目的としています。
そして、通級指導教室に通う子どもは通常の学級だけでは上手く学べない部分があるため、通常の教育課程を変更したり、追加の授業を行うことが認められています。
通級指導教室に通う生徒は、通常の授業が行われている間や放課後に、通級指導教室に移動して別の場所で指導を受けることになります。
このような背景のもと、通級指導教室では子どもの特性に合わせて個別に最適な指導を行うことが可能となっています。
通級指導教室の指導内容例
通級指導教室で行われる指導の例を紹介します。
通級指導教室では、生活や学習で困難がある子ども一人ひとりに対して、通級指導教室による指導の担当教師と当該児童生徒が在籍する学級の担任が連携協力しながら特性に合わせた個別の教育支援計画・指導計画を作成して指導を行なっていきます。
ここでは、言葉に遅れがあって友だちとのコミュニケーションが上手くいかない、という子どもの指導例を取り上げます。
まずは保護者や周りの人から情報を集めて、課題や強みなどを整理していきます。その結果、言葉や表情を使って気持ちを伝えることが難しいということが分かることがあります。
実際の指導では、あらかじめ用意したイラストを使って今の気持ちを伝える練習や、子どもが伝えたいことをイラストにして教師がホワイトボードに要点をまとめていく、といった子どもが分かりやすい方法を使って相手に何かを伝える方法を身につけていきます。
ほかにも、ADHD(注意欠如多動症)があり、授業の集中力が続かないという子どもの指導例を紹介します。この場合も、保護者の話やこれまでの授業への取り組み方を整理して、授業内容に興味が持てないことで集中が難しいと判明するということがあります。
実際の指導では、授業のルールを守れるように伝え方を工夫しました。子どもの好きなキャラクターがルールを教えるカードを作成することで、興味を持って内容が頭に入るような指導があります。
また、難聴があって授業内容がなかなか聞き取れないという子どもの指導では、視覚的に情報を伝えていく工夫や補聴器などのツールの使い方の指導などをして、学校を卒業してからも役に立つスキルの取得を目指していくという例もあります。
また、通級指導教室の指導は担任のみが考えるのではなく、特別支援教育コーディネーターや通常の学級の担任、校内の委員会など様々な知見のもとに組み立てていきます。
通級指導教室の対象となる子ども
通級指導教室は障害のある子どもが対象となります。
具体的には以下の子どもが対象です。
・一 言語障害者
・二 自閉症者
・三 情緒障害者
・四 弱視者
・五 難聴者
・六 学習障害者
・七 注意欠陥多動性障害者
・八 その他障害のある者で、この条の規定により特別の教育課程による教育を行うことが適当なもの
通級指導教室を利用する流れ
通級指導教室を利用するには手続きが必要です。自治体により流れは異なるので、まずは、在籍する園・学校に相談してください。
通級指導教室のメリットデメリット
通級指導教室は子どもの特性にあわせた指導を受けることができるなどのメリットがありますが、後述するようなデメリットも考えられます。後悔しないためにも、メリットデメリット両方を把握し、子どもの意思の確認や体験などを経た上で判断していくといいでしょう。
通級指導教室のメリット
通級指導教室の大きなメリットでは、特性にあわせた指導が挙げられます。
通常の教室では困難があっても、通級指導教室ではその子どもにとって効果のある方法で指導を受けることができることが可能です。
また、学習だけでなく、生活する中での困難に対しても解消や克服できるような指導が行われるため、学校を卒業した後も役に立つスキルを身につけられることもメリットといえるでしょう。
通級指導教室のデメリット
次に通級指導教室のデメリットを紹介します。
まずは子どもの負担が増えることが挙げられます。通級指導教室の指導は通常の教室に加えて行われる場合があり、授業時間の増加になります。
また、通っている学校に通級指導教室が設置されていない場合はほかの学校に移動することになり、そのことが負担になることも考えられます。
なお、東京都では発達障害のある子どもが在籍している学校で特性などに合わせた指導を受けることができる「特別支援教室」があるなど、自治体によって異なる場合があるなど制度の複雑さもあります。
さらに、移動する場合は保護者が送迎をすることもあり、その時間の確保がデメリットとなることもあり得ます。
ほかにも、通級指導教室は利用したいと思ってもすぐに通えるわけではなく、場合によってはしばらく待つこともあります。
ここで挙げた通級指導教室のメリットデメリットを家庭や子どもの状況と照らし合わせて、判断をしていきましょう。
発達が気になる子どもの相談先
発達が気になる子どもについて、相談できる窓口がいくつかありますので紹介します。
発達が気になる子どもの相談先は以下のような機関があります。
- 教育センター
- 児童相談所
- 保健センター
- 発達障害者支援センター
- 児童発達支援センター
基本的に診断や障害者手帳がなくても相談することが可能なので、生活や学習で困難があるという場合は相談しやすい窓口へ問い合わせてみるといいでしょう。
発達が気になる子どもの学習塾
通級指導教室のほかにも、障害のある子どもの困難を解消するための指導を行なっている学習塾があります。
LITALICOジュニアでは発達の気になる子ども一人ひとりの困りごとに対して、最適な指導を行なっています。
例えば読み書きが苦手な小学生の子どもには、イラストで視覚的に教えるだけでなく、リズムにあわせて言葉を覚えていくといったその子が覚えやすい方法で指導しています。
予定の管理が苦手という中学生の子どもには、生活の中で困ることを書きだして優先順位をつけ、その順位が高いものから取り組んでいく方法を身につける指導例があります。
LITALICOジュニアでは体験授業も受け付けています。子どもが「勉強についていけない」「集団生活が苦手」という方は一度お問い合わせ下さい。
通級指導教室とは?のまとめ
通級指導教室とは、障害により生活や学習で困難がある子どもが、通常の授業とは別にその子にあわせた指導を別の場所で受けることができる制度です。
通級指導教室は通級とも呼ばれ、子どもの特性や状況にあわせて計画を立てて、その子が学びやすい形式で指導を行なっていきます。ただ、移動の負担があるなどデメリットになり得ることもあるため、子どもにあっているかを考え、子どもの意思を尊重した上で選択することが大切です。
通級指導教室のほかにも、特別支援学級など障害のある子どもを対象とした指導がありますので、子どもにとってメリットが大きい場所を選んでいくといいでしょう。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。