子どもがゲームに没頭し、勉強に手がつかなかったり夜更かしをするようになり、言い聞かせてもゲームをなかなかやめない場合などには「もしかして、ゲーム障害なのか?」と心配になる保護者の方もいるかもしれません。

ゲーム障害とは、どのような状態を指すのでしょうか?

この記事では、子どもにとってのゲームの意味や「ゲーム障害」の定義、ゲーム障害の診断基準や症状、ゲーム障害の治し方や相談先などについて解説します。

ゲーム障害とは

「ゲーム障害が新たに『病気』として認められた」ということを聞いたことがある方も多いかもしれません。

 

実際に、疾患の国際的な分類基準の一つであるICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems:疾病及び関連保健問題の国際統計分類)では、2019年に世界保健総会(WHA)で承認された最新版「ICD-11」から、新たに「ゲーム障害」が診断カテゴリとして加わりました。

 

しかしゲーム障害については、統一された見解がまだない状況であるといえます。

 

ゲーム障害については、ICD-11に採用される過程の段階から現在においても、医療関係者やゲーム産業団体、行政の分野などからさまざまな意見が出され、議論が展開されている段階です。

 

例えば、ゲームにより起こりうる影響の大きさを問題視する研究者もいれば、「ゲーム障害が疾患に該当する」という科学的根拠が不十分だと考える研究者もいます。

 

このため本記事では、現在も検討されていることや議論されていることなどを踏まえた「ゲーム障害をめぐる状況」について解説します。

ゲーム障害の定義

WHOはゲーム障害を「スマートフォンやゲーム機などを使うデジタルゲームやビデオゲームに没頭して、生活や健康に支障をきたしている状態」と定義しています。

 

「ICD-11」から新たに診断カテゴリとして加わった「ゲーム行動症」とは英語名「Gaming disorder」の日本語訳ですが、「ゲーム障害」という言葉も同義語として使用できるとされています。

 

ただし、ICD-11で使われている用語の和訳については現在検討中であり、まだ確定していないため、今後変更になる可能性もあります。

 

この記事では、一般に認知度の高い「ゲーム障害」という言葉を用いて説明します。

ゲームとは

次の章で「ゲーム障害」の診断基準を紹介しますが、その前にこの章では、「現代の子どもにとって、ゲームとはどういう意味を持つのか」ということを考えてみます。

 

なぜなら、大人も「ゲーム」についての見方が人により異なるためです。

ゲームとの関わり方は人によりさまざまであるため、ゲームについて肯定的な見方を持つ人もいれば、「ゲームはよくない」と考える人もいるでしょう。

 

しかし現代の子どもたちにとっては、パソコンやスマートフォン、ゲーム機などのデジタル機器は生まれたときから存在している身近なものです。

このような中では、大人が考える「ゲーム」と子どもにとっての「ゲーム」の持つ意味合いが異なる可能性があります。

 

このため、「子どもにとって、ゲームとはどのような存在なのか」をまず知ることで、「子どもがなぜ、ゲームに過度に夢中になってしまうのか」ということを理解しやすくなるでしょう。

 

なお、この記事ではゲーム機やスマートフォン、パソコンなどのデジタル機器を使った「デジタルゲーム」のことを「ゲーム」と表記して説明します。

子どもにとっての「ゲーム」の意味

以前は「ゲームは人に悪影響をもたらす」という論調が目立った時期もありました。

このため、ゲームが人にもたらす影響についての研究がおこなわれてきました。

 

ゲームをしている子どもを見ると「遊んでいる」と思うかもしれませんが、ゲームは子どもにとってさまざまな意味を持つことがわかっています。

 

ゲームには多彩な種類や遊び方があり、オフラインで一人で遊ぶゲームもあれば、オンラインで複数人で遊ぶゲームもあります。

 

子どもたちはゲームの中で、得点を競い合ったり、協力しあったり、時にはリーダー役などの役割分担をおこなうことでコミュニケーションを学び、体験を共有しているといえるでしょう。

 

ゲームが上手な子どもはリアルの世界で同級生から一目置かれるなど、ゲームの世界の出来事が、リアルの世界の人間関係に反映されることもあります。

 

また、ゲームを繰り返しプレイすることで「試行錯誤していく力」がついたり、上達していくことで達成感や自己効力感を得ていることもあります。

 

「ゲームを応用した、ストレスや不安の軽減や社会性の向上のためのプログラムが効果をあげている」という報告もあります。

 

一方、ゲームが人にもたらす悪影響については現在までのところ、統一された見解はありません。

 

しかし、ゲームにはプレーヤーを長時間惹きつけておく要素が数多く盛り込まれているため、時にはゲームの遊び方が問題となる場合もあります。

 

では、どのような場合に問題となるのでしょうか?

次の章では、ゲーム障害の診断基準を紹介します。

ゲーム障害の診断基準と症状

WHOは、以下の項目を満たす場合にゲーム障害と診断されるとしています。

  • ゲームをする時間など、行動をコントロールできない
  • 日常の活動やほかの興味・関心事より、ゲームの優先度が非常に高くなっている
  • ゲームをすることで日常生活に悪影響が出ているのにゲームを続けてしまう、またはさらに熱中してしまう
  • 上記の行動により、学業、家庭生活、人間関係、仕事や健康などの分野に著しい支障が出ている
  • 上記の状態が12ヶ月続いている(症状や影響が深刻な場合は、12ヶ月より短い場合でも診断される可能性がある)

ゲーム障害の症状や影響

ゲーム障害では、以下のような身体症状や生活への影響が現れることがあるとされています。

  • 睡眠障害(朝起きられない、昼夜逆転など)
  • 体力の低下
  • 不規則な食事による低栄養状態
  • 眼精疲労
  • 頭痛、首・肩・背中・手指などの痛み
  • 成績の低下
  • 物を壊す、家族への暴言

ゲーム障害と依存の関係

ゲーム障害は、「依存」という状態であるとされます。

 

依存とは、快感や多幸感、ワクワク感などを追い求める行動がコントロールできなくなる結果、健康や家族、社会的な問題が起こっている状態をいいます。

 

正確には、アルコールやニコチンのように物質が対象となる場合を「物質依存」と呼び、ギャンブルやゲームのように行動が対象となる場合は「行動嗜癖(しへき)」と呼ばれますが、この記事では一般に馴染みが深い「依存」という言葉を使って説明します。

 

依存では特有の症状が現れるとされますが、ゲーム障害の場合は以下のような状態が見られるとされています。

  • 渇望・とらわれ:常にゲームのことを考えている
  • 耐性:ゲームの時間を以前より増やさないと気が済まない。または、より高度なゲーム機器を使わないと気が済まない
  • 禁断症状:ゲームができないとイライラ、ソワソワする、気力がなくなる
  • 再発:一度ゲームをやめていても、再度始めるとすぐ元の状態に戻る

 

しかし、ゲームを長時間しているからといって、ゲーム依存であるとは限りません。

 

例えば、不登校の状態にある子どもが家でゲームばかりしている場合、ゲーム依存の状態になっているために学校に行かなくなった可能性もあれば、なんらかの理由があって不登校の状態になり、ゲームをすることで遠方の友だちとつながることができ、心が救われている可能性もあります。

 

このように、ゲームへの依存はゲーム以外の要因も関係している可能性もあります。

子どものゲーム障害の治し方は?

ゲーム障害はICD-11に掲載されたのが2019年と最近であるため、治療法はまだ確立されていません。

わかっていないことも多く、予防法も確立されていません。

 

現時点では子どものゲーム障害に対する保護者の方の対応として、一般に以下のような方法が推奨されています。

ゲーム障害の背景を考える

ゲーム障害では、「原因がゲームそのものではない場合も少なくない」とする意見もあります。

 

依存の治療では、仮説ではありますが「自己治療仮説」という考え方があります。

 

自己治療仮説とは、「依存の状態にある人は快楽を追求しているのではなく、そもそも何らかの心理的苦痛を抱えており、苦痛を緩和するために自己治療として依存対象に頼っている」とする説です。

 

自己治療仮説をあてはめると、「子どもがゲームに没頭する背景には、子どもが何らかの生きづらさを抱えており、ゲームをすることで苦痛をやわらげている可能性もあるかもしれない」と考えることもできます。

 

例えば子どもが「ゲーム障害」といえるような状態にあったとしても、その背景にADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)のような困難さや、うつや不安などの精神症状があり、その辛さをやわらげるためにゲームに没頭していることもあります。

 

子どものゲームでの遊び方が気になる場合には、まずゲームの遊び方そのものが問題なのか、あるいは子どもが何らかのストレスや、ほかの要因を抱えている結果が、ゲームのし過ぎなのかを探り、必要であれば対応することが対処法として考えられます。

ゲームを取り上げない

物理的にゲームを取り上げることは、事態を悪化させることが多いと考えられています。

子どもの反発を招くことが多く、保護者と子どもが協力して回復のために取り組むことを妨げるためです。

 

「子ども本人が問題を認識し、自らゲームの時間を減らしていくことを大人がサポートする」という方向での取り組みが基本となります。

 

具体的な取り組みの一つとしては、「子どもがゲームの使い方をコントロールする方法を身につけることを、大人が手伝う」ことが挙げられます。

 

例として、以下のような取り組みが考えられるでしょう。

 

  1. 子どもとの会話を増やしていきながら、ゲームについて話し合う
  2. 子どもと一緒に、子どもが納得できる「ゲームの使い方」のルールを決める
  3. ルールで決めた「終わりの時間」がきたら、機嫌よくゲームを終わる
  4. ゲームを機嫌よく終わらせることができるよう、終わったあとにおやつやほかの楽しい活動などの「ご褒美」を与える

ゲーム以外の体験を増やす

ゲーム以外の「楽しみ」や「興味のあること」が増えることが、結果としてゲームをする時間を減らすことにつながると考えられています。

 

例えばゲーム以外のあそびや習い事、ペットの世話、大人と一緒に釣りや旅行をするなど、子どもの好きなことなどからヒントを得ながら、リアルの生活を充実させるような活動を増やすことを考えてみてください。

子どものゲーム障害についての相談先

子どもがゲーム障害の状態にあるように思えても、ゲームの遊び方そのものが問題なのか、それとも背後に別の要因があるのかについては、見極めが難しいことも多いでしょう。

 

また、ゲーム障害には至っていないようであっても「ゲームに過剰に没頭している」ように見えて、対処が必要なのか迷う場合もあるかもしれません。

 

これらのような場合は、以下の機関に相談することができます。

ゲーム障害に対応している医療機関

数は多くありませんが、ゲーム障害に対応している医療機関もあります。

 

例えば新潟県上越市にあるさいがた医療センターでは、ゲーム・インターネット依存症外来を設けています。

 

参考リンク:さいがた医療センター「ゲーム・インターネット依存症外来のご紹介」

 

また神奈川県横須賀市の久里浜医療センターは、2011年に日本初のインターネット依存治療研究部門を立ち上げ、外来診療ではゲーム障害にも対応しています。

 

久里浜医療センターはWebサイトで、ゲーム障害やインターネット・スマートフォン依存の治療を行っている全国の医療機関のリストを公開しています。

課金に問題がある場合の相談先

ゲーム内での課金についても、子どもと話し合ってルールを設定しておくことが望ましいでしょう。

しかし、それでも課金において問題がある場合などには、以下の機関に相談することができます。

  • 消費生活センター
  • 法テラス

精神保健福祉センター

地域により異なりますが、精神保健福祉センターではゲーム障害についての相談を受け付けている場合もあります。

自治体の相談窓口

自治体によっては、ゲーム障害についてのワークショップや回復支援などを行っている場合があります。

お住まいの地域の情報を確認してみてください。

LITALICOジュニア

LITALICOジュニアは、発達が気になる高校生までのお子さんを対象に、放課後等デイサービスや学習塾を運営しています。

お子さんの特性や状況にあわせて個別の指導計画を作成し、最適な学びを提供しています。

 

また、無料相談もおこなっています。

ゲームの使い方について子どもとどのように話しあえばいいのかなど、子どもとの関わり方に悩むときや、ゲームをはじめとする自宅での過ごし方や対人関係などについて不安がある場合などには、お気軽にご相談ください。

ゲーム障害についてまとめ

ゲーム障害は2019年にICD-11に新たに診断カテゴリとして加わりましたが、専門家の間でも議論が続いており、統一された見解や治療法などはまだない状態です。

 

ゲーム障害への対処法では、「子どもがストレスなどを抱えていないか」など、子どもがゲームに没頭してしまうことの背景を見極めて対処する方法などが、一般に推奨されています。

 

対処法に迷った場合や、ゲームそのものが問題なのか、それともほかの要因があるのかについての見極めが難しい場合などには、専門家に相談してアドバイスをもらうことも一つの方法です。

 

LITALICOジュニアでも無料相談をおこなっていますので、お気軽にご利用ください。

  • 監修者

    鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員

    井上 雅彦

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。