子どもが「友だちと遊んでいてもすぐ怒ってしまう」「家庭でも何かのきっかけで怒ることが多い」と悩んでいる方もいると思います。子どもが怒りやすくなること自体は成長の過程でよくあることです。ただ、頻度や程度が激しく困っている方もいるでしょう。その背景には発達障害の特性が関係しているかもしれません。
今回は発達障害のある子どもがすぐ怒る要因と対応方法、改善した指導事例を紹介します。
子どもがすぐ怒る。要因として考えられることは?
子どもがすぐ怒る要因はさまざまなことが考えられますが、その一つに発達障害の特性が関係している場合があります。ここでは発達障害のある子どもを中心に、要因などを紹介します。
発達障害とは
まずは発達障害(神経発達症)について簡単に紹介します。発達障害とは生まれつきの脳機能の偏りにより、物事の捉え方や行動にさまざまな特性があらわれる障害のことです。
発達障害にはADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、LD/SLD(学習障害/限局性学習症)などの種別があり特性が異なっています。
ADHD(注意欠如多動症)
ADHD(注意欠如多動症)は不注意特性と多動・衝動性特性という特性があり、一つのことに注意を向け続けることの困難やじっとしていられない、感情のコントロールが難しいといった傾向が見られる発達障害の一つです。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASD(自閉スペクトラム症)は言葉の遅れや社会的コミュニケーションの困難、特定の物事への強いこだわりなどの特性がある発達障害の一つです。以前は自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などと呼ばれていたものが統合されてできた診断名です。また、視覚や聴覚などが過敏な感覚過敏(またはその逆の感覚鈍麻)がある方もいます。
LD/SLD(学習障害/限局性学習症)
LD/SLD(学習障害/限局性学習症)は読み、書き、計算など特定の学習に関してのみ困難がある発達障害の一つです。
音読みまたは訓読みしかできない、「ぬ」や「め」など似た文字の読み書きを間違えやすい、繰り上がり繰り下がりといった概念の理解が難しいなどがあります。
診断名が同じでも特性の表れ方は人によって異なるほか、ほかの発達障害の特性をあわせもっていることもあります。
気持ちのコントロールが難しい
発達障害のある子どもは、自分の気持ちをコントロールすることが難しい場合があります。気持ちが高ぶったときに自身で落ち着けることが難しく、怒りとして表現されることがあります。
行動や興味の偏りがある
発達障害のある子どもはおもちゃの並べ方や帰り道のルートなど、特定の物事に強いこだわりをもっていることがあります。友だちがおもちゃを動かすなど、こだわっていることが自分の思い通りにいかないと感じたときにカッとなってしまうことがあります。
言葉の遅れがある
発達障害のある子どもは言葉に遅れがある場合もあります。保護者や友だちなどに何か要求したいけれど自分が感じていることをうまく言葉にできないときに、怒りという形で表現されることがあります。
相手の立場を考えるのが苦手
発達障害のある子どもは相手の立場になって物事を考えることが苦手な傾向があります。そのため、何か危険性が伴う行動をしているときに先生などから「危ないからやめたほうがいい」など注意を受けたときに、相手の意図が分からずに怒りにつながることがあります。
その他の要因
ここまで、発達障害のある子どもが怒りやすくなる要因を紹介しました。しかし、発達障害の特性以外にも要因はあります。
例えば、園や学校などの環境がそもそも子どもに合っていなかったり、きょうだいの誕生や引っ越しなど環境が大きく変わったりしたときなども、ストレスを感じ怒りやすくなる可能性があります。ほかにも、怒りとはまた別の理由で園や学校内の人間関係がうまくいっていないことも関係しているかもしれません。
発達障害の特性の影響のほかにも、今例に挙げたような外的要因がないかを確認してみることも大事です。ただ、要因の特定は難しいことも多くあります。家庭だけで抱えすぎずに子どもの発達に関する専門機関に相談してみてもいいでしょう。
すぐ怒ることのある子どもへの対応方法
ここでは、子どもが何かのきっかけですぐ怒って困っている場合にできる対応方法をいくつか紹介します。
ただ、対応方法は子どもの年齢などによっても異なり、例えば2,3歳の子どもは怒りがコントロールできないことが一般的です。年齢や発達段階に合わせて、まずは最初に紹介する「環境を整える」ことを優先的に実践してみるといいでしょう。
怒りが誘発されにくい環境を整える
保護者など周りの人が、その子にとって怒りが生じにくいような環境を整えていく方法があります。
例えば、遊びの途中で中断されるとすぐ怒る子どもの場合は、事前に終了の時間を視覚的に伝えておくなどがあります。言葉で伝えるだけだとイメージがわかない場合があるので、時計のイラストなどを用いて目で見て分わかるようにするといいでしょう。
感情を認識できるようにする
怒りの感情をコントロールできるようにするためには、子どもが自身の感情を認識することが大事です。感情を認識していくために、段階別に怒っている顔のイラストなどを用いて「今の自分の感情はどのくらい」ということを把握する練習をしていくといいでしょう。
怒りへの対処法を身につける
感情を認識できるようになってきたら、怒りの程度に応じて落ち着くための対処法を身につけていくようにしましょう。対処法としては、「深呼吸をする」「その場を離れる」「手や足など体を動かす」などがあります。いろいろ試してみて、子どもに合った方法を探していきましょう。
感情の伝え方を練習する
怒り以外の方法で感情を伝える練習をしていく方法もあります。子どもが自分の要求を言葉にできるようになれば、怒りという手段をとる必要性が低くなるためです。ただ、年齢などによってはすぐには難しいと思いますので、無理のない範囲で取り組んでいくといいでしょう。
すぐ怒ることのある子どもへの指導事例
ここではLITALICOジュニアで実際におこなった、すぐ怒ることで困りごとのあった子どもへの指導事例を紹介します。
Aくん(小5)の指導事例
Aくんは学校で嫌なことがあるとイライラして教室を飛び出してしまうなど、感情と行動のコントロールがうまくいかないことが多く、LITALICOジュニアに通いだしました。
LITALICOジュニアではまずAくんがなぜ怒るのか把握していくことに。そうすると、Aくんは自分の気持ちがうまく認識できていなかったことと、何か言いたいことがあっても表現方法が分からず「どっちでもいい」と答えてしまうことが多いことが分かりました。さらに「どっちでもいい」と言った後の相手の選択に対して納得いかないと再度怒りが強くなる様子もうかがえました。
そこで、LITALICOジュニアの指導では5段階に分けて怒っている顔のイラストを使い、これまでイライラしていた場面の自分の気持ちを把握することから始めました。そして、気持ちを把握できるようになってからは、言葉で伝えられるように指導員と1対1で「~したい」「~してほしい」と伝えられるように練習を重ねました。
最初はどの場面でも5(MAX)のイライラ度合いと表現したAくんですが、何度も取り組むうちに1~5の中でそのときの状況に合わせたイライラ度合いを把握できるようになってきました。学校でも怒りの感情がわいてきたときにも、先生に相談することができるようになりました。
Jくん(年長)の指導事例
年長のJくんはADHD(注意欠如多動症)の診断を受けており、自分の思いどおりにならないことや見通しが立たない場面があると怒ってしまうことが多くありました。保護者の方が小学校入学を見据えてLITALICOジュニアに相談し、利用することとなりました。
Jくんは視覚的な情報処理が得意だったため、主にイラストを使って指導を行っていくことに。まずは表情の書かれたイラストを用いて「自分の気持ちを把握する」練習をし、のちに「相手の気持ちを表情から察知する」練習も行っていきました。
同時に、イラストを使って事前にルールを伝えたうえで、ルールと違った行動をしたいときは、怒りではなく挙手をして「~してもいいですか?」と許可を取る練習も行っていきました。
その結果、自分の気持ちと周りの状況の両方を把握することができるようになり、何かあったときも怒りではなく挙手をすることが身についていきました。
また、サポートブックを使ってLITALICOジュニアの指導内容やJくんの様子を小学校にも共有するなど、連携して就学準備を進めていきました。
LITALICOジュニアの指導
LITALICOジュニアでは、怒りへの対処法など子どもの困りごとに対して、一人ひとりの特性や性格などに合わせて、オーダーメイドの指導を行っています。
通所受給者証をお持ちの方が利用できる「児童発達支援」「放課後等デイサービス」のほかにも、どなたでも利用できる「幼児教室」と「学習塾」があります。
子どもが「すぐ怒るので困っている」「よく友だちとトラブルを起こす」などで悩んでいる方は、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ
発達障害があるすべての子どもが怒りやすいというわけではないのですが、怒りやすい背景として発達障害の特性が関係していることがあります。要因は人によって異なりますが、「感情のコントロールが苦手」「特定の物事への強いこだわり」などの特性と状況の兼ね合わせで怒りやすくなっていることが考えられます。
対処法としては感情を認識し、自分に合った落ち着く方法を身につけていくことがあります。また子どもの年齢などによっては、まずは怒りが誘発されにくい環境を周りが作ることが大事となります。
家庭だけで対応するのが難しいと感じたときは、ぜひLITALICOジュニアにご相談ください。