子どもが自分の考えをなかなか言葉にしないことに悩んでいる、という保護者もいると思います。考えていることがあっても言葉で伝えないと、周囲も考えや困りをくみ取れないこともありますし、子ども本人も伝わらないことで困ったり、ストレスが生じたりするかもしれません。
言葉にするのが苦手な要因の一つに、発達障害の特性が関係している可能性もあります。
今回は要因として考えられることや対応方法、実際の指導事例を紹介します。
発達障害のある子どもが考えを言葉にできない要因
考えを言葉にできない要因にはさまざまなことが考えられますが、その一つに発達障害の特性が関係している可能性があります。
今回は、発達障害がある子どもを中心に、考えを言葉にできない要因や対応について紹介します。
発達障害とは
発達障害(神経発達症)とは、先天的な脳機能の偏りによってさまざまな特性が生じる障害のことです。ADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、LD・SLD(限局性学習症)などの種別があります。診断名が同じでも、人によって表れる特性は異なってきます。以下に考えをうまく言葉にできないことと関係するものを紹介します。
- ADHD(注意欠如多動症):不注意や多動・衝動性という特性があり、注意力の持続の困難や衝動的な言動が見られる
- ASD(自閉スペクトラム症):言葉の遅れや社会的コミュニケーションの困難、特定の物事への強いこだわりなどが見られる
- LD・SLD(限局性学習症):読み、書き、計算など特定の分野にだけ困難が見られる
- 知的発達症:論理的思考や問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校や経験での学習に関わる全般的な知的発達に遅れが見られる
- 言語症:話す、書く、手話などの言語の習得や使用に難しさがあり、言葉の理解や表出に困難が見られる
言葉の遅れがある
発達障害のある子どもは特性に関連して同年代に比べて言葉の発達が緩やかな場合があり、語彙力が少なかったり、文にできなかったりすることで、頭で考えていることがあってもそれをうまく言葉にして説明できない場合があります。
話す内容を整理することが苦手
発達障害のある子どもは特性に関連して、話を順序だてて整理したり、要点をまとめたりすることが苦手という場合があり、考えた順にしか話せないので伝わりにくかったり、まとまらないので話すことをあきらめてしまったりすることもあります。
失敗体験から話すことに抵抗がある
発達障害のある子どもは、言葉の遅れや話す内容の整理の苦手さなど特性に関わる困りから、うまく言葉にすることができない、話しても伝わらない、あるいは指摘されるといったことが多くおきてしまうと、「またうまくいかない」「どうせ伝わらない」と話すこと自体に抵抗感を覚え、避けてしまうようになる場合もあります。
その他の要因
発達障害のある子どもが考えを言葉にできない要因を紹介しましたが、それ以外にも要因は考えられます。
発達障害以外の障害が要因となることもあれば、障害や疾患などではなく園や学校などの環境が子どもと合っていない場合もあります。発達障害以外の可能性も考慮し、迷ったときは抱え込まず専門機関に相談してみるといいでしょう。
考えが言葉にできない子どもへの対応
ここでは、子どもが考えを言葉にできない様子がある時の対応方法を紹介していきます。
話しやすい雰囲気を作る
子どもが話すことに抵抗がある場合は、それを取り除くような雰囲気を作っていくことが大事です。
話しやすい雰囲気づくりとして、
- 子どもが話そうとしているときに急がさない
- 質問するときは一つずつにする
- イラストなど視覚的に分かりやすいものを混ぜてコミュニケーションする
などの方法があります。
興味関心に合わせた話す工夫をする
子どもの興味関心に合わせて、話す必要性や自主的に話したいと思うような工夫をしていく方法もあります。
子どもの好きなおもちゃであそびながら話をしたり、好きなゲームやアニメのキャラクターのことを質問したりと会話をすること自体が楽しいと感じられるような話題選びをしていくといいでしょう。
一度文章化してから話すようにする
順序だてて話すのが苦手な場合は、一度文章化してから話すように促してみる方法もあります。その際は白紙に書くのではなく「誰が」「何を」などの5W1Hの枠を作って、整理しやすくなるような工夫もあります。
また、文章以外にも話したことを録音して聞いてみる、図やイラストなどで整理してみるなどの方法もあります。いろいろ試してみて、どの要素があれば話を組み立てやすいか探っていくといいでしょう。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)などのプログラムを受ける
SSTとは、ゲームやロールプレイなどを通して対人関係など社会生活で必要となるスキルを学んでいくプログラムのことです。考えや気持ちを言葉にする方法も学ぶことができます。
SSTは医療機関や児童発達支援事業所、放課後等デイサービスなどで受けることが可能です。考えを言葉にするためのプログラムはほかにもあり、SST以外の名称で実施されている場合もあります。内容はさまざまなので、気になるプログラムがあったら子どもに合うかどうか問い合わせてみてもいいでしょう。
考えが言葉にできない子どもへの指導事例
ここでは実際に考えを言葉にすることが難しかった子どもへの、LITALICOジュニアの指導事例を紹介します。
Aさん(中2)の指導事例
Aさんは中学校になってバレーボール部に入ってから、うまく考えを言葉にできないという場面が増えてきたことが悩みとなり、LITALICOジュニアへ通い出しました。
LITALICOジュニアでは、Aさんの好きなことを通じて考えを言葉にする練習をしていきました。
AさんはK-POPが好きだったのでK-POPの雑誌を見ながら、分からない言葉を辞書で調べてノートにまとめていくことに。また、指導員がK-POPについて積極的に質問していき、会話自体を楽しいと思えるような関わり方をしていきました。
それとともに「誰が」「何を」などが書かれたシートを使って、考えていることを文章にしてから話す練習も実施。Aさんは書くことで視覚的に振り返りがしやすいと話し、このやり方が合っているようでした。
利用当初はうまく言葉にできず苦笑いでごまかすこともありましたが、練習を重ねていくことで次第に会話がスムーズになり、担当の指導員以外にもK-POPのことを積極的に話すようになり、学校の部活でも考えを整理して話すことができるようになっていきました。
LITALICOジュニアの指導
LITALICOジュニアでは、言葉がうまく出ない、失敗体験から会話を避けているなど、子ども一人ひとりの困りごとや性格、特性に合わせてオーダーメイドで指導を行っています。
通所受給者証をお持ちの方が利用できる「児童発達支援」「放課後等デイサービス」と、通所受給者証がなくても利用できる「幼児教室」「学習塾」があります。
子どもが「考えをうまく言葉にできない様子がある」「友だちとのコミュニケーションに困っている様子がある」と悩んでいる方はぜひ一度お問い合わせください。
まとめ
子どもが考えを言葉にすることができないのには、さまざまな理由が考えられますが、発達障害の特性が関係している場合もあります。
言葉の遅れや考えを整理することができないことでうまく言葉にできず、そういった経験が多くなることで話すことへの抵抗感が生じているのかもしれません。
対応方法として子どもが話しやすいような環境を整えたり、SSTなど言葉に関するプログラムを受ける方法があります。
LITALICOジュニアでは、一人ひとりの具体的な困りごとや状況に合わせてオーダーメイドの指導を行っています。気になる方はお気軽にご相談ください。