相手が嫌がっているのに近づきすぎてトラブルになるなど、子どもが人との距離感が分からないことで困っていて、「発達障害があるのでは?」と考えている保護者の方もいると思います。
もちろん、人との距離感が分からないことが必ずしも発達障害が原因ではありませんし、発達障害がある人が必ず距離感が分からないわけでもありません。しかし、発達障害の特性が要因の一つになっていることも考えられます。
今回は距離感がわからない子どもの要因や対応方法、実際の指導内容を紹介します。
発達障害のある子どもが距離感が分からなくなる要因
子どもが人との距離感が分からないことの要因に、発達障害の特性が関わっていることがあります。子ども本人は「友だちと関わりたい」と思っての行動であっても、距離感を測るのが難しく結果としてトラブルになっていることも考えられます。まずは、発達障害の特性と距離感の関係について紹介します。
発達障害とは
発達障害とはASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、SLD/LD(限局性学習症/学習障害)などの種別がある、先天的な脳機能の障害です。種別によって特性が異なりますが、完全に分けられるわけではなくそれぞれの特性が重なり合っていることが多いと考えられています。
- ASD(自閉スペクトラム症):社会的コミュニケーションや対人関係の困難、興味関心の偏り、感覚過敏(または鈍麻)などの特性がある
- ADHD(注意欠如多動症):注意を持続するのが困難な不注意、じっとしていることが難しく衝動的な言動をすることがある多動・衝動性特性がある
- SLD/LD(限局性学習症/学習障害):読む、書く、計算(推論)など特定の学習にのみ困難がある
もちろん、発達障害の特性があるからといって、距離感が分からないとは限りませんが、一つの要因となっている可能性があります。
適切な距離感を知らない
人には快適に過ごせるパーソナルスペースと呼ばれる距離感があります。パーソナルスペースは文化圏や個々人によって異なるほか、相手との関係性や状況によっても変わるなど、非常に複雑なものです。そのことを知らないため、友だちとも距離を取りすぎたり逆に近づきすぎるなどにつながることがあります。
表情などから距離感を察することが苦手
発達障害のある方は、相手の表情や雰囲気から情報を読み取ることが苦手な場合もあります。相手が嫌がっていてもはっきり口に出さないため、その感情を読み取ることができないことで、距離感を調節することができずトラブルにつながるなども考えられます。
距離感が分からない子どもへの対応
ここでは、子どもが距離感が分からないために困りごとがある場合の対応方法を紹介します。
距離感を具体的に示す
距離感について知識がない場合は、パーソナルスペースなど適切な距離感について子どもに分かるように具体的に示す方法があります。
「手を伸ばした距離」など実感として分かりやすい表現で示したり、相手との関係性や場面による距離感の違いをイラストや図、ビデオなど視覚的な情報にすると伝わりやすくなる子どももいます。
表情を読む練習をする
表情から相手の感情を読むことが苦手な場合は、表情の描かれた絵カードなどを使う方法もあります。指導員などと一緒に提示された表情から感情を読み取る練習をしていくことで、実際の人間関係でも相手の表情などから距離感を調節していく練習です。
具体的な場面を設定して練習をする
相手との距離感は状況によっても異なるため、実際に具体的な場面を設定して練習する方法もあります。例えば過去にその子が困った場面を再現して、指導員と一緒に距離感は適切だったか、どう調節したらよかったかといったことを考えていくやりかたです。
周りと協力して進めていく
ここまでは距離感を学んでいく方法を紹介しましたが、距離感は園や学校のクラスなど周りの人たちと一緒に作っていくものです。そこで、クラスメイトにも本人の特性に合わせた関わり方を伝えて協力してもらうことも大事です。
例えば表情だけで伝えずに、「今は1人で遊びたいの」と言葉にしてもらうことや、教室内の約束事として「丸印を付けた席に座って遊ぶ」と決めるなどがあります。こういった対応を希望する方は、まずは園や学校の担任と相談してみるといいでしょう。
距離感が分からない子どもへの指導事例
ここでは距離感が分からずに困ることがあった子どもに対する、LITALICOジュニアの指導事例を2つ紹介します。
Aさん(小4)
小学4年生のAさんは距離感が分からずつい近づいてしまい、対人関係でトラブルになることも多く、保護者が相談してLITALICOジュニアに通い出しました。
Aさんはパーソナルスペースなど人との距離感について知識がなかったため、まずは動画を見ながら具体的な距離感を学んでいくことにしました。動画は2人の人がさまざまなシチュエーションで演じている内容で、Aさんは指導員と一緒に見ながら距離感のポイントを学んでいきました。
知識として距離感について学んだ後は、ほかの子どももいる集団活動の場でゲームやインタビューなどを通して実践していくことに。その最中に距離感がつかめていない場面があったら、指導員が伝えて一緒に「どうすればよかったか」を考え、具体的に「この場合は手を伸ばした距離感がよかった」など言葉にしていきました。
その結果Aさんは状況に応じて人との距離感を測ることが、段々とできるようになっていきました。
Yさん(中1)
中学1年生になったYさんは、以前より相手の表情から喜怒哀楽を読み取ることが難しくなり、嫌がられても接近してさらに嫌がられるなどの経験があり、悩んでいたことからLITALICOジュニアの利用を開始しました。
Yさんは言葉を言葉通り受け取る傾向があったため、LITALICOジュニアでは動画を使って、指導員と一緒に場面ごとの距離感を考えていきました。特に場面の状況と相手の声のトーン、表情による距離感の違いを重点的に学びました。
それとともに、保護者もLITALICOジュニアでペアレント・トレ-ニングを受け、家庭でも同様のトレーニングを実施していくことに。練習を重ね距離感を学ぶことができたことで、Yさんの気持ちも落ち着き、友だちとの関係も良好になっていきました。また、その後は対人関係でつまづいたときも家庭内で振り返りをするという習慣もできたそうです。
LITALICOジュニアの指導
距離感が分からないといっても、その要因はさまざまで適切な対応方法も状況によって異なります。LITALICOジュニアでは困りごとに対して、一人ひとりの性格や特性に合わせたオーダーメイドの指導を行っています。
LITALICOジュニアは全国に展開しており、通所受給者証をお持ちの方が利用できる「児童発達支援」「放課後等デイサービス」とお持ちでなくても利用できる「幼児教室」「学習塾」があります。
子どもが「友だちとの距離感で悩んでいる様子がある」「クラスでトラブルとなることが多い」といった方は、ぜひ一度お問い合わせください。
まとめ
発達障害のある子どもの中には距離感が分かりづらく対人関係で悩んでしまうことがあります。その背景には、適切な距離感を知らないことや相手の表情などから嫌がっているのを読み取れないことなどが考えられます。
対応方法としては、距離感を具体的に伝えることや場面ごとに一緒に考えていくなど本人が距離感を学ぶことや、周りに特性やしてほしい対応を伝えて協力してもらうなどがあります。
LITALICOジュニアでは距離感による困りごとについて、子どもの性格や特性に合わせた指導を行っています。家庭内で解消が難しいと感じた際はぜひご相談ください。