
子どもが作文が苦手で「小学生の作文ってどうやってフォローすればいいの?」「文章を書くこと自体が苦手で進められない」「発達障害があるのかもしれない」などと悩んでいる保護者もいます。
特に学校教育における作文は、自由な表現活動というより側面よりも、意図に則した文章を書くことを求められる場合が多く、難しいと感じる子どもも多くいます。
今回は作文を苦手に感じる原因や対処法、LITALICOジュニアでの指導事例を紹介します。
作文が苦手な原因

ここでは考えられる3つの要因について解説します。
自分の感情や意見を表現することが苦手
作文は「表現」することの一つの形ですが、「表現」自体が苦手な場合、例えば会話や口頭での説明などでも伝わりにくかったり、必要な部分が欠けていたりなどが生じます。作文に限らず、伝えることに苦手さがある場合には下記の3つの要因などが考えられます。
語彙が少ない
子どもの語彙が少ない場合、何かを感じても、それを適切な言葉に当てはめることができないことがあります。実際には感情がたくさん動いていても、結果的に「〜が楽しかった」「〜がすごいと思った」など同じパターンの文章でしか表現できない可能性があります。
体験したことを伝わるように説明することが苦手
5W1H(いつ、どこ、だれ、なに、なぜ、どのように)の要素が欠けていたり、話題が転々としてしまい、分かりにくい説明になってしまう場合があります。
ほかにも、起承転結のような話の流れがなく、一部だけにフォーカスした内容になってしまい、伝わりづらいケースも考えられます。
体験したことを記憶したり、思い出したりすることが苦手
作文を書くためには、体験した事実を記憶し、それらを思い出しながら書き進める必要があります。
体験したことを適切に思い出すには「長期記憶」と「想起」という力が必要になります。長期記憶は、「覚えること、覚えておくこと」、想起は「思い出せること」に関するスキルです。これらが苦手な子どもの場合、そもそもしたことを覚えていない、思い出せないといった難しさを感じる場合があります。
また、これらのスキルと共に必要なのが「ワーキングメモリ」です。これは「思い出す、テーマを覚えておく、話の流れを考える」といった複数のタスクを並行しておこなう際に求められるスキルです。例えば、ワーキングメモリが低い子どもの場合、口頭で話す場面でも、前提となるテーマ(何について話しているのか)が抜けてしまい、発したキーワードから話が転々としてしまう(連想ゲームのように話が進む)ことがあります。
表現する内容を見極めたり、使い分けることが苦手
次に考えられるのは、自分の感じたことを自由に表現することはできるものの、そのいくつかある感情や意見の中から、求められているものを見極めたり、文脈に合わせて使い分けることが苦手なケースです。このような子どもには下記2つの要因が考えられます。
興味関心の幅が狭い/伝える・共有することが苦手
作文では、求められるテーマに沿って書く場合なども多くあります。しかし、テーマに合わせて書くことが難しく、自分の書きたいことや、言いたいことに内容が偏ってしまったり、興味ないテーマの場合には書きたくないと感じる子どももいます。
また、楽しいという感情を人と共有すること自体がまだ少なかったり、楽しいという感情が湧きにくい場合には、わざわざ書いて伝えたくない、伝えられないというケースが生じることもあります。
何を、どのように書けばいいかが分からない
作文では大きなテーマや、大枠はあるものの「何を書くかは自由」といった場合も多くあります。例えば日記のようなものは、出来事の中で自由に内容が選べ、何を書いてもよいですが、このように枠がない場合や緩やかな場合に、何を書いていいか分からなくなってしまう、という場合もあります。
「書く」行為そのものが苦手
作文が苦手な場合、「書く」という行為そのものに難しさを感じている可能性があります。
例えば、SLD(限局性学習症)の種類の一つに、ディスグラフィア(書字障害)という特性があります。これは、文字や文章を書くことに困難が生じる症状で、文字を書くことだけがうまくできない様子がある場合は、ディスグラフィアが関係している可能性があるかもしれません。
文字を書くとき、私たちは文字の形や大きさ、ほかの文字との違いなどを識別して書いています。しかし、ディスグラフィアのある子どもはこれらの識別が苦手なため、言葉と意味を理解していても、その文字を正しく書けないなどの困りごとにつながります。
また、鉛筆を正しく持つことや適度な筆圧で書くことなど、書くことの運動の側面が影響している場合もあります。なかなか早く書けない、書くのにかなりの努力や集中がいるとなると、作文など長い文章を書く場合には子どもにとって、負荷がかなり大きくなってしまいます。
ほかにも、文字自体は書けていても、「字が汚い」「丁寧に書きなさい」などと注意されたり、作文の独自のルール(文頭は一文字下げる、句読点の禁則など)に対応できずに、「書く」という行為自体が苦手になる場合もあります。
作文が苦手な子どもへの対応方法

ここでは、子どもが作文が苦手で、困りごとがある場合の対応方法を紹介します。
自分の感情や意見を表現することが苦手な子どもの場合
語彙が少ない子どもの場合
語彙カードや類義語辞典、インターネット検索などのツールを使うことで、自分の気持ちに近い言葉を見つけやすくすることができます。
例えば「楽しい」の類義語を調べると「うれしい、明るい、愉快、おもしろい、小気味よい」など選択肢が出てくるため、より自分の心情に近いものを選びながら、その違いをインプットしていくことができます。
体験したことを、順序立てて説明することが苦手な子どもの場合
いきなり書き始めるのではなく、「いつ」「どこで」「誰が」「何をして」「どう思ったか」など作文に必要な要素を、保護者や先生と会話しながらアウトプットしていくことからスタートし、次は時系列に沿って並び替えることで、作文として組み立てていくこともできます。
会話の際には、ホワイトボードや紙に書き出しておくことで、最終的に作文にまとめやすくなります。
体験したことを記憶したり、思い出したりすることが苦手な子どもの場合
メモが取れる場合には、体験中や体験した直後に簡単にメモを取っておくことで、文字で記憶を補完することができます。メモを取ることが難しい場合は、活動中に動画や音声、写真で記録することで、情景を思い出しやすくなるケースもあります。
表現する内容を見極めたり、使い分けることが苦手な子どもの場合
興味関心の幅が狭い/伝える・共有することが苦手な子どもの場合
「はじめ」「なか」「おわり」など作文の基本的な構造を説明し、それぞれにどんな内容が入るのかを確認してから書き始めることで、書きやすくなる場合があります。
ほかにも、一般公開されている読書感想文、起承転結が見えやすい物語など、型が分かりやすい例文を読むことで、作文のイメージを掴んでおくことも大切です。
何を、どのように書けばいいかが分からない子どもの場合
作文の課題が出た際には、自由に書いていいのか、文集やコンクールなど、あらかじめ想定されている主題やシナリオがあるのかを事前に確認し、そのうえで活動に参加することで、作文が書きやすくなる場合があります。
例えば修学旅行の感想文であれば、求められるストーリーはある程度決まっているため、「訪れる観光名所の中で一つだけ注力する場所を選び、そのときはガイドの方のお話をメモしておく」など具体的に意識する点を決めておくと、本人の興味の有無に左右されずに、求められる作文を書きやすくなります。
「書く」行為そのものが苦手な子どもの場合
「書く」という行為そのものが苦手な子どもに無理に書かせようとすると、余計に拒否感が強くなったり、表現すること自体を楽しめなくなるというリスクがあります。
そのため、手書きである必要がないのであれば、タイピング、音声入力、ボイスメモなどを利用することで、子どもの困難さを低減できる可能性があります。
作文が苦手な子どもへの指導事例

ここでは作文が苦手な子どもに対する、LITALICOジュニアの指導事例を紹介します。
Aさん(中2)の事例
作文だけでなく、口頭でも自分の主張を分かりやすく伝えることが苦手だったAさん。部活のチームメイトとの関わりでも、スムーズに主張を伝えられずトラブルになることがあり、LITALICOジュニアの利用を開始しました。
実際の指導では、苦手意識のある「作文」からはじめると抵抗感も強まると考え、指導員と楽しく会話することからスタートしました。
会話のお題も、最初はAさんの興味関心を軸に「推しに関する〇〇」など、本人が自然と話たくなるものを選び、その中で「もっと分かりやすく伝えたい」という気持ちを引き出しました。
会話した内容はホワイトボードに書き出し、会話の最後に、書き出したすべての情報の中から、特に伝えたかった要素を「はじめ・なか・おわり」の構成で伝えるという練習をしました。
実際に使用したのは以下の教材で、慣れてくると、このフレームがなくても自分の意見を分かりやすく伝えることができるようになり、同時に、学校で作文を書く場面でもスムーズに取り組めるようになりました。
まとめ

今回ご紹介したように、作文が苦手な要因は子どもによってさまざまです。そのため、一律の対処法があるわけではなく、まずは子どもの様子を観察し、必要なサポートを見極める必要があります。
一方で、過度に「求められる作文」に順応しようとすることで、かえって苦手意識が増幅したり、表現活動そのものを嫌いになってしまうリスクもあります。
あくまで作文は表現活動の一つであり、作文以外にも、アート、音楽、身体表現など、経験や感情を表現する手段は多くあることを子どもにも伝え、子ども自身が自由に楽しめる方法を見つけるサポートも大切です。
また、本章でも触れた通り、表現するツールも「書く」だけではない多様な選択肢があることを踏まえ、周囲の大人がツールを限定することで、子どもの困りごとをつくってしまっていないか、という視点も忘れずに持っておきたいですね。
LITALICOジュニアでは困りごとは本人だけに起因するものではなく、本人と環境の相互作用によって生まれるものだと考えています。そのため、子どもに合わせたオーダーメイドの指導だけでなく、園や学校、周囲の人にも特性について伝え、過ごしやすい環境をつくる方法も一緒に考えています。
保護者も一緒に学べるペアレントトレーニングという機会もあるため、まずはお気軽にご相談ください。