
「学校に行くのが怖い」「新しい環境で緊張して動けなくなる」「小さなことでも強く心配する」—お子さんにこんな様子が見られると、親として心配になりますよね。
不安は誰にでもある自然な感情ですが、それが強すぎると日常生活に影響を及ぼすことがあります。
この記事では、不安が強いお子さんの心理や背景を理解し、不安そのものと上手に付き合う方法、そして不安から生じる行動への具体的な対応をご紹介します。

すぐ不安になる子どもとの向き合うときに大切にしたいこと
まず大切なのは、不安そのものは人間にとって自然で必要な感情だということ。
適度な不安があるからこそ、私たちは危険を察知したり、大切な場面に向けて準備したりすることができます。不安を感じること自体は、私たちの生活に欠かせない感情です。
不安を完全になくすことが目標ではなく、その不安とどう付き合っていくかを考えることが重要なのです。
不安は、危険を察知したり、準備を促したりする人間の自然な感情です。例えば、テスト前に「ちゃんと勉強しなきゃ」と感じて集中して勉強に取り組んだり、初めての場所で適度な警戒心を持つことで安全に行動できたりします。
このように、適度な不安は私たちの生活にとって必要で有益なものです。
しかし、不安が「強すぎる」と、以下のような状態が現れることがあります。
- 感情面
小さな出来事(例:先生に名前を呼ばれる)に対して強い恐怖や心配を感じる、常に「何か悪いことが起こるのでは」と不安になる - 身体面
頭痛、腹痛、動悸、吐き気、めまい、疲労感など、身体に不調が現れる - 行動面
過剰な確認(例:何度も持ち物をチェック)、回避(例:新しいことに挑戦しない)、フリーズ(例:緊張で動けなくなる)、かんしゃくなど - 生活面
学校に通えない日が続く、友だちとの関わりを避ける、習い事や新しい活動への参加をためらう、日常のルーティンが乱れるなど
このような状態は、お子さんが不安を「コントロールしにくい」と感じているサインです。不安そのものを否定せず、その結果生じる行動にどう対応するかが、サポートの鍵となります。
不安が強い子どもの心理的背景

不安が強くなる背景には、以下のような要因が関わっていることがあります。
1. 気質的な要因・性格的特徴
生まれつきの気質や性格的特徴によって、不安を感じやすいお子さんがいます。
例えば、環境の変化や刺激に敏感に反応する繊細なタイプ、「失敗したらどうしよう」と自分に高い基準を求める完璧主義タイプ、新しいことに慎重で「もしも〜だったら」と心配事を想像しやすいタイプなどが挙げられます。
また、責任感が強く、他人に迷惑をかけることを強く気にしたり、周囲の人の表情や声のトーンに敏感だったりする子どももいます。慣れた環境や決まったルーティンを好み、変化に対して不安を抱きやすい傾向があるのも特徴です。
これらは生まれ持った個性であり、「治すべき問題」ではありません。大切なのは、お子さんの特徴を理解し、その子に合ったサポートを見つけることです。
2. 経験・環境要因
過去のつらい経験や、家庭や学校でのストレスも、お子さんの不安を高める要因になります。
例えば、いじめを受けた、転倒してけがをした、迷子になったといったトラウマ体験、転校や引っ越し、家族構成の変化などの大きな出来事が挙げられます。
また、家庭内で親が忙しかったり、緊張状態が続いていたり、経済的な不安がある場合にも、子どもの不安に影響を与えることがあります。
他にも、親が強い不安を感じていると、子どもも不安を感じやすいという研究もあります。 そのため、保護者自身が自分の状態に気づき、心を整えることもとても大切です。
3.発達特性
発達障害(自閉スペクトラム症、注意欠如多動症など)の特性を持つお子さんは、予測できない状況や変化に対して不安を強く感じる傾向があります。また、周囲の状況を理解するのが難しく、そのことが不安の原因となる場合もあります。
特に自閉スペクトラム症(ASD)と不安症は合併しやすいという研究もあり、発達特性と不安が重なって複合的に影響するケースも少なくありません。
このような場合には、お子さんの困りごとを丁寧に理解し、それぞれのニーズに応じた個別の対応が重要です。
不安が強いお子さんをサポートする方法

不安そのものをなくすのではなく、お子さんが不安と上手に付き合いながら、徐々に自信をつけていけるようサポートすることが大切です。以下に基本的なサポートの姿勢をご紹介します。
1. 保護者自身の気持ちを整える
お子さんをサポートする前に、まず保護者自身の気持ちを整えることが重要です。子どもの不安に共鳴しすぎると、保護者の不安も高まり、落ち着いて対応することが難しくなります。
保護者と子どもの感情の共鳴を理解し、適切な距離を保つ
保護者の感情は子どもにも影響を及ぼす可能性が高いとされています。そのため子どもをサポートする時には「子ども」と「自分」の間に意識的に境界線を引くことが重要です。
- 主語を明確にする
「ママはこう思う」「○○ちゃんはそう思うんだね」と、誰の気持ちなのかを分けて伝えるようにしましょう。 - 経験を分けてとらえる
例えば「怒られたのは子どもであって、自分ではない」と、自分と子どもの出来事を切り離して受け止めます。 - 自分の時間・空間を確保する
自分の気持ちを整理できるよう、少し別の部屋に行く・ひと呼吸おくなど、物理的・時間的な区切りをつくる工夫も有効です。
具体的な気持ちの整え方
- 深呼吸
4秒で吸い、4秒止めて、8秒で吐きます。 - セルフトーク
「子どもの感情と私の感情は別々のもの」と心の中で唱えてみましょう。 - 一時的に距離を取る
必要に応じて1-2分別の場所で落ち着く時間を確保します。
保護者が落ち着いていることは、子どもにとって大きな安心材料になります。適度な共感と冷静さのバランスを保ちながら、「どんと構えている」安定感を示しましょう。
2. 不安を認める・受け止める
お子さんの不安を否定せず、まずは「その気持ちがあること」を受け止めましょう。
- 「緊張するよね」「そう感じて当然だよ」と共感を示す
- 「新しいクラスで不安なんだね」と、子どもの気持ちを言葉にして返す
- 保護者自身も不安を感じた経験を、適切な範囲で伝えることで安心につながります
3. 不安の正体を一緒に探る
漠然とした不安は、より大きく感じられます。具体的に「何が」「どんなふうに」不安なのかを一緒に探ることで、対処しやすくなります。
- 「どんなところが心配?」と具体的に聞いてみる
- 「1から10だと、どのくらい心配?」と数値化してもらう
- 絵や図を使って表現してもらう
4. 安心できる環境と見通しを整える
「何が起こるかわからない」という不確実さは、不安を強める大きな要因です。環境面や情報面を整えることで、安心の土台をつくりましょう。
物理的な環境づくり
- 静かで落ち着ける場所を用意する
- 感覚過敏がある場合は、刺激を調整する
(例:イヤーマフの使用、座席の位置の工夫など) - 「困ったときにはここに来ていいよ」と、避難場所を決めておく
人的な環境づくり
- 担任以外にも、信頼できる大人を学校内で複数確保する
- 家庭と学校が連携し、状況や対応方針を共有する
予測可能性を高める工夫
- 一日の予定をカレンダーや絵カードで視覚的に示し、見通しを立てる
- 変更があるときは事前に必ず伝える(例:「明日は雨だから体育は室内でやるよ」など)
- 新しい場所に行く前に、どんな場所か写真で見せたり、話をしたりする
- 「まず〇〇をして、次に△△をする」と、具体的な手順を示す
- 週の始めに一週間の大まかな予定を伝える
- 初めての活動は、事前に練習やシミュレーションをおこなう
- 「もしも○○になったら△△する」という予備プランも一緒に考えておく
5. 段階的な挑戦をサポートする
いきなり大きな不安に立ち向かうのではなく、小さなステップを踏んで少しずつ慣れていけるようサポートします。
- 不安を感じる場面を、小さなステップに分けて取り組む
(例:登校が難しいとき → まずは校門の前まで → つぎは保健室で過ごす → 教室へ少しずつ) - お子さんのペースを尊重し、無理強いはしない
- 確認行動が多い場合には、徐々に回数や時間を減らしていく
- 回避したい気持ちを受け止めつつ、「少しだけやってみようか」と小さな挑戦を促す
- 「今日はここまでできたね」と、できたことに目を向けて言葉にして伝える
挑戦できたことに対して肯定的なフィードバックをもらえると、子どもは「自分でもできる」という感覚を持ちやすくなります。
6. 自信を育む
「自分でできる」という感覚は、不安に立ち向かう力になります。小さな成功体験を重ね、自信を育んでいけるようにしましょう。
- 「これはできているね」と、日常の中にある“できていること”を見つけて伝える
- 「前はできなかったけど、今はできるようになったね」と成長のプロセスを具体的に言葉にする
- 選択肢を与えて自分で決める機会を増やす(例:「今日はどっちの靴で行く?」など)
- 小さな成功でも大きく褒める
- 失敗しても「挑戦したことが素晴らしい」と、結果ではなく過程に注目する
「できた」「選べた」「伝えられた」という経験が、安心感と自己効力感につながります。
7. 対処スキルを身につける
不安を感じたときに、「自分でできること」があると、子どもは安心しやすくなります。日常の中で使える対処法を一緒に探し、練習しておきましょう。
- 呼吸や身体のリラックス法を教える
深呼吸、筋弛緩法、指先マッサージなど - セルフトークを一緒に練習する
「大丈夫」「落ち着こう」「今できることに集中しよう」など、自分にかける言葉を決めておく - 不安の強さをスケールで表現する
「今の不安は1〜10のどれくらい?」と聞いて数値化することで、自分の状態を見える化 - 安心できるアイテムを持たせる
写真、小さなぬいぐるみ、お守りなど、自分を支えてくれる存在 - パニックになったときの対応を決めておく
「もし固まってしまったら、こうして声をかけてほしい」「このカードを見せる」など、事前の準備をしておく
こうしたスキルは、一度で身につくものではありません。日常の中で繰り返し練習し、安心して使えるようになることを目指します。
不安が強い子どもへの指導事例:感覚過敏から不安を感じる小学3年生のAくん

Aくん(小学3年生)は、視覚・聴覚・触覚などの刺激に過敏に反応する感覚特性がありました。教室の蛍光灯の明るさ、給食時間の食器の音、友だちの話し声など、日常的な刺激でも気になってしまい、集中が難しい様子でした。
困ったときに助けを求められる相手が学校内におらず、家庭以外では一人で抱え込みやすい状況が続いていました。
刺激の多い環境では落ち着かず、不安や緊張が高まって「固まってしまう」「パニックになる」といった反応が見られていました。
支援の内容と成長の過程
1. 困りごとを伝える力を段階的に育てる
Aくんが「困っている」ときに自分の気持ちを伝えられるよう、段階的なスモールステップで支援しました。
第1段階:カードやジェスチャーを使う
言葉で伝えることが難しい場面では、イラストカードやジェスチャーで「イヤ」や「困った」を表現する練習から始めました。
第2段階:短い言葉で気持ちを伝える
「ううん」「やらない」など、シンプルな言葉で拒否の気持ちを伝えられるようになりました。
第3段階:理由を添えて説明する
「〜だからやりたくない」「〜はイヤ」と、気持ちの背景を少しずつ言葉で説明できるようになっていきました。
第4段階:希望や代案を伝える
「〜は使いたくないから△△に変えてほしい」と、自分の希望を伝えながら代替案を提示できるようになりました。
2. 感覚過敏に配慮した環境調整
Aくんが安心して過ごせるよう、物理的・人的な環境の両面から調整をおこないました。
- 静かな場所での活動
音や光の刺激が少ない部屋で活動できるよう配慮したことで、集中しやすくなりました。
- 関わりの距離感を調整
新しい人との関わりには不安が強いため、最初はあいさつだけ。Aくんが自ら話しかけてきたときに応答することで、信頼関係を無理なく築くようにしました。
3. 興味を活かした安心できる活動
Aくんが好きな水族館や動物園の生き物をテーマにした活動を取り入れることで、安心できる環境づくりを進めました。
- 画用紙と写真を使って図鑑を作るなど、好きなことに集中できる時間を確保
- 図鑑づくりの中で「必要な道具を取りに行く」「どれを使うかを選ぶ」といった行動の幅を少しずつ広げました
- 「◎と△どっちがいい?」と選択肢を提示し、自分で選んで決める経験を積み重ねていきました
支援の成果
最初は特定の先生としか関われなかったAくんですが、少しずつ話せる相手が増えていきました。
教室内でも「ぼくは〜したかった」など、自分の気持ちや希望を言葉で伝える場面が見られるようになりました。
環境や関係性に安心感があることで、Aくんは少しずつ行動の幅を広げることができるようになったのです。
まとめ

不安は、本来私たちが危険を避けたり、大切なことに備えたりするために必要な感情です。「不安があること」は悪いことではなく、「どうつき合っていくか」が大切です。
お子さんが不安を抱えるとき、保護者もまた心配や戸惑いを感じるかもしれません。これももちろん自然なことです。
そのような場面では、まずは保護者自身が気持ちを落ち着け、「子どもの不安」と「自分の気持ち」を分けてとらえることが、支援の第一歩になります。
お子さんの不安を受け止め、安心できる環境を整え、小さなステップで挑戦を支えながら、ゆっくりと進んでいくことが大切です。
不安が強い子どもの繊細さは、「困りごと」である一方で、その子の「力」や「個性」として活かせる面もあります。
「不安があっても大丈夫」「助けを求めていい」というメッセージを日々伝えていくことで、お子さんは少しずつ自信を持って、社会と向き合う力を育んでいくでしょう。