お役立ちコラム
順番が待てない子どもへの理解とサポート
2025.09.02公開 / 2025.09.17更新

「うちの子、列に並んでいてもすぐ前へ出ようとする」「おもちゃを順番で使おうと言っても待てない」「順番を待てずに、他のことに興味がそれてしまう」──周りの状況を気にしながら、お子さんへの適切な声かけに悩む場面は珍しくありません。
しかし、多くの場合お子さんがわざと順番やルールを破ろうとしているわけではありません。
実は「順番を待つ」と一口に言っても、求められる力は場面によって異なります。
たとえば、
・会話や遊びの中で交互にやりとりするときの相手の番を待つ場面(交代場面)
・列に並んで待つ、診察やバスを待つといった一定時間待ち続ける場面(遅延場面)
このように「順番を待つ」といっても、その中身が異なる場合もあり、状況によって求められる力は異なります。
さらに、こうした力は、子どもの発達の段階や特性、環境の影響が大きく関わってくるため、「今はまだ難しい」状態であることも少なくありません。
本記事では、この「順番を待つ」という行動を「交代場面」と「遅延場面」の2つに分けて整理しながら、 その背景とサポートのヒントをお届けします。


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そもそも「順番を待つ」ってどういうこと?

「順番を待つ」とは、一見単純な行動に見えますが、実は複数の認知的・社会的スキルが組み合わさった複雑なプロセスです。
ここでは、その性質の違いから交代場面と遅延場面の2つに分類して解説します。
交代場面 ──「順番にやることで活動が成立する」場面
会話やカードゲーム、ジャンケン、ボール投げなど、「交互にやりとりする」こと自体が活動を成り立たせる要素になっている場面です。
このタイプの順番には、次のような特徴があります。
・相手のターンの終了は相手の反応で決まる(例:会話の返答、ゲームの操作完了など)
→相手が話し終える、カードを選んで出す、ボールをキャッチして投げ返すといった、相手の意思や行動によってターンの切り替わりが決まる。相手の行動が目の前で見えるため、「いつ終わるか」が比較的予測しやすい
・活動の成立に“交代”が不可欠
→ 一方的に続けると、活動自体が成立しない(会話にならない、ゲームが進まない)
・所有権の理解
→「今は自分のものではない」という所有権の理解が不可欠。所有の切り替えが短時間で、相手の様子が見えやすいことが多い
・相手を意識した行動の調整と感情のコントロール
→ 「相手が終わってから次にやる」といった判断や、相手のターンの間待つことができる感情のコントロールが求められる
遅延場面 ──「今はできないから、待つ」場面
病院の順番待ち、遊具に並ぶ、バスを待つなど、
“今すぐにはできないけれど、やがて順番が来る”という場面がこちらです。
このタイプでは、次のような特徴があります。
・待つ時間の見通しが持ちにくい
→順番待ちの人数や状況は見えても、実際の待ち時間が予測しにくく、不安や焦りを感じやすい
・所有権の理解
→「今は自分のものではない」という所有権の理解が不可欠。所有の切り替えが長時間で、見通しが立ちにくく、不安や衝動を調整する難しさが増すことが多い
・遅延に耐える感情のコントロール
→交代場面と比べて待ち時間が長くなりやすく、「今すぐやりたい」衝動をより強く、より長くコントロールする必要がある
このように「交代場面」と「遅延場面」では、求められるスキルや苦手の現れ方が異なるため、それぞれの違いを踏まえた支援が重要になります。
また、「今すぐやりたい!」という気持ちが強い子どもにとっては、たとえ「待てばもっと楽しく遊べる」と頭ではわかっていても、待っている間にその楽しみの魅力が薄れて感じられてしまうことがあります。その結果、「ちょっとだけでもいいから今すぐやりたい」と行動してしまうことがあるのです。
「順番が待てない」背景にある様々な要因

「順番を待てない」といっても、その背景は一人ひとり異なります。
ここでは、交代場面と遅延場面のそれぞれで見られる困難の背景を整理します。
交代場面で見られる困難の背景
発達的な要因
相手の意図を理解する力は、4歳台後半から徐々に育っていくと言われています。一つのものを共有して遊ぶことも、この頃からみられはじめます。まだこれらの力が育ち途中の場合、他者の気持ちや意図を汲み取ることが難しく、「自分の番」「相手の番」を理解して行動するのが困難になります。
また、約束を守ったり、集団の中で合わせて活動したりする力も重要です。これらの行動調整力は、5歳台でも2〜3割のお子さんにとってまだ難しいとされており、個人差が大きい分野です。
環境的な要因
上記のような力を学び、発揮し、成功体験を積む機会があるかどうかも大きく影響します。遊びの内容や場面設定によって、学びやすさは大きく変わります。一対一での交代と、複数名で順番にやっていく場面では、難易度が異なるのです。
分かりやすい遊具の設定がないことで、学びにくさが生じる場合もあります。年齢によっては、周りのお子さんもまだ順番を守るのが難しく、「順番を守らないモデル」が周りにあることで、正しい行動が分かりにくくなることもあります。
また、大人が相手の場合、相手が合わせてくれたり譲ってくれたりするため、交代をしなくてもうまくいってしまい、結果として学ぶ機会が適切に生じにくいこともあります。
特性による影響
相手の表情や動きを手掛かりにすることが苦手だったり、順番を覚えておくことが難しかったりする特性が影響することもあります。また、言葉で伝えられた約束事(目で見て確認できない情報)に基づいて行動を切り替えるのが苦手な場合もあります。
遅延場面で見られる困難の背景
発達的な要因
時間の概念は段階的に発達していくものです。「あと5分」「あと3人待ち」といった抽象的な時間や順番を具体的にイメージできるようになるには、まだ時間がかかることがあります。
所有権に関する理解も発達途中の場合があります。「今は他の人が使っている時間」「借りるときは声をかける」といった社会的なルールの理解には個人差があります。
また、報酬への反応の仕方も発達に関わります。「後でいいことがある」という遠い未来の報酬よりも、目の前にある小さな報酬の方が強く働きやすい傾向があるのは、この年齢では自然なことです。
環境的な要因
見通しが持てない状況は、待つことを特に困難にします。時計が読めない、人数が見えない、いつ順番が来るか分からないといった状況では、不安が強まってしまいます。
感覚的な刺激も大きな影響を与えます。音や光、人混みなどの過剰な刺激により、注意が逸れたり、ストレスがたまったりして、待つこと自体が困難になることがあります。
過去の経験も重要な要因です。待っても遊べなかった、順番を飛ばされてしまった、といった「期待が裏切られた」経験があると、「どうせ待っても無駄」と感じやすくなってしまいます。
特性による影響
思ったことやしたいことを即座に行動に移しやすい特性がある場合、「待つ」「よく見てから行動する」といったことに苦手さが生じやすかったりします。
見通しに対する不安の感じやすさも、個人の特性によって異なります。「あとどれくらい?」「順番はいつ?」という先の見えない状況で、不安が高まりやすい場合があります。
感覚への反応の仕方も様々です。周囲のざわつきや刺激によって、待つことが特に困難になりやすい特性を持つお子さんもいます。
順番が待てない子どもの具体的なサポート方法

「順番を待つ」力は、年齢や経験によって徐々に育っていくものです。
一方で、発達の段階や個性、環境の影響によって「今はまだ難しい」状態にある子も少なくありません。
ここでは、交代場面と遅延場面の2つの場面において、子どもが少しずつ“待てる”ようになるための手立てをご紹介します。
交代場面での手立て
交代場面とは、ボールの投げ合いやカードゲーム、会話など、相手と交互にやりとりすることで活動が成り立つ場面です。
このような場面では、「今は相手の番」「交代でやる」ことが分かりやすい環境や関わり方が有効です。
段階的な練習環境を整える
まずは大人と子どもの一対一でのやりとりからスタートします。大人が相手だと、子どものペースに合わせて待ったり、「○○ちゃんの番だよ」などと分かりやすく交代のタイミングを示したりできるため、「できた」という成功体験を積みやすくなります。
次に、子ども同士のやりとりに大人が調整役として入り、言葉で予告しながら仲介します。
最終的に子ども同士で自然に交代できるよう、段階的に練習の場面を増やします。
交代の順番を“見える化”する
色分けした道具を使ったり、順番カード(写真や名前)を提示したりして、「誰の番か」を視覚的に示します。
「○○ちゃんの番だよ」と言葉で予告する
次の行動を先に伝えることで、切り替えがしやすくなります。
ごっこ遊びやロールプレイを通して練習する
一対一でのやりとりからスタートし、徐々に子ども同士で交代できるように練習の場面を増やします。
スモールステップで「できた!」を積み重ねる
1ターン交代できたらハイタッチ、2ターンできたらシールなど、「ちょっとできた」をその場でしっかり承認します。
遅延場面(並ぶ・待つ場面)での手立て
バスを待つ、遊具の順番を待つ、診察を待つなど、「すぐにはできないけれど、そのうちできる」という場面では、時間の感覚や見通し、感情の調整が求められます。
時間の“見える化”と予告
タイマーや砂時計、残り人数のカードなどを使って「あとどれくらい?」がひと目で分かるようにします。
「あと3人で順番がくるよ」といった声かけも有効です。
「待つ間にできること」を用意する(待ち時間の代替行動)
赤いものを3つ探す、静かに遊べるおもちゃを持つなど、「何もせず待つ」よりも、別の活動で気を紛らわせると落ち着きやすくなります。
場合によっては、静かな場所へ一時的に移動し、番が近づいたら戻る──といった柔軟な対応も選択肢になります。
空間を“構造化”する
床にリングを置く・線を引く・待機ゾーンを作るなど、どこにいればよいかが明確になると、行動が安定しやすくなります。
余分な刺激を減らす
ざわついた場所が苦手な子には、イヤーマフや静かな待機場所を用意すると、列から離れにくくなります。
興奮を調整する関わり
水を飲む、少し歩く、軽く体を動かすなど、活動性が高まりすぎたときにはリセットになるような関わりを取り入れましょう。
硬めのお菓子や握るおもちゃを使うことで落ち着きやすくなる子もいます。
共通の視点:「待てた!」を支える仕組みづくり
順番を待てた経験は、子どもにとって大きな達成感になります。
特に大切なのは、「待った先に良いことがあった」というポジティブな経験を積み重ねることです。
- 待てたらその場で褒める(拍手・ハイタッチ・シールなど)
- 待ったことで楽しめた体験を言葉にする(「待ってたから、いっぱい遊べたね」)
- 成功体験を目に見える形で記録する(シール帳・できたカードなど)
こうした積み重ねが、「次もやってみよう」という意欲につながります。
指導事例:順番を待つことが苦手な男の子の例

ここでは、順番を守ることが難しかった子どもへの実際の支援事例をご紹介します。
今回は、交代場面に課題を抱えていた年少の男の子へのアプローチです。
お子さんの様子
Aくん(年少)は、活発で元気いっぱいの性格。何事も「一番」が好きで、園でも「ぼくが先!」「ずっとやりたい!」といった主張が強く、集団遊びでのトラブルが多く見られていました。
ルールのある遊びに入りたくても、「順番」の概念がまだ理解できておらず、交互に遊ぶという感覚が持ちにくい状態でした。
そのため、まずは「交代場面」の基本的なやりとりを習得することを目標としました。
支援の進め方
段階的なステップを踏みながら、以下のような構成で支援を行いました。
ステップ1:交代場面を体験する
「◯◯くんの番」「次は先生の番」といった言葉がけをしながら、積み木を交互に積む遊びを導入。
青い積み木(Aくん用)と赤い積み木(先生用)を使い、視覚的に「交代する」ことをわかりやすく示しました。
ホワイトボードに交互の順で丸(青・赤)を10個描き、青の積み木を置いたら青の丸にシールを貼る、という“ターンの可視化”も取り入れました。
ステップ2:順番の感覚を育てる
活動のたびに「今はだれの番?」と問いかけ、自分で「先生」「ぼく」と答える練習を繰り返しました。
「順番にやることで、どちらも楽しく遊べる」という体験を大切にし、交代ができたら拍手やシールなどで即時に承認。
大人との一対一で安定してきた後、慣れたお友だちと同じ活動を交互に行うよう展開しました。
ステップ3:感情の調整と見通しのサポート
Aくんが「もっとやりたい」と興奮が高まったときには、深呼吸・ジャンプ1回・水を飲むなどの“切り替えの儀式”を入れ、クールダウンの機会をつくりました。
順番がくるまでの「待つ時間」には、絵カードを使って「次はAくんの番」という見通しを提示し、不安や退屈感を減らす工夫も併用しました。
成長の変化
支援開始時は、「交代する」という行動がほとんど見られず、「全部自分がやる」と主張する場面が多く見られました。
しかし、スモールステップで経験を重ねていく中で、少しずつ「順番にやる」ことの意味を理解し、交代のタイミングも自然に身についていきました。
活動中には自分から「今は先生の番だね」と言えるようになり、トラブルも大きく減少。
小集団での遊びにも自信をもって参加できるようになり、周囲の子との関係も安定しました。
「順番を待つ」ことは、Aくんにとって最初は大きな壁でしたが、支援によって「待てたら楽しかった」という経験を積み重ねることで、自発的な行動へと変化していったのです。
まとめ

「順番を待つ」ことは、一見シンプルに見えても、実は多くのスキルの組み合わせによって成り立っています。
大切なのは、「まだ難しい」状態を「わがまま」「ルール違反」と決めつけないことです。
子どもが安心して取り組める工夫をし、小さな成功体験を積み重ねていくことで、少しずつ“待てる力”は育っていきます。
LITALICOジュニアでは、一人ひとりの具体的な困りごとや状況に合わせてオーダーメイドの指導を行っています。「順番が待てない」「集団でのルールが守れない」「お友だちとのトラブルが多い」と悩んでいる気になる方はお気軽にご相談ください。