場面緘黙(ばめんかんもく)の特徴は、家では問題なく会話できるのに、学校や幼稚園・保育園のような「特定の場所」では話せなくなるといった症状が見られる障害のことです。選択性緘黙(せんたくせいかんもく)とも呼ばれています。
場面緘黙の困りごととして、例えば学校では先生から当てられても答えられない、友達から話しかけられても声が出ない、トイレに行きたくても言い出せないなどがよく見られます。
こういった困りごとがあって「家では話すのに」「何が原因なんだろう」「改善方法はあるの?」と不安や疑問がある方もいると思います。
今回は、場面緘黙(選択性緘黙)の原因や症状、治療方法や相談先について解説していきます。
場面緘黙(選択性緘黙)とは
場面緘黙(ばめんかんもく)とは、家の中などで話ができるのに、社会的場面(幼稚園・小学校など)では、上手く話せない症状が続く状態のことです。選択制緘黙とも呼ばれていて、医学的には「不安症群」に分類されます。
ここでいう「場面」とは、「場所」だけでなく、「その場にいる人」や、「活動内容」といった要素も含んでいます。例としては、「家では、親やきょうだいと雑談できるのに、クラスメイトや先生を前にするとまったく話せない」などが挙げられます。
また、「大人しい」や「恥ずかしがり屋」などの性格により引っ込み思案なのとは異なり、本人の意思とは関係なく話せなくなるというのが場面緘黙の特徴です。
緘黙とは?
「緘黙」という言葉はあまりなじみがないかもしれません。まず、緘黙は「かんもく」と読みます。辞書的な意味としては、「口を閉じて何も話さないさま」「押し黙ること」ということになります。
そこから特定の場面で話せないことを「場面緘黙」と呼んでいます。以前は選択制緘黙とも呼ばれていましたが、選択制というと自らが選んでいるというニュアンスになるため、現在は場面緘黙が主に使われています。
また、まれに生活上全てで話さない「全緘黙」の方もいますが、数は少ないと言われています。
場面緘黙(選択性緘黙)の原因
場面緘黙(選択性緘黙)の原因やメカニズムについては、まだはっきりとはわかっていません。
単一の原因によるものではなく、本人がもともと持っている不安になりやすい気質に加えて、心理学的要因や社会・文化的要因など、複数の要素が影響しているのではないかと考えられています。発症のきっかけとして、入園・入学などの大きな環境の変化などによって不安が強くなることが挙げられます。
過程で話すのに園や学校で話さないことから、「親のせいでは」と悩む方もいると思いますが、育て方と選択制緘黙の発症の間には特に関係がないとされています。
また、過去には場面緘黙(選択制緘黙)のすべてがトラウマに関連づけられていたこともありますが、現在ではほとんどの子どもに関係しないことがわかっています。
一方でショックな出来事の後に急激に話ができなくなったり(トラウマ性緘黙)、身体的虐待や精神的虐待がある場合、場面緘黙や場面緘黙に似た状態を示すこともあり、それぞれ分けて支援について考える必要があります。
場面緘黙(選択性緘黙)発症率
場面緘黙(選択性緘黙)の発症率は、調査データによって異なります。
国内でおこなわれた大規模な調査(小学生約14万7千人を対象)では、0.21%という数字が報告されています。他にも調査があり数値にばらつきがみられるため、おおむね約1000人~数百人に1人の割合で発症すると考えられています。
ちなみに、場面緘黙(選択性緘黙)の情報を提供している「かんもくネット」のリーフレットには、「出現率は0.1%~0.5%でやや女子に多い」と記載があります。
場面緘黙(選択性緘黙)を発症しやすい時期
場面緘黙(選択制緘黙)を発症しやすい時期は、2~5歳ごろという調査結果が出ています。ただ、あくまで傾向なので、小学校や中学校になってからも症状が現れる可能性もあります。
また、発症のタイミングとしては入園・入学・転校などの環境の変化が挙げられますが、新年度ではなく年度の途中から生じる場合もあります。
環境だけでなく「教室で先生から強く叱責された」などの出来事がきっかけとなることもありますが、とくに特定のきっかけがないこともあります。
場面緘黙は子どもに多い障害ですが、子どものころに発症してそのまま大人になったり、大人になってから何らかの原因で発症する可能性もあります。
場面緘黙(選択性緘黙)の症状
場面緘黙(選択性緘黙)の主な症状は、冒頭でお伝えした通り、「家の中などでは話せるのに、学校など特定の状況において、声を出して話せない状態が続く」ことです。
ただし、症状の出方は人によって異なり、「友達とは話せるけれど先生とは話せない」「小声であれば話せる」などさまざまです。
また、感情表現がとぼしかったり、動作がしにくいなどの特徴が見られる場合もあります。
場面緘黙(選択性緘黙)の特徴
場面緘黙(選択性緘黙)の特徴は子どもによっても異なるため、ここでは例をご紹介します。
- 親やきょうだい以外とまったく話せない
- 声を聞かれることや注目されることが怖い
- 表情がとぼしく、自分の気持ちを出しにくい
- 決まった台詞(音読など)なら話せる
- 特定の友達とは小さな声で話せる
- 動きがぎこちなくなる
- 人の目が気になってしまう など
場合によっては「わざと話さない」「話したくないだけ」と思われてしまうこともあります。
しかし、本人は「話したくても話せない」のであり、自分の意思で声を出さないわけではありません。そのため、クラスメイトなど周囲の人に理解してもらうことがとても重要です。
場面緘黙(選択性緘黙)と似ている障害
場面緘黙(選択性緘黙)の「声が出ない」という症状は他の障害でも見られることがあります。
例えば、ショックな出来事の後に生じる「トラウマ性緘黙」や、思春期や更年期の女性が発症しやすいと言われている「失声症」などが挙げられます。
どちらも、場面緘黙とは異なるため、治療方法などにも違いがあります。
場面緘黙(選択性緘黙)の診断と治療
場面緘黙(選択性緘黙)の診断基準と治療方法について、解説していきます。
場面緘黙(選択性緘黙)の診断基準
場面緘黙(選択制緘黙)の診断基準は米国精神医学会が刊行している『DSM-5』を基にしています。
診断基準としては、まず家庭などでは話すことができるが、学校などの社会的な場で1ヶ月以上にわたって話すことができず、社会生活に影響を及ぼしている状態であることが求められます。ただ、声を出すことができなくても、指さしや筆談ができる場合もあります。
なお、話すことのできない原因が言葉の知識不足や自閉スペクトラム症や統合失調症などの他の疾患や障害ではないことも基準となっています。
児童精神科などを受診すると、こういった診断基準と子どもの様子を総合的に判断したうえで場面緘黙の診断が行われます。
場面緘黙(選択性緘黙)の治療方法
場面緘黙(選択性緘黙)の症状は、適切な対応をすることで改善できると言われています。
本人にとって不安が低い場面から、少しずつチャレンジしていき、徐々に話したり、活動に参加したりできる状況を増やしていく「行動療法」が行われることが多いと言われています。
場面緘黙の改善には波があり、明確に治ったきっかけなどはなく時間をかけて徐々に改善していくことが多いようです。
そのため、無理に人前で話すことを練習させるのではなく、まずは、学校の支援を受けながら、本人が「安心できる環境づくり」を行って、自然な形で少しずつ取り組んでいくといいでしょう。
また、場面緘黙の要因として明確に不安がある場合などは、薬物療法として不安を和らげる薬を使う場合もあります。
また、場面緘黙は、学校教育においては「情緒障害」に分類されています。
情緒障害は「特別支援教育(困りごとの症状に合わせた指導を受けられる)」の対象となるため、希望する場合は、特別支援学級に通ったり、一部の時間のみ通級指導教室に通って指導を受けたりすることができます。
ただし、治療の進め方や必要としている支援は人によって異なるため、専門家に相談しながら、本人の気持ちを尊重し、治療をしていくことが大切です。
場面緘黙(選択性緘黙)はどこに相談すればいい?
場面緘黙(選択性緘黙)に関する相談先としては、子育てを支援している下記の機関が挙げられます。基本的には、どの機関も地域ごとに設置されています。
- 市町村保健センター
- 子育て支援センター
- 児童相談所 など
さらに、場面緘黙(選択性緘黙)をサポートしている民間の団体もあります。
例えば「かんもくネット」では、場面緘黙(選択性緘黙)に関するわかりやすい資料を公開したり、保護者や本人に向けて情報を発信したりしています。
場面緘黙と発達障害の関連性について
場面緘黙(選択性緘黙)の症状が見られる子どものなかには、発達障害の特性がある子どももいらっしゃいます。
発達障害には下記3つの種類があります。
- ASD(自閉スペクトラム症)→対人関係の困難さや限定された行動や興味がある
- ADHD(注意欠如多動症)→不注意や多動性、衝動性がある
- LD・SLD(限局性学習症)→知的発達に遅れはないものの、読み書きや計算に困難がある
発達障害がある場合は、場面緘黙(選択性緘黙)の治療を受けるだけでなく、特性に合わせたサポートが必要であるため、発達障害を支援している機関へ相談しましょう。
発達障害のある子どものための支援機関
発達障害のある子どもや家族のための、支援機関としては「発達障害支援センター」や「児童発達支援センター」などが挙げられます。
その他、発達の気になる子どもが通える教室も含めて、順番にご紹介していきます。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害のある子どもやその家族を支援する機関です。
医療や教育、保健や福祉、労働などの関係機関と連携しつつ、発達障害に関するさまざまな相談にのったり、必要に応じて助言をしたりしています。
ただし、支援内容の詳細は発達障害者支援センターごとに異なります。
まずは、国立障害者リハビリテーションセンターの「発達障害者支援センター・一覧」ページから、自宅付近にあるセンターを見つけて、詳細をチェックしてみましょう。
児童発達支援センター
児童発達支援センターは、障害のある子どもへの児童発達支援を提供している支援機関です。
児童発達支援では障害や、発達の気になる子どもたちが通いながら、日常生活における基本的な動作やコミュニケーションなど自立に向けて必要な知識や技能を学ぶことができます。
児童発達支援は未就学児が対象ですが、学校に通っている子どもを対象とした放課後等デイサービスもあります。
発達の気になる子どもの学習塾
場面緘黙(選択制緘黙)のある子どもは、発達の気になる子どもが通える幼児教室や学習支援教室も活用できます。
例えば、LITALICOジュニアでは、0歳~18歳の子どもに向けて、発達支援の学びを提供しています。まず、発達が気になるといっても、「言葉の遅れが気になる」や「同年代の子よりも学習が苦手」など、状況は子どもによってさまざまです。
場面緘黙のある子どもにも、どういった状況であればコミュニケーションが取りやすいかといったことを、子ども一人ひとりと向き合いながら一緒に探っていくようなサポートをしています。
無料での体験教室や資料請求も受付しているため、場面緘黙や発達の遅れが気になる方はお気軽にお問い合わせください。
場面緘黙(選択性緘黙)のまとめ
場面緘黙(選択性緘黙)は、家庭では話すことができるのに、園や学校などの社会的場面になると話したり意思表示したりすることが難しくなる障害のことです。
場面緘黙は2~5歳に多く見られて、入園や入学などの環境変化などがきっかけとなって発症することが多いと言われています。また、小学生、中学生、大人になっても発症する可能性はあります。
症状が出ることで、コミュニケーションや学習の面で困ることも出てくるため、専門機関で適切な対応をしていくことが大事になってきます。
もしも、子どもに場面緘黙の症状が見られた場合、なるべく早めに先程ご紹介した相談機関や医療機関へ相談するようにしましょう。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。