子どもの進路の選択肢として、特別支援学級を視野に入れている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
とはいえ、特別支援学級が通常の学級と何が違うのか、どんな指導が受けられるのか、子どもに合っているのがどっちなのかわからないという方も多いと思います。
本記事では、特別支援学級について、種類や通常の学級との違い、その後の進路などについてご紹介いたします。
特別支援学級とは?
特別支援学級とは、障害のある生徒が、学習上または生活上の困難を克服するために設置されている少人数の学級のことで、小学校・中学校に設置されています。
自立活動や各教科などを合わせた指導など、障害による学習や生活の困難を克服するための特別な指導を、生徒のニーズに応じて行う特別の場になります。
ここでは、特別支援学級とはどんな場所なのか、どんな指導が行われているのかご紹介します。
特別支援学級の編成
特別支援学級の編成は通常の学級とは異なり、障害種別で行われています。
通常の学級は、原則は学年ごとにクラスが分かれ、それぞれのクラスは同じ学年の生徒で構成されていますが、特別支援学級は障害種別に編成されているので、学級にちがう学年の生徒が在籍しています。
特別支援学級の教育課程について
教育課程は、「小学校学習指導要領解説 総則編」「中学校学習指導要領解説 総則編」で以下のように定められています。
教育課程とは、学校教育の目的や目標を達成するために、教育の内容を子供の心身の発達に応じ、授業時数との関連において総合的に組織した学校の教育計画であり、その編成主体は各学校である。
教育課程は、小学校・中学校の通常の学級では、それぞれの学習指導要領を基準に編成されますが、特別支援学級においては、学校教育法施行規則第138条で、小学校・中学校の教育課程を基本としながら「特別の教育課程」を編成することが認められています。
この特別支援学級で編成される「特別の教育課程」では、以下の3つのことを行うこととされています。
- 自立活動を取り入れること
- 必要に応じて、下の学年の各教科の目標や内容に代替することができること
- 必要に応じて、知的障害特別支援学校の各教科で代替することができること(知的障害のある生徒のみ)
教育課程の編成は、生徒一人ひとりへのものではありません。そのため、まずは「学級としての特別の教育課程」の編成を行うことになります。
特に、特別支援学級には、同じ障害であっても、さまざまな学年の生徒が同じ学級に在籍していることから、実際の授業では、生徒一人ひとりに個別の指導計画を作成して展開されています。
特別支援学級の指導内容
特別支援学級では、生徒それぞれのニーズに合わせた特別の指導を受けることができるようになっています。
特別な指導として「自立活動」があります。自立活動は、以下の項目で成り立っています。
- 健康の保持
- 心理的安定
- 人間関係の形成
- 環境の把握
- 身体の動き
- コミュニケーション
この6項目の中から、生徒の状態やニーズに合わせて、必要な項目を具体的な指導として行い、自立を促していきます。
例えば、自分の気持ちを相手に適切に伝えることが難しい生徒に対しては「コミュニケーション」の項目から、具体的な指導案が検討されます。
【指導事例】
- 実際に困るような場面の絵カードで見て、どんな言葉をかけるのが適切か考える
- 実際にその役になりきって言葉をかけてみる
こうして、役割演技することによって、生徒が俯瞰的に状況を捉えることができ、適切な言い方を選択して答えることができるように促します。
また、通常学級の生徒と特別支援学級の生徒が学校教育の一環として活動を共にする「交流及び共同学習」が行われています。
これは、「協力学級」「交流学級」などともよばれています。
「交流及び共同学習」は、特別支援学級の生徒の自立と社会参加を促進するとともに、社会を構成する様々な人々と共に助け合い支え合って生きていくことを学ぶ機会として設けられています。
具体的には、学校行事や部活動、自然体験活動などが合同で行われます。
このように、特別支援学級の生徒は座学だけではなく、自立のためのトレーニングや遊び、他の生徒とのコミュニケーションなども学習していきます。
特別支援学級の種類
特別支援学級の種類としては、以下の7種類になります。
- 弱視
- 難聴
- 知的障害
- 肢体不自由
- 病弱・身体虚弱
- 言語障害
- 自閉症・情緒障害
ただし、特別支援学級を設置している学校であっても、7種類すべてに対応しているわけではありません。
就学を考えている学校にどのような種類の特別支援学級が設置されているのかを確認することが大切です。希望する学級が設置されていない場合は希望を出すことはできますが、その場合事前に修学支援委員会など設置や入級が認められる必要があります。
特別支援学級に入る基準は?
ところで、特別支援学級の対象となる障害のある子どもはみんな特別支援学級に在籍する対象となるのでしょうか?
ここでは、特別支援学級に入る基準についてご紹介します。
文部科学省の「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知)」では、特別支援学級の対象者を、以下のように説明しています。
その者の障害の状態、その者の教育上必要な支援の内容、地域における教育の体制の整備の状況、その他の事情を勘案して、特別支援学級において教育を受けることが適当であると認める者
ここでは、自閉症・情緒障害、知的障害の特別支援学級の対象となる障害の程度をご紹介します。
自閉症・情緒障害
- 自閉症又はそれに類するもので、他人との意思疎通及び対人関係の形成が困難である程度のもの
- 主として心理的な要因による選択性かん黙等があるもので、社会生活への適応が困難である程度のもの
知的障害
知的発達の遅滞があり、他人との意思疎通に軽度の困難があり日常生活を営むのに一部援助が必要で、社会生活への適応が困難である程度のもの
特別支援学級に入る基準は、障害の有無や程度だけではなく、子どもそれぞれの状態や校内、地域の体制などを総合的にみて判断されます。
入学までの流れとしては、就学相談などを通じて本人や保護者の意志を尊重しながら、市区町村の就学支援委員会が総合的に判断し、最終的に就学先の設置元である教育委員会から決定の通知が出されます。
基準を満たし、本人や保護者が希望すれば、特別支援学級に入ることができますが、学びの場はさまざまな選択肢があり、指導内容や教育課程も異なるので、子どもにあわせてより適切な環境を考えることが大切です。
進路先を選ぶポイントについては、後ほどご紹介します。
特別支援学級から通常の学級へ転学について
特別支援学級に入ったら通常の学級に移ることができないのか心配に思われたり、子どもの状況が変わったときに進路先の変更も検討したいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
特別支援学級から通常の学級(普通級)への転学はできます。逆に、通常の学級から特別支援学級への転学も可能です。
子どもが学ぶ場は、固定したものではなく、子どもの発達の程度や状況などを考慮しながら、柔軟に選択することができます。
特別支援学級と通常の学級(普通級)間での転学は、担任や、連絡調整の役割を担う特別支援教育コーディネーターなどに相談すると良いでしょう。
相談を受けた学校は、本人や保護者の意向を十分に聞き、市町村教育委員会などと話し合いながら転学が望ましいかを決定していきます。
通常の学級か特別支援学級か、選ぶときの大切なポイント
進路先を選ぶ上で大切なのは、子どもが一番学びやすい、また過ごしやすい環境かどうかということです。
そうした環境を選ぶ4つのポイントを以下でご紹介します。
1.子どもの得意なことや苦手なこと、必要な支援や配慮を整理してまとめる
子どもに合った環境を選択するには、今の子どもの状況をよく知り、子どもに必要な支援がどこであればかなうのかを検討する必要があります。
そのために、まずは子どもの状況や特性を把握し、どのような支援や配慮があれば学びやすいのか、過ごしやすいのかを整理してまとめましょう。
例えば、大人数の通常学級の方が良い刺激になる場合もあれば、少人数の支援学級、特別支援学校の方が自分のペースで落ち着ける、集中できるという子もいます。
整理する際には、ご家庭で話し合う他に、通っている幼稚園・保育園や療育施設の職員、医療機関などに聞いてみると家庭以外での子どもの様子や必要な配慮についても知ることができるでしょう。
2.進路先の情報収集する
お住まいの地域によって、通級指導教室や特別支援学級、特別支援学校の種類や数は異なります。
お住まいの自治体のホームページで家から近くには、どのような学校や学級があるのかなどを調べてみましょう。
また、選択肢として検討している学校に通う先輩の保護者に聞いてみるのも良いでしょう。
3.実際に見学に行く
情報収集をしたら、実際に学校や学級に見学に行ってみましょう。
それぞれの学校や学級ごとで、方針や雰囲気は異なります。
実際に見学をして、お子さんに合っているかどうかをみてみましょう。
見学にいくときには以下のようなことも聞いたり見たりできると、判断の材料になるかもしれません。
- 教室や学校全体の雰囲気
- 学級の数・1学級あたりの人数
- 学習進度
- クールダウンできる場所があるか
- 支援級と交流級の行き来について
- 通常級の中でのサポートについて
4.子どもが学びやすい・過ごしやすい場を選ぶ
1で整理してまとめた子どもの状況や必要な配慮と、実際に見学にいった学校や学級を振り返って、子どもに合った必要な支援が受けられる場所がどこかを検討しましょう。
特別支援学級卒業後の進路は?
特別支援学級に行った後の進路はどのようなところがあるか、疑問に思われる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?
小学校を特別支援学級で卒業した場合は、そのあとの進路として以下のような選択肢があります。
- 中学校でも継続して特別支援学級にする
- 中学校では通常級に変更する
- 特別支援学校に入学する
通級指導教室については、高校でも導入が決定しましたが、特別支援学級は高校には設置されていません。
理由としては、高校は義務教育ではないこと、入学試験があることなどがあります。
そうすると、中学校の特別支援学級を卒業した後は、どのような進路があるのでしょうか。
選択肢としては、以下のような進路が挙げられます。
- 高校(公立・私立/全日制・定時制・通信制・単位制/普通科・専門学科・総合学科)に進学する
- サポート校、技能連携校に進学する
- 専修学校に進学する
- 特別支援学校に進学する
- 就職する
文部科学省の「学校基本調査 /卒業後の状況調査 中学校(令和3年度版)」によると、公立中学の特別支援学級卒業者、合計26,725人のうち、高校へ進学した人は14,631(55%)、特別支援学校へ進学した人は10,707(40%)、就職などその他が1,387(5%)となっています。
障害のある子どものための支援は何がある?
特別支援学級では、子どもに合わせた指導を受けることができますが、特別支援学級の他に利用できる子どものための支援についてご紹介します。
通級指導教室
通級指導教室とは、小学校、中学校、高等学校などで、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする生徒に対して、各教科などの授業は通常の学級で行いながら、障害に応じて特別の指導を行う場です。
通級指導教室は障害種別に分かれており、必ずしも在籍している学校に該当する通級指導教室があるとは限らないため、他校に設置されている通級指導教室に通う場合もあります。
通級指導の対象となるのは、以下の9つの障害がある子どもです。
- 弱視
- 難聴
- 肢体不自由
- 病弱者・身体虚弱
- 言語障害
- 情緒障害
- 自閉症
- 学習障害
- 注意欠陥多動症
現在知的障害のある子どもは、通級指導の対象に含まれていません。
特別支援学校
特別支援学校とは、障害のある生徒に対して、幼稚園、小学校、中学校または高等学校に準ずる教育を受けられるのに加えて、障害による学習上または生活上の困難を克服し、自立を図るために必要な知識・技能を身につけることを目的とする学校のことです。
特別支援学校の対象となるのは、以下の障害があり、学校教育法の就学基準で定められている障害程度にあてはまる子どもです。
- 視覚障害
- 聴覚障害
- 知的障害
- 肢体不自由または病弱(身体虚弱者を含む)
放課後等デイサービス
放課後等デイサービスは、原則小学生から高校生(6歳〜18歳)までの障害のある子どもや発達が気になる子どもをサポートする通所施設の1つです。
子どもが在籍している学級は関係なく利用できるサービスです。
自立した日常生活を営むために必要なトレーニングや創作的活動などが行われます。
特別支援学級のまとめ
特別支援学級とは、小学校・中学校において、各教科の学習の他に、子ども1人ひとりに合わせて必要な指導を受けることができる学級です。
特別支援学級には7つの障害ごとに学級があり、入る基準や判断方法は、就学相談を通じて話し合って決定します。
子どもの進路の選択肢には、特別支援学級の他にも、通常の学級、通級指導教室、特別支援学校などさまざまな教室や学校があります。
進路先を考えるときには、子ども本人とも話し合い、どのように過ごしてほしいか、どのように成長してほしいか、子どもの特性に合った環境はどこなのかなどという視点で検討することも大切です。
子どもの発達について気になることがあるという場合には、LITALICOジュニアでも無料相談をしておりますので、お気軽にご相談ください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。