強度行動障害とは?原因や対応、支援について解説します

子どもに「自分自身の体を叩く」「頭を壁にぶつける」「他の子どもを叩いてしまう」「道路で危険な飛び出しをする」といった行動がかなりの頻度と強度で継続的に見られる場合は「強度行動障害」に当てはまる可能性があります。

 

強度行動障害とは、「本人の健康を著しく損ねる行動」や「周囲の人々に著しい影響を及ぼす行動」が高い頻度で継続して起こり、特別な支援が必要な状態のことを指します。

 

強度行動障害は医学的な診断ではなく、行政・福祉において必要な支援を判断するために用いられる用語です。

 

この記事では強度行動障害の原因や周囲の対応方法、相談先や支援の受け方について紹介します。

強度行動障害とは?

強度行動障害とは、自分を傷つける「自傷」や他の人やものを傷つけるなどの「他害」「睡眠の乱れ」「異食」「ものを壊す」などの周囲の人の暮らしに影響を及ぼす行動を著しく高い頻度で起こすため、特別に配慮された支援が必要な状態を言います。

 

強度行動障害という名称は医学的な診断名ではなく、行政・福祉において必要な支援を判断するために使用されています。

 

今回の記事は厚生労働省の「障害者総合福祉推進事業」内の資料を基に、強度行動障害について紹介していきます。

強度行動障害のある方の具体的な行動とは?

厚生労働省の「強度行動障害の評価基準等に関する調査について報告書」によると、強度行動障害のある方には以下のような行動が見られるとされています。

 

  • ひどい自傷
    肉が見えたり、頭部が変形に至るような叩き方をしたり、つめをはぐなど。 
  • 強い他傷
    噛みつき、蹴り、なぐり、髪ひき、頭突きなど、相手が怪我をしかねないような行動など。 
  • 激しいこだわり
    強く指示しても、どうしても服を脱ぐなど、どうしても外出を拒みとおす、何百メートルも離れた場所に戻り取りに行く、などの行為で止めても止めきれないもの。 
  • 激しいもの壊し
    ガラス、家具、ドア、茶碗、椅子、眼鏡などをこわし、服をなんとしてでも破ってしまうなど、その結果危害が本人にもまわりにも大きいもの。
  • 睡眠の大きな乱れ
    昼夜が逆転してしまっている、ベッドについていられず人や物に危害を加えるなど。 
  • 食事関係の強い障害
    テーブルごとひっくり返す、食器ごと投げるとか、椅子に座っていられず、皆と一緒に食事できない。便や釘・石などを食べ体に異常をきたした偏食など。 
  • 排泄関係の強い障害
    便を手でこねたり、便を投げたり、便を壁面になすりつける。強迫的に排尿排便行為を繰り返すなど。
    出典:厚生労働省「強度行動障害の評価基準等に関する調査について報告書

 

人によって強度行動障害を起こす年齢は異なっています。しかし、思春期以降に強いこだわりや自傷行為や他傷、破壊行動などの行動が激しくなり、高校を卒業する年代以降に落ち着いてくる傾向があると言われています。

強度行動障害の原因

強度行動障害の原因

ここでは強度行動障害の原因として考えられるものを紹介します。

 

まず、強度行動障害の行動は生まれつきのものではなく、子どもにある特性と周囲の環境や関わりとのミスマッチが大きいことによって現れるとされています。

 

「コミュニケーションが苦手」「強いこだわり」「衝動性」「感覚が過敏」などの特性と、周囲の環境がうまく合わないことが強度行動障害につながっていきます。

強度行動障害の背景となる特性

知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)は、強度行動障害の背景となりやすいといわれています。知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)の特性としては

  • 社会性の特性
  • コミュニケーションの特性
  • こだわりの特性
  • 感覚の特性

が挙げられています。それぞれの特性を具体的に紹介します。

 

社会性の特性

社会性の特性として「他者への関心が薄い」「他者の意図を察知するのが難しい」という人との関わりについての特性や、「周囲で起こっていることへの関心が薄い」「周囲から期待されていることの理解が難しい」といった状況の理解が苦手ということがあります。

 

コミュニケーションの特性

コミュニケーションの特性として「話し言葉の理解が難しい」「あいまいな表現が苦手」といった理解に対する特性や、「言葉で伝えるのが難しい」「誰に伝えたらいいのかわからない」といった発信に対する特性があります。

 

また、「状況に合わせた振る舞いが苦手」「表情や目線などの非言語的コミュニケーションの理解が難しい」という人とのやり取りが苦手という特性もあります。

 

こだわりの特性

特定の刺激や活動に没頭し、切り替えることややめることが困難といった特性があります。また「臨機応変な対応が苦手」「自分のやり方にこだわる」といったことがあります。

 

感覚の特性

感覚の特性としては、「視覚」「聴覚」「味覚」「触覚」「嗅覚」といった五感に対する過敏または鈍麻(どんま)があります。また前庭覚(重力や体の傾き、スピードなどを感じる感覚)に特有の感覚があることもあります。

 

またほかにも特性として衝動性がある場合、感情のコントロールが難しく、突発的な飛び出しや奇声をあげるなどの癇癪が起こることがあります。

強度行動障害のある方への対応で大切なこと

強度行動障害は子どもの特性と周囲の環境のミスマッチが要因となっています。そのため、子どもの生活環境や、周囲の関わり方を整えていくことが強度行動障害のある子どもにとって大事です。

 

人に対して叩いたり噛みついたりする行動に対して、叩き返す、身体でわからせるなどの対応は虐待行為です。また、自らの身体を傷つける自傷行動についても力ずくで抑えるだけでは上手くいきません。このような誤った対応によって、行動障害がより悪化してしまう可能性があります。

 

厚生労働省の「強度行動障害のある人を支えるための5つの原則」では、強度行動障害のある方が落ち着いて過ごせるための要件として、

  1. 安定して通える日中活動
  2. 住内の物理的構造化
  3. ひとりで過ごせる活動
  4. 確固としたスケジュール
  5. 移動手段の確保

が大事とされています。

強度行動障害のある方は、一定のルールや先の見通しがあると比較的落ち着くことが多いとされています。

 

それぞれ具体的に見ていきましょう。

 

1.安定して通える日中活動

強度行動障害のある方は、日中個別のスペースや決まった日課のある落ち着いて過ごせる場所があることが大事といわれています。

家庭で落ち着くことが難しい場合は、上記のような落ち着いて過ごせる場所に通うことがいいとされています。

またその場所で過ごしている最中は、強度行動障害のある方を一人にするわけではなく、支援者などが健康や安全について配慮できるような環境も必要とされています。

 

2.居住内の物理的構造化

自宅など居住内の部屋の明るさうや音の刺激を少なくする対策もあります。強度行動障害のある方は環境からの刺激が多く、それらがストレスとなって行動の問題が生じることもあるので、落ち着いて一人で過ごせる場所を用意することが、予防や気持ちの安定につながります。

 

3.ひとりで過ごせる活動

一人で過ごせる場所だけを用意しても、その場で何をしたらいいかわからないと部屋から出てきてしまったり、他者を巻き込んで活動しようとして行動の問題が悪化することもあります。そのため場所だけでなく、一人で過ごすための活動を用意すると、本人も気持ちを整えたり、楽しんだりできるのと同時に周囲の人達も安心して見守ることができます。

 

4.確固としたスケジュール

強度行動障害のある子どものこだわりによる繰り返しの日課を家族が見守ることができていて、予定の変更をする際は子どもが見通しを立てることができるような伝え方ができる状態のことです。

 

5.移動手段の確保

日中活動などの外出時に強度行動障害のある子どもにとって刺激や変化が少なく、安心できる移動手段が確保できている状態のことです。

 

これら強度行動障害のある子どもへの対応は、家族だけでは難しい場合もあるので障害福祉サービスを活用しながら対応していくといいでしょう。

家族のレスパイトケアも重要

また、強度行動障害のある子どもの家族の「レスパイトケア」も重要になってきます。

レスパイトとは「小休止」「息抜き」を意味する言葉で、自宅で介護などをおこなう家族の精神的・身体的負担の軽減を目指すものです。

 

ショートステイや行動援助などのサービスを計画的に使うことや、身内の不幸などで家族が自宅を離れることがあった際に強度行動障害のある子どもが利用できる緊急一時サービスを確保しておくことで、家族の精神的・身体的負担を軽減し長期的なサポートをしていく助けとなります。

強度行動障害についての相談先

強度行動障害についての相談先

子どもに強度行動障害がある場合の相談先の一つとして「相談支援事業所」を紹介します。

 

相談支援事業所とは障害のある方が地域で自立した日常生活、社会生活を営めるようにさまざまな支援をおこなっている機関です。強度行動障害についての相談にも対応してくれます。

 

相談支援事業所では家族や本人の困りごとに対し専門の相談支援員がヒアリングをおこないます。そのうえで強度行動障害のある方がどのような障害福祉サービスを活用するといいかを家族や本人の希望も考慮して検討していきます。

 

支援を受けることになった場合にはその支援機関との連絡調整や、強度行動障害のある方に適したサービス等利用計画の作成、定期的な計画の見直し(モニタリング)などもおこなっていきます。

 

相談支援事業所は市区町村で運営しているほか、自治体からの指定を受けた「特定相談支援事業所」と「一般相談支援事業所」とその地域の中心となる「基幹相談支援事業所」があります。

 

ただ、地域の実情に合わせた形をとっていて全国一律ではないため、強度行動障害について相談する場合は、まずお住まいの自治体の障害福祉窓口に問い合わせをすると困りごとに合った相談支援事業所を教えてもらえるでしょう。

 

相談支援事業所は都道府県や市区町村のWebサイトに一覧が掲載されていることもあります。参考までに埼玉県のWebサイトを掲載します。

強度行動障害のある方への支援

強度行動障害のある方にむけた支援として、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスを紹介します。

 

強度行動障害のある方への支援としては、施設で受ける支援や自宅で受ける支援、移動をサポートする支援などがあります。これらを強度行動障害のある方の状態に合わせて組み合わせながら利用していきます。

在宅で受ける支援

行動援護

自傷、異食などがあり行動の際に介護を必要とする人に、行動に伴う危険を回避するための援護や外出の際の介護をおこないます。

 

重度障害者等包括支援

重度の障害があり多くの種類の支援が必要な人に対し、居宅介護、行動援護など包括的なサービスを提供するサービスです。

 

重度訪問介護

重度の障害がある方に対して、入浴・排泄・食事の身体介護、家族援助、コミュニケーション支援、外出時の移動の介護などを総合的に提供します。

施設で受ける支援

施設入所支援

施設に入居している方に対し主に夜間の入浴・排泄・食事などの介護などを提供するサービスです。

 

短期入所(ショートステイ)

介護者が不在となる際に、介護を必要とする人に対し一時的に施設で預かり介護や支援をおこなう事業所のことです。障害のある方だけでなく家族などの介護者の負担軽減にもなります。

 

共同生活援助(グループホーム)

地域でほかの人と共同生活をしている方に対して、主に夜間における入浴・排泄・食事の介護、その他日常生活の支援をおこなうサービスです。

 

強度行動障害のある方が利用できる障害福祉サービスはほかにも種類があります。「障害福祉サービス等情報公表制度」によって全国の障害福祉サービス事業所をインターネットから探すことができます。

 

強度行動障害のある方が利用できる支援を探している方は、参考にしていただければと思います。

強度行動障害のある方への支援までの流れ

強度行動障害のある方が障害福祉サービスを受けるための流れを紹介します。

障害福祉サービスの申請手続き

障害福祉サービスを利用するためには「受給者証(障害福祉サービス受給者証)」が必要になります。強度行動障害のように医学的な診断がない場合や、障害者手帳を取得していなくても、受給者証があればサービス利用の対象となります。

 

障害福祉サービス利用の流れは以下のようになります。

  1. 相談・申請 
  2. 障害支援区分の認定調査
  3. サービス等利用計画案提出 
  4. 受給者証の交付 
  5. 利用開始

 

相談・申請

まずはお住まいの自治体の相談支援事業所や障害福祉窓口へ、強度行動障害で困っていることの相談をおこないます。相談の結果として障害福祉サービスの利用意思が固まったら、自治体の窓口で申請をします。

 

障害支援区分の認定調査

申請後は自治体の職員による「障害支援区分」の認定調査がおこなわれます。障害支援区分とは、障害の特性や心身の状態から必要とされる支援を6段階に区分したものです。この障害支援区分によって受けることができるサービスが変わってきます。

 

サービス等利用計画案提出 

認定調査のあとは、本人や家族の意向を踏まえて適切なサービスを受けることができるよう「サービス等利用計画案」の作成をおこないます。計画案は基本的に「指定特定相談支援事業者」が作成し、自治体へ提出します。

 

受給者証の交付 

サービス等利用計画案や自治体の調査をもとに障害福祉サービスの利用が認められると、障害福祉サービス受給者証が交付されます。受給者証には使えるサービス・量(時間)などが記載されています。

 

利用開始

実際にサービスを受ける事業所と契約をし、サービスの利用を開始します。

 

利用開始後も相談支援事業所が定期的な計画の見直しをおこない、本人と家族が適切なサービスを受けることができるような体制が整っています。

強度行動障害のまとめ

強度行動障害は自分や他人を傷つけるなどの行動で、周囲の人の暮らしにも大きく影響を受けている状態を言います。

 

強度行動障害は周りだけでなく行動を起こす本人も困っている状況なので、障害福祉サービスなど適切なサービスを利用しながら環境を整えていくことが大事です。

 

強度行動障害は思春期以降に顕在化する傾向がありますが、幼少期からの気づきと支援が必要です。

児童発達支援や放課後等デイサービスでも強度行動障害の支援を受けられることがあります。この場合、専門的なサポートが必要な場合があります。

 

自傷行動や他害や破壊的行動、その他問題行動でお悩みの場合は、強度行動障害が疑われる場合には、一度支援機関にご相談ください。

  • 監修者

    鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員

    井上 雅彦

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。