自閉スペクトラム症(ASD)は、対人関係やこだわりなどの特性から、日々の生活の中でさまざまな困りごとが生じやすい障害です。
「周りの子どもと比べてこだわりが強い」「グループであまり遊ばず、1人で遊ぶことが多い」など子どもの様子が気になった時、自閉スペクトラム症かもしれないと思われる保護者の方もいるかもしれません。
自閉スペクトラム症の子どもの困りごとを解消するには、子どもの特性を把握し、必要に応じて専門的な支援を受けることが重要です。
この記事では、自閉スペクトラム症の診断や検査方法、相談先などを分かりやすく説明します。
自閉スペクトラム症(ASD)の診断とは?
自閉スペクトラム症(ASD)の大きな特性として特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ」が挙げられます。
具体的な行動としては、
- 言われた言葉をそのままオウム返しにする
- 自分の興味のある話を一方的にしてしまう
- 決まった順序や道順にこだわる
- 急に予定が変わるとパニックを起こす
などがありますが、特性の程度や困りごとの現れ方は人によって大きく異なり、これらの特性に当てはまるからと言って、必ず自閉スペクトラム症(ASD)と診断されるわけではありません。
また、幼少期に気づかれることが多いといわれていますが、症状のあらわれ方には個人差があるため就学期以降や成人期になってから社会生活において困難さを感じ、診断を受ける場合もあります。
自閉スペクトラム症(ASD)の診断・検査方法は?
自閉スペクトラム症(ASD)は医療機関での問診と心理検査を基に、医師が総合的に判断して診断をおこないます。
自閉スペクトラム症の原因はまだ特定されておらず、怪我や身体的な病気と違い生物学的な診断方法が確立されていないため、成育歴や現在の様子、困りごとなどに関する問診と心理検査の結果などから医師が総合的に判断します。
問診
問診は、基本的に医師が保護者に質問する形でおこないます。例えば「3歳児検診でなにか言われたことはありますか?」、「集団参加が難しい様子やそれを先生から指摘されたなどはありますか?」など子どもの過去にさかのぼって質問されることがあります。
事前に日記や母子手帳の情報をまとめておくとよいかもしれません。
心理検査
自閉スペクトラム症の診断では心理検査と呼ばれている、自閉スペクトラム症である可能性や度合いなどを調べる検査をおこないます。
ASDの検査では、ケンブリッジ大学の研究チームが作成した「AQテスト」という簡易検査や、「WISC-Ⅳ」という知能検査がおこなわれたりします。
また、診断分類の補助として、子どもの初期発達・発達指標に関する情報、言語やその他スキルの獲得時期と喪失の有無、その他診断の手助けとなる行動全般について詳しく質問する「ADI-R(自閉症診断面接)」や、検査者とのやりとりを観察して評定する「ADOS-2(自閉症診断観察検査 第2版)」などを利用することもあります。
その他にも、自閉スペクトラム症の診断で扱われる検査は数多くあり、必要な検査を医療機関が判断して多角的に診断をおこないます。複数の検査をおこなう場合、検査する日を分けることがあるため、検査場所に複数回通う場合もあります。
問診と心理検査の結果が出るまでにかかる時間は、医療機関によって異なります。気になる場合は事前に確認しておきましょう。
自閉スペクトラム症の診断・検査ができる場所
心理士など専門のトレーニングを積んだ人がおこなう必要がある検査もあり、診療できる医療機関は限られています。子どもの場合は、専門外来のある小児科、脳神経小児科、児童精神科などでおこなわれることが多いです。
いきなり専門機関に行くハードルが高い場合は、まずはかかりつけ医や地域の保健センターなどに相談してみるといいでしょう。
自閉スペクトラム症(ASD)に関する支援や制度
ここでは自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもや保護者が利用できる支援について解説します。
自閉スペクトラム症の子どもの支援は、医療機関だけではなく、地域の子育て支援機関や療育機関などでもおこなわれます。
支援には「子どもに直接関わる支援」と、「子どもの周りの保護者や先生などへの支援」があります。
子どもへの直接支援は、コミュニケーションや日常生活スキルなど本人の力を伸ばすことを目指す支援を指し、子どもの周りの大人への支援は、環境調整と呼ばれ、子どもの持っている力を発揮しやすい環境を作ることを目指します。
自閉スペクトラム症の子ども本人への支援として、「福祉的な機関での支援」「特別支援教育」、環境を整えるための支援や制度として「合理的配慮」「ペアレントトレーニング」を紹介します。
福祉的な機関での支援
自閉スペクトラム症のある子どもやその可能性のある子どもに対し、一人ひとりの発達の状態や特性に合わせて、できることを増やし、今の困りごとの解決や将来の自立を目指した支援をします。
支援を行っている機関としては、児童発達支援センターや児童発達支援事業所があります。
具体的な支援としては、障害のある子どもや発達につまづきのある子どもに対して、日常生活や集団生活へ適応するためのプログラムが提供されています。
学校での特別支援教育
特別支援教育では、その子が持てる力を高め、学習や生活で抱える困難さを改善、克服するための適切な指導や支援などがおこなわれます。
子どもにとってより適切な教育機会が生まれるように、「通常学級」に学籍をおいて「通級による指導(特別支援教室)」を利用する場合と、「特別支援学級」や「特別支援学校」に在籍して学ぶ場合があります。
合理的配慮
合理的配慮とは、障害のある人や子どもが社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応を求めることです。
例えば
- 臨機応変な対応が難しい子どもには、見通しがたつようにその日の予定を絵カードや表にする
- 聴覚過敏のある子どもにイヤーマフの使用を認める
などがあります。必要な配慮は子どもによって違いますし、どういった配慮をどこまで受けられるかはその機関によっても異なるので、学校などと相談して検討します。
ペアレントトレーニング
ペアレントトレーニングとは、自閉スペクトラム症など発達障害のある子どもの保護者を対象に、子どもの特性についての正しい知識の理解、子どもとのよりいい関わり方、日常生活での困りごとへの対応のコツや工夫を学ぶプログラムです。数回~十数回のセッションで、一般的にはグループで実施されます。
自閉スペクトラム症かもと思ったら、専門的なサポートを受けることで、子どもも保護者も困りごとを軽減できるかもしれません。
LITALICOジュニアでは、数多くの指導実績に基づき、一人ひとりに合わせたサポートをおこなっています。また保護者さま向けにペアレントトレーニングも実施しています。子育てのイライラを軽減し、子どもと日々を楽しく過ごすためのヒントが多く詰まっている考え方を学ぶプログラムです。気になる方は、お気軽にお問い合わせください。
自閉スペクトラム症(ASD)に関する相談先
以下の支援機関では、自閉スペクトラム症など発達障害のある幼児~成人とその家族からのさまざまな相談に応じ、指導と助言をおこなっています。
- 市町村保健センター・保健所
- 子ども家庭支援センター
- 家庭児童相談室
- 児童相談所
- 児童発達支援センター
- 学校教育センター(教育相談室)
必要に応じて発達検査や児童発達支援などの支援を提供してもらえるほか、専門の医療機関につなげてくれるので、子どものことで相談したい場合は問い合わせてみるといいでしょう。
LITALICOジュニアでも無料で相談を受け付けております。ご興味のある方は以下よりお問い合わせください。
お伝えした通り、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもに関する相談先は、ひとつではありません。相談できる機関では電話相談ができる場合も多いので、まずは問い合わせてみることをおすすめします。
連絡先などはお住まいの地域の市町村のホームページなどに掲載されていることが多いので、気になる方は検索してみてください。
自閉スペクトラム症(ASD)の診断基準についてまとめ
自閉スペクトラム症(ASD)の診断は、問診や心理検査を基に多角的におこなわれます。
自閉スペクトラム症かも?と思ったら、ひとりで抱え込まず、まずは相談しやすい機関に問い合わせてみることをおすすめします。
専門機関に相談することで、子どもとの関わり方を見直すきっかけになったり、サポートを受けることで子どもと保護者もストレスを軽減することができるかもしれません。
LITALICOジュニアは自閉症スペクトラムの子どもの指導実績も豊富にあります。「こだわりが強い」「人への関心が薄い」など気になることがあれば、無料でご相談いただけますのでぜひお気軽にお問い合わせください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。