アンガーマネジメントは企業の研修などで導入されているイメージが強く、大人が対象だと思っている方もいるかもしれません。
しかしアンガーマネジメントは子どもも対象としており、自分の気持ちを言葉で表すのが苦手で、衝動的な行動に出てしまう場合などの対処法も存在します。
この記事では、アンガーマネジメントとは何か、子どものアンガーマネジメントの必要性や、子どもが感情を上手にコントロールするために大切なことについて説明します。
アンガーマネジメントとは?
アンガーマネジメントとは、「怒り(アンガー)」の感情を「マネジメント(適切に対処する)」するための心理技術のことです。
しかし、怒りの感情をなくしたり抑えたりすることではありません。
怒りを衝動的な言動につなげないために感情のコントロール方法を学ぶことで、よい人間関係を築いていくことを目指します。
アンガーマネジメントは1970年代にアメリカで開発され、医療や福祉、司法やビジネスなどの分野で導入されてきたほか、学校現場でも導入されています。
日本においても、司法や福祉、ビジネスや教育などの分野で導入されています。
子どものアンガーマネジメントの必要性について
アンガーマネジメントでは、企業などにおいて研修として導入されるケースをよく見聞きするかもしれません。
しかし、子どもを対象とするアンガーマネジメントも実践されています。
例えば、文部科学省はアンガーマネジメントを「感情理解教育」と訳しており、授業に取り入れている学校もあります。
背景には、学校における暴力行為の発生件数やいじめの認知件数が近年、特に小学校において増え続けているという事実があります。
その理由として、子どもが感情のコントロールの難しさを抱えているという要素が考えられるためです。
感情コントロールが苦手な場合の困りごと
怒りをコントロールできない状態では、適切な判断ができなくなると言われています。
すると衝動的な言動をしてしまい、人間関係に悪影響を及ぼすことがあります。
例えばある子どもが、友達数人が談笑している場面を見て「自分を馬鹿にして笑っている」と思い込み、怒って友達に詰め寄ってしまったとします。
この場合は、友達と喧嘩になってしまう可能性だけでなく、いきなり詰め寄られた友達はその子にどう接すればよいかわからなくなり、以降その子と距離を置くようになる可能性も考えられます。
怒りのコントロールができない場合はこのように、人間関係において長期的にもよくない影響を及ぼしかねません。
さらに、「人間関係で失敗した経験」がその後も積み重なった場合は、将来人間関係を築いていくうえでも自信が持てなくなることも考えられます。
しかし怒りの感情は、悪いものではありません。
怒りは「防衛感情」とも言われ、自分の身に危険が迫ったときに感じる自然な感情です。
問題となるのは、怒りを表現する方法が不適切な場合です。
「怒り」という感情に適切に対処できれば、人生をよりよくしていくことができるでしょう。
アンガーマネジメントの必要性
アンガーマネジメントを身につけることは、子どもにとってさまざまなメリットがあります。
感情の暴走により人間関係を壊すことがなくなり、自分が望む人間関係を築くことができるようになるでしょう。
友達や親、先生などの周囲の人間とよい関係を築いていく経験は、自己肯定感を高めることにつながります。
また、アンガーマネジメントを通じて自分の感情を適切に伝えるスキルを学ぶことは、コミュニケーションの訓練でもあります。
ただし子どもがアンガーマネジメントを学ぶ際は、子ども自身がその必要性を認識して取り組むことが大切です。
自分の感情に気づいてコントロールすることは、自分にしかできないためです。
したがって、子ども本人がアンガーマネジメントに主体的に取り組めるように、大人が関わっていくことが大切です。
例えば、「なぜ、アンガーマネジメントを実践するのか」ということについて子どもと話し合い、「もう友達と喧嘩したくない」などの動機が本人から出てくれば、初めのころはうまくいかなかったとしても、アンガーマネジメントの訓練を続けていくことができるでしょう。
子どものアンガーマネジメントの方法とは?
ここでは、保護者の方が子どもとアンガーマネジメントを実践する際に使える基本的な技術を紹介します。
自分の感情を認識する
怒りの感情をコントロールできるようになるためには、まず怒りについて知ることが大切です。
怒りのコントロールが苦手な子どもは、怒りのレベルに関係なく、些細なことでも感情を爆発させてしまうことがあります。
そこでアンガーマネジメントの技術の一つ「スケールテクニック」では、怒りの感情を段階に分けて可視化します。
子どもと一緒にスケールテクニックをおこなう際には、「気持ちの温度計」というツールがよく使われます。
※教材・ツールの画像の利用および転載、複製、改変等は禁止いたします。
LITALICOジュニアに通う小学校2年生のゆうきくん(仮名)の例
ADHD(注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害)の診断を受けているゆうきくんには、「イライラのコントロールがうまくできない」という困りごとがありました。
そこでLITALICOジュニアでは「気持ちの温度計」を使い、「自分の気持ちの温度がどのような状況で、どこまであがってしまうのか」ということを確認し、ゆうきくんが自分の気持ちを捉えられるように練習していきました。
対処法をつくる
「怒りを感じたときに、気持ちを落ち着ける方法」を決めて、練習しておきます。
アンガーマネジメントでは、以下のような方法があります。
6秒ルール
怒りはどんどん強くなるのではなく、6秒経つと落ち着きはじめるとされています。
このため、怒りを感じたら、何らかの言動をする前にまず6秒間待つことを教えます。
子どもと一緒に1から6まで数えて待つ練習をおこない、怒りを感じたときに実践するよう伝えます。
深呼吸
怒ったときに深呼吸をすると、気持ちを落ち着かせることに有効であることを伝えます。
「6秒ルール」とあわせて、数を数えながら深呼吸をしてもよいでしょう。
その場を離れる
怒りを感じたときに、その状況から離れることで気持ちをリセットする方法です。
相手にもタイムアウトをとることを伝え、静かな部屋などの気持ちが落ち着きやすい場所に行き、落ち着いたら戻るとよいことを伝えます。
伝える方法を身につける
怒りを暴力や強い言葉で表すのではなく、相手に上手に伝える方法を教えます。
LITALICOジュニアに通う小学校2年生のゆうきくん(仮名)の例
ゆうきくんは学習塾の授業中、問題が解けずイライラすると、問題用紙をぐしゃぐしゃにしてしまったりすることがありました。
そこでLITALICOジュニアでは、自分の気持ちや要求を言葉で伝える練習をおこないました。
問題用紙をぐしゃぐしゃにするのではなく「問題がわからないから教えてください」と言う練習をした結果、ゆうきくんは家でも衝動的な行動が減り、自分の気持ちを言葉で伝えられるようになっていきました。
怒りが誘発されにくい環境をつくる
周囲の大人がおこなう対処として大切なのは、子どもの怒りが発生する状況や環境を把握し、怒りが起きにくい環境をつくることです。
例えば、ある男の子が使いたかったボールをすでに友だちが使って遊んでいたとき、男の子は友だちからいきなりそのボールを奪って遊び始めたとします。
この場合に大人ができることは、ボールを使う順番を前もって決めておいたり、ボールを使いたい人数分用意しておくなどして、「奪う」という行動が起きにくい環境を整えることだと考えられます。
子どもが自分の感情をコントロールできるようになることは大切ですが、怒りが発生するような状況が繰り返し起きないように、大人が環境を調整するなどの工夫をおこなうという考え方も大切です。
子どものアンガーマネジメントについてまとめ
アンガーマネジメントでは、感情のコントロール方法や感情の伝え方などを学ぶことで、よい人間関係を築くことを目指します。
子どもがアンガーマネジメントを身につけることは、子どもが将来にわたりよい人間関係を築き、よりよい人生を選びとっていくための力となるでしょう。
ぜひ、保護者の方が子どもと一緒に実践してみてください。
子どものアンガーマネジメントを保護者が実践するのは難しい面もあるため、支援機関につながりサポートを受けることも大切です。
LITALICOジュニアでは、子どもの怒りの感情をコントロールする方法を身につける方法などを練習するプログラムもおこなっています。
気になる方は、まずは体験授業を受けることもできますのでお気軽にお問い合わせください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。