文部科学省は「スクールソーシャルワーカー活用事業」を実施しています。
しかしスクールソーシャルワーカーはすべての学校に配置されているわけではなく、自治体によっては教育委員会に配置されている場合もあります。
では、スクールソーシャルワーカーにはどのようなことを相談でき、どのような方法で相談を申し込めばよいのでしょうか?
この記事ではスクールソーシャルワーカーの役割や、名称の似ている「スクールカウンセラー」との違いなどのほか、スクールソーシャルワーカー以外の子どもの学校生活について相談できる機関についても説明します。
スクールソーシャルワーカー(SSW)とは?スクールカウンセラー(SC)とは違うの?
スクールソーシャルワーカーとは、福祉の専門性を持ち、児童・生徒の最善の利益を保障するために、学校などにおいてソーシャルワークをおこなう専門職のことです。
ソーシャルワークとは、日常生活での課題を解決するための支援をおこない、人々のウェルビーイング(個人の権利や自己実現が保障され、身体的・精神的・社会的に良好な状態)を実現するための仕事を指します。
ソーシャルワークを実践する「ソーシャルワーカー」は地域や病院、福祉施設などのさまざまな場所で活動しています。
これらのうち、学校を基盤として、児童・生徒の抱える問題に主に環境面からのサポートを行うことで、ウェルビーイングを実現させるために活動しているのがスクールソーシャルワーカーです。
具体的には、不登校やいじめ、暴力行為や児童虐待、友人関係や非行・不良行為、教職員などとの関係や心身の健康に関する問題など、幅広い問題についての支援をおこないます。
児童・生徒のニーズを把握して支援を展開するとともに、保護者への支援や学校への働きかけ、自治体に対して体制整備についての働きかけなどをおこないます。
なお、スクールカウンセラーは主に心理面でのサポートを行います。具体的には、児童・生徒の心理・行動面のアセスメント、児童・生徒への助言や相談、保護者や教職員に対する相談、校内会議への参加や、研修、ストレスの予防や緊急時の児童生徒の心のケアなどを担います。
スクールソーシャルワーカーの配置状況
スクールソーシャルワーカーは、全国の公立小・中学校、高等学校や特別支援学校、教育委員会や教育事務所などに配置されています。
文部科学省の資料では、2020年度には全国に2,859人のスクールソーシャルワーカーが配置されており、対応学校数は18,286校となっています。
この数字が示す通り、スクールソーシャルワーカーはすべての学校に必ず配置されているわけではありません。
スクールソーシャルワーカーは自治体が採用しますが、配置の形態は自治体により異なります。
1人のスクールソーシャルワーカーが1つの学校のみを担当している場合もあれば、ある学校を拠点としながら複数の学校を担当している場合もあります。
また教育委員会などに配置され、必要に応じて学校に派遣されたり、地域の学校を巡回する形などがあります。
スクールソーシャルワーカーの資格は?
文部科学省は、スクールソーシャルワーカーの資格要件を「社会福祉士や精神保健福祉士などの福祉に関する専門的な資格を有する者から、実施主体が選考し、スクールソーシャルワーカーとして認めた者」としています。
しかし社会福祉士や精神保健福祉士などの資格は必須ではなく、「福祉や教育の分野において専門的な知識・技術を持つ者、または活動経験の実績などがある者であって、職務内容を適切に遂行できる者」も認められるとされています。
実際のスクールソーシャルワーカーの募集にあたっては、社会福祉士や精神保健福祉士の資格を求めている場合が多いようです。
スクールソーシャルワーカー導入の背景
文部科学省は、2009年より「スクールソーシャルワーカー活用事業」を実施しています。
スクールソーシャルワーカーが導入された背景には、不登校や学校内外での暴力行為、いじめなどの児童・生徒を取り巻く問題が年々増え続けているという事情があります。
これらの問題には、児童・生徒の心のあり方が関係していると同時に、家庭や友人関係、地域や学校のあり方などの環境も関係していると考えられます。
環境にはさまざまな要素が複雑に関係しており、社会情勢も反映している部分もあるため、学校の枠組みを超えたさまざまな方法による支援が必要だと考えられます。
このため、児童・生徒一人ひとりの生活の質を向上させ、それを支える学校と地域をつくるという目的で、スクールソーシャルワーカーが導入されました。
スクールソーシャルワーカーの役割とは
文部科学省は、スクールソーシャルワーカーの役割として、以下の5つの職務内容を示しています。
1.問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働き掛け
2.関係機関等とのネットワークの構築、連携・調整
3.学校内におけるチーム体制の構築、支援
4.保護者、教職員等に対する支援・相談・情報提供
5.教職員等への研修活動 等
スクールソーシャルワーカーの役割は、問題を抱えている児童・生徒を取り巻くさまざまな情報を整理して分析し、解決のための計画を立てたうえで、児童・生徒が置かれている環境への働きかけなどをおこなっていくことです。
問題を抱えている児童・生徒の状況を改善するには、学校と家庭が連携するだけでなく、時には相談支援機関の協力も得ながら取り組んでいく必要があります。
スクールソーシャルワーカーは福祉の専門家であるため、「どのような場合に、どのような相談支援機関の支援を利用できるか」という知識や、人脈のネットワークを持っています。
地域には住民が利用できる相談支援機関や公的・民間のサービスなどがありますが、それらの存在や利用方法を普段からよく知っている人は多くないかもしれません。
スクールソーシャルワーカーは、問題を抱えている児童・生徒とその家庭を適切な相談支援機関やサービスに繋ぎ、関係者全員がうまく連携できるよう調整する役割を担っています。
スクールソーシャルワーカーの事例
ここでは、スクールソーシャルワーカーがおこなった支援の事例を紹介します。
不登校の状態にある中学校3年生のAさんの事例
Aさんは、体調不良や集団で過ごすことへの不安などから、小学校3年生のときから不登校の状態が続いていました。
中学3年生のときに精神状態が特に不安定になったため、児童精神科を受診すると、うつ病との診断がおりました。
Aさんの家庭は困りごとを周囲に相談せず抱えこんでしまう傾向があり、学校や関係機関の支援を受けることにも消極的でした。
- スクールソーシャルワーカーがおこなった支援
スクールソーシャルワーカーは教育委員会と会議をおこない、支援計画と関係者の役割分担を以下のように定めました。支援計画:
・教育支援センターや放課後等デイサービスなどの利用を提案する
・医療機関とも連携して支援を進める
中学校の役割:
・教育支援センターの利用状況や、医療機関を受診した際の状況についての情報を把握する
・ほかの関係機関とも連携してAさんへの支援をおこなう
教育委員会・教育支援センター・スクールソーシャルワーカーの役割:
・Aさんが教育支援センターを利用する際に保護者とともに面談をおこない、Aさんの様子や家庭の状況などについて聞き取りをおこなう
・放課後等デイサービスや病院などのほかの機関とも情報を共有する - 支援後の状況
Aさんは昼夜逆転の状態だった生活リズムが改善し、教育支援センターに通うようになりました。
また、高校受験に向けた準備を自分で考え、放課後に登校するなどの取り組みをはじめました。
体調管理のために医療受診が必要で、今後も自分の心の状態とうまく付き合っていく必要があることを自覚し、病院を定期的に受診しています。
保護者と担任の教員、教育支援センター指導員やスクールソーシャルワーカーとの連絡の機会も増えました。
スクールソーシャルワーカーへの相談方法
前述のように、スクールソーシャルワーカーは学校に配置されている場合もあれば、教育委員会などに配置されている場合もあります。
スクールソーシャルワーカーに相談したい場合は、担任の教員や、そのほかの話しやすい教員にその旨を伝えてみてください。
また、自治体が設置する教育支援センターや教育委員会などが窓口となっていたり、相談会などをおこなっている場合もあります。
お住まいの自治体の状況を調べてみてください。
スクールカウンセラー(SC)とは?スクールカウンセラーの役割や、スクールソーシャルワーカー(SSW)との違いを解説
スクールソーシャルワーカーと同じように、学校において、問題を抱えている児童・生徒の支援をおこなう専門職に「スクールカウンセラー」があります。
スクールカウンセラーとは?
スクールカウンセラーは心理の専門家であり、児童・生徒が抱えるさまざまな問題について解決に向けた助言や指導などをおこなう専門職です。
全学校に配置されているわけではなく、教育委員会に採用され、学校に週1回程度派遣されている場合が多いようです。
スクールソーシャルワーカーとの違いとは?
スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの違いは、その専門性にあります。
スクールカウンセラーが心理の専門家であるのに対し、スクールソーシャルワーカーは社会福祉の専門家です。
このため同じ問題であっても、スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーでは支援をおこなう視点が異なります。
例として、不登校の状態にある子どもへの支援を考えてみましょう。
スクールカウンセラーは、子どもやその家族の心の側面に焦点をあてます。
このため、子どもやその家族とのカウンセリングなどによる心のケアが主な支援の手法になるでしょう。
一方スクールソーシャルワーカーはこの場合、「不登校」という現象が起こった環境に焦点をあてます。
背後に家庭の貧困や虐待、学校でのいじめや本人の発達障害などの疾患などが隠れている可能性を念頭に置き、必要であれば教員や相談支援機関などと連携して解決の方法を探ります。
場合によっては、スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーが協力して支援をおこなうこともあります。
子どもの学校生活に関する相談先
子どもが学校生活で問題を抱えている場合は、スクールソーシャルワーカー以外にも、以下のような機関に相談することができます。
教育相談センター(相談室)
都道府県や市区町村の教育委員会が設置している機関で、子どもの発達や勉強、いじめや不登校など、子どもの教育に関する相談を受けつけています。名称は地域ごとに異なる場合があります。
自治体の相談窓口
教育相談センター(相談室)以外にも、多くの自治体が子どもについて相談できる窓口を設けています。
お住まいの地域の情報を確認してみてください。
発達が気になる場合の相談窓口
「子どもが学校生活で抱えている問題が、発達に関係しているのでは?」と思う場合もあるかもしれません。
このような場合は、以下の機関に相談することができます。
市町村保健センター
保健センターは、市区町村が設置している公的機関です。
地域住民の健康に関するさまざまなサービスを提供するほか、健康相談や、発達が気になる子どもの相談も受けつけています。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害のある人や子どもへの支援を総合的におこなう専門的機関で、各都道府県・指定都市に設置されています。
お住まいの地域の発達障害者支援センターの情報は、以下のサイトで確認することができます。
児童発達支援センター
地域の障害のある子どもを対象に、日常生活における基本動作や集団生活への適応などのプログラムを提供している事業所です。
子どもの発達に関する相談も受けつけています。
LITALICOジュニアでも、児童発達支援や放課後等デイサービスなどのサービスを提供しています。
児童発達支援の利用には「障害児通所受給者証」が必要となりますが、LITALICOジュニアではまた、受給者証が必要ない学習塾も運営しており、発達の気になる子どもを対象として発達支援をおこなっています。
無料相談をおこなっていますので、子どもの学習でのつまづきや、発達が気になるなどの悩みがある場合は、ぜひお問い合わせください。
スクールソーシャルワーカーについてまとめ
スクールソーシャルワーカーは、社会福祉の専門性を持ち、問題を抱えている児童・生徒が置かれている環境に働きかけることで、問題の解決に向けて支援をおこなう専門家です。
スクールソーシャルワーカーには、子どもの学校生活に影響を及ぼしているさまざまな問題について相談することができます。
解決の手立てがわからない場合や、どこに相談してよいかわからない場合などには、まずスクールソーシャルワーカーに相談してみてください。
また、子どもの発達や勉強における遅れなどが気になる場合には、LITALICOジュニアの無料相談もぜひご活用ください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。