ASDのある子どもは、対人関係やあいまいな表現の理解、急な予定変更などの面で苦手を感じることが多いといわれています。
「友達とうまく関係が築けない」「『ちょっと』や『もう少し』など曖昧な言葉に混乱する」「予定が変わるとパニックになる」といった困りごとがある方もいるのではないでしょうか?
ASDといっても一人ひとり具体的に困ることはちがっています。そのため、その人の苦手なことを把握して、適切な対応や支援をおこなっていくことが大事です。
この記事では、ASDのある子どもの苦手なこと、対応方法、ASDなどの発達障害のある子どもの支援や相談先を紹介します。
ASDのある子どもの苦手なこと
ASDは自閉スペクトラム症ともいい、生まれつきの脳機能の偏りにより、生活や学習などの場面でさまざまな困難が生じることのある発達障害の一つです。
ASDは以前は自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などの名称で呼ばれていたものが、統一されてできた診断名です。
ASDのある子どもは、言葉の発達に遅れが見られる、特定のことに強いこだわりを持つ、暗黙のルールが理解しづらいなどの特徴により、日常生活や学校生活で以下のような苦手を感じる場合があります。
ただ、ASDのある子ども全員が次にあげるようなことを苦手と感じるわけではありません、また苦手と感じたとしてもその程度も一人ひとり異なります。対策を立てるための目安としてご参考ください。
※本記事ではASDと表記します。
対人関係やコミュニケーションの苦手
ASDのある子どもは、対人関係やコミュニケーションなど、人と関わることに苦手を感じることが多いといわれています。
理由としては、自分の言いたいことが表現できない、相手の言っている意味がつかめない、遊びのルールが分からず参加できない、といったことが考えられます。
他にも、こだわりが強いことで自分のルールで遊びたい気持ちが強く、他の子どもと一緒に遊ぶ機会が少なくなり、「協調性がない」と思われてしまう場合もあります。
臨機応変な対応が苦手
ASDのある子どもは、急に予定が変わると混乱してしまうなど、臨機応変な対応が苦手ともいわれています。
理由として考えられることは、特定の順番にこだわりがありそれが乱れることが大きなストレスとなることや、見通しを立てることが得意でないため一度立てた予定が崩れると再度見通しを立てることが難しい、などが挙げられます。
あいまいな指示の理解が苦手
ASDのある子どもは、「ちょっとだけ」「もう少し早く」などのあいまいな表現が苦手といわれています。
また、相手の気持ちを想像したり表情などから意図をくみ取ることも苦手なことが多く、大人から指示を受けたときに、理解がしづらく上手く動けないといったことがあります。
逆に、短く具体的な表現だと理解がしやすいため、子どももそういった表現を使うことが多いといわれています。それが結果的に嘘がつけない、ごまかすのが苦手ということにつながっているといえるでしょう。
刺激の多い場所が苦手
ASDのある子どもの中には、視覚過敏、聴覚過敏などの感覚過敏があり、刺激の多い場所が苦手という場合もあります。
例えば視覚過敏のある子どもは、太陽の光が目に痛い、人混みなど情報量が多い場所では疲れやすくなるといった特徴があります。聴覚過敏のある子どもは、急な音にびっくりする、特定の音が耳に痛い、などの特徴があります。
感覚過敏と逆に、刺激を感じづらい「感覚鈍麻」と呼ばれる特性がある子どももいて、その場合は熱さや痛みを感じづらいという特徴もあります。
ASDのある子どもの苦手への対応方法
ASDのある子どもの苦手なことを紹介してきました。こういった苦手は子どもの努力不足ではなく、本人も苦しい思いをしています。
苦手を無理に克服しようとするのではなく、ASDの特性や子どもの性格、周りの環境も考慮したうえで、適切に対応していくことが大事です。
対人関係やコミュニケーションの苦手への対応方法
対人関係やコミュニケーションの苦手への対応方法としては、子どもが理解しやすい方法で伝えることや成功体験を増やしていくことが挙げられます。
例えば、会話するときは具体的に短い言葉で一つずつ伝える、遊びのルールは絵など視覚化して伝えるとASDのある子どもも理解しやすく対人関係の苦手意識も軽減できます。
また、大人が子どもの興味に合わせて話しかける、言葉の遅れや独特の表現を理解して会話を続けるといった対応を取ることで、子どもの会話自体の成功体験を増やしていくことも大事です。
ほかにも、SST(ソーシャルスキルトレーニング)といった、対人関係のプログラムを受けることも方法の一つです。
臨機応変な対応が苦手への対応方法
臨機応変な対応が苦手な子どもへは、変更点をなるべく見通しが立ちやすい方法で伝えるといった対応方法があります。
伝える際は時計やカレンダーなどの絵を使って視覚的に分かりやすくすることで、理解しやすくなる子どももいます。言葉で伝えるときは、一度にまとめて言うのではなく、端的に一つずつ伝えるといいでしょう。
あいまいな指示の理解が苦手への対応方法
あいまいな表現が苦手な場合は、具体的に伝えることが大事です。
「少し」などのあいまいな言葉は使わずに、端的な言葉で一つずつ伝えたり、「5分たったら」「気温が20度以上だったら」など分かりやすい単位で示したりするのもいいでしょう。多くの表現を使わずに、使用する言葉を統一することで、混乱を減らせるかもしれません。
その他にも、絵カードを使うなど言葉以外の手段で伝える方法もあります。
刺激の多い場所が苦手への対応方法
感覚過敏がある子どもは、どのような刺激が苦手かを把握して対応することが大事です。
視覚過敏があって眩しい光が苦手な場合は、家の電球の明るさを調整する、外に出る際は帽子や子ども用のサングラスを着用するなどの方法があります。
また、お気に入りのタオルなど安心するものをもっておくことや、辛くなった時に備えて安全な場所を確保していくといった方法もあります。
他の感覚過敏にも対策グッズが販売されていますので、子どもの過敏に合わせて用意するといいでしょう。
ASDのある子どもの苦手への支援
ASDのある子どもの苦手への対応は、家庭だけでは難しい場合もあると思います。ここでは、活用できる支援を紹介します。
合理的配慮
合理的配慮とは、障害のある方もない方も学校の勉強などを平等に受けることができるように、困りごとに合わせておこなわれる環境調整を含む個別の配慮のことです。
刺激に敏感な子どもには仕切りのある机を用意する、あいまいな指示理解が難しい子どもには指示を一つ伝える、口頭指示のみではなく黒板に書き出してもらう、などもあります。
合理的配慮は園や学校に合理的配慮として相談することができます。希望する場合は、子どもの特性を踏まえた対応をしてもらうよう、担任の先生やスクールカウンセラーなどに相談してみましょう。
特別支援教育
特別支援教育とは、障害のある子どもの特性などを考慮したうえでの教育制度のことです。
特別支援教育にはいくつか種類があり、ASDのある子どもは、障害のある子どものが急である「特別支援学級」や、通常の学級に在籍しながら一部の授業を別に受ける「通級指導教室」を活用することが多くあります。
児童発達支援・放課後等デイサービス
児童発達支援や放課後等デイサービスは、発達障害など発達が気になる子どもが日常生活や集団生活に適応できるように、さまざまな支援を提供する福祉サービスのことです。
自分の感情や欲求を言葉で伝える、自分に合った学習環境を見つけるなど子どもの困りごとを解消するための一人ひとりの子どもに合わせた支援を提供しています。
先程紹介したSSTを取り入れている事業所もあります。
ASDのある子どもの相談先
ASDのある子どもの苦手への対応方法に困っていたり、どのような支援を活用するか悩んでいるという場合は、まずはお近くの相談窓口に相談するといいでしょう。
発達障害や発達の気になる子どもの相談窓口には以下のようなものがあります。
- かかりつけの小児科
- 子ども家庭支援センター
- 子育て支援センター
- 教育センター
- 保健センター
- 児童相談所
- 児童発達支援センター(児童発達支援事業所)
- 発達障害支援センター
他にも、自治体ごとに子どもの発達について相談できる窓口が設置されています。
多くの自治体でホームページに掲載していますので、ご参考にしてください。
発達が気になる子どものためのLITALICOジュニア
LITALICOジュニアはASDで苦手なことがあるなど、発達が気になる子ども一人ひとりの性格や興味関心を踏まえたうえで、困りごとへの支援をおこっています。
言葉の発達が遅い子どもには、子どもが好きなものを通して一緒に遊ぶことで言葉を引き出すといった支援や、計画を立てることが苦手な子どもには集中しやすい環境を整えてこまめにステップを設定して成功体験を積みやすくするといった支援もおこなっています。
無料の相談をいつでも受け付けておりますので、「友達とうまく関係を築けない」「予定の変更でパニックになる」といったお悩みがある方はぜひ一度お問い合わせください。
ASDのある子どもの苦手なことまとめ
ASDのある子どもは、対人関係や臨機応変な対応、あいまいな指示、刺激が多い場所などに苦手を感じることがあるとされています。
こういった苦手は、子どもの努力不足などではなく、本人も辛い思いをしています。どういったことに苦手を感じるかを把握して、対応を検討していくことが大切です。
家庭だけで抱えるのではなく、合理的配慮、児童発達支援といった制度や、さまざまな相談窓口を活用していくといいでしょう。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。