共感覚とは「ある感覚刺激を受けたときに、別の感覚が引き起こされる現象」のことで、「シナスタジア」とも呼ばれます。

文字や音などに特定のイメージを持つ人も多いかもしれませんが、共感覚とはどのように違うのでしょうか?

この記事では共感覚の種類や共感覚が起こる原因、共感覚の特徴や、共感覚を判定するテストについて解説します。

共感覚とは

「共感覚」について統一された定義はありませんが、「ある感覚刺激を受けたときに、その刺激以外のほかの感覚が引き起こされる現象」のことであるといえます。

 

共感覚は、英語ではシナスタジア(「synesthesia」または「synaesthesia」)と呼ばれます。

 

共感覚のある人は例えば、文字を見ると色を感じたり、ある食べ物を食べるとその味に形を感じるなど、本来の感覚刺激に含まれていないはずの別の感覚を感じます。

共感覚のある人が感じるこの「別の感覚」は連想や比喩などとは異なり、 現実感をともなった体験です。

 

「共感覚のある人の割合は少ない」ともいわれていますが、一般の人に占める共感覚のある人の割合は分かっていません。

「共感覚」の定義が定まっていないことや、自分に共感覚があることに気づいていない人も多いと思われるために、共感覚のある人の割合についての統計を取ることが難しい側面もあります。

一方で、近年では、「共感覚のある人はそれほど珍しくないのかもしれない」という見解もあります。

 

共感覚のある人の共感覚についてのとらえ方は、人によりさまざまに異なります。

共感覚があることを肯定的にとらえている人もいれば、共感覚が強い人などは混乱を覚える場合もあるようです。

共感覚は研究途上の分野

共感覚のある人は物心がついたときから共感覚が生じているため、共感覚を特別なことだとは思っていない人も多いでしょう。

そのため、共感覚があることについて他人に驚かれたりすると不安になるかもしれませんが、共感覚は病気ではありません。

 

医学的には、18世紀初頭から共感覚の存在が報告されています。

しかし、証明が難しいために測定方法がなかったことから、統制された研究がおこなわれるようになったのは2000年代に入ってからです。

 

つまり共感覚については現在も研究途上であり、分かっていないことが多い分野であるといえます。

共感覚の種類

共感覚のある人ごとに「どの感覚刺激から、どのような感覚が引き起こされるのか」、つまり共感覚の種類が異なります。

共感覚の種類はたくさんあり、研究によりその数は異なりますが、数十種類に分類できたという研究もあります

 

ここでは、共感覚の主な種類を紹介します。

色字(しきじ)共感覚

文字や数字に色を感じる共感覚です。

色の感じ方は人により異なり、色が実際に目の前に現れる場合や、イメージとしての色を感じる場合などがあることが研究から分かっています。

共感覚の種類の中でも色字共感覚がもっとも多いとされており、共感覚のある人の70%近くは、この色字共感覚に該当するといわれています。

色聴(しきちょう)共感覚

音から色を感じる共感覚です。

ただし、必ずしもすべての音に色を感じるとは限らず、 和音にのみ色を感じる場合や、楽器の音色に色を感じる場合など、さまざまな感じ方があるようです。

音視(おんし)共感覚

色聴共感覚とは逆に、色や光景を見ると音を感じる共感覚です。

 

音視共感覚のある人の割合は比較的少ないと考えられており、その割合は、色聴共感覚がある人の10分の1以下程度であるとする研究もあります。

数型(すうけい)共感覚

カレンダーや月日など、時系列や順序性を持つ数やアルファベットなどがあるとき、それらが空間に3次元的に配置されているように感じる共感覚です。

 

配置の見え方は、曲がっていたりジグザグになっていたり、円を描いていたりと、人により異なります。

序数擬人化

文字や数字などに人格や性別、外見などを感じる共感覚です。

 

例えば「1はたくましい男性、2はか弱い女性」「Aははっきりした性格の若い男性、Cは穏やかな性格の美しい女性」など、性別や年齢、性格や外見などの特徴とともに、文字や数字に人格を感じます。

その他の共感覚

そのほかには、においや味に色や形を感じる共感覚、音に味や触感、においや温度などを感じる共感覚、数字や曜日、円や三角形などの図形、また都道府県などに色を感じる共感覚などがあることが知られています。

 

共感覚の研究は現在も進められており、次々と新しい共感覚が発見されているといわれています。

共感覚の原因

共感覚が起こる原因ははっきりとは分かっていませんが、これまでの研究でいくつかの仮説が立てられています。

 

例えば、色聴共感覚のある人が「音から色を感じている状態」の脳をMRI脳画像診断により観察した研究では、脳の「音を聞き取る部位」と「色を感じる部位」が同時に活性化していることが分かっています。

 

脳の2つの部位が同時に活性化し、それらの部位がつかさどる感覚が結びつく理由については、主に以下の3つの仮説があります。

生まれつきの脳の仕組み

共感覚のある人には、脳の仕組みとしてそのような機能が生まれつき備わっているという説があります。

 

遺伝が関係しているとする説もあり、共感覚のある人の家族にもまた、共感覚のある人がいる場合が多いことも分かっていますが、共感覚に関与する遺伝子はまだ特定されていません。

学習による習得

「ある刺激と、そこから想起される感覚」を繰り返し経験することで共感覚が学習されるとする説です。

 

例えば、幼少期によく見ていた絵本に出てきた文字の色を記憶しており、成長してからもその文字を見ると特定の色を感じる場合などが考えられます。

「刈り込み」を逃れたシナプスの働き

脳の神経細胞は、「シナプス」と呼ばれる「繋ぎ目」を介して結合することで神経回路を形成し、情

報をやり取りしています。

 

生後間もない赤ちゃんの脳にはシナプスが過剰にあるため、異なる感覚の間に神経回路があるとされます。

シナプスは成長とともに環境や経験などに応じて選別され、不要なシナプスは刈り込まれてなくなり、必要なシナプスだけが残ると考えられています。

 

このとき、「刈り込み」を逃れたシナプスがあると神経回路が残り、共感覚が生じるのではないかという説です。

共感覚の判定テストはある?

共感覚の有無を判定する統一された基準は、現在までのところありません。

 

研究がおこなわれる際には、共感覚の有無を判定する方法として以下の2つの方法が用いられています。

 

  • 再テスト法

一定の期間を置いて再度テストし、1回目のテスト結果と一貫性があるか否かで判断する方法。

 

  • 自動性を調べる方法

ある刺激を与えたときの、共感覚が喚起される反応時間を見る方法。共感覚は自動的に起こるため、共感覚のある人は反応時間が速い。

共感覚の特徴

「共感覚」に統一された定義がないのと同じく、「持っている感覚が共感覚なのか」についても、統一された基準はありません。

参考になるのは、さまざまな研究において「共感覚の特徴」として共通して挙げられている以下の要素です。

 

物心ついたときからずっとある

共感覚のある人は、「いつ、どのようなきっかけで共感覚がはじまったか」ということを覚えておらず、物心がついたときからずっと共感覚があります。

 

このため「ほかの人には共感覚がない」ということを知らず、自分に共感覚があることに気づいていない人もいると思われます。

 

「どの刺激から何の感覚が生じるか」は人により異なる

前述のように共感覚の種類は非常にたくさんあり、同じ感覚刺激を受けても、引き起こされる共感覚は人により異なります。

 

個人の中では一貫性がある

ひとりの人の中では「どの感覚から、どの感覚が引き起こされるか」は常に同じであり、おおむね生涯変わることがないと考えられています。

 

自動的に起こり、自分でコントロールできない

共感覚はある感覚刺激を受けると自動的に生じ、本人が意思の力でコントロールすることはできません。

共感覚についてまとめ

共感覚とは、ある感覚刺激を受けたときに、その刺激以外のほかの感覚が引き起こされる現象のことです。

共感覚の種類はたくさんあり、現在も次々と新しい共感覚が発見されているといわれています。

 

共感覚の有無を判定する統一された基準はありませんが、物心ついたときからずっとあること、また、一貫性があることなどが共感覚のある人に共通する要素であるとされています。

 

共感覚については現在も研究が進められており、今後さまざまなことが明らかになることが期待されます。