発達障害のある子どもの進路を考えるときに大切なことは?学校選びのポイントも

発達障害のある子どもの進路を考えるとき、「子どもにとって一番よい選択は何か」ということを迷う保護者の方も多いかもしれません。

 

実際は一律に「これがよい」という選択肢はなく、発達障害の特性と環境との相性、本人の意思や現実的な可能性などにより、適する進路はさまざまです。

 

この記事では、発達障害のある子どもの進路を考えるときのポイントと、中学校以降の進路の選択肢を説明するとともに、進路について相談できる機関も紹介します。

発達障害のある子どもの進路を考えるときに大切なこと

発達障害のある子どもの進路を考えるときに大切なこと

発達障害のある子どもの進路は、子どもの将来の自立などにも関わってくる大きな課題であり、どのように決めればよいのか悩んでいる保護者の方もいるかもしれません。

 

そこでここでは、発達障害のある子どもの進路を考える際のポイントを3つ紹介します。

子どもの特性を理解する

発達障害のある子どもの進路で重要なのは、発達障害の特性と環境との相性です。

 

特性をよく把握したうえで、進路候補の学校の授業形式や支援体制を調べたり、支援担当の教員に相談するなどして、特性と相性のよさそうな環境のある学校を探してみてください。

 

進路を考えるうえで把握しておきたい発達障害の特性には、以下のような例があります。

 

学習面(勉強に関すること)

  • 読み書きや計算が苦手
  • 先生の説明を集中して聞くことができない
  • 想像することが苦手なため、読解力が低い など

生活場面(勉強以外)

  • 感覚過敏があり、制服が着られない
  • 大きな音や声がする場所や集団行動する場など、特定の環境が苦手
  • コミュニケーションが苦手で、人間関係でトラブルが起こりがちである
  • 偏食があるため、給食をすべて食べることができない
  • 物の自己管理が苦手で、忘れ物が多い
  • スケジュールの自己管理が苦手で、予定や期限を守れない
  • 口頭での指示を忘れてしまう
  • 気が散りやすい
  • 予定の変更が苦手 など

例えば、集団行動が苦手な子どもが全日制の高校へ進学すると、朝から夕方までおこなわれる授業や行事などについていけない場合があるかもしれません。

しかし通信制の高校であれば、自分のペースで学びやすくなります。

 

学校でうまくいっていることは何か、逆に「難しい」と感じていることや苦手なことがないかなどを子どもと一緒に確認したり、担任の先生に相談するなどして、子どもの状況を把握することが大切です。

子どもの意思を尊重する

子どもが安心して学べる環境を選ぶためには、発達障害の特性と環境との相性だけではなく、子ども本人の意思を尊重することも大事です。

 

「将来どう生きていくのか」ということは、子どもが自分で決める必要があります。

その進路が自分で決めた道であれば根気よく取り組めたり、特性が長所として伸びていくこともあるかもしれません。

 

子どもが自分の特性や適性を理解して進路を選べるように保護者の方がサポートし、実現する方法を一緒に考えていくことが大切です。

進路の選択肢を具体的に提示する

発達障害のある子どもは特性のために、自分の能力や自分に合う環境などを判断しにくい場合があります。

 

たとえば、ASD(自閉スペクトラム症)の「想像力の弱さ」という特性がある場合は、「将来こうなりたいから、今これを学べばよい」という、進路の道筋をイメージしにくい場合があります。

 

また、こだわりが強い特性がある場合も「あの制服が着たいから、あの学校に行きたい」など、目先のこだわりが先立ってしまうこともあります。

子どもが進路を決めにくい場合は、保護者の方が教員や支援機関などのアドバイスを受けながら、発達障害の特性や本人の意思も考慮したうえで具体的な選択肢を洗い出し、子どもに提示してみてください。そうすることで子どもも、今の選択と将来の姿とを関連づけやすくなるでしょう。

 

また、学校見学に行くことも具体的なイメージを持つのに役立ちます。

発達障害のある小学生の進路は?

発達障害のある小学生の進路は?

ここからは、発達障害のある子どもの中学校以降の進路の選択肢について説明します。

 

公立学校の場合、発達障害のある子どもの中学校の就学先には、「通常学級」「通級指導教室」「特別支援学級」「特別支援学校」の4つの選択肢があります。

通常学級

通常の教育課程に基づく学習をおこないます。

 

一学級の定員は現在は40人ですが、少人数学級の実現に向けて、2021年から5年間かけて段階的に35人へと引き下げることが決まっています。

 

障害のある子どもが在籍する場合は、特別支援教育支援員が日常生活動作の介助や学習活動のサポートをおこなうことがありますが、地域により対応が異なります。

 

通級指導教室 

障害に応じた特別の指導をおこなう教室です。

通常学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする子どもを対象としています。

 

通常学級に在籍し、標準的には週1~8コマの授業を、通級指導教室へ移動して受けます。

在籍校に通級指導教室がない場合は、週4日は通常学級がある学校へ、週1日は通級指導教室のある他の学校の通級指導教室へ通うなど、通い方は地域によりさまざまです。

 

特別支援学級

特別な支援が必要な子どものための学級ですが、すべての小学校に設置されているわけではありません。

 

障害の種別ごとに学級が編制される少人数クラスのため、子ども一人ひとりの課題に応じた個別の学習・生活支援を受けることができます。

 

給食や昼休みの時間、学校行事などは通常学級の子どもたちと一緒に活動することがあります。

特別支援学校

障害の程度が比較的重い子どもを対象とし、専門性の高い教育を実施する学校です。

 

障害による学習・生活上の困難を克服し、自立をはかるために必要な知識と技能を身につけることを目的としています。

発達障害のある中学生の進路と高校選びのポイント

発達障害のある中学生の進路と高校選びのポイント

中学校卒業後は、進学のほか就職など、選択肢が多くなります。

ここでは、発達障害のある子どもが進学する場合についての選択肢を紹介します。

 

高校は義務教育ではないため、基本的には特別支援学級はありません。一部の学校では通級指導教室もありますが、障害のある子どもへの支援体制が学校により大きく異なります。

 

このため、早いうちから中学校の担任や進路指導の教員と相談し、進路を検討していくことが大切です。

 

ここでは高校の進路の各選択肢を、「学校の形式」「学習の内容」「障害へのサポート」という3つの面から紹介します。

学校の形式で選ぶ

全日制高校

一般的な高校で、朝から夕方まで授業がおこなわれ、3年間の修業課程が定められています。

 

普通科高校や農業高校、商業高校などがあり、学びたいことに応じた選択肢が多い反面、個別の支援は受けにくい場合もあります。

 

定時制高校

午前・午後・夜間の部に分けて授業がおこなわれる高校で、3年以上の修業課程が定められています。

入学に年齢制限がなく、授業以外の時間をさまざまなことに使えるというメリットがあります。

 

働きながら学ぶ人のために制度化された教育方式ですが、近年は「不登校になった経験があるため、より自由な学び方をしたい」「対人関係が苦手なため、小規模の学校に通いたい」などのさまざまな理由で選ばれるようになってきています。

 

通信制高校

インターネットなどの通信手段を使って自宅などで自分で学ぶ方式の高校で、3年以上の修業課程が定められています。

指導は生徒が提出するレポートを教員が添削し返送するほか、週1~2回程度登校して「スクーリング」と呼ばれる面接指導がおこなわれます。

 

定時制と同じく、働きながら学ぶ人のために制度化された学校ですが、ほかの生徒と交流する機会がほぼなく、自宅で自分のペースで学べることから「特別な支援が必要」「集団行動が苦手」など、さまざまな理由で選ぶ子どもも増えてきています。

 

しかし自分のペースで学べるがゆえに、通信制高校では単位の習得率が低いという面もあるため、通信制高校が民間の教育支援機関である「サポート校」と提携している場合があります。

 

授業のほかに相談業務もおこなっており、学習や生活面での支援を受けることができます

学習の内容で選ぶ

普通科

普通教育を主とする学科で、「国語」「地理歴史」「数学」「理科」「外国語」などの普通科目を中心に学び、必修科目が多くなっています。

 

専門学科

特定の職種に特化した専門教育を主とする学科で、「農業」「工業」「商業」「水産」などの専門科目を中心に学びます。

 

総合学科

普通科と専門学科を総合した学科で、両方の学科の幅広い選択科目の中から、自分で科目を選んで学ぶ学科です。

 

高等専門学校

実践的で創造的な技術者の養成を目的とした高等教育機関です。

 

一般科目と専門科目をバランスよく配置した原則5年間の教育課程で、理論のほか、実験や実習にも重点が置かれています。

 

学科は学校により異なりますが、機械や電子・土木などの工業系と、海事や海洋などを学ぶ商船系の学科に大きく分かれます。

また経営情報学科、情報デザイン学科、国際流通学科などの学科のある学校もあります。

 

高等専修学校

実践的な職業教育や専門的な技術教育をおこなう教育機関である「専修学校」のうち、中学校卒業者を対象とした高等課程を設置する学校のことです。

 

修業課程は主に1~3年で、学習指導要領に縛られないため、各学校が特色のあるカリキュラムを組んでいます。

 

社会に出てすぐ役立つ職業教育が重視されており、普通科目のほか、専門科目を中心に実習や実技の授業が豊富です。

各種認定資格や自動車整備士、調理師や美容師などの国家資格が取得できる学校もあります。

 

高等専修学校を卒業しても「高等学校卒業資格」は得られませんが、「修業年限が3年以上」などの一定の要件を満たして卒業すると、高等学校卒業者と同様に大学入学資格が得られます。

障害へのサポートで選ぶ

特別支援学校

特別支援学校に小学部・中学部·高等部がある場合と、高等部だけの「高等特別支援学校」である場合とがあります。

 

支援の体制が整っており、障害のある子どもの教育の専門教育を受けた教員が多く配置されています。

学習のほかにも生活スキルの習得や、農作業や技能実習などの就職を見据えた職業教育もおこなっています。

 

普通科のみの学校と、加えて専門的な学科もある学校があります。

 

チャレンジスクール(東京)

小・中学校時代に不登校だった子どもや、高校を中退した子どもなどを対象とする、自治体が独自に運営する学校です。

 

東京都では「チャレンジスクール」との名称ですが、神奈川県や大阪府などでは「クリエイティブスクール」、千葉県では「アクティブスクール」など、自治体により名称が異なります。

 

自分の能力や特性を学校生活で生かしきれなかった子どもの再チャレンジを目的としており、少人数制で個別の指導がしやすい形式をとっている学校が多いようです。

 

たとえば東京都のチャレンジスクールでは、基礎を重視した学習とともにさまざまな専門科目も用意されており、得意分野を伸ばせるような工夫がされています。

発達障害のある高校生の卒業後の進路は?

発達障害のある高校生の進路は?

発達障害のある子どもの高校卒業後の進路は、大きく「進学」「就職」「就職の準備」の3つに分かれます。

進学

大学

主に四年制大学と短期大学があります。

幅広い分野の知識や教養を習得すると同時に、特定の分野を深く学び研究することができます。

このため専門学校よりも理論が重視され、教養科目も多くなっています。

 

専門学校

仕事に必要な知識や技術、資格などの修得を目的とする職業教育機関で、大学と同じ「高等教育機関」と位置づけられます。

 

職業に必要な能力を短期間で修得できることが特徴で、実践を重視したカリキュラムになっており、1年制から4年制までさまざまな学科があります。

就職

障害のある方が働く場合、企業などへ就職する「一般就労」と障害者就労施設で働く「福祉的就労」があります。

 

一般就労

一般就労とは、会社と労働契約を結び、労働者として勤務する働き方のことをいいます。

一般就労にはさらに「一般雇用」と「障害者雇用」の2種類の働き方があります。

 

一般雇用

障害者手帳の有無に関わらず求人に応募することができます。また、選べる職種や求人数が多く、就職活動する時点では選択肢も多いというメリットがあります。

ただし、一般雇用は障害のある方を採用を前提としたものではないため、障害に対する理解や配慮を受けにくい可能性があります。

 

障害者雇用

障害者雇用は、原則として障害者手帳を持っている人が対象になります。

障害者雇用で働く場合、障害に応じた配慮や、特性への理解が得やすいというメリットがあります。

福祉的就労

福祉的就労は、一般就労が難しい障害のある方が、障害の症状や体調の状態に合わせて、福祉サービス事業所内でサポートを受けながら働くことをいいます。

 

福祉的就労ができる場所は、主に以下の2箇所あります。それぞれで対象者や平均工賃が異なります。

 

就労継続支援A型事業所

対象者:原則18歳以上65歳未満の企業などに就労することが困難な障害のある人で、雇用契約に基づき、継続的に就労することができる人

 

令和2年(2020年)に就労継続支援A型事業所を利用していた方の平均賃金は月額79,625円でした。

 

就労継続支援B型事業所

対象者:企業などに就労することが困難な障害のある人で、就労の機会を通して、知識や能力の向上が見込まれる人

 

令和2年(2020年)に就労継続支援B型事業所を利用していた方の平均工賃は月額15,776円でした。

 

一般就労と福祉的就労の違いについては、LITALICOワークスの記事をご覧ください。

就職の準備

自立訓練(生活訓練)

「障害福祉サービス」の一つで、自立訓練(生活訓練)事業所で提供されます。自立訓練は、自立した日常・社会生活を営むことができるよう、身体機能や生活能力の向上をめざすための訓練のことです。

 

身体機能の維持・回復などを目的とする「機能訓練」と、生活能力の維持・向上などを目的とする「生活訓練」の2種類があります。

 

職業訓練

一般の公共職業能力開発校や障害者職業能力開発校などでは、発達障害のある人を対象とする職業訓練もおこなわれています。

就労移行支援

 「障害福祉サービス」の一つで、一般企業への就職をめざす障害のある65歳未満の人を対象に、就職に必要な知識やスキル向上、就職活動のサポートをおこないます。

 

「就労移行支援事業所」に通って支援を受けながら就職のためのスキルを習得したり、企業インターンに参加したりして自分に合う仕事を見つけていきます。また、就職だけではなく、職場に定着するためのサポートもおこないます。

 

LITALICOワークスでは、各地で就労移行支援事業所を運営しています。就職に関するお悩みがある場合、お気軽にご相談ください。

そのほかにも、就労の準備をサポートする場所として、サポステ(地域若者サポートステーション)があります。

サポステは、就労を希望している15歳~49歳までの人を対象として、就労に向けた支援をおこなう厚生労働省委託の機関で、全ての都道府県に設置されています。

 

就職についての相談から各種訓練、就職活動、就職後の職場への定着までをサポートしてくれます。

発達障害のある子どもの進路に関する相談先

発達障害のある子どもの進路に関する相談先

発達障害のある子どもの進路については、通っている学校や志望校に相談するほか、以下のような機関にも相談することができます。

教育相談センター

自治体が運営する教育相談機関で、自治体により「こども相談センター」「青少年教育相談センター」など、名称や対象年齢などが異なる場合があります。

 

東京都の場合は、幼児から高校生に相当する年齢までの子どもやその保護者などからの、友人・家族関係や学校生活、進級・進路などに関する相談を受けつけています。

発達障害者支援センター

発達障害者支援法にもとづき、発達障害のある子どもや人に対する支援を総合的におこなう地域の拠点となる機関です。

年齢を問わず、発達障害のある人やその家族からの相談に応じてくれます。

 

お住まいの地域の発達障害者支援センターは、以下のサイトで調べることができます。

自治体の窓口

自治体の子育てに関する窓口や教育委員会でも、進路について相談できる場合があります。

お住まいの自治体の情報を確認してみてください。

発達障害のある子どもの進路についてまとめ

発達障害のある子どもの進路についてまとめ

発達障害のある子どもの進路選びでは、発達障害の特性への適切な支援のある環境を探しつつ、本人の意思を尊重しながら、現実的な選択をしていく必要があります。

 

早いうちから担任や進路担当の教員、志望校の支援担当の先生や支援機関などに相談して情報収集をおこなうことで、さまざまな可能性が見えてくるでしょう。

 

適性に合った進路について、子ども本人と一緒にいろいろな観点から考えていってください。

 

LITALICOジュニアでは、0歳~高校3年生までの子ども一人ひとりに合わせた指導をおこなう教室を運営しています。子どもとの関わり方や進路の選択に悩まれている保護者の方のサポートもおこなっています。

 

「どんな指導が受けられるのか」「進学して学校の勉強についていけるか心配」など気になる方はぜひお気軽にお問い合わせください。

  • 監修者

    鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員

    井上 雅彦

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。