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小学校入学が近づく6歳頃になっても「ひらがなが読めない」と心配になっている保護者の方もいると思います。しっかりと体系的にひらがなの読みを学ぶのは小学校1年生からですが、保育園や幼稚園で周りの子どもが読み書きできていると気になってしまい、「発達障害があるのでは?」などさまざまなことを考えてしまうこともあるでしょう。
今回は6歳でひらがなが読めないときに考えられる要因と対応方法、児童発達支援での指導事例を紹介します。
6歳でひらがなが読めない要因として考えられること
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子どもが「ひらがながいつまでたっても読めない」と悩んでいる方もいると思います。5歳台ではひらがなの71文字(清音、濁音・半濁音併せて)のうち、9割ぐらいを読めるという調査もあります(島村・三神,1994)周りの子どもがひらがなをスラスラと読めていると、心配になる方も多いでしょう。
多くの場合子どもは4歳頃に文字に興味を持ち始め、本を読む真似などを通して徐々に習得していき、5歳頃にはほとんどのひらがなを読めるようになるといわれています。ただ、読めるといってもいろいろな段階があり、名前やキャラクター名などの単語は読めるけれども、個々のひらがなは読めない場合もあります。また、読めないのではなく、あまり文字などに興味関心がないので覚える機会がない、読む機会が見られないだけの場合もあります。
ひらがなが読めない、または読める数が少ない要因としてはさまざまなことが考えられますが、ここでは発達障害が要因となっている可能性を紹介します。
発達障害とは
発達障害は生まれつきの脳機能の偏りによってさまざまな特性が生じる状態のことです。発達障害にはさまざまな種別がありますが、ここではASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、SLD/LD(限局性学習症/学習障害)、知的障害(知的発達症)を紹介します。
- ASD(自閉スペクトラム症):興味関心の偏り、特定の物事へのこだわり、対人関係やコミュニケーションの困難、感覚過敏(または鈍麻)などが見られる
- ADHD(注意欠如多動症):じっとしていられない、思いついたことをすぐに行動に移すという多動・衝動性、集中が続かない、注意が逸れやすいという不注意という特性が見られる
- SLD/LD(限局性学習症/学習障害):知的発達の遅れがないが、読み、書き、計算などの特定の分野の学習に著しい困難が見られる
- 知的障害(知的発達症):知的発達の遅れがあり、読み書きなどの習得など生活における困難が見られる
発達障害の特性とひらがなの読みの関係
発達障害のある子どもがひらがなの読みを苦手とする場合は、主に知的障害(知的発達症)やSLD/LD(限局性学習症/学習障害)との関係が考えられます。
知的障害(知的発達症)のある子どもは全体的に知的発達が緩やかになるため、周りの子どもがひらがなを読めるようになる時点ではまだ読めないということが考えられます。
SLD/LD(限局性学習症/学習障害)のある子どもにおいては、文字の形の認識や区別などが難しい場合や、文字を音と結びつけることが難しかったり、学びにくかったりする場合があるため、「読めない」につながっている可能性があります。
ただ、海外に比べて日本語のひらがなは5歳時点でも識字率が高く、読めないことが目立ちやすいという背景もあります。
ひらがなが読めない子どもへの対応方法
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ここではひらがなが読めない、読むのが苦手という子どもへの対応方法をいくつか紹介します。ひらがなが読めないといっても要因は子どもによって異なりますので、いろいろと試してみて子どもに合った方法を探していくといいでしょう。
ひらがなに興味が持てるようにする
そもそも文字に興味関心が向かなければ、読もうという気持ちになりません。そのため好きなキャラクターの出ている絵本やアニメ、ゲームなどを使って子どもが文字に興味を持ってもらうことから始めるのも重要です
また、ひらがなを学ぶとなると、どうしても「あ」や「さ」など一文字ずつ教えようとしてしまいがちですが、これは子どもにとってはよく分からない記号を覚えているのと変わらず、「つまらない」となりやすいため、興味のある単語を読めるようにといったところからスタートします。実は言葉の発達もそのように進んでいきます。
最初は好きなアニメに出てくるキャラクターやアイテムの名称をひらがなにして覚えていく、お芝居やごっこ遊びをしながら覚えていくなどの方法で文字に親しむ機会を作っていくといいでしょう。
子どもに合った方法で学習を進める
子どもの特性によってほかの子どもと同じ方法では理解が難しい場合もあります。そのときは、特性に合わせた学習方法を探っていくといいでしょう。
例えば五感を使って覚える方法があり、
- 粘土でひらがなを作り触覚で覚える
- イラストとひらがなの描かれたカードを使い視覚で覚える
- タッチすると音の出るツールを使い聴覚で覚える
などがあります。
現在ではタブレットなどでイラスト、音、ひらがなをセットで学べるアプリもあります。アプリの中には間違い探しやクイズ形式で覚える機能などもあるので、楽しみながら学習を進めることができます。
学びにくさを減らす環境調整をする
子どもによっては学習環境が合わないために、ひらがなの読みの習得が遅れているということも考えられます。そういったときは、子どもの特性に合わせた環境調整をする方法があります。環境調整はひらがなに限ったことではなく、例えば気が散りやすい子どもの場合は「机の上を片づける」「席の配置を変える」などの方法があります。
どこに困難があるかによって効果的な対策は変わってきます。家庭や保育園などの様子を見て、先生とも相談しながら困難を減らしていく方法を考えていくといいでしょう。
ひらがなが読めない子どもへの指導例
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ここでは、ひらがなが読めないなど困りごとがある子どもへの支援を行っているLITALICOジュニアで実施している、ひらがなが読むことが苦手な子どもへの指導例を紹介していきます。
ひらがなの習得は
- 知っている単語をまとまりでは読める段階
- 個々の文字を読める段階
- 知らない単語でも文字を順に読んで読める段階
と進んでいくとされています。そのため子どもの段階に合わせた学びが大事になります。また、子どもの興味関心や得意不得意などによっても効果的な方法は異なります。そのため、まずは子どもと話したり一緒に遊んだりしながら、どういった段階でどのような方法が効果的か探ったのちに具体的な指導に入っていきます。
好きなもので単語の読みの練習をする
先ほど紹介したように子どもの好きなものを活用して、単語をひとまとまりで読めるようにする指導方法です。
指導員が保護者からヒアリングした内容と子どもとの対話や遊びなどの関わりを通して、どういったものであれば興味を持って取り組めるか探っていきます。例えば動物、とくに犬に興味があるとつかめたら、用意してある教材や指導員が自作したイラストつきのカードなどを使って練習を進めていきます。
また、スタンプカードを作って読めた文字数に応じてスタンプを押していくなど、子どもが楽しんで取り組める工夫もしながら指導を進めていきます。
音と形を一致させる練習をする
「いちご」など単語としては捉えられても、「い」「ご」など一文字だけ抜き出されると分からなくなってしまうこともあります。
そういったときも、子どもの興味に合わせた教材を使って学習を進めていきます。例えば、いちごのイラストが描かれたカードを見せ、「あ」「い」「う」などひらがな一文字だけ書かれたカード群の中から「い」「ち」「ご」のカードを選んでもらう方法があります。その際に指導員が「いちご」と発音したり、選ぶカードの枚数を調整したりしていきます。
似た文字の判別練習をする
特定の文字の読みが苦手な子どもには、困難に合わせて重点的に指導していくこともあります。
例えば「あ」と「ぬ」など似ている文字の判別が難しい場合は、子どもが見比べやすいように似た文字を横に並べたプリントを使い、指導員が「「あ」はどっち?」などと問いかけて子どもに選んでもらう方法などがあります。
プリントも子どもに合わせて文字同士の背景色を変更したり、指導員が読み上げて音と形を一致させやすいようにしたりと学びやすいように工夫していきます。
粘土など触覚を使って学ぶ
子どもによっては視覚や聴覚ではなく、触覚で把握するのが得意な場合もあります。そういった子どもには、粘土やモールといった素材を使って、触った感触でひらがなを覚えていく指導法を使うこともあります。
その際は指導員が「ここが交差しているね」など声をかけて印象に残りやすくしたり、作った文字を指でなぞってもらって形を感覚で捉えるようにしたりと工夫していきます。
また、文字を読むことに苦手意識を感じている子どもの場合は、楽しみながら作ることで「文字って楽しい」と学習に前向きな感情を持ってもらうことにもつながります。
LITALICOジュニアの指導
LITALICOジュニアでは、子ども一人ひとりの特性や性格などを踏まえてひらがなが読めない原因の把握と個別の対応を行っています。ひらがなが読めないといっても、読める文字数、文字に対する意識、子どもの興味関心、周りの環境などは一人ひとり違っていて、効果的な指導方法も異なります。そのため、まずは保護者や本人との関わりを通して、最適な指導方法を探っていきます。
使用する教材も用意されたものもあれば、指導員が子どもの好きなものに合わせて自作することもあります。また、子どもが学習しやすいように部屋の中の環境や声のかけ方などその子に合わせて最適な状況で指導にあたっています。
「ひらがなが読めなくて不安」「苦手な文字がある」などで心配な人はぜひ一度ご相談ください。
まとめ
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5歳や6歳など年長になってひらがなが読めないと心配になる保護者も多いと思います。ひらがなが読めないことにはいくつか要因が考えられますが、発達障害の特性が背景にある可能性も考えられます。
ひらがなが読めるようになるためには、子どもに好きなものに合わせて教えたり、学習のしづらさを軽減できるように環境を調整するなどの方法があります。
LITALICOジュニアでもひらがなの読み書きを促す指導を行っているので、興味があれば問い合わせてみてください。