発達の凸凹と努力が導いた。けん玉ワールド・カップで2度の優勝
2022年10月08日公開 | LITALICOジュニア編集部
目次
プロフィール
Tくん
年齢:15歳
ジュニア歴:5年
発達障害を疑うようになったのは「しりとりができない」という指摘から
息子は今年で15歳になり、ずっと続けてきたけん玉ワールドカップ2022年の大会で2回目の優勝をすることができました。
優勝のインタビューでマイクを向けられたときにはしっかりとした受け答えをしていましたが、幼い頃は本当におしゃべりをしない子どもだったんです。当時は分からなかったのですが、場面緘黙症の症状がこの頃から出ていたのだと思います。3人目の子どもだったので、息子が赤ちゃんの頃は上の2人に目が行きがちで息子に対して話しかけることが少なかったのかもしれないと反省したこともありました。
年少の頃に保育園の先生から「しりとり遊びができない」という指摘がありました。その時はまだ「成長の過程でしょ」くらいにしか考えていなかったんです。でも、お友達とのやりとりなどを見ていくうちに、だんだんと気になることが増えてきて発達障害を疑うように。
年中の頃に「これは何か対処しなければいけないな」と思って、療育の施設を探し始めました。
親にとって、LITALICOは救われる場所。先生たちは当時の恩人
ネットで療育の施設を探し始め、通いやすい場所にあったLITALICOジュニアに行ってみることにしました。NPOや社会福祉法人が運営する教室も候補でしたが、そういったところに比べてLITALICOは、教室もカラフルだし雰囲気もオープンで好印象でした。
ただ、当時はものすごく人見知りが激しかったので、体験授業に行った時の先生と実際に通うことになった時で先生が変わったことが不安だったので「本当に大丈夫ですか?」と意見させていただいたこともありましたね。でも、いざ授業が始まってみるとどの先生もとても真摯に息子の対応をしてくださって、不安はすぐに消えました。
それからも本当にいろいろなことを先生にお話しさせていただき、先生にはご迷惑をかけたかもしれません。でも、親の私にとってLITALICOや先生方は恩人でした。
私が息子にとって間違ったことをしているときには、やんわりと「Tくんはこうだから、ああした方がいい」とアドバイスしていただいたこともたくさんありました。当時は息子を育てるうえでの悩みが尽きなくて辛いことも多かったのですが、LITALICOに行くと毎回「Tくーん!」と先生方が明るく迎えてくれたことにも本当に救われましたね。
発達障害の診断はグレー。でも小学校ではさまざまな課題が
小学校にあがる前に病院にも行ったのですが、はっきりと発達障害という診断はおりず、グレーということでした。
でも小学生になるとさらにいろいろな課題が見えてきました。授業中に集中力が続かない、座っていられない、テストの点などです。お友だちとも喧嘩することが増えて、私がお友だちの保護者に謝りに行ったりしたことも…。
勉強面では当時算数はできていたのですが、文章が苦手だったようで書いたり読んだりが苦手だったんです。だから宿題をやらせるのも一苦労で…。毎朝早朝から私が付き添いをするなかで息子は泣きながら宿題をやっていました。
私の方が苦しくなってしまって、LITALICOで息子の宿題を見てもらったりもしましたね。先生方はとても一生懸命にやってくださって、感謝しています。親だとできないことに対して、ああだこうだと言ってしまいがちなので…。
先生方はどうしてもできない問題は飛ばして…とテンポ良く進めてくださったりしたので、そのやり方を家で真似てみたりもしました。先生方がすごく一生懸命なのに、息子が全く動かずいらいらしたことも数えきれないほどありましたけど(笑)
学校の先生とも密にコミュニケーション。試行錯誤で学校生活を支える日々
3年生くらいまではお友だちと揉めてしまうことも多かったのですが、4年生の担任の先生は息子にとても合っていたようです。LITALICOの先生が小学校を訪問して「T君には安心できる居場所が必要」と話してくれました。
その後担任の先生が息子に黒板の掃除を教えてくれたんです。息子も黒板掃除が好きになったみたいで、そうすると一生懸命やるので黒板もぴかぴかになって、周りからも感謝されて、息子の居場所が教室にできて…と良い循環ができたようです。
高学年になって、やっぱり勉強では苦労していましたが、運動は得意なので先生が体育の時間の見本に息子を選んでくれたり、応援団をやらせてくれたりと配慮していただきました。
息子が問題を起こすと私もよく学校に行って、先生に謝ったり、お話したりするようにしていました。どうしたら先生たちに負担をかけずにコミュニケーションできるかと考えたりもしながら。息子はあくまでグレーなので、支援に繋がることができず、試行錯誤の日々でした。
お友だちと信頼関係を築き、心配していた不登校にはならず
小学生から中3になった今まで、学校が辛そうな素振りを見せたことはあるものの、不登校になったことはないんです。特に最近は友だちに対して「それどういう意味?」「どういうこと?」と質問できるようになりました。
ずっと息子は誰かに助けを求めることができなくて…。LITALICOに通っていたときも先生が「分からない?」と助け舟を出してくれたとしても「うん」と言えなかったんです。だから、自分から「分からないから教えて」とコミュニケーションできるようになったのは本当に大きな成長だなと思っています。
息子の友だちに会ったときに「いつもありがとう!Tはどう?」って聞いたりもするんですけど、「面白いっす」とか「優しいよ」と言ってくれて、息子なりの信頼関係を築けているみたいです。
でもやっぱりこだわりもあるので、クラスに馴染めないと勝手に他のクラスに行ってしまったりして、今も毎週先生に謝りに行っていますけどね。
特性と努力が導いた、けん玉ワールドカップ優勝
そんな息子がけん玉に出会ったのは小学2年生の頃でした。
学童に通っていたのですが、当時は何かあるとすぐにお友だちと揉めちゃう時期で…。先生方がいろいろ考えてくださったんです。みんなで一緒にやるドッジボールやサッカーではなく、何か息子が一人で楽しめるものを、と。それがけん玉だったのですが、息子はすっかりはまってしまい、朝起きてから夜寝るまで、おやつも食べずにずっとけん玉の練習をしていました。
やっぱり練習する子って強いんですよね。私自身は息子に“才能がある”と思ったことは一度もありません。
練習時間と努力の賜物だなと思っています。ただ、息子はそれを“努力”とも思っていないかもしれません。とことん突き詰める特性がワールドカップ優勝にまで導いてくれたのかなとも思います。
感覚過敏ゆえの特性が活きる?
息子は元々感覚過敏があって小さい頃から肌着を着れない子どもでした。
幼い頃は寒いからと思って無理矢理着せようとするんですが、泣いて、怒って…という感じ。手先も人よりずっと過敏なのだと思います。
だからなのか、息子は物を持つと「何グラム」とほぼ的確に当てることができるんです。
今はその力を活かして使いやすい重さにするために自分でけん玉を削ったり、重い木を埋め込んだりなんかもしています。
手に持つと重さが分かると言うと「すごいね!」と言われることも多いですが、息子なりの感覚過敏ゆえの苦労があったんだろうなと思います。でも、それを活かしている姿を見るとありがたいなという気持ちになりますね。
自分に合った高校生活を経て、いつかは理解のある職場に
息子は今年中3なので、高校進学を控えています。どんな高校が息子に合うのか決めきれず、難しい選択を迫られている感じです。
今はいろいろな選択肢があるのですが、息子自身がテストで点を取れなかったり、勉強が苦手だったりで諦めてしまっている部分があるなと感じます。高校の話になると自分の殻にこもってしまうという感じです。けん玉という特技があっても、やっぱり学校生活だけに焦点を合わせると厳しい面も多いなと思います。
でも、これまでお友達と学校生活を楽しめているという一面もあるので、息子に合った学校を見つけて楽しい高校生活を送ってほしいなと思っています。ゆくゆくは仕事に就くことになると思いますが、彼の特性を分かってくれる職場で普通の生活ができるようになったらいいですね。
3兄弟で、一番上の息子と一番下のTは「結婚しない」と言っているんですが、息子を理解してくれる奥さんがいて、ものすごくお金持ちになれなくても、普通に幸せな大人になってくれたら、それ以上望むことはありません。
Tくんのメッセージ
LITALICOに通うなかには、楽しいことも、今日は疲れたから面倒くさいなと感じることもありました。でも、できないことができるようになった時にはとても嬉しい気持ちになったのを覚えています。
けん玉を始めて、外国の人たちがもの凄い技をやっている動画を見てから「かっこいい!」と思って、それを目指すようになりました。ワールドカップで優勝したときには、LINEやInstagramのDMなどで、友達からおめでとうのメッセージがたくさん来て、それもすごく嬉しかったです。
まだ高校については決められていませんが、高校生になってもけん玉は続けます。
スポンサーがついたりしている人もいるので、そういうことも目指していければ嬉しいです。いつかけん玉がオリンピックの競技になってオリンピックに出場したり、けん玉で食べていくことができたらなと思っています。
先生からのコメント
私が出会った頃のTくんは、新しい環境やコミュニケーションが苦手なお子さんでした。
こちらが質問しても「はい」や「ちがう」と返答するくらい。言語化するのがうまくできないという特性に、本人もきっと苦しんでいたと思います。助けを求めることが苦手だったので、分からないことが出てくると完全にフリーズ状態になり、その後の授業が進まないなんてこともありました。
でも、自分が好きなことには積極的に取り組み、ときには「もっとやりたい」という態度を見せてくれることも。けん玉に出会ってからのTくんはこちらがびっくりするくらい熱心に練習していて、新品だったけん玉が3週間でボロボロになっているのを見た時にはTくんが持つ計り知れないパワーを感じました。
そんなTくんがワールドカップで優勝した時は本当に嬉しかったです。インタビューでしっかりとした受け答えをしたり、仲間と楽しそうにハイタッチをしている姿を見て感動しました。驚くほどの大きな成長を見せてくれてありがとう、という気持ちです。