「先生が怖い、学校が怖い」不登校からはじまり、家族以外と関わらなくなった。そんな息子がオンラインコースを通じて自分で一歩を踏み出すまでに
2023年09月27日公開 | LITALICOジュニア編集部
LITALICOジュニアのパーソナルコースでコミュニケーションスキルの習得や身の回りの苦手の克服に向けて取り組んだ結果、今ではできることが増え、自信もついてきたといいます。Tくんのお母さまに、これまでの経緯とTくんの成長について伺いました。
目次
プロフィール
Tくん
年齢:12歳
ジュニア歴:9ヶ月
困りごと
- 不登校になり、家から一歩外に出るのが難しくなった
- 気持ちの切り替えが苦手
- 普段は引っ込み思案で、自分の気持ちを話すのが苦手
- 相手の話を聞かずに一方的に話し続けてしまうことがある
- 感覚過敏により、日常生活に困難も
- 学習障害があり、読み書きが苦手
通ってからの変化
- 外出の機会が増えた
- 気持ちの切り替えが上手になった
- 相手の話を聞けるように
- スケジュール感覚が掴めてきた
- 身の回りのことが自分でできるようになってきた
学校に通えず、家に引きこもりがちだった
LITALICOジュニアに通う前、Tくんにはどのような困りごとがあったのでしょうか?
入学後すぐに「先生が怖い、学校が怖い」と訴えるようになったんです。話を聞くと、Tは小学校の教室に入ると『頭がクラクラする。』と言うので、過緊張になるのかなと思いました。低学年のうちは頑張って登校していましたが、教室に入れない日が多く、保健室や別室で過ごすことがほとんど。小学5年生になる頃には、ほとんど学校に行けなくなってしまいました。
また、小学2年生の頃に新幹線の中で嘔吐してしまったことがトラウマとなり、それ以降は乗り物にも乗れなくなっていました。住んでいるマンションのエレベーターにさえ乗れず、自転車以外の乗り物では移動できなくなってしまったことで、行動範囲が狭まりました。小学校低学年までは友だちに誘われれば外に遊びに行くこともあったのですが、高学年になると、人から誘われても外に出ることがまったくなくなったので、1日中家の中で過ごすようになり、家族以外の人との関わりがなくなったんです。
そうだったのですね。学習面に関してもお困りごとがあったのでしょうか?
小学校低学年の頃は、文字の読み書きも問題なくできていました。でも、3年生になると、漢字を書く練習をしている時に顔を真っ赤にしながら「あつい、あつい」と言い始めるようになって。そんなTの様子が気になって発達検査を受けたところ、学習障害があることがわかりました。
検査の後、Tは「今まで学校の先生が黒板に書いたことをノートに書き写すのがつらかった」と、初めて私に話してくれたんです。一生懸命がんばっても、ノートを書き終わらないうちに先生が黒板をどんどん消していくので、授業中はずっと気持ちが焦っていたようです。文字を読むことについても、教科書の文量が増えて文字が小さくなってくると、スラスラと音読することができなくなりました。
読み書きが苦手となると、ご自宅で勉強を教えるお母さまも大変ですよね。
はい。学校にほとんど行けていない息子のために、私が一生懸命勉強を教えていたのですが、やはり苦労しました。小学5年生くらいになると、なかなか親と一緒に勉強に取り組んでくれなくなってきたので余計に悩みました。今後もしTが学校に行けるようになった場合に本人が困らないよう、勉強もコミュニケーションも外部のサポートが必要だと感じるようになりました。
趣味の話題を通じて、先生と楽しく会話ができた
Tくんは、9ヶ月間オンラインでパーソナルコースを受講されていたそうですね。
Tは、家の外に出ると「お腹が痛い」「臭いで気持ち悪くなる」と、しんどそうな様子を見せるんです。外出や移動によって本人に負担が掛からないように、オンラインで受講できる教室を探した結果、LITALICOジュニアにたどり着きました。オンラインに慣れてきたら、途中から通塾に切り替えることもできるのもいいなと思い、気軽に始めやすい9ヶ月コースを受けてみることにしたんです。
初回授業の時、Tくんはどんなご様子でしたか?
授業が始まる前は気が進まない様子で、かなり参加を渋っていました。でも、実際に授業が始まると、先生がTの大好きなゲームやYouTubeの話を振ってくれたので、息子は楽しそうに話をしていました。最初は「緊張するから」という理由でカメラをオフにしていたのですが、その授業の最後には先生に顔を見せてお話もできました。
2回目以降も順調に授業に慣れていけましたか?
最初は結構乗り気だったのですが、3回目くらいからは授業の時間に合わせてパソコンの前に座るのがむずかしくなりました。
LITALICOジュニアは曜日・時間が決まっているのですが、息子には小学校5年生から始まった昼夜逆転の生活だったり、毎日友だちと予定を合わせてオンラインゲームするという日課がありました。
私からも授業のスケジュールは事前に伝えてはいるのですが、ゲームの最中にLITALICOジュニアの時間がくると、不機嫌になりました。それでも先生は、息子が興味を持ちそうな話を交えてくださったり、息子が心の準備をしたうえで安心して参加できるように、今日は何を話す予定なのかを事前に連絡してくださったりしました。そのおかげで、知らない人に対する警戒感が強い息子も徐々に慣れてきて、自然とLITALICOジュニアの授業に参加することが日常生活に定着してきた感じがします。
気持ちの切り替えがスムーズに
授業では、どのようなことに取り組まれましたか?
Tの場合、いきなり学校の勉強に取り組むのは難しい状況だったので、まずは人と信頼関係を築いていくためのコミュニケーション方法を学びました。授業では、会話中に自分の話したいことを一方的にしゃべらないようにする練習や、話し始める前にまず「すみません」と声を掛ける練習をしました。
お母さまはペアレントトレーニングも受けられたとのことですが、当時はどんなご相談をされていましたか?
ペアレントトレーニングでは、本当にいろいろなご相談をさせていただきました。例えば、気持ちの切り替えが苦手なTが落ち込んでしまった時、どのように接したらいいのかという相談をしたこともありました。
今までの私は、Tがゲームで負けていじけている時に「負けてそこまで落ち込むならゲームをやめたらいいでしょ」と言ってしまっていたんです。でも、「本人が傷ついているときに正論をぶつけてしまうともっと落ち込んでしまいます。Tくんが落ち込んだ時には、話を聞いてあげた方が気持ちを早く切り替えられますよ」と先生に教えていただいてからは、意識してTの話を聞くようにしました。その結果、今では思い通りにいかない時でもどんよりした顔で過ごす時間がだいぶ短くなったと思います。
お母さまが先生のアドバイスを受け入れて、実践されているのが素晴らしいですね。
LITALICOジュニアの先生は、発達障害の子どもの持つ感覚や物事の捉え方をよく理解されていて、私に対してわかりやすく説明してくださいます。だから、アドバイスいただく内容がどれも腑に落ちるんです。それに、Tが苦手なことを克服するためにはどうしたらいいのかを具体的に示してくださるのもありがたかったです。
おかげさまで、LITALICOジュニアの授業を受け始めた頃と比べて、Tが自分でできることが増えてきているんです。お風呂に入るとか、熱い湯気が出るお茶やお湯をコップに注ぐといった私たちにとっては当たり前のようなことも、Tにはすごく怖かったり、むずかしかったりすることだったのですが、先生のアドバイスによって徐々に克服してきています。これは私にとって一番嬉しかったことです。
チャレンジ意欲を引き出すことで、家から出られるように
今まで先生にいろいろなご相談をされてきたとのことですが、なかでも特に「役に立った!」と思ったアドバイスはありますか?
一番効果があったのが、スケジュール感覚を養うための付箋の活用です。これまでは、LITALICOジュニアの授業予定をカレンダーに直接書き込んでいたのですが、あまりちゃんと見てくれず、授業のことを忘れてゲームに没頭してしまうこともありました。
先生に相談したところ、「カレンダーに直接予定を書き込むのではなくて、目立つ色の付箋に書いてカレンダーに貼るといいですよ」というアドバイスをいただいたんです。付箋の方が見やすいうえに、予定が終わった後に剥がすことで達成感も味わえると教えていただいた時、私には思い付かなかったことなので「なるほど」と思いました。そのアドバイスを早速実践してみると、息子が自分から「今日、何か予定ある?」と確認してくれるようになったんです。
少しの工夫で、Tくんにも伝わりやすくなったのですね。
そうですね。それから、家に引きこもりがちな息子をどうやって外に連れ出したらいいかを相談した際に、先生からいただいた「玄関から一歩外に出てみようというチャレンジ意欲を引き出すために、外に出るメリットを提示してみましょう」というアドバイスも、とても役立ちました。先生からアドバイスをいただく前は、ご褒美を与えることで、どんどん欲求が大きくなってしまうような気がして、なかなか行動に移せなかったんです。でも先生が言うならやってみようと思い「玄関から一歩外に出たらポテトチップスが食べられる」というルールを作ってみたところ、毎日外に出られるようになったんです。他にも、ゴミ箱をちゃんとゴミ箱に捨てるとか、自分の飲み物は自分でコップに注ぐとか、今まではちゃんとやってくれなかったこともメリットを作ることで、自分でできるようになりました。
気持ちに余裕が生まれたことで、親子の会話にも変化が
LITALICOジュニアを始めてからの9ヶ月間で、お母さまのお気持ちに変化はありましたか?
これまでも、家庭支援センターの職員の方やスクールカウンセラーの先生にも相談をすることはありました。でも、話は丁寧に聞いてもらえるけど、息子に対して何ができるかという具体的なアドバイスはもらえなかったんです。LITALICOジュニアでは、先生に毎週相談ができますし、相談した内容に対して、具体的なアドバイスをいただけます。今までは、困りごとに対して「何をすればいいの?」というモヤモヤをずっと抱えていたのですが、1人で悩むことがなくなったので、気持ちがすっきりしました。
親子関係に変化はありましたか?
今までは息子のダメな部分や「こうしてほしい」と思っている部分に意識が向いてしまい、イライラすることが多かったんです。でも今では、Tができることが増えてきたことに対して私もうれしい気持ちになり、自然と「ゴミ捨てられたね」「今日も部屋がきれいだね」と、いいところを褒められるようになりました。
褒められる機会が増えたことで、Tも気持ちが満たされているみたいです。今までは私が息子のために何かをしても「お母さんがやって当たり前」という態度だったのですが、最近では気持ちに余裕があるからか、「お母さん、ありがとう」と言葉にして伝えてくれるようになりました。
今後、Tくんにどのように成長してほしいですか?
できることが増えたことで、以前よりも本人の中で自信は付いてきたようなのですが、それでも学校に行けていないことから時々「自分なんてダメな人間だ」と発言することがあるんです。これから大人になっていく過程で「やってみたらできた」という成功体験を少しずつ積み上げていくことで、自分で気持ちを前向きに持っていけるようになればいいですね。最終的には、外に出て自分のやりたいことを見つけて、自分の収入で生活していけるようになれば……と思っています。
先生からのコメント
体験授業の時には、とにかく自分の話したいことを一方的に話す様子で、相手の話を聞いてリアクションをとることができなかったTくん。「もっと自分の話を聞いてほしい」「友だちともっと話ができるようになりたい」というご本人の願いもあったので、まずは会話のスキルを高めることを目標にしました。授業で一番大切にしていたのは、ご家族以外との会話の機会がほとんどないTくんが「人と話して楽しかった」と思えるポジティブな体験を積み重ねていくことです。会話を中心に授業を進めながら、特に意識や努力をしなくても、知らない間にスキルが伸びていくという状況を目指しました。また、Tくんが「外に出てみたい」「人と関わりたい」という気持ちを持つことが彼自身の成長に繋がると考えていたので、その意欲を引き出すために「先生が言うならやってみようかな」と思ってもらえるような信頼関係の構築にも重きを置きました。
Tくんのお母さまは、ペアレントトレーニングを通じてこれまでよりもTくんのいいところ、成長した部分をたくさん見つけてくださるようになり、それをTくんに言葉で伝えてくださいました。それが「褒めてもらえるからがんばってみよう」というTくんのモチベーションになり、さらにできることが増えていく、といういいサイクルができたと感じます。これからも、Tくんが行ける場所、関わる人が少しずつ増えていき、より楽しく過ごせるようになることを願っています。