聴覚過敏とは?特性や原因、対策を解説しますのイメージ画像

子どもと一緒にいて、「スーパーに入ろうと思ったら、騒音を嫌がり耳を塞いでしまう」「掃除機の音でパニックになる」などといった経験はありませんか。

 

これらの状態は、感覚過敏のひとつである「聴覚過敏」によるものかもしれません。

 

しかし、聴覚過敏という言葉を初めて聞く方もいらっしゃると思います。

 

そこで今回は、聴覚過敏の特性や原因、その対策などについて解説します。

聴覚過敏とは?

「聴覚過敏」は感覚過敏の1つです。感覚過敏とは、特定の音やにおい、光、味、感触に対してとても敏感に反応してしまい、日常生活や保育園、学校などの社会生活などで、困難が生じる状態のことをいいます。

 

たいていの人は、何かが軽く触れたり、突然大きな音が聞こえたりしたときに一瞬注意を払いますが、あまり気に留めることはありません。

 

しかし、感覚過敏のある人はそれができません。多くの方なら無視できるような状況や刺激を無視できなかったり、過敏に反応したりすることがあります。

感覚過敏とは?

感覚過敏とは特性を表す言葉で、病名ではありません。

 

例えば、「味覚」で言うと、同じものを食べても人によって味の感じ方は違います。

 

同じ料理でもとても辛くて苦手だと感じる人もいれば、辛く感じない人もいるでしょう。また、辛かったとしてもその味を好ましく感じる人もいます。

 

このように「味覚」の感じ方は人それぞれです。「聴覚」もこの例と同様で、同じ音であっても人それぞれ異なる感じ方をしています。

 

「聴覚過敏」とは、他の人が気にしないような特定の音、大きな音などに対して、過敏に反応したり、不安を感じたりする状態のことをいいます。

 

 また、感覚過敏には、聴覚過敏以外にも以下のようなものがあります。

 

  • 視覚過敏(まぶしい光を嫌がる、一度に多くの物や人が見えると混乱するなど)
  • 味覚過敏(特定の食べ物に対し、過剰に反応するなど)
  • 嗅覚過敏(他の人が気づかないようなにおいに反応する、嫌がるなど)
  • 触覚過敏(人に触られるのを避ける、汚れることや服の肌触りが嫌いなど)
  • 動きやバランスに関する過敏(不意に動かされることを嫌がる、車酔いがひどいなど)

 

聴覚過敏と合わせて他の感覚過敏が同時に起こる人もいらっしゃいます。

 

また、感覚過敏の真逆の状態である感覚鈍麻も存在します。これは感覚に対しての反応が鈍い場合をいいます。

 

ただし、特定の感覚に過敏だからといって全ての感覚に対して過敏なわけではなく、同じ人に感覚過敏と感覚鈍麻の両方がみられる場合もあります。

聴覚過敏の特性は?

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聴覚過敏といっても、子どもによって苦手な音はさまざまです。

 

ここでは、聴覚過敏の特性(特徴)や聴覚過敏のよく見られる困りの例をご紹介します。

聴覚過敏の特性(特徴)とは?

聴覚過敏の特性(特徴)は、その名の通り、聴覚(音を感じる感覚)がとても過敏になるということです。

 

たいていの人が聞こえないような音が聞こえたり、多くの人にとっては苦にならないような音に対して苦痛を感じたりします。

 

また、人によっては、他の人に比べて音量が大きく感じたり、痛みを感じる場合もあります。

 

他にも、周りの雑音が耳に入ってしまい、特定の音に注意を向けることが難しいといった困難を抱える方もいらっしゃいます。その結果としてストレスを感じやすく、イライラしたり機嫌が悪くなったりすることがあるかもしれません。

 

感覚過敏の中でも、聴覚過敏は特に日常生活に与える影響が大きいと考えられます。私たちは様々な音に囲まれて生活しており、突然の音や身の回りの雑音などを全て予測したり回避したりすることが難しいからです。

 

したがって聴覚過敏があると、生活の中で嫌な場面、混乱させられる場面が多くなると思います。

 

ただし、すべての音に対して苦痛を示すわけではありません。自分が許容できる音もあれば、特定の好きな音や嫌いな音もあります。

 

このように、個人間で音の捉え方にはバラツキがあるのと同様に、聴覚過敏の特性(特徴)は人それぞれ異なります。

聴覚過敏としてよく見られる困りの例

聴覚過敏で見られる状態をいくつかご紹介します。

  • 特定の音に対して苦痛を訴える
  • 何気ない音に対して耳をふさぐ
  • 遠くの音に対して人よりも早く反応する
  • ざわざわしている場所が苦手である

 

また、聴覚過敏の子どもが苦手な音をいくつかご紹介します。

  • 掃除機・バイク・ドライヤーの音
  • 冷蔵庫の音
  • 運動会のピストルの音
  • 非常ベルや校内放送など突然起こる大きな音
  • 合唱の不協和音
  • スーパーなどの騒々しさ
  • 赤ちゃんの泣き声
  • 大人数での会話
  • 子どもの声
  • 犬の鳴き声

 

音の刺激に対してどのように感じているかは本人にしかわからないため、聴覚過敏は周りから見ると、非常に分かりにくいです。

 

保護者や支援者が、耳を塞いだり騒がしい場所で落ち着かないといった子どもの様子に気を配ることが大切です。

 

上述した特定の音が生じる状況など、騒々しい場所に来たらイライラしていないか、集中力が下がっていないかなどを見てあげることが大切です。

聴覚過敏の原因

聴覚過敏の原因について解説します。

 

聴覚過敏の原因として、以下の3つが考えられます。

  • 脳の機能
  • 耳の機能
  • ストレス

 

それぞれの原因について、詳しく説明していきます。

脳の機能

脳の機能が原因となる場合、発達障害やてんかん、片頭痛などが考えられます。

 

発達障害

ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)などの発達障害のある方は、聴覚過敏の困りを持ちやすいことが知られています。

この場合の聴覚過敏の原因については、まだ特定されていません。

てんかんや片頭痛

てんかんや片頭痛の場合、脳の神経細胞が過敏になってしまい、必要な音の聞き分けが難しくなるなど、聴覚過敏の状態を引き起こす場合があります。

耳の機能

耳の機能が原因となる場合には、以下の2つの可能性が考えられます。

 

耳小骨筋の反射異常

大きな音が耳に入ると、耳の中にある筋肉が収縮して音の大きさを抑制します。このシステムがうまく働かない場合に聴覚過敏が起こります。

 

この筋肉は、顔面神経に支配されており、顔面神経麻痺が起きた際に発症します。

 

内耳の反応異常

低下した聴力をカバーするために、音を脳に伝える内耳の細胞の働きに異常が起きてしまい、聴覚過敏の状態が起こることがあります。

ストレス

ストレスや不安は、聴覚過敏に限らず多くの感覚過敏の状態と関連すると言われています。

 

体調が悪いときや、不安でドキドキしているときなどは特に注意する必要があります。

聴覚過敏は何科を受診すればいいの?

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子どもの聴覚過敏の場合、小児科や耳鼻咽喉科を受診するのをおすすめします。

 

その後、専門的に見てもらえる病院を紹介してもらえる場合もあります。

聴覚過敏の対策は?

聴覚過敏そのものの治療法はまだ確立されていません。

 

しかし、聴覚過敏を軽減するための対策があるので、例を踏まえていくつか紹介します。

話しかけ方を工夫する

人の声や言葉が苦手な子どもに対しては、大人が話し方に注意する必要があります。

 

落ち着いた声で話しかける

聴覚過敏のある子どもたちは、特定の人の話し声や特定の高さの音が苦手な場合があります。話すときの音の高さやスピード、テンポなどを変えることで、音の聞こえ方は大きく変わります。

 

子どもが人の声に過敏さを感じている場合には、どのような声のかけ方が心地よいかを試してみるとよいでしょう。

 

視覚的に情報を提示する

原因でも述べたように、ストレスや不安が高まると聴覚過敏の状態が表れたり、強くなったりする場合があります。

 

そのようなストレスや不安を減らすためには、子どもたちに見通しを持ってもらうことが大切です。そのためには、声掛けでなく、視覚的支援が有効であることがわかっています。

 

視覚的支援とは、写真や絵、具体物などを使って視覚的に説明することをいいます。

 

視覚的支援を行うことで、見通しを持ち安心して過ごしやすくなり、不安が軽減され、聴覚過敏などの感覚過敏が軽減される場合があります。

 

子どもが安心できるようなお気に入りのグッズを持ち歩くことも対処法の一つです。

 

例えば、ぬいぐるみや毛布などを持っておくことは、不安な状況でもリラックスしてもらうことに役立ちます。

苦手な音の刺激を取り除く/軽減する

子どもにとって不快な音を取り除くようなアプローチをすることは優先的に行いましょう。

 

不快刺激を与えて慣れさせるようなアプローチはまれに成功することもありますが、子どもは非常にストレスを感じてしまい、むしろ過敏さが強まる可能性があるため、推奨できません。

 

具体的な対応方法をいくつかご紹介します。

  • 電話機やスピーカーなど大きな音が鳴るものには布などを覆いかぶせる
  • 机やいすの足に布を巻いたり、テニスボールをはめたりする
  • 段ボールの部屋など、刺激から離れることができる空間を確保する
  • 運動会のピストルを笛に変えてもらう

耳に入る音を減らす/苦手な音を防ぐ

聴覚過敏に対しては、耳栓などのグッズを使用することも効果的です。

 

 聴覚過敏に対処するグッズの例

  • 耳栓
  • イヤーマフ
  • ノイズキャンセリングイヤフォン

 

全体的に音量を減らしたいときは耳栓やイヤーマフ、エアコンやざわつきなどの定常音を減らしたいときはノイズキャンセリングイヤフォンが効果的です。

 

これらのグッズを持ち歩くことで、仮に苦手な音がある環境であっても聞こえる音を減らすことができるため、安心感に繋がります。

 

また、これらは常に使用していると過敏さが増してしまう場合があるため、苦手な音がある環境では使用し、それ以外では外すなど、使う時と使わない時と分けると良いでしょう。

聴覚過敏保護用シンボルマーク

聴覚過敏であることを周囲に伝える手段の一つとして、聴覚過敏保護用シンボルマークがあります。聴覚過敏のある方の中には、このマークを付けている方がいらっしゃいます。

 

このマークは特定のメッセージとともに表示して「聴覚過敏の保護用」「聴覚過敏の状態」を伝わりやすくし、同時にその意味の周知を目的として設計されたシンボルマークです。

 

このマークには、以下の2つの役割があります。

  • 表示の対象物が聴覚過敏対策の保護具・遮音具などであることを示す
  • 聴覚過敏、それに類する「音に対する生理・心理上の苦痛を伴う状態」であることを示す

 

この聴覚過敏保護用シンボルマークは、誰でも無償で印刷し、利用することができます。

 

シールなどにしてイヤーマフなどのグッズに貼ったり、カバンにぶら下げて聴覚過敏であることをわかりやすく伝えることができます。

聴覚過敏のまとめ

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聴覚過敏は人から見て非常に分かりにくい状態です。

 

「騒がしいところでイライラしている」、「大きな音で怖がっている」、「特定の音に対して敏感に反応している」といった子どもの様子が見られた場合、聴覚の過敏さが原因ではないか検討してみてください。

 

ただし、聴覚過敏の原因は様々です。先述したような疾患が原因ではないか判断するためにも、聴覚過敏について困っている場合には自己判断での対処だけではなく、小児科や耳鼻咽喉科への受診をお勧めします。

 

聴覚過敏の対応として一番大事なのは、本人が我慢せずにすむような配慮です。まずは聴覚過敏のある子どもには、落ち着いた声やトーンで話しかけてみてください。

 

その後、その子どもにとって嫌な音の刺激が少ない環境づくりや、イヤーマフやシンボルマークなどを活用することで、安心して過ごすことのできる環境を作っていきましょう。

LITALICOジュニアへご相談ください

LITALICOジュニアでは、一人ひとりの特性に合わせた指導をおこなう教室を各地で運営しています。発達障害のある子どもや聴覚過敏のある子どもの指導実績も豊富にあります。

 

「聴覚過敏があって学校生活がうまくいっていない…」「困っていることはあるけど何から手をつけていいかわからない」などのお悩みのある方のために、無料相談も実施しています。

 

LITALICOジュニアでは、授業を通して子どものスキルや特徴、得意・不得意などを分析して、一人ひとりに合わせた学習計画を作成します。

 

行動の特徴、獲得スキル、聴覚をはじめ視覚や触覚などの感覚の特徴を知ることで、子どもへの接し方が分かり、環境調整の仕方を知ることで子どもに適切な環境調整のサポートがしやすくなります。

 

LITALICOジュニアのスタッフと一緒に子どもの過ごしやすさ、学びやすさを見つけましょう。ぜひお気軽にお問い合わせください。

  • 執筆者

    一般社団法人誠智愛の会 Minds & Hopes / 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科

    米田 直人

    作業療法士として自閉スペクトラム症児とその家族へのエビデンスに基づく発達介入に取り組んでいる。発達障がい児を対象とした検査開発や、自閉スペクトラム症児の感覚・運動面についての研究を専門に実施。

  • 監修者

    鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員

    井上 雅彦

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。