学校に行けない状態が続く「不登校」の小学生数は年々増えていると言われています。
文部科学省の令和2年(2020年)度のデータによると、小学生の不登校者数は63,350人です。
しかし、その背景や理由は子どもによって異なるため、家族の方が「理由を知りたいけれど、子どもが話そうとしない」や「どのように接すれば良いかわからない」と悩むこともあるのではないでしょうか?
今回は、小学生が不登校になる原因や、解決へと近づくために家族ができる対応、相談先(支援機関)について解説していきます。
不登校の小学生の心理や原因は?
まずは、不登校の小学生の心理や原因について解説していきます。
「不登校」の定義は、文部科学省では「なにかしらの心理的・情緒的・身体的・あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しない、あるいはしたくてもできない状況にあり、年間30日以上欠席した者(病気や経済的な理由によるものを除く)」としています。
文部科学省は、学校教職員が回答した小学生・中学生の不登校の原因をまとめたデータ「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」を公開しています。
この令和3年度(2021年度)のデータを見ていくと、小学生において一番多い原因は「無気力・不安」で、全体の49.7%を占めています。次に「親子の関わり方(13.2%)」、「生活リズムの乱れ・あそび・非行(13.1%)の順に、割合が多くなっています。
ただし、調査結果の原因が同じだとしても、子ども一人ひとり、背景や心理は異なります。
その他の原因も含めて、具体的な例をいくつかの項目に分けてご紹介します。
親から離れることへの不安
小学生のなかでも、とくに低学年の場合に起こりやすい不登校の原因の一つが「親から離れることへの不安」です。「分離不安」とも呼ばれています。
その原因は主に環境の変化です。例えば、小学校に入学して初めての環境で新しいことだらけの生活に不安を覚えたり、一人でやらなければいけないことが増えたり、苦手なことや不安なことに直面したりすることで、ストレスを感じるといったことが要因で、分離不安が見られることがあります。
親と離れることになると泣き出すほか、頭痛や腹痛などの身体症状が見られることもあります。
環境に合わない
環境に上手く対応できないことが、小学生の不登校の原因となるパターンもあります。
例えば、下記のような原因が挙げられます。
- クラスメイトと合わない
- 教室の雰囲気が合わない
- 授業のスピードが合わない
- 担任の先生と合わない
- 学校のルールや集団生活が合わない など
これらは入学や進級(クラス替え)、転校後など、環境が変わった後に起こりやすいと考えられます。
本人にとって嫌なことがある
小学校で、本人にとって嫌なことがある場合、不登校へと繋がる可能性があります。
「嫌なこと」は子どもにとってさまざまですが、一例としては下記が挙げられます。
- 特定の教科(体育や音楽など)
- 特定の先生
- 特定のイベント(体育祭や修学旅行など)
また、勉強そのものに対して「ついていけないから嫌だ」と感じていることもあります。
小学校で過ごす時間のうち、大半は授業です。そのため、勉強が辛いと感じたことがきっかけで、学校自体が本人にとって嫌な場所となっている場合もあります。
発達障害の特性が影響していることもある
発達障害の特性が小学生の不登校の原因に関係している可能性も考えられます。
まず、発達障害は、大きく3つの種類に分かれています。
- ASD(自閉スペクトラム症)→対人関係の困難さや限定された行動などのこだわりの強さがある
- ADHD(注意欠如多動症)→不注意・多動性・衝動性がある
- SLD(限局性学習症)→知的発達に遅れはないものの、読み書きや計算に困難がある
例えば、授業中に着席してじっとしていることが本人にとって苦痛となっている場合、ADHD(注意欠如多動症)の特性が関係しているかもしれません。
また、特定の科目で授業についていけない場合や、読む・書く・計算する・推論するといった特定の事柄に苦戦している場合には、SLD(限局性学習症)が影響していることもあるかもしれません。全体的に授業についていけないという場合は、知的な遅れも考えられます。
もしも、子どもの様子を見ていて「発達障害かもしれない」と感じられる言動がある場合は、一度、小児科や児童精神科を受診してみると良いでしょう。その他、地域の子育て支援センターや教育相談所、発達障害者支援センターへ相談することもできます。
小学生の不登校の原因や心理は複雑
小学生の不登校の原因や本人の心理は複雑なことが多く、本人も原因を認識できていなかったり、言葉で説明することが難しいこともあります。仮に原因だと思われることを1つ対処したとしても、すぐに小学校に行けるようになるわけではありません。
そのため、無理のない範囲で少しずつ、不登校のきっかけ、原因、維持要因や子どもの状態に合わせた対応をしていくことが大切と言えるでしょう。
具体的な方法は、次の項目でご紹介していきます。
小学生の不登校の解決のためにできること
小学生の不登校を解決するために、周囲はどのようなことができるのか解説していきます。
不登校の小学生への対応はどうすればいい?
不登校になった小学生は、心が傷付いていたり、ストレスを受けていたり、自信を失くしていたりすることがあり、家族が接し方で悩む場合は多く見られます。
ここでは、2つの対応方法についてお伝えしていきます。
気持ちに寄り添い支える
まずは、登校を勧めるのではなく、子どもの気持ちに寄り添い、心を支えることが大切です。
子どもの感じている苦しさを知るために話を聞くことも大切です。その際には、原因について聞こうとするのではなく、どんなことが苦しいと感じているのか、学校に行こうとするとどんな気持ちになるのか、身体にどんな不調がでるのかなどを聞くといいでしょう。
また、「不登校=悪いこと」と決めるような発言をすると、子どもが「自分はダメだ」と、精神的に追い込まれてしまう可能性があるので注意が必要です。
希望を聞きながら子どもの居場所をつくる
子どもの希望次第ではありますが、不登校の間はフリースクールなどを活用して、他の子どもと交流したり、学習したりする方法も選択肢の一つです。
子どもが「どんどん勉強についていけなくなるかもしれない」という気持ちになっている場合、不安を和らげることに繋がるかもしれません。
不登校の小学生の学習方法の種類については、後の項目で解説していきます。
小学校と連携して不登校の原因をとりのぞく
不登校の原因に小学校での出来事や人間関係などが関係している場合は、学校と協力しながら、原因そのものを解消することも大切です。
場合によっては、担任の先生だけでなく、学校で子どもたちの心のケアをしているスクールカウンセラーに相談する方法も検討しましょう。
医療機関や支援機関に相談する
不登校の原因の背景に、こころの病気や発達障害などが隠れている場合もあります。
このような場合は、早期発見が大切であるため、小児科や児童精神科などの医療機関への相談も視野に入れておきましょう。
また、不登校に関して相談できるその他の支援機関の活用もご検討ください。
- 適応指導教室(教育支援センター)
- 教育相談所(教育相談室)
- 子ども家庭支援センター
- 児童相談所
- 精神保健福祉センター
- 保健所 など
上記は、自治体ごとに設置されているため、まずは自宅の近くにどのような機関があるのかチェックしてみるのも良いでしょう。
また、地域によっては、不登校の子どもを持つ親同士が情報交換できる「親の会」と呼ばれる民間団体も存在しています。「親の会」での交流を通して「不登校で悩んでいるのは、自分の家庭だけではない」と知ることで、気持ちが軽くなる方もいらっしゃいます。
不登校の小学生の勉強はどうすればいい?
子どもが不登校になったとき「勉強に遅れが出たらどうしよう」と保護者が不安になるのは自然なことです。この項目では、不登校の小学生が勉強する方法について解説していきます。
家族が教える
小学校の学習内容であれば、「家族が教える」ということも選択肢のひとつです。
一緒に勉強をして時間を共有することは、コミュニケーションにも繋がります。
ただし、人によっては「学習の内容は理解できるけれど、子どもに教えるのは難しい」と感じるかもしれません。
また、時間がとれなかったり、家族が一生懸命教えるがあまり厳しくしてしまい、子どもが親との勉強を嫌がったりするパターンもあると考えられます。そのようなときは、他の方法での学習を検討しましょう。
適応指導教室
適応指導教室とは、不登校の子どもの集団生活への適応、情緒の安定、基礎学力の補充、基本的生活習慣の改善などのための相談や適応指導をおこなうことにより、学校生活へ復帰を支援することを目的に在籍校以外の施設に設置された教室のことです。
適応指導教室では、学習指導もおこなっていて、在籍校とも連絡をとり、個別の状況に応じて実施されています。
メンタルフレンド
メンタルフレンドとは、学校に行きたくても行けない、友達と遊びたくてもきっかけがつかめないなどで、家に閉じこもりがちな子どもと年齢が近い大学生や専門学校生が家庭に派遣され、お兄さん・お姉さんとして遊びや対話などを通して、子ども達の自主性・社会性等の成長のお手伝いをするボランティア活動のことです。
メンタルフレンドは、一緒に遊んだり遊びや話し相手になるだけではなく、学習を教えてくれる場合もあります。
活動場所・時間・訪問回数・方法等については、各自治体で異なるので利用を検討したい場合は、児童相談所にお問い合わせください。
学習教材で学ぶ
小学生向けの家庭用学習教材を利用する方法もあります。
タブレット型の教材では、動画で説明をみることができたり、間違った問題にあわせてレベルを自動調整し学び直しができるものもあります。
塾で学習する
家の外に出ることに抵抗がない場合は、塾に通って学ぶことも方法のひとつです。
子どもが一人で通える範囲にある塾や、家族が送り迎えできそうな場所にある塾を探してみましょう。
ただし、不登校の子どもの場合「集団で学ばなくてはいけない」や「クラスメイトに会う可能性がある」などのストレスを感じるかもしれません。
そのようなときは、先生と一対一で学べる個別指導塾を選びましょう。
フリースクールに通う
フリースクールとは、不登校の子どもたちが通える民間の教育機関です。
フリースクールでは、個別学習や団体学習を受けられるだけでなく、さまざまな活動をしています。
文部科学省の平成27年(2015年)のデータでは、学校に通っていない小学生・中学生が通う民間の団体・施設がおこなっている活動として、下記が挙げられています。
- 自然体験
- 社会体験(見学・職場体験など)
- 調理体験
- 芸術活動(音楽・美術・工芸など)
- 宿泊体験
- スポーツ体験
- 子どもたちによるミーティング
- 相談・カウンセリング など
ただし、学習をするのか集団活動をするのかなど活動の詳細や費用はスクールごとに異なるため、興味のあるフリースクールに資料請求してみましょう。
家庭教師をつける
もしも、家から出ることを避けたり、自分一人で学習することを嫌がったりする場合は、家庭教師をつける方法を検討しましょう。
家庭教師であれば、塾のようにどこかへ足を運ぶ必要がなく、たくさんの人と会わなくても学習が可能です。
また、先生と一対一で学べるため、子どものペースに合わせたカリキュラムで学べる点も大きな利点と言えるでしょう。
さらに、親が直接、家庭教師の先生と話をして、学習状況を聞くこともできます。
なかには、不登校の小学生に対応している家庭教師の会社も見られます。一般的な家庭教師の役割に加えて、会話を通してコミュニケーションをとったり、子どものメンタル面をサポートしたりするなど、子どもと家族が安心して学べるシステムが整っています。
しかし、家に知らない人が入ることに抵抗があったり、一対一で授業を受ける緊張感や心理的負荷がかかるという場合もあるので、子どもの希望を聞きながら検討できるといいでしょう。
ここでは勉強の方法をご紹介しましたが、勉強に取り組むには、まずは子ども自身が勉強に取り組もうと思えるようなコンディションにあるかどうかが大切です。「学校の勉強に遅れるのが心配だから」と無理やり勉強させるのではなく、子どもの状態を見定めた上で、勉強に取り組めるようにサポートしましょう。
不登校の小学生への支援
不登校の小学生が支援を受けられる機関をご紹介します。
適応指導教室(教育支援センター)
具体的な支援内容は施設によって異なりますが、教科の学習、体験活動、カウンセリングなどをおこなっています。
また、在籍する学校で相談することで適応指導教室を利用することもできます。
適応指導教室では、個別または集団で学習に取り組んだり、スポーツの時間や一緒にボードゲーム等で楽しく過ごす時間があったり、生活習慣の改善などの相談や指導をおこなうことで、不登校から学校への復帰を目指します。
一例として、武蔵野市の教育支援センターの適応指導教室「チャレンジルーム」の一日のスケジュールを見てみましょう。
- 9:15~ 朝の会・朝読書
- 9:30~ 個別学習
- 12:00~ 昼食
- 13:00~ 集団活動
- 14:15~ 掃除・帰りの会
- 14:45~ 帰宅
もちろん、無理に毎日行く必要はなく、日々の体調に合わせて数時間だけ通うこともできます。
まずは、在籍する学校に相談して、どのようなサポートをしているのか、確認してみましょう。
LITALICOジュニアへご相談ください
不登校の原因に発達障害の特性が関係している場合の支援として、幼児教室・学習塾に通うという方法もあります。
LITALICOジュニアは、発達障害のある子どものための、幼児教室・学習支援教室を各地で運営しています。
子どもに向けた教育を提供するだけでなく、各家庭に合った子育てを学び実践できる、ご家族向けの「ペアレントトレーニング」のプログラムもあります。
子どもの発達障害の特性や学習状況についてお悩みのある方は、一度ご相談ください。
ここでは、「ペアレントトレーニング」と「パーソナルコース」についてご紹介します。
ペアレントトレーニング
ペアレントトレーニングの事例として、学校を休みがちだったA君について見てみましょう。
- 登校は月1回程度
- 自宅ではゲームばかりしている
- 親が止めても、ゲームをやめることが難しい
- 親は育児のストレスからつい怒ってしまい、ほめ方や接し方がわからない
もともと、このような状態だったA君ですが、お母さまがペアレントトレーニングを受けて、実践し、上手に褒めたり関わったりしたことで、少しずつできることが増えていきました。
そして、はじめて2日連続で登校できるようになりました。
また、一緒に遊ぶ経験を通して、お母さま自身が子どもとの距離感を掴めるようになるなど、嬉しい変化も見られました。
ペアレントトレーニングは、オンラインでもサービスを提供しているため、LITALICOジュニアが自宅近くにない方も、一度お気軽にお問い合わせください。
パーソナルコース
「パーソナルコース」の特徴は、子どもが10人いれば10通りの学び方があると考え、特性に応じた指導をしている点です。
一人ひとりの得意や苦手を見つけながら、子どもの成長をサポートしています。
まずは、基本の授業方式をご紹介します。
- 完全マンツーマンの個別指導
- 専任の担当指導員
- 家庭学習用テキストやワークシート
- 保護者へ向けたサポート(講義学習・面談など)
また、個別指導では「マンツーマンなので他の子どもと会わない」「自分をコントロールする」や「状況を説明できるようになる」「返事をする」など、子どもの課題に合わせた指導をおこなっています。
「子どもに合うかわからない」と思ったら、まずは体験授業に参加してみましょう。
不登校の小学生が学校復帰する際に大切なこと
小学生が不登校から復帰するためには「焦らない」ことがとても重要です。
焦りから無理に登校させようとすると、精神的な負担がかかり、不登校の状況が長引く原因となる可能性が考えられます。
この項目では、不登校から復帰をするときに意識したいポイントについて解説していきます。
心の休息をしっかりとってから登校する
「不登校」という言葉を聞くと、ネガティブな印象を受ける方も多いですが、ひとつの捉え方としては「心のエネルギーを回復する期間」です。
心の元気が戻るまでは無理をしないようにしましょう。まずは、本人も家族もしっかりと休息することが大切です。
そして、心身が十分に休まってきたら、家族で話し合いながら、生活リズムを整えたり、授業に備えたりと、登校に向けて準備をしていきましょう。
また、不登校のきっかけが環境や構造にある場合もあります。その場合は、今後学校復帰できるようになったときに子どもが過ごしやすい環境設定などについて学校と相談ことが大切です。
登校に少しずつ慣れていく
いきなり朝から夕方までを学校で過ごしたり、毎日登校することを目指すのではなく、大丈夫であることを認識しながら少しずつ段階を踏んで登校に慣れていくといいでしょう。
段階を踏む例としては、下記が挙げられます。
- 放課後に家庭でおこなった学習を担任に見てもらう
- タブレットで授業に参加する
- 学校に行くことを想定して朝起きる
- 着替えをして通学路の途中まで行く
- 教室以外のところ(保健室など)に登校する
- 5時間目の授業だけ出る
もちろん、「最初は一時間だけ授業に出てみる」でも問題ありません。
身体に無理をさせないためにも、一歩一歩復帰へと近づくことを意識しましょう。
小学生の不登校についてのまとめ
不登校の状態になる小学生の数は年々増えており、決して少ない数ではありません。
しかし、子どもによって原因や心境は異なるため、周囲は子どもの気持ちに寄り添い、学校や関連機関と協力しつつ、対応していくことが大切です。
また、学校に行っていない期間の学習に不安がある場合は、塾や家庭教師、フリースクールなどの活用も検討しましょう。
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監修者
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
初川 久美子
臨床心理士・公認心理師。早稲田大学大学院人間科学研究科修了。在学中よりスクールカウンセリングを学び、臨床心理士資格取得後よりスクールカウンセラーとして勤務。児童精神科医の三木崇弘とともに「発達研修ユニットみつばち」を結成し、教員向け・保護者向け・専門家向け研修・講演講師も行っている。都内公立教育相談室にて教育相談員兼務。