子どもに発達障害の傾向や診断があり、障害者手帳の取得を検討している保護者の方もいるでしょう。
障害者手帳を取得すると、障害の種類や程度に応じてさまざまな福祉サービスを受けることができます。
しかし「障害者手帳を申請しても取得できないのではないか」「具体的にどんな手順で申請すればいいのだろうか」など不安な気持ちもあるかもしれません。
この記事では、発達障害の診断がある人が取得できる障害者手帳の種類や申請手順、手帳がもらえない場合でも受けられる支援・サービスなどについて、詳しく紹介します。
発達障害のある方の障害者手帳について
障害者手帳は、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種の手帳を総称した一般的な呼称です。診断を受けたり、障害者手帳を取得することで、障害の種類や程度に応じてさまざまな福祉サービスを受けることができます。
発達障害「専用」の手帳はありません。発達障害の場合、精神障害者保健福祉手帳の対象に含まれます。知的障害(知的発達症)を併存する場合は、療育手帳も対象となります。発達障害と知的障害(知的発達症)を両方有する場合は、両方の手帳を申請することができます。
申請には医師による診断が必要です。障害の程度や取得の可否を判定するために、お住まいの障害福祉窓口へ申請書や本人確認書類と合わせて、診断書を提出します。
「申請しても、障害者手帳をもらえないのではないか」と不安に思う方は、まずかかりつけの医師に相談してみるといいでしょう。
発達障害のある方が取得できる手帳の種類
精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は、何らかの精神障害により、長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある人を対象としています。 対象となるのは全ての精神障害で、次のようなものが含まれます。
- 統合失調症
- うつ病、躁うつ病などの気分障害
- てんかん
- 薬物依存症
- 高次脳機能障害
- 発達障害(自閉スペクトラム症、限局性学習症、注意欠如多動症など)
- そのほかの精神疾患(ストレス関連障害など)
精神障害者保健福祉手帳の等級は、1級から3級まであります。精神疾患の状態と、機能障害によって日常生活などをするために必要な能力がどれくらい障害されているかの両面から、総合的に判断されます。
引用:
手帳を取得するためには、その精神障害による初診日から6か月以上経過していることが必要になります。
療育手帳
療育手帳は、知的障害者または知的障害児に交付される手帳のことを言います。療育手帳の等級は、基本的には、重度「A」と重度以外の中軽度「B」の2種類で区分されています。自治体によってはさらに細分化しているところもあります。
障害の程度及び判定基準
重度(A)の基準
1.知能指数が概ね35以下であって、次のいずれかに該当する者
食事、着脱衣、排便及び洗面等日常生活の介助を必要とする。
異食、興奮などの問題行動を有する。
2.知能指数が概ね50以下であって、盲、ろうあ、肢体不自由等を有する者
それ以外(B)の基準
重度のもの以外
療育手帳は、独自の名称で交付する自治体もあります。以下その一例です。
- 青森県・名古屋市…愛護手帳
- 東京都・横浜市…愛の手帳
- さいたま市…みどりの手帳
療育手帳について詳しく知りたい方は、以下の関連ページを参照してください。
発達障害のグレーゾーンの方は障害者手帳の取得はできる?
発達障害の傾向が見られるものの、医療機関では診断されなかった場合、医学的な名称ではありませんが、「発達障害のグレーゾーン」と表現されることがあります。
発達障害グレーゾーンで診断のない方の場合は、障害者手帳の対象とならないため、障害者手帳は取得できません。
ただし、障害者手帳がなくても発達障害グレーゾーンの方が受けられる支援やサービスがあります。まずは「生活の中でどのような状況で困っているのか」を把握して、必要な支援を受けることのできる機関に相談してみましょう。
支援を受けられる機関については後ほどご紹介します。
発達障害のある方の障害者手帳の申請手順は?
発達障害のある方が対象となる可能性のある、精神障害者保健福祉手帳・療育手帳の申請手順をそれぞれ詳しく解説します。
精神障害者保健福祉手帳の申請手順
何らかの精神疾患があるために、長期にわたり日常生活または社会生活への制約があることが精神障害者保健福祉手帳申請の条件です。具体的には、対象となる精神疾患で初めて診察を受けてから6ヶ月以上経過している必要があります。
精神障害者保健福祉手帳の申請は、以下の手順でおこないます。
- 各自治体の障害福祉窓口などへ相談し、申請書類や必要な手続きを確認
- 指定医(※)から診断書を取得
- 申請書類や写真、身分証明書、診断書を窓口へ提出
申請から交付までには、1〜2ヶ月程度かかります。障害者手帳という名称ですが、一部自治体では紙の手帳のほかにカードタイプのものが選べる場合もあります。また、本人による申請が困難な場合は代理として家族や医療機関の職員による申請も可能となる場合があります。
交付の基準は自治体によって異なることがあるので、詳細はお住まいの自治体の障害福祉窓口などで相談することで、スムーズに進めることができます。
※指定医:一定の精神科実務経験を有し、法律等に関する研修を終了した医師のうちから、厚生労働大臣が「精神保健指定医」として指定したもの。
療育手帳の申請方法
児童相談所または知的障害者更生相談所において、知的障害(知的発達症)があると判定されることが療育手帳申請の条件です。
療育手帳の申請は、以下の手順でおこないます。
- 各自治体の障害福祉窓口などへ相談し、申請書類や必要な手続きを確認
- 児童相談所や知的障害者更生相談所で判定を受ける指定医から診断書を取得
- 申請書類や写真、身分証明書、診断書を窓口へ提出
判定は申請者が18歳未満の場合児童相談所にて、18歳以上の場合は知的障害者更生相談所でおこないます。
発達障害のある方で、障害者手帳がもらえない場合とは?
発達障害のある方が申請できる精神障害者保健福祉手帳の対象は「長期にわたり精神疾患があり、生活に制限が出ている方」です。長期とは、症状の診断を受けた日(初診日)から6ヶ月以上が過ぎていることを差します。つまり、初診日から6ヶ月をすぎていない場合は申請ができず、障害者手帳は取得できません。
また、医師から発達障害だと確定診断されていないグレーゾーンの方の場合、障害者手帳申請の条件を満たしていないため、障害者手帳はもらえません。
障害者手帳が取得できるか否かの審査をおこなうのは各自治体です。そして、等級の判定時と同様に診断書の内容が大きく影響すると考えられます。
障害者手帳の申請を検討している場合、まずは手帳が取得できそうか否か、かかりつけの医師に相談してみましょう。
障害者手帳がもらえない場合でも利用できる支援やサービスは?
発達障害の特性がある方で、障害者手帳がなくても利用できる支援やサービスを紹介します。
子ども向けの支援やサービス
発達障害の特性が見られる子どもが利用できる支援やサービスを紹介します。
保健センター
保健センターは市町村に設置されている機関で、住民の利用頻度の高い保健サービスを提供しています。
例えば、母子手帳の交付、 乳幼児健診、予防接種、健康診断など、地域住民が直接受ける健康づくりに関するサービスがおこなわれています。
子ども家庭支援センター
子ども家庭支援センターは、子どもと家庭の問題に関する総合相談窓口です。
18歳未満の子どもや子育て家庭のあらゆる相談に応じるほか、ショートステイや一時預かりなど在宅サービスの提供やケース援助、サークル支援やボランティア育成などをおこなっています。地域の子育てに関する情報も教えてもらうことができます。
児童相談所
児童相談所は、児童福祉法に基づき設置されている行政機関の一つです。
児童心理司や児童福祉司などの専門のスタッフが在籍しています。18歳未満の子どもに関するあらゆる相談に無料で対応し、共に問題解決を目指していく専門の相談機関です。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害のある方を総合的にサポートするための機関です。
発達障害のある本人とその家族がスムーズに地域生活を送れるように、保健・医療・教育・福祉などの関係機関と連携し、相談にのったり、助言をしたりなど、さまざまな支援をおこなっています。
児童発達支援事業所
児童発達支援事業所は、障害のある子どもやその家族に対する支援をおこなう通所施設です。
対象者は、身体や精神に障害のある児童や、発達障害、知的障害(知的発達症)のある児童ですが、障害者手帳の有無は問われません。児童相談所や保健センター、医師により療育が必要と認められた場合、利用できます。利用するためには「通所受給者証」が必要です。
放課後等デイサービス
児童福祉法に基づく福祉サービスの一つで、障害がある小学生・中学生・高校生(6歳~18歳)の子どもが利用できる通所支援サービスです。
学校が終わった後や夏休みなどの長期休暇を利用して、生活能力を向上するためのプログラムを継続して提供し、自立をサポートしています。児童発達支援事業所と同じく、「通所受給者証」を取得している方が利用できます。
LITALICOジュニアのご利用もご検討ください
LITALICOジュニアでは、児童発達支援・放課後等デイサービスを運営しています。発達障害の特性があり、障害者手帳を持っていない子どもも利用することが可能です。
得意・不得意を見つけ、一人ひとりに合わせた指導を提供し、学校や日常生活で自分らしく過ごせるようにサポートしています。
発達障害の特性のある子どもについて、「障害者手帳がもらえなかった」「障害者手帳の申請はしていないが受けられる支援を知りたい」と考えている保護者の方はぜひ一度ご相談ください。
大人向けの支援やサービス
発達障害の特性が見られる大人が利用できる支援やサービスを紹介します。
ハローワーク
障害や疾患のある人の就労を支援する窓口「専門援助部門」があり、就職に関する相談やカウンセリングの実施のほか、障害や疾患のある人を対象にした求人の紹介などをおこなっています。
就労移行支援事業所
一般企業への就労を目指す障害や疾患のある人の求職から就職までの一連の過程をサポートする事業所です。
利用者は事業所に通い、職業訓練や、面接や履歴書対策などの就職活動のサポート、就職後の定着支援などを受けることができます。
発達障害者支援センター
発達障害のある方への総合的な支援をおこなっている機関です。
相談自体は診断がなくても受け付けていることが多いので、気になる方はお近くのセンターへ問い合わせをしてみるといいでしょう。
地域若者サポートステーション
働くことに悩みのある、15歳~49歳までの方を対象とした支援機関です。
障害のあるなしに関わらず利用することが可能で、就職するためのコミュニケーションプログラムなどを受けることができます。
障害者就業・生活支援センター
障害のある方の生活・仕事に関する支援をおこなっている機関です。
相談自体は診断や手帳がなくてもできる場合があるので、気になる方はお近くの障害者就業・生活支援センターへ問い合わせをしてみるといいでしょう。
発達障害と障害者手帳についてまとめ
発達障害の診断があると知的障害(知的発達症)の併存有無にかかわらず、障害者手帳の申請をすることができます。ただし、条件を満たさない場合は手帳を受け取れない可能性があるため、まずはかかりつけの医師に相談しましょう。
障害者手帳があることでさまざまな福祉サービスが利用できますが、手帳を取得しない場合でも、利用できる支援やサポートがあります。子どもの困りごとがどこにあるか、どのような支援やサポートが必要なのかを考えたうえで、障害者手帳の申請や、福祉サービスの利用を検討してみるといいでしょう。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。