「子どもの食べられるものが極端に少ない」「子どもが毎日毎食同じものばかりを食べる」。そのような「偏食」は本人の好き嫌いやわがままが原因と捉えられがちですが、発達障害の特性によって引き起こされている可能性もあります。
今回は偏食の原因や対策例、発達障害との関係についてご紹介します。
偏食とは?
偏食とは、一般的に特定の食品を嫌って食べない、あるいは限られた食品ばかりを好んで食べるような偏った食事をすることを指します。
食事をする上での好き嫌いというものは、個人差がありますが多くの人が持っているものです。
しかし「偏食」の場合、その程度が激しく特定の食品しか食べない状況が一定続くことで、成長・発育・健康に必要な栄養素が不足しやすくなります。
偏食と一言で言っても、何を食べるか、また何を食べないかは人それぞれのため、明確に「この食品を食べない場合は偏食」と定義することはできません。
偏食の特徴とは?
特に小さな子どもの場合、「偏食」と「好き嫌い」の区別は非常に難しいものです。子どもがある食品を好むからといってそれだけを与えていると、栄養が偏ったり将来的に生活習慣病になりやすい食習慣につながります。
偏食の場合、特定の食品を全く口にしようとしない、もしくは特定の食品しか食べないという傾向が見られます。
一方で好き嫌いの場合は、何度か口にしたり成長に伴い本人の味覚に変化がうまれることで、味や食感などに慣れて食べられるようになることが多いという違いがあります。
偏食の子どもの場合、あくまでも一例ですが、以下のような特徴があります。
- 食事中に頻繁にえずいたり食べ物を吐き出したりする
- 特定の食べ物を出されると過剰に泣くなどの強い拒否を示す
- 食べ物を咀嚼することが難しい
- 食べ物を口に含んだまま、飲み込むことが難しい
- 新しい食べ物を極端に嫌がる
偏食の原因は?
偏食の原因はさまざまありますが、ここでは代表的な5つをご紹介します。
口腔機能が未発達である
口腔機能の発達が遅れていると口をうまく動かせず、上手に食べることができないことがあります。その結果、新しいものを食べる意欲が削がれてしまい、安心できる同じ食感の食材ばかり食べる場合があります。
例えば、以下のような特徴がみられることがあります。
- 舌の送り込みの弱さから、ミルクやヨーグルト、ベビーフードばかり食べる
- 舌圧(ぜつあつ)が弱く丸呑みになったり、刻んだ食品が食べられずお粥に混ぜたりしている
- 噛めてもすりつぶしができないため、硬いものや繊維質な食品を食べず、噛みやすいものばかり食べる
食器・スプーン・フォーク・箸などがうまく扱えない
細かいものを箸でつまんだり、汁状のものをスプーンですくったりして口まで運ぶというのは、子どもにはなかなか難しいものです。
その場合、手で食べられるパンやお菓子ばかりを食べるといった傾向が見られることもあります。
感覚過敏がある
発達障害がある子どもの場合、五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)の感じ方に大きな偏りが見られることがあります。
このような感覚の偏りは、特定の感覚・刺激を過剰に受け取る「感覚過敏」と、逆に感覚・刺激に対する反応が鈍くなる「感覚鈍麻」に分けられます。
「感覚過敏」として見られる症状の中には、「味覚過敏」や「嗅覚過敏」、「触覚過敏」というものがあり、これらが偏食につながる場合があります。
例えば、以下のような特徴がみられることがあります。
- コロッケなど揚げ物の衣が口の中を刺すように感じられて痛くて食べられない
- 物を噛む音が不快で食べられない
- マヨネーズなど特定の匂いが苦手で食べられない
- イチゴの表面にあるツブツブがクローズアップして見えて気持ち悪い、怖くて食べられない
感覚過敏について詳しく知りたい方は、下記のページをご覧ください。
強いこだわりがある
発達障害の特性の一つに強いこだわりが挙げられますが、この特性が偏食の原因となる場合があります。
例えば、以下のようなこだわりがみられることがあります。
- 毎日同じ食品ばかりを食べ続け、他の食品に興味を持たない
- 同じ食品の中でも特定のメーカーのものだけを好み、メーカーが変わると食べない
- 初めて食べた特定の食品に違和感をおぼえると強い嫌悪感を抱き、その後一切同じ食品を口にしないようになる
このように偏食の原因として考えられるものの中には、生まれつきの感じ方の違いなどが原因である場合も含まれており、本人の努力だけでどうにかできるものとは限りません。
しかし周囲からは「本人のわがまま」「親のしつけ不足」として認識されやすく、本人や家族が追い詰められてしまうことがあります。
ご紹介したように原因はさまざま考えられます。偏食と正しく向き合うためには、まず何が原因になっているのか、そしてその原因が本人の努力や周囲の工夫によって軽減できるのか、ということを考える必要があります。
食事は毎日の生活に大きく関わることなので、子どもの偏食でお悩みの保護者の方は多いでしょう。原因を探ることで、本人の努力でできることなのか、周囲の工夫でできることなのかを考え、必要な対応をすることで、子どもも保護者も食事に対して気持ちが軽くなるかもしれません。
触覚防衛反応がある
自然界には毒や腐敗したものが存在しており、苦味や酸っぱさはそのような危険物のサインとして認識する本能が備わっています。
幼児期や小さい子どもが苦味のある野菜や酸っぱいものを食べるのを避ける傾向にあるのはこのような反射反応が強く働くためだと言われています。
偏食の対策例
まず偏食との向き合い方として、「偏食は絶対にだめ」という考え方から見直す必要があります。
確かにバランスのいい食事は大切ですし、食べられない食品があることによって成長や健康が阻害される可能性があるのは心配です。
しかし偏食は体質や感覚が原因になることも多く、無理矢理食べさせることで拒絶して嘔吐したり、トラウマから余計に食べられなくなったり、食事そのものを楽しむことができなくなったりすることもあります。
子どもの偏食で悩んでいる場合、まずは「本当にその食品が食べられないと命に関わるのか、他の方法で栄養を補うことはできないか」ということを考えてみましょう。
LITALICOジュニアをご利用くださっている方にも、子どもの偏食で悩んでいる保護者は多くいらっしゃいます。そのような方の中には「食べられたらラッキー」「お腹が空けば何かは食べる」という気持ちで見守っていた方もいらっしゃいます。
いつでもそのような気持ちでいることは難しいですし、偏食を放置していいというわけではないですが、「食べること」自体が子ども本人にとってストレスにならないよう、食事時間が楽しく過ごせることも対策の一つです。
他にも具体的な偏食の対策例として、離乳食期・幼児期・学童期に分けてご紹介します。
離乳食期にできる偏食の対策
乳幼児期はまだ噛む力も弱く、消化器官も未熟です。そのため発達段階に合わせたかたさ・大きさに調理しつつ、食べにくそうな様子が見られる場合はより柔らかく・小さくを意識してみるとスムーズに食べられるかもしれません。
また、食べ慣れていない食品や調理方法は赤ちゃんにとっては未知のものです。家族が一緒に食べて「おいしいね」と食事を楽しむ姿を見せることで、「これは食べても安心なんだ」という食に対する意欲や興味関心を引き出すことにつながるかもしれません。
他にもこの時期の偏食は「食べ慣れていないから」「食べたことがなくて不安だから」ということが原因である場合も多いため、何度も繰り返し食卓に出してみることも偏食への対策になります。
幼児期にできる偏食の対策
この時期の子どもも、まだ噛む力や味覚は発達途中のため、「口には入れるけれど吐き出してしまう」「噛みにくそうな表情をしたり、飲み込むまでに時間がかかったりする」ということが見られる場合は、食材のかたさや大きさを見直してみましょう。
また、苦手な野菜は細かく刻んでホットケーキやハンバーグに混ぜるなど、切り方や味付け、調理方法を工夫することで、「この食品は苦手」ということを強く意識することなく食べられる場合があります。
他にも一口でも苦手な食品が食べられたら「すごい!食べられたね」「食べてくれて嬉しい」と伝えてみてください。褒められたことが自信になり、次も食べてみようという意欲につながるかもしれません。
学童期にできる偏食の対策
この時期になると噛む力はぐんと発達し、経験を積むことによって「苦手なものが食べられるようになった」ということも出てくるでしょう。一方で経験が固定化されて、「この食品は苦手だから絶対に食べない」というこだわりも強く見られることがあります。
対策としては一口でも食べられたら褒めること、完食することを目標にしないこと、食べることを強制しないことなどが挙げられます。感覚過敏がある場合、苦手な食品を口にすることは想像以上のストレスです。まずは挑戦しようとしたことが大きな一歩です。
他にも一緒に買い物に行ったり調理したりすることで、食事に対する興味関心を喚起することも対策として挙げられます。
偏食と発達障害について
ここまで紹介してきたように、偏食はさまざまな原因によって起こります。
必ずしも本人の好き嫌いや家庭の食生活だけが偏食傾向につながるわけではなく、発達障害の感覚過敏や強いこだわりが関係している場合もあります。
発達障害の診断がある場合、偏食傾向が見られないか、見られる場合どのようなことが原因になっていて、調理方法などの工夫によってそれが取り除けるのかといったことを考える必要があります。
一方で、偏食傾向が見られる子ども全員に発達障害があるというわけでもありません。繰り返しになりますが、偏食の原因はさまざまありますので、その子どもの偏食の原因が何なのかということは冷静に見極める必要があります。
子どもの発達に関する相談先
もし子どもの発達について何か気になる点がある場合は、医療機関などの専門機関に相談しましょう。ここでは、子どもの発達に関する相談先を紹介します。
子育て支援センター
子育て支援センターは、児童福祉法を根拠として厚生労働省が推進する「地域子育て支援事業」の一つとして設置されている支援機関です。
基本的に市区町村ごとに運営されていて、公共施設や児童館の中に設置されていて保護者や子ども同士が交流することができます。また、子育てに関する相談を受け付けており、各種子育てに関する情報提供や援助などをおこなっています。
保健センター
保健センターでは、乳幼児健診のほか、子育てに関する相談も受け付けています。
また、妊娠中や出産前後の方、新生児や未熟児の子どもがいる保護者に対して、医師、助産師、保健師が家庭を訪問し、健康の保持や日常生活全般に関する指導もおこなっています。
児童相談所
児童相談所は、各都道府県ごとに設けられている機関で、児童福祉司や児童心理司、保健師、医師などの専門のスタッフが子どもに関する相談に対して助言や他の機関の紹介などをおこなっています。
相談は子ども本人・家族・学校の先生などどのような人からでも受け付けています。
児童発達支援センター
児童発達支援センターは、発達障害などの障害のある子どもが通所して、日常生活で必要な知識や技能の獲得または集団生活への適応のためのプログラムを受けるための施設です。
利用するためにはお住まいの自治体で申請をし、「通所受給者証」の交付を受ける必要があります。
LITALICOジュニアは各地で児童発達支援・幼児教室を運営しています。LITALICOジュニアでは、偏食など子どもの発達に関わるお悩みについてご相談も受け付けています。
「子どもが偏食かもしれない」「こだわりが強くて関わり方に悩んでいる」など困っていることがあればぜひお気軽にご相談ください。
偏食についてまとめ
今回は偏食についてご紹介しました。偏食=単なる好き嫌いと捉えられがちで、本人が頑張れば食べられると無理矢理食べさせられることがまだまだ少なくないようです。
しかし発達障害の特性が原因となっている場合、それは本人の努力や保護者の工夫だけでは食べることが難しいケースも多くあります。
まずは偏食はわがままではないことを理解すること、食べられない食品があっても他の食品で栄養を補うなど、「頑張って食べる」以外の対応方法はほかにも多くあることを理解することが大切です。
「子どもが健康に過ごせるように」とがんばればがんばるほど、子どもの偏食に悩んでしまうこともあるでしょう。そんなときは、「食べられたらラッキー」「お腹が空けば何かは食べる」という気持ちで見守ってみるのもいいかもしれません。
また、子どもの偏食で悩んでいる場合は、一人で悩まずに支援機関で相談してみましょう。