自傷行為とは?心理や原因、対応方法や相談先について解説します

子どもが「自分の頭を壁に打ち付ける」「自分の腕に噛みつく」といった行動を頻繁に取るため困っているという方もいるのではないでしょうか?

 

こういった自分で自分を傷つける行動は「自傷行為」と呼ばれています。

自傷行為の要因はひとつだけでなくさまざまなことが関連して起こります。また要因によって対応方法も変わっていきます。

 

この記事では自傷行為の概要や、自傷行為をおこなう心理や要因、対応方法や相談先について紹介します。

自傷行為とは?

自傷行為とは?

自傷行為とは「故意に自分で自分を傷つける行為」のことです。一般的にいわれている自傷行為には「自分の手首を刃物で傷つける」や「医薬品を大量服薬する」などの行為があります。

 

ある調査では日本人の7.1%の人が何らかの自傷行為を経験しているというデータもあります。

 

自傷行為の一例として、以下のような行為があります

  • 刃物などで手首を傷つけるリストカット
  • 足を傷つけるレッグカット
  • タバコなどを体に押し付ける
  • 皮膚をひっかく、つねる
  • 医薬品を大量に服薬する

自傷行為は苦しみなどの負の感情から逃れるためや、誰かに助けを求めるためといった心理的な要因から起こるとされています。

 

しかし、自傷行為の要因は一つだけではなく、また本人もなぜ自傷行為をしたのかよくわからないといった場合も多くあります。

 

また、自傷行為の中には知的障害や自閉スペクトラム症といった障害の特徴と環境が影響することで生じるものがあります。

 

この記事では主に「知的障害や自閉スペクトラム症のある子どもの自傷行為」について紹介していきます。

知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの自傷行為について

知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)の子どもの自傷行為は、障害の特徴とその時の状況などが関連して起こることがあります。

 

まず簡単にそれぞれの障害の特徴について見ていきましょう。

知的障害(知的発達症)

知的障害(知的発達症)とは

 

「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」

 

引用:厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査:調査の結果」

 

と定義されています。

 

知能水準と日常生活能力(コミュニケーション、運動、学習など)によって、軽度~重度と分類されます。

 

このように、知能検査の結果だけでなく、本人がどのくらい日常生活で困っているかも重視されます。

 

困りごとの例としては、コミュニケーションにおいて「相手の話の理解が難しい」「自分の意志をうまく伝えられない」といったことがあります。ほかにも「学校の勉強についていけない」「お金の管理が難しい」といった困りごとがある方もいます。

自閉スペクトラム症(ASD)

自閉スペクトラム症(ASD)は「対人関係の困難」と「興味関心の偏り」などの特徴がある発達障害の一つです。

 

対人関係の困難では、「曖昧な言葉の理解が難しい」「相手の立場になって考えるのが苦手」といったことがあります。

興味関心の偏りでは、「特定のことにだけ熱中する」「物を並べる順番などこだわりが強い」といったことがあります。

 

ほかにも、光や音などの刺激に敏感な「感覚過敏」、反対に刺激を感じづらい「感覚鈍麻(どんま)」といった特徴がある方もいます。

こういった特徴と周りの環境のミスマッチで、さまざまな困りごとが起こるといわれています。

知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)の子どもの自傷行為

障害の特性が自傷行為につながることとして、例えば「感覚過敏」があることによって光や音などの刺激が大きなストレスとなり、その刺激から逃れるために「自分の体をつねって刺激をごまかす」といった自傷行為を起こすということがあります。

 

上記のような理由のほかにも、さまざまな要因が自傷行為の理由となりますが、実際に起こる自傷行為としては

  • 爪をかんだり剥がそうとする
  • 机や壁などに頭をたたきつける
  • 髪の毛を抜く、強く引っ張る
  • 自分の頭や体を手でたたいたりつねったりする
  • 物で自分をたたく

といった行為が挙げられます。

 

こういった自傷行為は子ども一人ひとりで背景が異なっています。診断名が同じでも、特徴も自傷行為を起こす状況も同じではないため、その子に合った対応をしていくことが大事です。

自傷行為が生じる理由

自傷行為が生じる理由

知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)の子どもが自傷行為が生じる理由として、

  • 注目・要求
  • 逃避・回避
  • 自己刺激

ということが考えられます。

 

注目・要求

自傷行為をすることで、注目を引きたい、要求を伝えたいという心理のことです。

 

自分を見てほしい、かまってもらいたいけど、その方法がわからないときに注目を引くために自傷行為をする場合があります。

 

また、何かほしいものがあるけど、うまく伝えられないという場合にも要求を伝えるための手段として自傷行為を起こすといったことが考えられます。

 

逃避・回避

マイナスな感情などから逃避したい、いやなことを回避したいといった心理のことです。

 

何か不快な刺激があり、その刺激からの逃避として自傷行為をすることで、不快な刺激をごまかしているということがあります。

 

ほかにもしたくないことがあったときに、そのことを回避するために自傷行為を起こすということがあります。

 

自己刺激行動

自己刺激とは、何らかの理由で自分で自分の体をたたくなどの行為で自分に刺激を与えることです。

 

何もすることがない時の手持ち無沙汰の解消のために、自分の体に刺激を与えて暇つぶしをしているという場合があります。

 

他にも、ストレスを感じた時に気持ちを安定させるために、腕をつねるなどして刺激を与えることがあるとされています。

 

今挙げたものは一例であり、ほかにもさまざまな背景が考えられます。自傷行為をした子ども自身もどうしたらいいのかわからず困っているため、障害あるなしだけでなく、その子が何に困っているのかを考えていくことが大事です。

自傷行為が起こりやすい状況

自傷行為が起こりやすい状況

知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)の子どもが自傷行為を起こす場面の種類として、

  • 感覚過敏・鈍麻の影響
  • コミュニケーションの困難
  • 何をしたらいいのかわからない

といったことが考えられます。

感覚過敏・鈍麻の影響

感覚が過敏だと気温・光・音などの刺激に対する不快感が強いことから、その刺激を解消したくて自傷行為につながることがあります。

 

また、感覚鈍麻によって刺激を感じづらいため、刺激を求めて自分をたたくといった自傷行為をするといったことが考えられます。

コミュニケーションの困難

言葉の遅れや、意思疎通に困難があって、自分の伝えたいことがなかなか相手に伝わらないもどかしさから、自分の意志や要求を伝えるために自傷行為をするということが考えられます。

何をしたらいいのかわからない

興味関心の偏りがある子どもは、やることがなくなったときに手持ち無沙汰になってしまい、髪の毛を引っ張ったり、自分の体をつねったりといった自傷行為による刺激で暇をつぶしている場合もあるとされています。

 

知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)の子どもが自傷行為をする背景として、以上のようなことが考えられます。子ども自身も自傷行為以外の方法がわからないため起こしているともいえます。

子どもの自傷行為を防ぐためにできること

子どもの自傷行為を防ぐためにできること

ここでは、子どもの自傷行為を防ぐためにできることを紹介します。

方法としては

  1. 記録と分析
  2. 対応方法の作成
  3. 実施と改善

という3つを紹介します。

 

これらの方法は家庭でもできますが、支援機関などと相談しながらおこなっていくといいでしょう。

記録と分析

対応方法を考えるためにまずは子どもがどういったときに自傷行為を起こすのかを記録して、何が要因になっているかを分析します。

 

例えば、壁に頭を打ちつける自傷行為が多い時は、それがいつ起きているかを、自傷行為を起こした結果どうなったかを書いていきます。

 

頭を打ちつける自傷行為が、「保護者からおもちゃを片付けるよう言われたたとき」に起こり、その結果が「おもちゃを片付けなくてすんだ」といった形で記録をもとになぜ自傷行為が起こっているのか分析していきます。

対応方法の作成

次に自傷行為を起こさなくてもすむような対応方法を考えていきます。大きく分けて「環境調整」と「自傷行為以外の方法を教える」という観点があります。それぞれ一例をご紹介します。

 

環境調整

  • 遊ぶ時間を決めておく
  • 時間の見通しが立つように絵やイラストなどで伝える
  • 「あと何分だよ」と事前に伝える
  • おもちゃを片付ける箱を色分けするなど片づけやすくする

自傷行為以外の方法を教える

  • 拒否の方法を伝えるサイン(ジェスチャーなど)を教える
  • 絵カードで感情を伝える方法を教える
  • 言葉で伝える練習をする

実行と改善

対応方法を決めたら今度はそれを実践していきます。子どもが自傷行為以外の方法を取ることができたらほめるようにしましょう。

 

ほめるときは、「すぐに」「具体的に」ほめることが大事です。時間がたつと記憶が薄れてしまい、なんとなくほめるだけだと何がよかったのか子どもが理解できない可能性があります。

 

1回出来たらシールを貼る、など目に見える形にすると実感しやすい子どももいます。

 

うまくいかず自傷行為が続く場合は、再度記録と分析や対応方法の検討をおこなって、違う方法を試していきましょう。

一度で自傷行為がなくなることは少ないため、長い目で見ながら焦らず対応していくことが大事です。

子どもの自傷行為が起きた場合の対応について

子どもの自傷行為が起きた場合の対応について

自傷行為を防ぐ対策をとっても、起こってしまうことはあります。子どもが自傷行動を起こした時に保護者や周りの大人はどう対応したらいいのか紹介します。

 

安全の確保

子どもが自傷行為を起こしたときは、まずは安全の確保を行いましょう。壁や机に頭をたたきつけるといった行為があったときは、間にクッションを挟む、机などを遠ざけてけがをしないような対応をしましょう。

 

過剰に反応しない

自傷行為が起こっているときは、つい大きな声で止めたりしたくなると思います。しかし、そういった過剰な反応がさらなる刺激となる場合もあるため、まずは子どもの気持ちを落ち着かせるようにしましょう。

 

前提として安全を確保したうえで、子どもが冷静になれるような場所に移動したり、リラックスできる環境に誘導し、自傷行為が収まるのを待ちましょう。

 

また、子どもが自傷行為を止めて落ち着くことができたら、先ほど紹介したようにすぐ具体的にほめるようにしましょう。

自傷行為に関する相談先

自傷行為に関する相談先

子どもの自傷行為について相談先の紹介をします。

 

こころの健康相談統一ダイヤル

共通の電話番号にかけると、電話をかけた所在地の公的な相談機関につながるシステムです。

電話番号や所在地によってつながる相談機関はリンク先を参照ください。

子ども家庭支援センター

18歳未満の子どもに関する相談を受け付けている支援機関です。
相談に対してアドバイスや情報の提供をおこなうほか、相談内容に応じて保健・教育・福祉といった支援機関の紹介もおこなっています。

児童相談所

児童相談所も18歳未満の子どもに関するさまざまな相談を、本人、家族、学校などいろいろな方から受けつけている相談機関です。

 

児童福祉司・児童心理司・医師・保健師といった専門的なスタッフがいて、自傷行為などの悩みへのアドバイスや支援機関の紹介などをおこなっています。

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターは、年齢を問わず発達障害の方の日常生活や社会生活のサポートをおこなう支援機関です。

 

自傷行為が自閉スペクトラム症などの発達障害の特徴と関連して起こっている可能性がある場合は、相談を検討してみるといいでしょう。

児童発達支援センター

児童発達支援センターは、障害のある子どもへ日常生活や集団生活への適応のためのプログラムの提供をおこなっている支援機関です。

 

相談も受けつけているため、知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)の特徴が自傷行為と関連していると思われる場合は一度問い合わせてみてもいいでしょう。

 

プログラムの提供は未就学児は「児童発達支援事業」就学児は「放課後等デイサービス」としておこなわれ、利用するには自治体へ申請し「通所受給者証」の交付を受ける必要があります。

LITALICOジュニアのご利用もご検討ください

LITALICOジュニアは発達が気になる子どもへ、児童発達支援や放課後等デイサービスを提供しています。

 

自傷行為を起こすことがある子どもへは、自傷行為を起こす背景を把握し、起こさなくてもすむ方法を考えていくサポートもおこなっています。

 

通所受給者証がない方へ向けて、学習塾としての支援もおこなっています。子どもの自傷行為で悩まれているという方は、ぜひ一度ご相談ください。

自傷行為についてまとめ

自傷行為についてまとめ

自傷行為の中には知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)など、障害の特徴と周りの状況が関連して起こる場合もあります。

 

どういった特徴が背景にあって自傷行為につながっているのか、傾向を知っておくことは対策をとる上でも重要です。

 

それとともに自傷行為の要因は一人ひとり異なっていて、子ども自身も困っています。その子をしっかりと見たうえで、必要な対応をしていくことが大事になります。

 

ご家庭だけでなく、自傷行為について相談ができる支援機関も活用しながら取り組んでいくといいでしょう。