子どもが周りの子どもに比べて「匂いを感じにくい」「やたらと味の濃いものを好む」「転んでも泣かないことが多い」などが気になっていたら、その原因は、刺激に対する反応が低い「感覚の鈍さ」が原因かもしれません。
この感覚の鈍さは「感覚鈍麻」と呼ばれます。
この記事では、感覚鈍麻について、症状の具体例や対策を詳しく解説します。
感覚鈍麻とは?
「感覚鈍麻」とは、光や音などをはじめとする特定の刺激に対する反応が低くなることをいいます。逆に、特定の刺激を過剰に受け取ってしまうことを「感覚過敏」といいます。どちらも、感覚に偏りがあることが原因です。
感覚には個人差があり、刺激の受け取り方は人それぞれ異なります。なかでも日常生活に支障をきたすほど感覚の偏りがある場合、生活の工夫や支援を必要とすることがあります。
例えば感覚鈍麻の場合、「熱いものを触ってもやけどをするまで気が付かない」「怪我をしても痛みを感じず病院にいくのが遅れる」といった危険な状況になることがあります。ほかにも、暑さや寒さに対して感覚の鈍さがあり、衣服で温度調整をすることができずに熱中症になったり風邪をひいたりしてしまうこともあります。
また、刺激に対して反応が弱いため強い刺激を求めて「感覚探求」が起き、強く足踏みをする・体の一部を動かし続けるなどの行動が出ることもあります。「感覚探求」とは、刺激に対して反応が弱いために、強い刺激を求める行動をすることです。
感覚過敏がある場合は、本人が不快感を訴えることで周囲も気付きやすい一方、感覚鈍麻は本人が自覚していないことも多く、周囲も気付きづらいという面があります。
感覚鈍麻の原因
感覚鈍麻の原因はあいまいではっきりとはわかっていませんが、感覚を伝達する際の神経信号の伝わり方の問題や信号を受け取ったあとの処理に原因があると考えられています。
感覚の過度な偏りと発達障害には密接な関係があります。その中でも、ASD(自閉スペクトラム症)では、幼いころから感覚の偏りが見られることが多いと言われています。
ただし、感覚の偏りがある人には必ず発達障害があるというわけではありません。また、発達障害のある人に、必ず感覚の偏りがあるというわけでもありません。
発達障害があるかどうかは、さまざまな要素から診断することになります。気になる人は、発達障害の診療をおこなっている医療機関や、各都道府県に設置されている発達障害者支援センターなどに相談してみてください。
感覚鈍麻の特徴や困りごと
ここでは、五感と呼ばれる「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」と、体の動きをつかさどる「固有感覚」、体のバランスをつかさどる「平衡感覚」に感覚の鈍さがある場合の特徴を解説します。
聴覚に鈍さのある子どもに見られる特徴(症状)
音に対する反応性が低い
人からの声かけなど、音に対する反応が弱いことがあります。
教室で先生が全体に向けて話していることに気が付かず、連絡事項を聞き逃したり、友達からの声かけに気が付かずに無視をしてしまったり遊びのルールを聞き逃したりすることでトラブルに発展することもあります。
触覚に鈍さのある子どもに見られる特徴(症状)
暑いか寒いかの判断が難しい
暑い日に厚着で出かけて熱中症になったり、逆に寒い日に薄着で出かけて風邪をひいたりと、服装を調節することができず、体調を崩すことがあります。
また、のどの渇きを自覚できず、水分補給が足りなくて脱水症状を起こすこともあります。
痛みに対しての感覚が鈍い
痛みの感覚が鈍いため、傷ができたり出血したりしても自覚がなく、手当や通院が遅れて悪化してしまうことがあります。
また、虫歯がかなり進行しているのに気が付かず、治療が遅れることもあります。
嗅覚・味覚に鈍さのある子どもに見られる特徴(症状)
においや味がわからない
適切ににおいや味を感じることができず、味の濃いものを好んだり、腐りかけているものを口にしたりすることがあります。
固有感覚(体の動きをつかさどる感覚)に鈍さのある子どもに見られる特徴(症状)
机や棚によく身体をぶつける
自分の身体の大きさや感覚を捉えづらく、机や棚などに身体をぶつけやすいことがあります。
感覚を求めて体を動かしてしまう・動きの刺激を過剰に好む
刺激に対して反応が弱いため、強い刺激を求めて「感覚探求」が起きることがあります。
例えば、強く足踏みをする、他人に思い切りぶつかるといった行動が現れたり、常に身体の一部を動かし続ける「常同行動(自己刺激行動)」と呼ばれる行為がみられることもあります。具体的には、首を振る・手をひらひらさせる・足をゆする、などの動きです。
また、自分が感じられる刺激を求めるあまり、血が出るまで腕を掻いたりかんだり、頭をぶつけたりといった自傷行動に発展してしまう場合もあります。
平衡感覚(体のバランスをとるときに働く感覚)に鈍さのある子どもに見られる特徴(症状)
動きの刺激を過剰に好む
平衡感覚に鈍さがある場合、体の揺れや傾きを自身で調節することが難しく、刺激を求める「感覚探求」が起きます。
例えば、刺激を求めて頭を振りながら走ったり、ぐるぐる回ったり、まわる遊具やブランコなどが大好きで離れようとしなかったりします。
感覚鈍麻のある子どもにできる対策は?
感覚鈍麻のある子どもには、「困りごとに応じた解決策を考える」ことが大切です。
「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」と、体の動きをつかさどる「固有感覚」、体のバランスをつかさどる「平衡感覚」に感覚の鈍さがある場合に起こりえる困りごとについて、それぞれの対策の一例をご紹介します。
聴覚の鈍さに対する対策
音に対する反応性が低い
声をかけても気づいてもらえない場合は、肩を叩く、目の前に立って目を合わせるなど、注意を向けてから話しかけることで気づきやすくなります。
また、口頭だけではなく、紙に書くなど視覚情報も合わせて伝えるとより伝わりやすいこともあります。
暑いか寒いかの判断が難しい
「寒いから上着を着てね」「暑いから一枚脱ごう」など、子ども本人が感じづらい感覚を伝え、どうしたらいいかを具体的に伝えましょう。
また、温度計で気温を確認して服を調整したり、時間で区切って定期的に水分補給するなど、わかりやすいルールをつくって子どもが自分で実践できるようにするのもいいでしょう。
痛みに対して、感覚が鈍い
本人も気が付かないうちに傷やあざを増やしていることがあるので、周りの大人が目を配り、気になることがあったら声をかけ、治療や通院を促しましょう。
歯科で定期的に検診を受け、悪化する前に虫歯の治療をおこなうのもいいでしょう。
嗅覚・味覚の鈍さに対する対策
においや味がわからない
不適切なものを口にしていないか周りの大人が気をつけて見ることや、自分で賞味期限や見た目を確認して判断できるように練習していくことも大切です。
固有感覚(体の動きをつかさどる感覚)・平衡感覚(体のバランスをとるときに働く感覚)の鈍さに対する対策
机や棚によく身体をぶつける
例えば狭い隙間やトンネルをくぐるような、体の大きさを意識できるような遊びを取り入れることで、固有感覚の発達を促すことができます。
また、身体の状態や周囲のものに意識を向けてもらうため、身体をぶつけたときに声をかけ、その状況を自覚してもらうこともいいでしょう。
感覚を求めて体を動かしてしまう/動きの刺激を過剰に好む
感覚探求の動きを無理に止めようとするのではなく、感覚への欲求を満たせるような環境を整えたり、遊びを取り入れたりできるといいでしょう。
例えば、タオルなど握ったり噛んだりしてもいいものを渡したり、ハンドスピナーをまわす、柔らかいペットボトルをつぶす、椅子をバランスボールにする、足の裏を刺激できる人工芝のついた足置きを使ったりするなどの対応をすることで、落ち着けることがあるので、場面に応じた対策をとると良いでしょう。
感覚に関する発達支援を受ける
また、感覚鈍麻がある場合、自身の感覚とつきあっていくために、感覚に関する発達支援を受けるという選択肢もあります。
運動や遊びによって日常生活に必要な感覚を整える「感覚統合療法」も、発達支援のうちのひとつです。感覚統合とは、複数の感覚を整理したりまとめたりする脳の機能のことです。この感覚統合のプロセスが適切に生じるように促していくのが「感覚統合療法」です。
感覚統合療法では、作業療法士(OT)が子どもに寄り添いながら、子どもが「楽しい!」と思うような遊びや運動を通して、感覚機能の未熟だったり苦手だったりする部分を伸ばしていくことをねらいとしています。
感覚統合療法は、感覚統合療法に専門性のある作業療法士(OT)によって、自治体の療育センターや、リハビリ、小児の医療機関で治療としておこなわれます。
それ以外にも、家庭や学校で遊びを通して感覚統合をおこなうこともあります。気になる方は、発達障害の診療をおこなっている医療機関や、各都道府県に設置されている発達障害者支援センターなどに相談してみてください。
感覚鈍麻についてまとめ
感覚鈍麻は、本人にその自覚がなく、周囲にも気付いてもらいづらいことが多くあります。子どもの様子を見ていて気になる行動があれば、さまざまな場面をよく観察してみましょう。
感覚鈍麻の特徴が見られたら、困りごとに応じた対策を実践したり、感覚統合につながる遊びや環境を取り入れたり、作業療法士などの専門家に相談してみるといいでしょう。
LITALICOジュニアは、各地で児童発達支援事業所や幼児教室・学習塾を運営しています。
LITALICOジュニアでは、感覚鈍麻や感覚過敏があり、日常生活や学校生活で困りごとがある子どもが生活しやすくなるような工夫を一緒に考えるサポートなどもおこなっています。
気になる方は無料でご相談いただくことができますので、お気軽にお問い合わせください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。