感覚過敏のうちの一つである「嗅覚過敏」は、においがあるものに対して過敏な状態を示すことを指します。
子どもの食べ物の好き嫌いが激しかったり、人混みのある場所へ行くと気分が悪くなったりする場合、「もしかしたら嗅覚過敏の可能性があるのではないか?」と不安になる保護者の方もいると思います。
この記事では、嗅覚過敏の特徴や原因、対策のポイントについて解説します。
嗅覚過敏とは?
嗅覚過敏とは、感覚過敏のうちの一つで、においに対して過敏の状態を示します。
感覚過敏には、嗅覚過敏以外にも、音に対して過敏な「聴覚過敏」や目に見えるものや色に対して過敏な「視覚過敏」、皮膚に触れるものに対して過敏な「触覚過敏」、味に対して過敏な「味覚過敏」など、さまざまな種類があります。
嗅覚過敏のある子どもの場合、人混みでさまざまなにおいを感じて吐き気や頭痛を起こしたりすることがあります。
嗅覚過敏の特徴
嗅覚過敏の特徴として、以下のような物や場面で困りごとを感じやすいことがあります。
もの
- 芳香剤や柔軟剤のにおい
- 飲食物のにおい
- 学校で飼育している動物のにおい
- インクや鉛筆などの文房具のにおい
場所、空間
- 車や電車など乗り物のにおい
- 学校の床のワックスのにおい
- 人の多い場所(口臭や体臭、熱気など)のにおい
このような物や場面において、子どもによっては集中力が低下したり、人に会うことを苦手だと感じたり、偏食気味になったりと、何かしらの困りごとにつながる可能性があります。
嗅覚過敏の原因
嗅覚過敏の原因は明確に分かっているわけではありませんが、いくつかの考えられる原因があります。
嗅覚過敏の原因について解説します。
脳の機能
脳には、音や光、においなどの刺激を適切なボリュームに調整する機能があります。脳の機能に偏りが生じることで、適度に調整ができなくなり、刺激に敏感になることがあるといわれています。
脳の機能の偏りが要因となっている場合、次のように、発達障害や、てんかん・片頭痛との関連性も考えられます。
発達障害
ASD(自閉スペクトラム症)の特徴の一つとして感覚過敏があるとされています。
ASD(自閉スペクトラム症)などの発達障害のある子どもは、嗅覚過敏を含む感覚過敏による困りごとを抱えやすい傾向がありますが、嗅覚過敏だからといって、必ず発達障害であるというわけではありません。
あくまでも可能性の一つとして考えられることなので、子どもの発達が気になる場合は、専門機関で診断を受けるようにしてください。
てんかんや片頭痛
てんかんや片頭痛により、脳の神経細胞が過敏な状態になってしまい、嗅覚過敏の状態を引き起こしてしまう場合があります。
こちらも発達障害と同様、嗅覚過敏があるからといっててんかんや片頭痛と判断できるわけではないので、気になる場合は医療機関などで診断を受けるようにしてください。
化学物質への反応
柔軟剤や消臭剤、虫よけスプレーなどに含まれる「化学物質」に対する反応の一つとして、嗅覚過敏が現れることがあります。
頭痛や呼吸困難、疲労感などの症状がある場合は、化学物質過敏症の可能性もありますので、専門の医療機関に相談してみるといいでしょう。
ストレスや疲労
子どもが不安や精神的なストレスを抱えていたり、疲労が蓄積している場合、それらが脳に影響を及ぼし、嗅覚過敏の状態を引き起こす可能性があります。
不安や精神的なストレスは、嗅覚過敏だけでなく、さまざまな感覚過敏の状態と関連するといわれているため、子どもの体調が悪かったり、不安や緊張によりドキドキしていたりするときは、特に注意する必要があるでしょう。
嗅覚過敏の対策は?
嗅覚過敏の感じ方は人によって異なります。例えば「くさい」と共有できても、どれくらいくさいと感じているかは人によること、また、同じ匂いでも人によって快にも不快にも感じられることがあります。
子ども自身がどのようなものや場所に対し困りごとを抱えているのか、きちんと把握をした上で手立てを考えるようにする必要があります。
ここでは嗅覚過敏のある子どもに対し、行うことができる対策や対処法の一例を解説します。
環境調整をする
学校や家の環境を整えることも大切です。例えば、学校では子どもにとって苦手なにおいの元となる物と離れた席にしてもらったり、家では子どもが好きな香りのアロマオイルを置いておくことなどがあげられます。
マスクをする
苦手なにおいがある場合は、マスクをするようにするとよいでしょう。活性炭入りのマスクを使うと、より苦手なにおいを打ち消す効果が期待できます。
好きなにおいのハンカチを持っておく
子どもの好きなにおいを染み込ませたハンカチやタオルを持たせ、マスクの下に忍ばせたり、首からかけたりすることで、苦手なにおいをやわらげられます。
ガムをかむ
学校では難しいかもしれませんが、ガムやキャンディを口に入れておくことも、嗅覚過敏の対策になります。特に、ミントには抗菌効果や頭痛緩和の効果があると言われており、清涼感もあることから気持ちの切り替えなどにも役立つでしょう。
休憩できる場所を確保する
子どもにとって休憩できる場所を確保しましょう。嗅覚過敏による困りごとがあったときに落ち着いて休憩できる場所があると、子どもにとっての安心感につながります。
外出先ですぐに確保することは難しいかもしれませんが、学校や学童、習い事など子どもが通う場所などでは、不快な刺激から離れられるような場所をあらかじめ確保しておくとよいでしょう。
見通しが立つようにする
嗅覚過敏は、不安や精神的なストレスの状態に左右されることもあります。そのため、何か予定があるときは、まずは安心できるように見通しを立てるようにしましょう。
例えば、視覚的にわかりやすいようイラストや写真を使って、何時から何時までの予定なのかを伝えることで、見通しを持てるようになることから安心感につながりやすいです。
嗅覚過敏についてまとめ
嗅覚過敏とは、においに対しての感覚過敏です。
嗅覚過敏の原因は明らかになってはいませんが、発達障害やてんかん、片頭痛が影響していたり、精神的なストレスや不安が影響していたりすることがあります。
対策として、学校や家庭内での環境調整をしたり、マスクをしたり、ガムをかんだりするなどがあげられます。この記事で紹介した内容を参考に、子どもの特性に合った対策を行うようにしてください。
また、化学物質過敏症の疑いや子どもの嗅覚過敏による困りごとに対し、不安や悩みがある場合は、専門機関や医療機関などに相談するようにしてください。
LITALICOジュニアでは、「聴覚過敏があって学校生活がうまくいっていない…」「困っていることはあるけど何から手をつけていいかわからない」などのお悩みのある方のために、無料相談も実施しています。
行動の特徴、獲得スキル、嗅覚をはじめ視覚や聴覚などの感覚の特徴を知ることで、子どもへの接し方や環境調整の仕方かわかり、子どもに適切な環境調整のサポートがしやすくなります。ぜひお気軽にお問い合わせください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。