「人との関わりが苦手」「勉強に遅れがある」「忘れ物やなくし物が多い」などといった様子があり、「もしかして、うちの子グレーゾーンかも?」と思われる保護者の方もいるかもしれません。

 

この記事では、発達障害のグレーゾーンと呼ばれる子どもの保護者さまや、子どもがグレーゾーンに該当するかもしれないと感じている保護者さまから寄せられたお悩みについて、公認心理師 / 臨床心理士である緒方広海先生にご回答いただきました。

発達障害のグレーゾーンとは?

発達障害のグレーゾーンとは、発達障害の傾向がみられるものの、医療機関で発達障害と診断されなかった場合などに使われることのある表現です。

 

「グレーゾーン」は正式な医学的名称ではなく、あくまでひとつの表現方法であり通称です。

発達障害とは

発達障害とは、生まれつきの脳機能のアンバランスさによって、物事の見方、感じ方、理解の仕方、人との関わり方などに偏りがある障害のことをいいます。得意不得意の特性や環境とのミスマッチから、日常生活で過ごしにくさを感じることがあります。

 

文部科学省の調査によると、小中学生は、通常の学級の11人に1人程度が学習面または行動面で著しい困難を示すと推計されていて、この中にはグレーゾーンの子どもたちも含まれると考えられます。

 

発達障害は、特性やあらわれる困りごとによってわけられます。その中からASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、SLD(限局性学習症)について、それぞれのよくある困りごととあわせて紹介します。

 

ASD(自閉スペクトラム症)

ASD(自閉スペクトラム症)は、「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「特定の物や行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ」などの特性が幼少期からみられる発達障害の一つで、知的障害(知的発達症)を伴うこともあります。

 

ASD(自閉スペクトラム症)のよくある困りごと

  •  生活に困るほどこだわりが強い
  •  一人あそびがすきで、友だちに関心を示さない
  •  音や光などの感覚に過敏に反応する、もしくは無関心 など

ADHD(注意欠如多動症)

ADHD(注意欠如多動症)は、不注意、多動性、衝動性などの特性がみられる発達障害の一つです。特性のあらわれ方によって主に以下の3つにわけられます。

 

  •  多動・衝動性の傾向が強いタイプ
  •  不注意の傾向が強いタイプ
  •  多動・衝動性と不注意が混在しているタイプ

 

ADHD(注意欠如多動症)のよくある困りごと

 

  •  順番が待てない
  •  気になる物があるといきなり走り出す
  •  物をなくしたりや忘れ物をしやすい など

SLD(限局性学習症)

SLD(限局性学習症)は、一般的に学習障害ともいわれる、学習における技能に困難さがみられる発達障害の一つです。大きく以下の3つの分類があります。

 

  •  読むことやその内容を理解することの困難さ
  •  書くことの困難さ
  •  数の理解や計算をすることの困難さ

 

SLD(限局性学習症)のよくある困りごと

 

  •  音読が苦手、よく読み間違える
  •  板書など書き写しに非常に時間がかかる
  •  文章問題を解くのが難しい など

発達障害のグレーゾーンの子どもは支援を受けられる?進路や相談先について専門家が回答!

ここからは子どもの発達に詳しい公認心理師 / 臨床心理士である緒方広海先生に、発達障害のグレーゾーンについての質問にお答えいただきます。

Q:発達障害のグレーゾーンと呼ばれる子どもに特徴はありますか?

A.

発達障害のグレーゾーン特有の特徴があるわけではありません。

 

そもそも発達障害のグレーゾーンとは、発達障害の傾向があるが、診断基準を完全には満たしていない状態、つまり、発達障害の特徴の一部がみられる状態のときに使われることの多い表現です。

 

そのため、あらわれる特性は発達障害の特徴の一部であり、どういった特性があらわれるかは、子ども一人ひとりによって異なります。

 

発達障害のグレーゾーンと呼ばれるお子さまは、発達障害の診断を受けたお子さまと比べて、日常での困難は少ないと思われがちですが、周囲から「やる気がない」と思われてしまうなど、理解を得られにくいなどの困りごとがあります。

Q:子どもがグレーゾーンではないかと感じています。本人も家族も日常で過ごしにくさを感じているのですが、何から始めたらよいのかわかりません。 まずはどこに相談すればいいでしょうか?

A.

お子さまが日常生活をスムーズにおくれるようにするためには、お子さまの特性を知り、その子に合わせた作戦を立てて実践していくことが大切です。とはいえ、ご家族だけで実践しようとすると、なかなかうまくいかないこともあるでしょう。そのようなとき、頼れる相談先があると心強いものです。

 

そうしたときに相談できる機関としては、発達障害を含む障害があると考えられる児童の支援をしている「発達障害者支援センター」や、子育てについての相談に応じ助言をする「児童家庭支援センター」「児童相談所」、障害のある子どもの支援をおこなう通所施設の「児童発達支援センター」などがあります。

 

基本的に窓口はお住まいの市区町村の障害福祉を管轄する部署になるので、迷う場合はまずは市町村の窓口に相談してみるといいでしょう。

Q:子どもが発達障害かもしれないと思い、病院で検査を受けましたが、診断はされませんでした。診断がつかないグレーゾーンと呼ばれる子どもが受けられる支援はあるのでしょうか?

A.

発達障害のグレーゾーンだから支援を受けられないというわけではありません。

 

発達障害者支援法には「市町村は、児童に発達障害の疑いがある場合には、適切に支援をおこなうために相談や助言をおこなうものとする」とあり、診断されていなくても支援を受けられる場合があるとされています。

 

支援が必要かどうかや必要な支援内容は、お子さま一人ひとりの困りごとや状況によって異なります。

 

お子さまの得意なこと苦手なことをきちんと理解して、適切なサポートやトレーニングを受けることで生きづらさを軽減することができるといわれているので、お子さまが日常生活で困っていたり、ご家族が気になることがあれば、専門機関に相談するのがいいでしょう。

 

たとえば、発達が気になるお子さまの支援をおこなう施設として、通所受給者証を利用して通う児童発達支援や放課後等デイサービスがあります。ここでは、子どもが自立して生活できるように、コミュニケーションや集団行動など必要なスキルの獲得を練習することができます。

Q:現在通常の学級に通っているグレーゾーンに該当しそうな子ども(小学生)がいます。担任の先生から「授業についていけていない」とお話があり、今後通級指導教室の利用も検討したほうがよいのか悩んでいます。そういった子どもでも通級指導教室は利用できるのでしょうか?

A.

発達障害のグレーゾーンと呼ばれる子どもも、必要と判断されれば通級指導教室を利用することができます。

※通級指導教室について、詳細を知りたい場合はこちらをご覧ください。

 

通級指導教室の対象となるのは、「通常の学級における適切な配慮や指導方法の工夫のみでは、学習したり、生活したりするうえで困難があり、一部特別な指導が必要である」と判断される場合です。

つまり、グレーゾーンと呼ばれるお子さま本人や家族が通級指導教室に通うことを希望し、利用することが認められた場合、通うことができます。

 

進路の選択は、本人やご家族にとって大きな決断であり、悩みにもなると思います。学びの場はさまざまな選択肢があり、指導内容や教育課程も異なるので、周囲の情報やお子さまの意見、実際に目で見た印象をふまえて、よりよい選択肢を選ぶのがいいでしょう。

 

通常学級にのみ通う場合でも、合理的配慮を受けることができます。

 

合理的配慮とは、障害のある方が障害のない方々と同じように、教育や就業、その他社会生活において平等に参加できるよう、それぞれの障害特性や困りごとに合わせておこなわれる配慮のことをいいます。

 

合理的配慮の例としては、落ち着いて待つことが難しい場合、見通しを持つことができるように、スケジュールや一時間の授業の流れを提示してもらったり、周りの刺激に敏感で集中し続けることができない場合、別室でテストを受けられるようにしてもらうなどがあります。

 

合理的配慮を受けることで通常の学級でも過ごしやすくなる場合もあるので、気になる場合は担任の先生に相談してみましょう。

Q:グレーゾーンに該当しそうな子どもがいます。たとえばどのような支援を受けられますか?

A.

ここではLITALICOジュニアでの支援の例をご紹介します。

 

先ほどお伝えしたとおり、発達障害のグレーゾーン特有の特徴があるわけではないので、お子さまの困りごとに合わせて支援をおこないます。

 

たとえば、「イライラすると物を投げたり蹴ったりする」といった困りごとのあるお子さまには、以下の2つの練習をおこないました。

 

  • 自分の気持ちがどれくらいか理解し、イライラしたときに落ち着ける方法を身につける
  • 「物を叩く」という行動を「自分の気持ちを言葉で伝える」という行動に変える

 

 

自分の気持ちの理解には、「気持ちの温度計」という教材を使い、どのようなときに自分の気持ちがあがってしまうのか、また今の気持ちがどれくらいの温度なのかを一緒に確認し、気持ちが高ぶったときにはどうやったら落ち着けるかを一緒に確認しました。

 

自分の気持ちを言葉で伝える練習は、ロールプレイを通して練習し、「問題がわからないから教えてください」というように言葉で伝えることができたら、指導員が褒め、言葉で伝える行動を引き出します。

そうすることで、「衝動的に物を叩く」という行動が減り、家庭でも具体的に言葉で伝えられるようになってきました。

 

お子さまが「イライラすると物を投げたり蹴ったりする」背景にある要因は多種多様であり、対応もそれに応じておこないます。感覚の過敏さによって生じやすい場合には過敏さに対してのアプローチ、周囲の環境が理解しにくいことでイライラしやすい場合は、わかりやすい環境設定などをおこなうという対応をすることもあります。

このようにLITALICOジュニアではお子さまの特性に合わせて授業をおこなっています。

発達が気になる子どもが通える教室「LITALICOジュニア」

LITALICOジュニアは、全国で幼児教室や学習支援教室、福祉サービスとして利用できる児童発達支援・放課後等デイサービスを運営しています。

 

LITALICOジュニアでは、学習への取り組みだけでなく、コミュニケーションスキルや気持ちをコントロールする方法、時間の管理の仕方など、さまざまな特性を持つ子ども一人ひとりに合わせて必要なスキルの獲得をサポートしています。

 

発達にでこぼこがあっても、適切な支援を受けることで、お子さま自身もご家族も生活しやすくなります。

 

LITALICOジュニアのパーソナルコースは、通所受給者証がなくても通うことができます。「通所受給者はとれないかもしれない…」「発達障害と診断はされなかったけど、学校で困っているみたい」など、お子さまについて気になることがあれば、体験授業も開催しているので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

まとめ

発達障害のグレーゾーンとは、発達障害の傾向がみられるものの、医療機関で発達障害と診断されない場合などに使われる俗称です。

 

発達障害のグレーゾーンと呼ばれる子どもは、発達障害の診断がついている場合と比べて困難は少ないと思われがちですが、周囲から、理解を得られにくいなどの困りごとがあります。そのため、お子さまが困っている場合には、適切な支援を受けることも大切です。

 

この記事ではグレーゾーンと呼ばれるお子さまを持つ保護者さまやお子さまがグレーゾーンかもしれないと感じている保護者さまのお悩みにお答えしました。

 

しかし、対応方法はお子さまの状況や置かれている環境によっても異なるので、気になることがあれば、まずはお住まいの市区町村の窓口でご相談ください。

 

LITALICOジュニアでも無料相談をおこなっているので、お子さまの発達について気になることがある方はお気軽にお問い合わせください。

※発達障害は、発達障害者支援法で「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されているのに対し、DSM-5-TRで採用された神経発達症は、知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

このように、神経発達症は発達障害より広い範囲を捉えていますが、一般的に「発達障害」といわれることが多くあるため、本記事では「発達障害」と表記しています。