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子どもが園や学校で「周りの子どもとコミュニケーションを取ることが苦手」「かんしゃくを起こしてしまう」という、対人関係での困りごとがある方もいるのではないでしょうか。

 

そういった子どもの対人関係を円滑にするためのトレーニングとして、「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」があります。

 

SSTでは対人関係などで状況に応じた適切な振る舞いや、子どもが社会生活を営んでいくために必要なスキルを養っていくことができます。

 

この記事ではSSTの概要や、取り組みの例、気を付けること、SSTを受けることができる場所などを紹介します。

 

※SSTには交通機関の利用など基本的な生活スキルを含むこともありますが、ここでは主に「対人関係」のスキルについて記載していきます。

この記事を書いている会社:株式会社LITALICO

SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは?

SSTとは、Social Skills Training(ソーシャルスキルトレーニング)の頭文字をとったもので、さまざまなプログラムを通して対人関係など社会生活に必要なスキルを学んでいく支援のことです。

 

プログラムでは実際に園や学校で困った場面をもとに、ロールプレイなどで解決方法を見つけていき、次に同じ場面にあったときに適切に振る舞えるようにするなどがあります。

 

対人関係や感情コントロールなどで困難がある子どもに有効とされていて、学校や児童発達支援、放課後等デイサービスなど多くの現場で取り入れられています。

SST(ソーシャルスキルトレーニング)の目的

SSTの目的はソーシャルスキルを学んで、社会生活を送りやすくすることです。

 

ソーシャルスキルとは「生活技能」や「社会技能」などと訳され、「対人関係や社会生活を営むために必要な技能(スキル)」のように定義づけられることが多くあります。

 

園や学校など、集団の中で人とかかわっていく場面では、「こうしたほうがいい」「これはしないほうがいい」といった暗黙のルールがあり、多くの人はそれを感じ取ってコミュニケーションを取っています。

 

しかし、適切な教育環境が与えられなかったり、発達障害の特性のために、暗黙のルールを理解することが難しい子どももいます。

 

そういった子どもは、集団の中で過ごしているとつい不適切な言動をしてしまい、場になじめなかったり感情的になることが多くなるなど困難を抱えてしまいがちです。

 

SSTでは、そのような困難を抱える子どもに対して、ソーシャルスキルの学習を促し、園や学校などの社会生活を円滑に行うことができるようなトレーニングを行います。

SST(ソーシャルスキルトレーニング)の効果

SSTには、対人関係などの困難を減らして、社会生活を送りやすくなる効果があります。

 

例えば「人の気持ちを察するのが苦手」で、相手に干渉しすぎて、たびたびけんかになってしまう子どもの場合は、ロールプレイや表情の描かれた絵カードを使って、「この場合は相手はどういう気持ちだったのか」「嫌なことをされたらどう思うのか」など相手の気持ちを想像する練習をします。

 

そうすることで、「この場面で干渉されると嫌な気持ちになるんだな」というのが身についてきて、相手との距離感を取れるようになるなどの効果が考えられます。

SST(ソーシャルスキルトレーニング)を受けられる場所をお探しの方はLITALICOジュニアへ

「友だちとトラブルになりやすい」「感情コントロールが苦手」などの困りごとがあり園や学校生活の社会生活をスムーズに送ることが難しいお子さまもいらっしゃるかと思います。

 

LITALICOジュニアでは、SSTを通してお子さま一人ひとりの困りごとに合わせてセルフコントロール方法や、コミュニケーション方法を身につけるためのサポートをしています。

 

お子さまが楽しく学べるような工夫を取り入れて授業をおこなっていますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

SST(ソーシャルスキルトレーニング)の例

SST(ソーシャルスキルトレーニング)の例のイメージ画像

SSTの取り組み方は状況や目的によって異なりますが、ここでは代表的な例を紹介します。

SST(ソーシャルスキルトレーニング)の方法は?

SSTの進め方の一般的な例としては以下のような進め方があります。

 

ただし、実際には対象者の興味関心や課題に応じて、時にはゲームやディベートなど様々な手法を取り入れながら柔軟に実施されていることが多いのが現状ですので、あくまで一例としてご紹介します。

 

  1. 教示 
  2. モデリング
  3. リハーサル
  4. フィードバック
  5. 般化(はんか)

 

まずは全体でのあいさつや、参加している子どもの緊張を解くための「アイスブレイク」などを行って、SSTに取り組みやすい状況を作ってから始めていくことが多いです。

 

それぞれ行うことを見ていきましょう。

 

1.教示 

教示はインストラクションとも呼ばれていて、今回のSSTではどんなスキルを見つけるために、どんなことを練習するのかということを明確に伝えます。

 

そのスキルが社会生活で必要な理由や、身につけるためのポイントなどを事前に明らかにすることで、目的がはっきりとして訓練が効果的になります。

 

言葉で伝えるだけでなく、子どもたちの年齢や特性に合わせてホワイトボードや絵カードなどを用いて視覚的に表現することもあります。

 

2 .モデリング

教示のあとは、先生が実演する「見て学ぶ」ためのモデリングに移ります。

ある場面を設定し1回目は「よくない例」2回目は「よかった例」というように、子どもが見てどこがポイントとなるかわかるように演じます。

 

場面は参加している子どもが実際に困った場面にすると、学習意欲や効果も高まるため事前にアンケートなどで情報を集めておく場合もあります。

 

3 .リハーサル

モデリングを見て学んだあとは、リハーサルといって子どもたちが実際に演じてみます。

役になりきる「ロールプレイ」を行うこともあれば、ゲームなどで遊びながら学ぶ方法、ワークシートを用いて書いていく方法などがあります。

 

子どもたち同士で行うこともあれば、先生が練習役になることもあるなど、状況によって効果的な手段で進めていきます。

 

4.フィードバック

リハーサルが終わった後は、先生から子どもにフィードバックをしていきます。

フィードバックでは、まずは練習できたことをほめ、良かった点、改善点などを伝えていきます。

 

フィードバックで気を付けることとして、具体的に伝えることと否定的な表現にならないようにすることです。

 

SSTに参加する子どもの中には漠然と「良かった」だけだと、何が褒められたのかわからなくなり、混乱してしまう子もいるため、どこが良かったのかを具体的に言葉にすることが大事です。

 

また、改善点を伝えるうえでも、「ここが悪かった」という否定的な表現では、どう改善したらいいのかわからないため、「ここをこうするともっとよくなるよ」などと、子どもが次の機会に生かせるような言葉を選んでフィードバックしていくことが大切です。

 

5.般化(はんか)

SSTを通して学んだスキルを実際の生活で使えるようにすることを般化と呼んでいます。

般化を促すためには日常で試す課題をいくつか与えて、次回のSSTまでに日常場面で取り組んでもらい、その結果をフィードバックするなどの方法があります。

 

まったく同じ場面というのはほとんどないので、日常で試すうちにまた困難が出てくることが多いですが、そういったことも次回のSSTで解決方法を探していくといったことを繰り返して、ソーシャルスキルを身につけていきます。

SST(ソーシャルスキルトレーニング)の具体的な手法

SSTでは、先ほど紹介したロールプレイやゲームなどを通して行っていきます。

その中で子どもが受ける場合に使われることの多い手法をいくつか紹介します。

 

ロールプレイ

ロールプレイとは、役になりきって、ある特定の場面を演じることで、課題解決の手がかりを得る方法です。SSTの中でよく使われる手法です。

 

単に対処方法を理解するだけではなく、課題解決場面で実際の言葉を聞こえるように言ったり、相手の方を見ながら、あるいは身振り手振りを交えて伝えるなど、実際の日常場面でそのスキルを使えるように必要なことを学びます。

 

まずは先生が行う例を見て、そのあとに子ども自身で演じることで、困った場面でどう振舞えばいいのかを体験しながら身につけることができます。

 

整列ゲーム

子どもたちが何人かのグループに分かれて、「背の順」などのテーマに沿って並び替えをするゲームです。

 

このゲームを通してテーマの意図を理解することや、他の子どもと並び替えをするために言葉にして伝えるなどのコミュニケーション能力の向上が見込まれます。

 

テーマは「誕生日順」など変えることで、他の子どもに質問する/答えるなど、見た目ではわからない、より多くのコミュニケーションが必要な状況にするなど、子どもの年齢や目的などによって調節していきます。

 

私は誰でしょう?ゲーム

参加者の一人が前に出て、言葉が書かれた紙を見ます。紙には「ゴリラ」「時計」「ペットボトル」など、動物や物の名前が書かれていて、前に出た人はそのものになり切ります。

 

他の参加者は、順番に質問していき、前に出た人はその質問に対して「はい」か「いいえ」だけで答えていきます。

 

紙に書かれたのが「時計」だったら、「生物ですか?」の質問には「いいえ」を、「家にあるものですか?」の質問には「はい」と答えます。

 

質問の意図をつかんで回答することや、うまい質問をすることなどを通して、言葉の意図や相手の考えていることなどを読み解いていく力を養って行くゲームです。

 

これらは子どもが楽しみながら行うことができる点が特徴です。

 

ここに紹介した手法はごく一部で、他にも教材を使って、「どんな場面で困るか」「相手のいいところを10個書こう」などを書いていくことで、客観的に自分や他の子どもをとらえるスキルを学ぶといった方法などもあります。

SST(ソーシャルスキルトレーニング)に教材は必要?

ここではSSTではどのような教材を使用するのかといった点を紹介します。

 

まずSSTにおいて教材は必ずしも必要ではありません。SSTで大切なのは、「その子ども一人ひとりの特性に合わせた方法」を学ぶことです。

 

子どもによって困る場面は異なってきます。教材を使うことで、画一的な場面の練習になってしまうということもあるため、あくまでその子どもに合わせた方法を選ぶことが大事です。

 

とはいえ多くの子どもが困る場面には共通点があり、そういったときに補助的に教材を使っていくことはSSTを効率的に進めていくことにもつながってきます。

 

また、子どもたちの中には、自分の困る場面やその時の感情などをうまく言葉にできない、という子もいます。そういったときも教材を使ってSSTを進めていくことがあります。

 

教材には、本(ワークブック)、場面カード、感情チップなどの種類があります。

 

本(ワークブック)

SSTの教材としての本はたくさんあります。場面や解決方法が書かれているものや、自分で書き込むタイプのもの、他の教材とセットになっているものなどです。

 

本の中にはSSTの目的や効果なども書かれていて、家庭でも取り組みやすくなっているものもあります。

 

場面カード

場面カードはよくある困りごとが書かれたカードのことです。「あいさつが返ってこない」「順番を守れない」「かんしゃくを起こしてしまう」などがイラスト付きで描かれていて、イメージを持ちやすくなっています。

 

よくある場面がわかりやすく描かれているので、集団で行う場合でもすぐに共通理解をもって取り組めるなど、SSTを効率的に進めることができます。

 

感情チップ

感情チップとは、丸いチップに顔の表情と感情の名前(怒り、喜び)などが書かれているものです。

 

表情から相手の感情を当てたり、「この場面でこの子はどういう感情になったでしょうか」といった質問にチップで答えるなどの使用方法があります。

 

表情を読み解くことが苦手だったり、言葉がなかなか出てこない子どもにも有効な教材となっています。

 

ここで紹介した教材はたくさんある中での一例で、名称や効果なども商品によって異なっています。

SSTで教材を使用する際は子どもの特性や年齢などに合わせて選んでいくといいでしょう。

発達障害のある子どもへSST(ソーシャルスキルトレーニング)をおこなう上で大切なこと

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発達障害のある子どもは、特性から自身の置かれた状況を判断することや、感情のコントロールが難しく、対人関係や集団生活で適切な振る舞いが難しいということがしばしば起こります。そのため発達障害のある子どもむけにSSTを行っている事業所などがたくさんあります。

 

発達障害のある子どもがSSTをする上では、他の子どもの場合と大きく変わりません。子ども自身が意欲的にSSTに参加できるような環境設定をしていくことが大切です。

 

SSTを受ける子どもは、対人関係の困難さなどから怒られる経験などを通して自分を否定的にとらえてしまっていることも多くあります。

 

ソーシャルスキルを身につけることによって、「友だちとうまく遊べるようになる」「自分の気持ちを適切な方法で伝えることができるようになる」など、その子ども自身が学びたいと思う動機づけができるような目標設定や場面の選び方などを心がけていくことが大事です。

SST(ソーシャルスキルトレーニング)を受けられる場所は?

SSTを受けることができる場所はたくさんあり、病院、学校、児童発達支援事業所、放課後等デイサービスなどがその一例です。

 

SSTは専門職に限らず実施することが可能ですが、だれでも可能なわけではないので、そのための啓発や研修プログラムを提供している機関もあります。

 

SSTは医療機関等に限らず、学校や施設など幅広い場所で受けることが可能です。ただ、お子さまにとってどのような内容のSSTを受けることが適切なのか判断することが難しいので、通い先に迷われる方はいらっしゃいます。

 

学校など普段通っている場所で受けることができる場合は、まずはそちらを受けてみるといいかもしれません。

 

また、「どういった目的でSSTを受けるのか」「どういった場面で困難を感じているのか」といったことを明確にしておくと、目的に合ったSSTを受けることができる施設を探しやすくなります。

 

その他にも発達障害などの障害がある場合は、その障害に合わせたSSTを行っている施設を探していくことで効果的なSSTを受けることにつながります。

 

SSTを受けることができる場所として、LITALICOジュニアがあります。

 

LITALICOジュニアでは、一人ひとりにあわせた授業を通して、発達や学習、コミュニケーションにお悩みをお持ちのお子さまをサポートしています。利用者8,000名以上、 全国100教室以上の指導実績があり、全国から受講できるオンラインでの個別授業も実施しています

 

ソーシャルスキルを身につける上での相談なども承っておりますので、学校などで子どもに困難があるとお悩みの方は、ぜひ一度お問い合わせください。

LITALICOジュニアのSST(ソーシャルスキルトレーニング)

ここでは、LITALICOジュニアのソーシャルスキルの実践例、感情のコントロールが苦手でイライラすると物にあたってしまうAくんの事例をご紹介します。

 

気持ちの温度計の画像

 

授業では、気持ちの温度計という教材を使って、気持ちの高まりや落ち込みを段階的に捉える練習をし、どんなときにイライラしてしまうのか、イライラしたときに落ち着ける方法を一緒に考えました。

 

Aくんがイライラしているときには、「今、気持ちの温度計どのくらい?」と声をかけ、イライラが爆発する前に今自分の気持ちがどれくらいなのかを確認しました。また、事前に確認しておいた「落ち着く場所に移動する」という方法を実施し、気持ちを落ち着かせることができるようにサポートをしました。

 

他にもLITALICOジュニアでは、「お友だちとトラブルになりやすい」「相手の気持ちを考えることが苦手」など一人ひとりの困りごとや特性に合わせて、セルフコントロール方法や、コミュニケーション方法などを身につけるためのサポートをしています。

 

どんな支援が受けられるのか詳しく知りたい方や一度相談したいといった方は、お気軽にお問い合わせください。

SST(ソーシャルスキルトレーニング)のまとめ

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SSTは対人関係などのスキルを身につけることによって、園や学校などの社会生活を円滑に営んでいくためのプログラムです。

 

ロールプレイやゲームなどを通して、実際に困った場面の解決方法を練習していくことで、自分の特性に合った適切な振る舞いなどを学んでいくことができます。

 

困る場面も、その解決方法も子ども一人ひとりの環境や特性によって異なってきます。SSTではその子どもにあったスキルを身につけていくことが大事です。

 

現在では病院や学校、児童発達支援事業所など、SSTを受けることのできる場所は数多くあるため、子どもの困りごとや特性に合わせて探していくといいでしょう。

  • 監修者

    鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員

    井上 雅彦

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。