子どもが何かのきっかけで「手足をバタバタさせる」「泣き叫ぶ」「物を投げつける」などの癇癪を起こしている、という状況でお困りの保護者の方もいるのではないでしょうか?
癇癪とは1歳ごろから見られる感情の爆発を伴う行動のことで、子どもの成長の過程で必要なことでもあります。
癇癪の程度や頻度によって、発達障害と関係があるのでは?と考えている方もいると思います。
この記事では癇癪と発達障害との違いや関係性、癇癪が起こったときの対応方法や相談できる場所について紹介します。
癇癪とは?
癇癪とは「声を荒げて泣き叫ぶ」「壁や床に頭を打ち付ける」など、感情の爆発を伴う行動のことです。
子どもの癇癪は1歳になる前くらいから始まり、イヤイヤ期ともいわれる2歳~4歳に多く起こり、5歳になるころには収まってくる傾向があります。
癇癪には以下のようなものがあります。
- 声を荒げて泣き叫ぶ
- 手足をバタバタさせて暴れる
- 壁や床に頭を打ち付ける
- 物を投げつける
- 周りの人を叩いたり蹴ったりする
癇癪の原因
癇癪は子どもが「不都合なことを取り除きたい」と感じているときに、その気持ちを上手に表現できなかったり、感情をコントロールできなかったりすると起こることがあります。
子どもが癇癪を起こす背景には「欲求不満」「疲労」「空腹」といった不都合があるといわれています。
乳幼児のころは「眠いのに眠れない」「おむつが濡れている」など、生理的な不快感に対して泣くことで、大人が「寝かしつけてくれる」「おむつを替えてくれる」といった対応をすることで不快な状況を取り除くことができます。
子どもが1歳くらいになると、保護者などの他者に拒否の意思を示すようになり、コミュニケーションとしての癇癪が起こるようになります。
例えば保護者から「おもちゃを片付けようね」と声をかけられても、まだ遊びたい子どもが拒否を示すようになるということがあります。
これは子ども自身と保護者が「別の意図を持った存在」ということが段々認識できるようになってくるという成長の表れでもあります。
2歳くらいになると言葉を使う能力も向上してきて「イヤだ!」と自分の意思を表現するようになります。一般的に「イヤイヤ期」といわれる時期で、うまく意思が伝わらない場合などに癇癪を起こすことがあります。
癇癪は子どもの自我の芽生えによるもので、成長において必要な過程でもあります。癇癪を通して子どもは自分の意志の伝え方や気持ちのコントロール方法を学んでいき、次第に落ち着いていきます。
子どもによって個人差はありますが、癇癪自体はよくあることです。「どう対応したらいいのだろう」「いつ収まるのだろう」と不安な保護者の方もいると思いますが、焦らず見守っていくことも大事です。
癇癪と発達障害の違い
癇癪は多くの子どもに見られる行動ですが、癇癪の頻度や程度によって「発達障害が関係しているのでは」と考える方もいると思います。
まず、癇癪を頻繁に起こすことや癇癪の程度が激しいことと発達障害があることの直接の関連性は証明されていません。
先ほど紹介したように、癇癪は「不都合なことを取り除きたい」という気持ちが、暴れるなどの激しい行動として現れたものです。
発達障害は本人の意思や気持ちとは関係なく、生まれつき特性がある状態です。そして発達障害の特性の中に「癇癪を起こす」というものはありません。
このように、癇癪と発達障害は背景や特徴も違うものとなっています。
発達障害とは
癇癪と発達障害の違いを知るために、ここで少し発達障害について紹介します。
発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達の偏りがある障害のことです。こだわりや不注意などの特性があり、その特性が環境とミスマッチを起こすことで日常生活や学校生活などで困りごとが生じるといわれています。
発達障害には
- ASD(自閉スペクトラム症)
- ADHD(注意欠如多動症)
- SLD(限局性学習症)
といった種類があります。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASDは「社会性や対人関係の困難」「言葉の発達の遅れ」「行動や興味の偏り」といった特性が見られる発達障害です。また、感覚過敏(または鈍麻)といった特性が現れることもあります。
ADHD(注意欠如多動症)
ADHDは「不注意(集中力がない)」「多動性(じっとしていられない)」「衝動性(思いつくと行動してしまう)」といった特性が見られます。子どもによってどの特性が強く出るかが異なっています。
SLD(限局性学習症)
知的発達の遅れはないものの「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」などに困難が生じる発達障害のことです。「漢字が読めない」「ひらがなが書けない」といった特性によって、学習面で困りごとが生じることがあります。
子どもは一人ひとり得意や苦手、発達のスピードも異なっているため、上記のような様子が見られても発達障害があるのかの判断は難しいものです。
発達障害の診断は専門の医師のみがおこなえるため、気になる方はのちの章で紹介している支援機関や、かかりつけ医に相談してみるといいでしょう。
発達障害の特徴が癇癪の背景となっている例
癇癪と発達障害は別のものと紹介しましたが、発達障害の特徴が癇癪の起きやすさに影響していることはあります。ここではその例を紹介します。
行動や興味の偏り
発達障害のある子どもには、特定の物事などへこだわりが強いなど行動や興味の偏りが見られることがあります。
例えばおもちゃのミニカーを置く順番にこだわりが強くあった場合に、ほかの子がそれを知らずに位置を変えるといったことがあると、子どもにとって不快な気持ちが強くなることがあります。
言葉の遅れがある
発達障害のある子どもは言葉に遅れがある場合があります。子どもは自分がしたいことや相手にしてほしいことがあったときに、うまく言葉にできないためにそれがかなわずに、癇癪という表現方法をとることがあります。
他者との意図を組むことが難しい
発達障害のある子どもは、他者の立場になって考えるのが苦手という特性がある場合があります。
そのため自分の思いを優先して行動しようとしたときに、相手から「これはしてはいけないよ」と抑止が入ると不快な気持ちになることがあります。
気持ちのコントロールが苦手
衝動性の特性がある子どもは「やりたい」と思ったことを抑えるのが難しく、すぐ行動を起こす傾向があります。
衝動的に行動した結果、周囲から注意をされることや、感情がすぐ表面化することから癇癪などの感情を伴う行動へつながることがあります。
ここで紹介したものはあくまで例であり、発達障害があるからといって必ずしも癇癪につながるわけではありません。
子どもの癇癪の背景の一つとして発達障害の可能性があると考えられる場合は、支援機関などに相談してみるといいでしょう。
癇癪が起きたときの対応は?
子どもが癇癪を起こしたときの対応方法を紹介します。
大事なのは「安全を確保」し「落ち着くのを待つ」ということです。
安全を確保する
子どもが癇癪を起したときには、まず子どもの安全を確保するようにしましょう。
部屋で暴れている場合本人がぶつかる危険や投げてくる可能性があるため、硬いものやとがったものがあれば遠ざけるようにしましょう。
また、頭を壁にうちつけるといった行動を取る場合は間にクッションを挟むなどして、まずは安全の確保をおこないましょう。
落ち着くのを待つ
安全の確保ができたら、癇癪を起している子どもがクールダウンするのを焦らずに待ちましょう。
癇癪をおさめようと干渉するのではなく、興奮が徐々に落ち着いていくのを待つことが大事です。
家庭内で癇癪を起こしたときはそのまま待つ、お店などで癇癪を起したときは一旦外に連れ出すなどして子どもが落ち着くのを待ちましょう。
落ち着いたら褒める
子どもが自分で気持ちを落ち着けることができたら、その場で具体的に褒めるようにしましょう。
「よく落ち着けたね」「物を投げなかったね」などどういった点がよかったかを具体的に伝えることで、子どもは「癇癪よりよい方法があるんだ」と学んでいくことができます。
時間がたつと記憶が薄れてしまうため、なるべく落ち着いたその場で褒めることを心掛けるといいでしょう。
癇癪を起こしたときは、子どもの欲求をかなえるような対応をしたり、感情的に叱ったりすると癇癪がエスカレートすることにもなりかねません。
外出先で癇癪を起こしたときなど、保護者の方も冷静になるのは難しいと思いますが、子どもの安全と癇癪を減らすことを考慮して対応していきましょう。
発達障害や癇癪について相談できる場所は?
ここでは子どもの癇癪や、発達障害について相談できる場所を紹介します。
癇癪について相談先
児童相談所
児童相談所は児童福祉法に基づき設置されている機関で、18歳未満の子どもに対する相談を受けつけています。
児童相談所には児童福祉司・児童心理司・医師・保健師などの専門スタッフが在中していて、子どもについての相談に応じアドバイスや継続的な支援などをおこなっています。
癇癪に困っているといった相談もおこなうことができます。
子ども家庭支援センター
子ども家庭支援センターとは、児童福祉法に基づいて設置されている機関で、子育てに関するさまざまな相談に応じています。
電話や来所により18歳未満の子どもに関する相談を受けつけ、アドバイスや関係機関との調整などをおこなっています。
市区町村の児童家庭相談窓口
お住まいの市区町村で、上記のような育児についての相談窓口が一覧化されていることもあります。迷ったときはそちらをチェックしてみるのもいいでしょう。
発達障害の相談先
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは発達障害者支援法に基づき設置されていて、発達障害のある方や家族に対する支援をおこなっている機関です。
医療、福祉、教育などの関係機関と連携して、本人や家族からの相談に対してアドバイスをするなど総合的な支援をおこなっています。相談は発達障害の診断がなくてもおこなうことができます。
児童発達支援センター
児童発達支援センターとは児童福祉法に基づき設置されていて、地域における児童発達支援の中核を担っている支援機関です。
障害のある子どもが通所し、日常生活の動作や集団生活でのコミュニケーション方法などのプログラムを受けることができます。
利用には診断が必須ではありませんが、お住いの自治体に申請して「通所受給者証」の交付を受ける必要があります。
ほかにもお住いの自治体の障害福祉窓口(自治体により名称が異なります)に相談すると、子どもの状態に適した支援機関を紹介してもらえることがあります。
癇癪のある子どもの指導事例
LITALICOジュニアは、発達の遅れが気になる子どもへの最適な学びを提供する幼児教室・学習塾を運営しています。
ここではLITALICOジュニアでおこなっている、癇癪が気になる子どもへの指導事例をお伝えします。
発達障害の特徴が癇癪の背景となっていた事例を紹介します。子どもの癇癪の要因は一人ひとり異なりますが、参考にしていただければと思います。
ユウ君(仮名)4歳の事例
ユウ君はアニメが大好きで、暇さえあればお母さんのスマートフォンで好きなアニメのゲームをしています。
家に帰るとすぐ「ゲームやらせて」と言ってきます。ゲームをしているときのユウ君はおとなしく一人で集中しているのですが、お母さんから「15分たったら終わりだよ」「ごはんできたよ、食べなさい」と声掛けをしても、反応がないことがあります。
なかなかやめることができないため、お母さんがスマートフォンを取り上げると、大声を上げて、ものを投げるなど、癇癪を起こすこともありました。
ユウ君はASD(自閉スペクトラム症)の診断が出ており、何かに集中して取り組んでいると終わらせるのが難しかったようです。
LITALICOジュニアではユウ君に、癇癪が起きる前に予防し、癇癪ではない方法で自分の思いを伝える方法を練習していきました。
まずはユウ君へ「見通し」の提示をおこないました。ユウ君のゲームは「ステージクリア型」で「あと〇分」と時間が区切ろうとしても、ステージの途中なのでなかなかやめることができない様子でした。
そこで、時間ではなく「〇個ステージをクリアしたら終了」というように、ユウ君が見通しを立てやすくなる方法を提示しました。そうしてゲームをやめることができたときは「約束を守れたね」とすぐに褒めるように関わっていきました。その結果ユウ君は約束を守ることが増えていきました。
LITALICOジュニアでうまくいったため、家庭でもこのやり方を取り入れていくことで、ゲームをやめることができるようになり、癇癪を起こすことも減っていきました。
さらに外出先での対応を想定して「トークンシステム」というアプローチもおこないました。
最初はLITALICOジュニアでの授業中もユウ君は「ゲームしようよ」と言って、なかなか課題に取り組めませんでした。
そこで「5回約束を守ったらゲームをする」とルールを決めるトークンシステムを導入しました。ユウ君が約束を守るごとにシートに1枚シールを貼っていき、シールが5枚になったらゲームをするというシステムです。
視覚的にわかりやすい方法をとったことで、ユウ君も「いつゲームができるか」という見通しが立ちやすくなり、約束を守る回数が増えていきました。
家庭でもトークンシステムを導入し「約束を5回守ったらお菓子を買う」と決めたことで、スーパーでお菓子が欲しくて癇癪を起こすということも減っていきました。
LITALICOジュニアとご家庭で実践することで、ユウ君にわかる形で「見通し」を提示するアプローチを行った結果「ゲームを終わらせる」「約束を守る」という行動が起きやすくなりました。
LITALICOジュニアでは、通所受給者証をお持ちの方が利用できる「児童発達支援」「放課後等デイサービス」のほか、どなたでも利用可能な「幼児教室」「学習塾」もあります。
子どもの「癇癪について悩んでいる」「発達の遅れが気になる」という方の相談も受けつけておりますので、ぜひ一度お問い合わせください。
癇癪と発達障害についてまとめ
癇癪の頻度や程度によって「うちの子は発達障害があるのでは」と考える方もいると思います。
癇癪と発達障害はそれぞれ別のものです。癇癪があるからといって発達障害があることにはつながりません。
しかし、発達障害の特徴が癇癪を起しやすくする要因となっている場合もあります。
「癇癪が激しい」「発達の遅れが気になる」という方は支援機関やかかりつけ医などに相談して、子どもにあった対応をしていくといいでしょう。